輪転印刷機とは?
輪転印刷機(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。
19世紀に入ると新聞の需要が高まったため、印刷速度への要求が強くなりました。蒸気機関を利用してさまざまな機械が考案されていきます。最初の輪転印刷機は米国のリチャード・ホー(Richard Hoe)が1846年に完成し、1853年には英国の新聞『タイムズ(The Times)』紙が導入しました。
映画などをみていると、大きな事件やスキャンダルが起こったことを表現するために、大がかりな機械で新聞が印刷される様子が描かれることがあります。そういうシーンに映っている機械が輪転印刷機です。
・新聞用活版輪転機
活版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷などで輪転印刷機が利用されます。また、印刷用紙は目的に応じて、枚葉紙(シート状にカットされた印刷用紙)とロール紙の両方が使われます。
輪転印刷機は、輪転機(りんてんき)と縮めて呼ばれることも少なくありません。また、輪転機という場合、ロール紙にオフセット印刷する機械を指していることが多いです。
ケーニヒの蒸気機関による高速印刷機
ドイツのフリードリヒ・ケーニヒ(Friedrich Koenig)とアンドレアス・バウアー(Andreas Bauer)が、蒸気機関を動力とした初めての印刷機を発明しました。これは、円筒形のシリンダーで版と紙に圧をかけるもので、円圧印刷機と呼ばれます。1814年には英国のタイムズ社が新聞の印刷に導入します。
両面同時印刷を可能にした改良型では、1時間あたり最高1,100枚印刷できました。ケーニヒの円圧印刷機は、版と紙はフラットなので、現在の輪転印刷機の範疇にははいらないかもしれません。
革命的ホー式輪転機
19世紀半ばになると、版自体がドラムに装着されて回転する輪転機が登場します。米国のリチャード・ホー(Rechard Hoe)が、1843年に考案した史上初めての輪転印刷機は、シリンダー表面に活字で版を組むというものでした。このため、印刷中に活字がはずれて版面がくずれて飛び散ることもあったそうです。のちに銅版が考案され、この問題も解決されました。
蒸気機関でシリンダーを高速回転させることで短時間に大量印刷を可能にしたホー式印刷機は、グーテンベルクの活版印刷機以来の革命と評されることもあります。ホーの輪転印刷機は、1時間に2万枚の印刷が可能にしました。大量高速印刷を実現したことから「Hoe lightning press(ホー式イナズマ印刷機)」などと呼ばれました。
ホーはその後も改良を重ね、ひとつの印刷用ドラムの周囲に、紙に圧をかけるためのシリンダー(圧胴)を複数取り付けることで、単位時間あたりの印刷枚数を増やしました。シリンダーは4本、6本、8本と増え、最大10本取り付けたものまでありました。印刷用紙は人力で供給していましたので、シリンダーごとに人がつくため、従来の印刷機にくらべると巨大な設備でした。
ホー式印刷機は、前述の英国『タイムズ』紙や、米国『サン(The Sun)』紙、『ニューヨーク・トリビューン(New York Tribune)』紙などが新聞印刷機として導入しています。
連続巻取紙とオフセット輪転機
1865年に、米国のWilliam Bullock(ウィリアム・バロック)は、ホー式印刷機を改良して、ロール紙に印刷できるようになりました。これによって、従来のように人が紙を供給する必要がなくなりました。ロール紙は切断後に2本のシリンダーによって両面印刷され、排出されます。これは現在の輪転機と基本構造は同じです。
版面を一度ブランケットに転写してから印刷するというオフセット印刷の手法を米国のアイラ・ルーベル(Ira Rubel)1904年に発明すると、オフセット輪転機の時代が始まります。
現代の輪転印刷機
・マン・ローランド社(ドイツ)製の新聞用オフセット輪転機 by Sven Teschke (CC BY-SA 3.0)
新聞や折り込みチラシ、フリーペーパーなど大量印刷には輪転印刷機が使われます。数十万部から数百万部まで対応可能で、新聞などは1時間に20万部の印刷が可能ともいわれています。
ロール紙(連続巻取紙)の供給部から、印刷ユニット、ドライヤー(乾燥部)、冷却部、折機(折りと断裁)までが1列に並ぶ長大な装置で印刷されます。長いものでは40mにおよぶものもあるそうです。
【参考資料】
・Rotary printing press – Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Rotary_printing_press)
・Richard March Hoe – Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Richard_March_Hoe)
・印刷関連機械 | 第2部 出展品からみる産業技術の発達 | 博覧会―近代技術の展示場(https://www.ndl.go.jp/exposition/s2/8.html)
印刷(印刷機)の歴史
木版印刷 200年〜
文字や絵などを1枚の木の板に彫り込んで作った版で同じ図柄を何枚も複製する手法を「木版印刷」(もくはんいんさつ)といいます。もっとも古くから人類が利用してきた印刷方法です。
活版印刷 1040年〜
ハンコのように文字や記号を彫り込んだ部品を「活字」(かつじ)を組み合わせて版を作り、そこにインクをつけて印刷する手法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。活字の出っ張った部分にインクを付けて文字を紙に転写するので、活版印刷は凸版(とっぱん)印刷に分類されます。
プレス印刷 1440年〜
活字に油性インクを塗り、印刷機を使って紙や羊皮紙に文字を写すという形式の活版印刷が、ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutengerg)によって初めて実用化されました。印刷機は「プレス印刷機」と呼ばれ、現在の商業印刷や出版物に使われている印刷機と原理は変わりません。
エッチング 1515年〜
「エッチング」は銅などの金属板に傷をつけてイメージを描き、そこへインクを詰め込んで紙に転写する技法です。くぼんだ部分がイメージとして印刷されるので凹版(おうはん)印刷に分類されます。
メゾチント 1642年〜
銅版画の一種である「メゾチント」は階調表現にすぐれています。銅板の表面に傷をつけてインクを詰め込み、それを紙に転写します。くぼんだ部分のインクが印刷されるので凹版印刷に分類されます。
アクアチント 1772年〜
「アクアチント」は銅版画のひとつの技法で、水彩画のように「面」で濃淡を表現できることが大きな特徴です。表面を酸で腐食させてできた凹みにインクを詰めて、それが紙に転写されるので、凹版印刷に分類されます。
リトグラフ 1796年〜
「リトグラフ」は水と油の反発を利用してイメージを印刷する方式です。凹凸を利用してインキを載せるのではなく、化学反応によってインキを付ける部分を決めます。版には石灰岩のブロックが使われたので「石版印刷」(せきばんいんさつ)ともいわれます。版面がフラットなので平版(へいはん)に分類されます。
クロモリトグラフ 1837年〜
「クロモリトグラフ」は、石版印刷「リトグラフ」を改良・発展させたカラー印刷技法です。カラーリトグラフと呼ばれることもあります。
輪転印刷 1843年〜
「輪転印刷機」(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。
ヘクトグラフ 1860年〜
「ヘクトグラフ」は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機、ゼリーグラフと呼ばれることもあります。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。
オフセット印刷 1875年〜
「オフセット印刷」とは、現在の印刷方式の中で最もポピュラーに利用されている平版印刷の一種です。主に、書籍印刷、商業印刷、美術印刷など幅広いジャンルで使用されており、世界中で供給されている商業印刷機の多くを占めています。
インクジェット印刷 1950年〜
「インクジェット印刷」は、液体インクをとても細かい滴にして用紙などの対象物に吹きつける印刷方式です。「非接触」というのがひとつの特徴で、食用色素を使った可食インクをつめたフードプリンター等にも利用されています。
レーザー印刷 1969年〜
「レーザー印刷」は、コンビニエンスストアや職場で身近なレーザー複写機やレーザープリンターに採用されている印刷技術です。現在では、レーザーの代わりにLEDも多く使われています。1980年代中ごろに登場したDTP(デスクトップパブリッシング)で重要な役割をはたしました。
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