フォトスタットとは?
コピー機は、職場や学校、家庭、コンビニエンスストアなどさまざまな場所で手軽に利用できる機器です。現在のコピー機のほとんどは、カメラの技術を利用しています。フォトスタット(Photostat)は、この普通紙複写機(photocopy machine)の祖先にあたります。20世紀初頭に米国で考案・製造され、「Photostat」という商標で発売されました。現代のコピー機とは異なり、操作方法に習熟する必要があり、機器も大きくかつ高価だったので、利用される場所は限られていました。
「Photostat」は商品名ですが、原稿をカメラで印画紙に直接焼き込む方式の写真複写機がすべて「photostat」と呼ばれるようになりました。また、写真複写機でコピーすることを意味する動詞にもなりました。英語圏では現在でも、コピーするという意味で「photostat」ということがまれにあるようですが、当然ながらそのような場合でも実際には、一般的なコピー機と普通紙が使われます。
写真技術の応用で20世紀初頭に誕生
事務所や学校で簡易的に複写、印刷する手段として謄写版(ミメオグラフ)が19世紀後半に登場し、広く使われていました。謄写版では原紙に文字や図案を書き込んで版を作り、インクで印刷します。時が進むにつれ、もっと簡単に素早く複写して印刷する方法が求められるようになりました。
フォトスタットは米国のOscar T. Gregoryが1907年に考案しました。巨大なカメラと現像装置がひとつに集約された機械です。原稿をカメラで撮影し、フィルムの代わりに複写用印画紙に像を記録します。現像、乾燥という工程が一貫しておこなわれます。版を準備したり、インクを盛ったりする必要はありません。
原稿に対してネガの状態で印画紙に焼き付けられるため、原稿と同じくポジにするには、ネガで焼き付けられた印画紙を原稿にしてもう一度複写する必要がありました。1950年代には、さまざまな企業が新しい複写技術を開発します。イーストマン・コダック(Eastman Kodak)社はポジ状態で焼き付けられる印画紙を発表しました。
紙の台紙に写植を貼って版下を準備していた当時のデザインの現場では、印刷されたロゴのオリジナル原稿をフォトスタットで拡大縮小しながら複製して、版下のパーツとしたりしていました。
1960年代にゼロックス(Xerox)社の乾式複写機が登場すると、上記のような特殊な用途を除くと、一般的な文書の複写用としてはゼロックス方式が主流になっていきます。
レクチグラフ
フォトスタットとほぼ同時期に、同じく米国で開発されたレクチグラフ(Rectigraph)という製品もありました。フォトスタットと同様の機構を持つ機械です。日本でも例えば、東京大学資料編纂所で1920年代から1950年まで、歴史的資料の複写にレクチグラフが使われました。
【参考資料】
・Photostat machine – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Photostat_machine)
・Copying Machines (https://www.officemuseum.com/copy_machines.htm)
・Chronology of Office Copying Processes (https://cool.culturalheritage.org/bytopic/repro/nadeau1.html)
・Previous Exhibition – Francis Bernard オリジナル ポスターと記録のためのフォトスタット | 東京パブリッシングハウス / Tokyo Publishing House (http://www.artbook-tph.com/tph/pastexhibitions/bernard.html)
・『複写機遺産』初めての認定 – 一般社団法人日本画像学会 (http://www.isj-imaging.org/others/heritage/Press_release_All_181018.pdf)
・日本写真学会誌 2007年70巻 2号「古文書調査 ・研究における写真 ・デジタル画像の利用の変遷について ―東京大学史料編纂所での取り組みを例として― 」 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/photogrst1964/70/2/70_2_77/_pdf)
印刷(印刷機)の歴史
木版印刷 200年〜
文字や絵などを1枚の木の板に彫り込んで作った版で同じ図柄を何枚も複製する手法を「木版印刷」(もくはんいんさつ)といいます。もっとも古くから人類が利用してきた印刷方法です。
活版印刷 1040年〜
ハンコのように文字や記号を彫り込んだ部品を「活字」(かつじ)を組み合わせて版を作り、そこにインクをつけて印刷する手法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。活字の出っ張った部分にインクを付けて文字を紙に転写するので、活版印刷は凸版(とっぱん)印刷に分類されます。
プレス印刷 1440年〜
活字に油性インクを塗り、印刷機を使って紙や羊皮紙に文字を写すという形式の活版印刷が、ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutengerg)によって初めて実用化されました。印刷機は「プレス印刷機」と呼ばれ、現在の商業印刷や出版物に使われている印刷機と原理は変わりません。
エッチング 1515年〜
「エッチング」は銅などの金属板に傷をつけてイメージを描き、そこへインクを詰め込んで紙に転写する技法です。くぼんだ部分がイメージとして印刷されるので凹版(おうはん)印刷に分類されます。
メゾチント 1642年〜
銅版画の一種である「メゾチント」は階調表現にすぐれています。銅板の表面に傷をつけてインクを詰め込み、それを紙に転写します。くぼんだ部分のインクが印刷されるので凹版印刷に分類されます。
アクアチント 1772年〜
「アクアチント」は銅版画のひとつの技法で、水彩画のように「面」で濃淡を表現できることが大きな特徴です。表面を酸で腐食させてできた凹みにインクを詰めて、それが紙に転写されるので、凹版印刷に分類されます。
リトグラフ 1796年〜
「リトグラフ」は水と油の反発を利用してイメージを印刷する方式です。凹凸を利用してインキを載せるのではなく、化学反応によってインキを付ける部分を決めます。版には石灰岩のブロックが使われたので「石版印刷」(せきばんいんさつ)ともいわれます。版面がフラットなので平版(へいはん)に分類されます。
クロモリトグラフ 1837年〜
「クロモリトグラフ」は、石版印刷「リトグラフ」を改良・発展させたカラー印刷技法です。カラーリトグラフと呼ばれることもあります。
輪転印刷 1843年〜
「輪転印刷機」(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。
ヘクトグラフ 1860年〜
「ヘクトグラフ」は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機、ゼリーグラフと呼ばれることもあります。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。
オフセット印刷 1875年〜
「オフセット印刷」とは、現在の印刷方式の中で最もポピュラーに利用されている平版印刷の一種です。主に、書籍印刷、商業印刷、美術印刷など幅広いジャンルで使用されており、世界中で供給されている商業印刷機の多くを占めています。
インクジェット印刷 1950年〜
「インクジェット印刷」は、液体インクをとても細かい滴にして用紙などの対象物に吹きつける印刷方式です。「非接触」というのがひとつの特徴で、食用色素を使った可食インクをつめたフードプリンター等にも利用されています。
レーザー印刷 1969年〜
「レーザー印刷」は、コンビニエンスストアや職場で身近なレーザー複写機やレーザープリンターに採用されている印刷技術です。現在では、レーザーの代わりにLEDも多く使われています。1980年代中ごろに登場したDTP(デスクトップパブリッシング)で重要な役割をはたしました。
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