オフセット印刷とは?
オフセット印刷は、インキをつけた版面を紙に直接あてて文字やイメージを印刷するのではなく、版面のインキをいったん「ブランケット」というゴムや樹脂でできた布に転写し、そのブランケットについたインキを紙に印刷する方式です。現在では、書籍や美術印刷から、チラシやパンフレットの商業印刷までひろく利用されています。身の回りでもっとも多いのがオフセット印刷による印刷物です。
オフセット印刷の原理
オフセット印刷の重要な機構として3つのシリンダー(胴)があります。原版をセットしてインキをつける版胴、そのインキを転写するブランケット胴、そして、ブランケット胴に印刷用紙を圧着させる圧胴です。
原版はおもにアルミ板などを使った平版で、版胴に巻き付けられます。まず水で湿らせると、絵柄や文字以外の部分が水を保ちます。次にインキを載せると、水にはじかれない絵柄や文字にインキが付きます。そのインキは、ゴムなどを巻きつけたブランケット胴に転写されます。ブランケット胴に紙を圧着させると、ブランケット胴のインキが印刷されるというしくみです。
原版が印刷用紙に直接触れないため、印刷による版の劣化を最小限に抑えられます。また、ゴムや樹脂など弾力性のあるブランケット版が用紙に接触するので、表面が粗い紙や金属板にも印刷できます。これらによって、鮮明な像を印刷できることがオフセット方式のメリットです。また、高速印刷が可能なので、大量印刷に向いています。
ゴム製ブランケットの印刷機は20世紀初頭に登場
平版印刷方式のリトグラフ(石版印刷)は、高品質の印刷がおこなえるため、19世紀に黄金時代を迎えます。19世紀のなかごろに、米国のリチャード・ホー(Rechard Hoe)などが輪転印刷機を考案すると、石版の代わりに銅版などをシリンダーに巻きつけて印刷する機構を開発しました。
一方、1875年に英国のRobert Barclayがリトグラフのオフセット式印刷方法を考案し、特許を取得します。これはブリキへの印刷を目的としたものでした。石版のイメージを特殊な厚紙に転写し、それをシリンダーに巻きつけてブリキ板に印刷するしくみです。のちに紙への印刷にも利用されるようになります。
1904年に米国のIra Washington Rubelが、ゴム製ブランケットによるオフセット印刷機を考案します。それは小さなミスから偶然生まれました。Barclay方式のリトグラフ印刷機を使っていたRubelはある日、印刷用紙をセットするのを忘れて機械を動かします。厚紙ブランケットのインクは、はさまれているはずの紙がないため、紙を圧着させるために使われていた圧胴の表面のゴムに転写されます。それに続けて今度は、紙をセットして印刷すると、オモテ面には通常どおりの印刷がおこなわれ、ウラ面にも圧胴表面のインクがつきました。圧胴のゴムで印刷されたウラ面の方が、オモテ面よりも鮮明だったことに驚いたRubelは、ゴム製ブランケットを使ったオフセット印刷機の開発を始めたというわけです。
現代ではオフセットといえばプロセス印刷が一般的
原版からブランケットを介して紙に転写する方式をオフセット印刷といいます。ですから厳密には、原版のイメージをブランケットに転写して間接的に印刷するのであれば、平版でも、凸版、凹版、孔版のいずれであってもオフセット印刷になります。とはいえ、現代ではオフセット印刷といえば、ほとんどがアルミ製のPS版などを用いた平版です。
また、オフセット印刷機はシアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)・ブラック(K)の4色によるプロセス印刷でフルカラーを再現するのが一般的です。これに特色を加えた5〜7色印刷機や、用紙のオモテ面とウラ面に連続して一度に印刷できる両面印刷機などがあります。大きい設備になると、長さが数十メートルにもおよびます。
オフセット印刷機には、印刷用紙の供給の仕方の違いによって、枚葉印刷機と輪転印刷機の2種類があります。シートに断裁した用紙を1枚ずつ印刷する枚葉機は、厚手から薄手まで対応できるので、パンフレットなどから、パッケージまで印刷できます。輪転機は、巨大なロール紙に高速で印刷できるので、大量印刷の場合に利用されます。新聞やチラシなどは輪転機で印刷されるのが一般的です。
軽オフセット印刷
オフセット印刷では通常アルミ製のPS版を原版としますが、「ピンクマスター」と呼ばれる紙製の版を使った「軽オフセット」という簡易的な方式もあります。略して「軽オフ」とも呼ばれます。通常のオフセット印刷に比べると品質はやや落ちますが、低コストです。部数の少ない、同人誌や会社資料、文集などで利用されます。
【参考資料】
・オフセット印刷 – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Offset_printing)
・Pioneers of Printing: The Origins of Offset Printing – drupa (https://blog.drupa.com/en/pioneers-of-printing-the-origins-of-offset-printing-2/)
・オフセット印刷とは?解説!オフセット印刷の仕組みと原理 | デザイン作成依頼はASOBOAD | 印刷機について・印刷知識 (https://amix-design.com/asoboad/offset-printing-5199.html)
印刷(印刷機)の歴史
木版印刷 200年〜
文字や絵などを1枚の木の板に彫り込んで作った版で同じ図柄を何枚も複製する手法を「木版印刷」(もくはんいんさつ)といいます。もっとも古くから人類が利用してきた印刷方法です。
活版印刷 1040年〜
ハンコのように文字や記号を彫り込んだ部品を「活字」(かつじ)を組み合わせて版を作り、そこにインクをつけて印刷する手法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。活字の出っ張った部分にインクを付けて文字を紙に転写するので、活版印刷は凸版(とっぱん)印刷に分類されます。
プレス印刷 1440年〜
活字に油性インクを塗り、印刷機を使って紙や羊皮紙に文字を写すという形式の活版印刷が、ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutengerg)によって初めて実用化されました。印刷機は「プレス印刷機」と呼ばれ、現在の商業印刷や出版物に使われている印刷機と原理は変わりません。
エッチング 1515年〜
「エッチング」は銅などの金属板に傷をつけてイメージを描き、そこへインクを詰め込んで紙に転写する技法です。くぼんだ部分がイメージとして印刷されるので凹版(おうはん)印刷に分類されます。
メゾチント 1642年〜
銅版画の一種である「メゾチント」は階調表現にすぐれています。銅板の表面に傷をつけてインクを詰め込み、それを紙に転写します。くぼんだ部分のインクが印刷されるので凹版印刷に分類されます。
アクアチント 1772年〜
「アクアチント」は銅版画のひとつの技法で、水彩画のように「面」で濃淡を表現できることが大きな特徴です。表面を酸で腐食させてできた凹みにインクを詰めて、それが紙に転写されるので、凹版印刷に分類されます。
リトグラフ 1796年〜
「リトグラフ」は水と油の反発を利用してイメージを印刷する方式です。凹凸を利用してインキを載せるのではなく、化学反応によってインキを付ける部分を決めます。版には石灰岩のブロックが使われたので「石版印刷」(せきばんいんさつ)ともいわれます。版面がフラットなので平版(へいはん)に分類されます。
クロモリトグラフ 1837年〜
「クロモリトグラフ」は、石版印刷「リトグラフ」を改良・発展させたカラー印刷技法です。カラーリトグラフと呼ばれることもあります。
輪転印刷 1843年〜
「輪転印刷機」(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。
ヘクトグラフ 1860年〜
「ヘクトグラフ」は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機、ゼリーグラフと呼ばれることもあります。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。
オフセット印刷 1875年〜
「オフセット印刷」とは、現在の印刷方式の中で最もポピュラーに利用されている平版印刷の一種です。主に、書籍印刷、商業印刷、美術印刷など幅広いジャンルで使用されており、世界中で供給されている商業印刷機の多くを占めています。
インクジェット印刷 1950年〜
「インクジェット印刷」は、液体インクをとても細かい滴にして用紙などの対象物に吹きつける印刷方式です。「非接触」というのがひとつの特徴で、食用色素を使った可食インクをつめたフードプリンター等にも利用されています。
レーザー印刷 1969年〜
「レーザー印刷」は、コンビニエンスストアや職場で身近なレーザー複写機やレーザープリンターに採用されている印刷技術です。現在では、レーザーの代わりにLEDも多く使われています。1980年代中ごろに登場したDTP(デスクトップパブリッシング)で重要な役割をはたしました。
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