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輪転印刷機について:印刷史のなるほど雑学09

輪転印刷機(輪転機)とは?仕組み・特徴・歴史をわかりやすく解説


輪転印刷機について:印刷史のなるほど雑学09

輪転印刷機とは?

輪転印刷機(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。

19世紀に入ると新聞の需要が高まったため、印刷速度への要求が強くなりました。蒸気機関を利用してさまざまな機械が考案されていきます。最初の輪転印刷機は米国のリチャード・ホー(Richard Hoe)が1846年に完成し、1853年には英国の新聞『タイムズ(The Times)』紙が導入しました。

映画などをみていると、大きな事件やスキャンダルが起こったことを表現するために、大がかりな機械で新聞が印刷される様子が描かれることがあります。そういうシーンに映っている機械が輪転印刷機です。

新聞用活版輪転機

・新聞用活版輪転機

活版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷などで輪転印刷機が利用されます。また、印刷用紙は目的に応じて、枚葉紙(シート状にカットされた印刷用紙)とロール紙の両方が使われます。

輪転印刷機は、輪転機(りんてんき)と縮めて呼ばれることも少なくありません。また、輪転機という場合、ロール紙にオフセット印刷する機械を指していることが多いです。

印刷速度の進化が、「情報の鮮度」という概念を生んだ

輪転機の登場以前と以後で、社会における「情報」の意味は大きく変わりました。それまで本や印刷物は「貴重で長く残るもの」でしたが、輪転機による高速印刷が可能になると、「毎日新しく更新されるもの」が成立するようになります。これが新聞という媒体を生み、現代まで続く「ニュースを毎日読む」習慣の起点になりました。

技術が表現を作る、という関係はこうした場面でよく見られます。輪転機がなければ、毎朝の新聞も、週刊誌も、月刊雑誌も成立しませんでした。逆に言えば、印刷速度の限界が、コンテンツの形式を縛っていたわけです。1時間1,100枚から1時間20万部までの進化は、単に効率化の話ではなく、「人々が情報に触れる頻度」を根本から変える革命でもありました。

現代でも同じ構造は続いています。Webの登場で「リアルタイムの情報更新」が可能になり、SNSで「秒単位の情報発信」が当たり前になりました。技術の速度が変わると、扱える情報の鮮度も変わり、それに合わせてコンテンツの形式も変化していきます。技術の歴史を見ると、表現の歴史とも重なって見えてきます。

 

ケーニヒの蒸気機関による高速印刷機

ドイツのフリードリヒ・ケーニヒ(Friedrich Koenig)とアンドレアス・バウアー(Andreas Bauer)が、蒸気機関を動力とした初めての印刷機を発明しました。これは、円筒形のシリンダーで版と紙に圧をかけるもので、円圧印刷機と呼ばれます。1814年には英国のタイムズ社が新聞の印刷に導入します。

両面同時印刷を可能にした改良型では、1時間あたり最高1,100枚印刷できました。ケーニヒの円圧印刷機は、版と紙はフラットなので、現在の輪転印刷機の範疇にははいらないかもしれません。

 

革命的ホー式輪転機

ホー式輪転機

19世紀半ばになると、版自体がドラムに装着されて回転する輪転機が登場します。米国のリチャード・ホー(Rechard Hoe)が、1843年に考案した史上初めての輪転印刷機は、シリンダー表面に活字で版を組むというものでした。このため、印刷中に活字がはずれて版面がくずれて飛び散ることもあったそうです。のちに銅版が考案され、この問題も解決されました。

蒸気機関でシリンダーを高速回転させることで短時間に大量印刷を可能にしたホー式印刷機は、グーテンベルクの活版印刷機以来の革命と評されることもあります。ホーの輪転印刷機は、1時間に2万枚の印刷が可能にしました。大量高速印刷を実現したことから「Hoe lightning press(ホー式イナズマ印刷機)」などと呼ばれました。

ホーはその後も改良を重ね、ひとつの印刷用ドラムの周囲に、紙に圧をかけるためのシリンダー(圧胴)を複数取り付けることで、単位時間あたりの印刷枚数を増やしました。シリンダーは4本、6本、8本と増え、最大10本取り付けたものまでありました。印刷用紙は人力で供給していましたので、シリンダーごとに人がつくため、従来の印刷機にくらべると巨大な設備でした。

ホー式印刷機は、前述の英国『タイムズ』紙や、米国『サン(The Sun)』紙、『ニューヨーク・トリビューン(New York Tribune)』紙などが新聞印刷機として導入しています。

 

連続巻取紙とオフセット輪転機

1865年に、米国のWilliam Bullock(ウィリアム・バロック)は、ホー式印刷機を改良して、ロール紙に印刷できるようになりました。これによって、従来のように人が紙を供給する必要がなくなりました。ロール紙は切断後に2本のシリンダーによって両面印刷され、排出されます。これは現在の輪転機と基本構造は同じです。

版面を一度ブランケットに転写してから印刷するというオフセット印刷の手法を米国のアイラ・ルーベル(Ira Rubel)1904年に発明すると、オフセット輪転機の時代が始まります。

大量印刷時代のデザインに求められたのは、「速く読める」工夫

輪転印刷機による大量印刷が可能になると、新聞や雑誌のデザインに求められる要素も変わってきました。「ゆっくり鑑賞される本」のデザインと、「短時間で多くの人に消費される新聞」のデザインでは、優先される設計原則が違うからです。

新聞デザインで重視されるのは、見出しの大きさで重要度を即座に伝える、複数の記事を並べて選びやすくする、写真や図を使って視覚的に内容を予測させる、といった「速読しやすい設計」です。これらの要素は、現代のWebニュースサイトやSNS投稿のレイアウトにも、ほぼそのまま受け継がれています。

逆に「ゆっくり読むためのデザイン」は、書籍・パンフレット・専門誌などの別の媒体で受け継がれていきました。同じ印刷物でも、想定される「読まれ方」によって、最適な設計が分かれていく構造です。デザインを始める前に、「この媒体はどう読まれるのか(速読か熟読か)」を確認しておくと、レイアウトの方向性が決まりやすくなります。

 

現代の輪転印刷機

マン・ローランド社(ドイツ)製の新聞用オフセット輪転機

マン・ローランド社(ドイツ)製の新聞用オフセット輪転機 by Sven Teschke (CC BY-SA 3.0)

新聞や折り込みチラシ、フリーペーパーなど大量印刷には輪転印刷機が使われます。数十万部から数百万部まで対応可能で、新聞などは1時間に20万部の印刷が可能ともいわれています。

ロール紙(連続巻取紙)の供給部から、印刷ユニット、ドライヤー(乾燥部)、冷却部、折機(折りと断裁)までが1列に並ぶ長大な装置で印刷されます。長いものでは40mにおよぶものもあるそうです。

現代の輪転機を前提にすると、データ作成にも特有の注意が要る

現代の輪転印刷機は40m級の長大な装置で、1時間に20万部という大量印刷を可能にしています。この規模の印刷を前提としたデータ作成では、通常のオフセット印刷とは違う注意点がいくつかあります。

ひとつは「印刷速度に伴うインクの乗り方の制約」です。高速で紙が流れるため、インクが乾く時間がほぼない状態で次の工程に進みます。そのため、ベタ面積が大きすぎる、インクの総量が多すぎる(CMYK合計で300%を超えるなど)データは、裏写り・うねり・乾燥不良の原因になります。輪転機向けにはインクの総量を抑える設計が求められます。

もうひとつは「再現できる細部の限界」です。1時間20万部の速度では、繊細な細線や小さい文字が崩れてしまうことがあります。新聞や折込チラシでよく見る「やや太めの文字」「ベタを避けた階調表現」は、この制約に応じた設計でもあります。輪転機での印刷を前提に発注する場合は、印刷会社からデータ作成のガイドラインを受け取って、それに沿って設計するのが確実です。媒体の物理特性を理解したデザインが、現場で破綻しないデータを生みます。


【参考資料】
Rotary printing press – Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Rotary_printing_press)
Richard March Hoe – Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Richard_March_Hoe)
印刷関連機械 | 第2部 出展品からみる産業技術の発達 | 博覧会―近代技術の展示場(https://www.ndl.go.jp/exposition/s2/8.html)

 

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執筆: ASOBOAD編集部

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