スクリーン印刷について
スクリーン印刷は、メッシュのスクリーンを使って印刷する手法です。印刷したい文字やイメージだけを残して、スクリーンのそれ以外の部分をなんらかの方法でマスキングします。マスキングされてない部分はメッシュが塞がれていませんから、そこをインキが通過して文字やイメージが印刷されます。
スクリーン印刷というと、Tシャツなど布地へのプリントやアート版画などに使われるシルクスクリーンをまず最初に思い浮かべる人も多いと思います。または、車両や機械、製品キャビネットの文字や模様など、金属やプラスチック素材への印刷技術として認識しているかもしれません。
孔版印刷とステンシル
印刷形式には、凸版(とっぱん)、凹版(おうはん)、平版(へいはん)という三大印刷方式があります。三大方式はいずれも刷版の表面につけたインキを紙に転写することで印刷します。それに対して、孔版(こうはん)では、版に開いた孔(あな)をインキが通り抜けることで印刷されます。スクリーン印刷は、この孔版印刷に分類されます。
孔版印刷の代表的なものにステンシルがあります。プラスチックや金属の板に文字や図形がくり抜いてあるものです。印刷したい面にステンシルをあてて、その上から筆やスプレーで絵の具や塗料をつけると、開いた部分だけが描画されます。
ステンシルとスクリーン印刷の違い
たとえばアルファベットの「C」をステンシルで印刷する場合、「C」のカタチに版を切り抜くだけです。しかし「O」を印刷するには、カウンター部分(中央の楕円形)を維持する細工が必要になります。完全に切り抜かずにブリッジを残したり、糸を張ったりします。このような処理をほどこしたステンシルで印刷すると、ブリッジや糸の部分はインキがつかないので、文字に数本の線がついた状態で印刷されます。
スクリーン印刷の場合は、とてもおおまかな言い方をすると、メッシュの面にステンシルを重ねたような構造になっています。そのため、文字や図形の孤立した部分に対してブリッジなどで対応する必要がありません。表現の自由度がステンシルとはまったく違います。実際のスクリーン印刷では、ステンシルは金属やプラスチックの板ではなく、専用の素材になんらかの処理をほどこしてメッシュの上に定着させます。
20世紀初頭にシルクスクリーンが登場
型紙を使った型染めの技術は奈良時代には大陸から日本に伝わっていたといわれています。重要無形文化財となっている「伊勢型紙」などのように精密な型紙を使った染色技法が発達しました。伊勢型紙の歴史は千年以上ともいわれています。沖縄の琉球紅型(びんがた)も14、15世紀には生まれていました。
19世紀には欧州でスクリーン印刷の技術がいくつか開発されました。20世紀にはいるとシルクのメッシュをつかった手法が生み出されます。シルクスクリーン印刷(silkscreen process printing)と名付けられました。英国人Samuel Simonが1907年に特許を取得したとされています。その当時、日本の横浜ではすでにシルク製のメッシュに裏打ちされた型を使った「手捺染(てなっせん)」という技法で輸出用のスカーフなどが染められていました。Simonはこれをヒントにしたという説もありますが、定かではありません。
スクリーン印刷の発展
布製品にプリントするための技法として、20世紀初頭からスクリーン印刷は欧米で徐々に浸透しはじめます。製版方法も、感光乳剤を使う写真製版、紙をスクリーンに貼り付けるカッティング法、光で固まる感光剤と透明フィルムを組み合わせる手法、水と油の反発を利用する方法などが開発されました。メッシュの素材もシルク以外にポリエステルやナイロンなどが使われるようになります。現在では化学繊維が主流になり、絹のメッシュはほとんど使われません。そのため、一時よく使われていた「シルクスクリーン」ではなく「スクリーン印刷」または「スクリーンプリント」という名称が一般的になりました。
染織や工業製品のための印刷と区別するために、アート作品のための印刷技法として「セリグラフィ(serigraphy)」、アート作品に対して「セリグラフ(serigraph)」ということばも生まれます。しかしまもなく、セリグラフィとスクリーン印刷はほぼ同義語となりました。1960年代を迎えるとポップアートの世界でスクリーン印刷が好んで使われるようになります。
写真製版法によるスクリーン印刷の工程
製版するために、原稿からポジフィルムを作ります。次に、スクリーンを枠に張り、感光剤入りの乳剤を均一に塗って乾燥させます。乾いたスクリーンにポジフィルムを重ねて紫外線をあてると、インクを通したくない領域の乳剤が硬くなりスクリーンに貼り付きます。水で洗うと絵柄部分の乳剤が洗い流されるので、乾燥させると版の完成です。複数の色で印刷するには、色の数だけ版を準備します。
印刷に必要なインキを準備します。紙や布地など印刷したい対象物にスクリーンを重ねて、メッシュの目(小さな孔)にインキが入り込むようにしながら全体にインキを伸ばします。スキージーと呼ばれる道具でスクリーンの上からインキを押し付けると、絵柄部分のメッシュを通過したインキが対象物に印刷されます。
ポップアートとシルクスクリーン作品
1950年代に英国で生まれたポップアートは、まもなく米国でも大きなムーブメントとなります。アメリカのポップアーティストの象徴的な存在にアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)がいます。ウォーホルは、シルクスクリーンを使って多くの作品を生み出しました。それまでシルクスクリーンは、金属やプラスチックを使った工業製品に印刷するする手法だったのですが、ウォーホルの創作活動の影響で、アート作品の創作技法として認知されるようになります。
また、もうひとりのポップアートの代表、ロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein)も、リトグラフなどとともにシルクスクリーンによる作品を制作しました。横尾忠則など日本人アーティストもシルクスクリーン作品を数多く発表しています。
【参考資料】
・Screen printing – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Screen_printing)
・Printing – Serigraphy (screen printing) | Britannica (https://www.britannica.com/topic/printing-publishing/Serigraphy-screen-printing)
・Stenciling | art | Britannica (https://www.britannica.com/art/stenciling)
・スクリーンプリント – すくりーんぷりんと | 武蔵野美術大学 造形ファイル (http://zokeifile.musabi.ac.jp/スクリーンプリント/)
・孔版 – こうはん | 武蔵野美術大学 造形ファイル (http://zokeifile.musabi.ac.jp/孔版/)
印刷(印刷機)の歴史
木版印刷 200年〜
文字や絵などを1枚の木の板に彫り込んで作った版で同じ図柄を何枚も複製する手法を「木版印刷」(もくはんいんさつ)といいます。もっとも古くから人類が利用してきた印刷方法です。
活版印刷 1040年〜
ハンコのように文字や記号を彫り込んだ部品を「活字」(かつじ)を組み合わせて版を作り、そこにインクをつけて印刷する手法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。活字の出っ張った部分にインクを付けて文字を紙に転写するので、活版印刷は凸版(とっぱん)印刷に分類されます。
プレス印刷 1440年〜
活字に油性インクを塗り、印刷機を使って紙や羊皮紙に文字を写すという形式の活版印刷が、ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutengerg)によって初めて実用化されました。印刷機は「プレス印刷機」と呼ばれ、現在の商業印刷や出版物に使われている印刷機と原理は変わりません。
エッチング 1515年〜
「エッチング」は銅などの金属板に傷をつけてイメージを描き、そこへインクを詰め込んで紙に転写する技法です。くぼんだ部分がイメージとして印刷されるので凹版(おうはん)印刷に分類されます。
メゾチント 1642年〜
銅版画の一種である「メゾチント」は階調表現にすぐれています。銅板の表面に傷をつけてインクを詰め込み、それを紙に転写します。くぼんだ部分のインクが印刷されるので凹版印刷に分類されます。
アクアチント 1772年〜
「アクアチント」は銅版画のひとつの技法で、水彩画のように「面」で濃淡を表現できることが大きな特徴です。表面を酸で腐食させてできた凹みにインクを詰めて、それが紙に転写されるので、凹版印刷に分類されます。
リトグラフ 1796年〜
「リトグラフ」は水と油の反発を利用してイメージを印刷する方式です。凹凸を利用してインキを載せるのではなく、化学反応によってインキを付ける部分を決めます。版には石灰岩のブロックが使われたので「石版印刷」(せきばんいんさつ)ともいわれます。版面がフラットなので平版(へいはん)に分類されます。
クロモリトグラフ 1837年〜
「クロモリトグラフ」は、石版印刷「リトグラフ」を改良・発展させたカラー印刷技法です。カラーリトグラフと呼ばれることもあります。
輪転印刷 1843年〜
「輪転印刷機」(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。
ヘクトグラフ 1860年〜
「ヘクトグラフ」は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機、ゼリーグラフと呼ばれることもあります。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。
オフセット印刷 1875年〜
「オフセット印刷」とは、現在の印刷方式の中で最もポピュラーに利用されている平版印刷の一種です。主に、書籍印刷、商業印刷、美術印刷など幅広いジャンルで使用されており、世界中で供給されている商業印刷機の多くを占めています。
インクジェット印刷 1950年〜
「インクジェット印刷」は、液体インクをとても細かい滴にして用紙などの対象物に吹きつける印刷方式です。「非接触」というのがひとつの特徴で、食用色素を使った可食インクをつめたフードプリンター等にも利用されています。
レーザー印刷 1969年〜
「レーザー印刷」は、コンビニエンスストアや職場で身近なレーザー複写機やレーザープリンターに採用されている印刷技術です。現在では、レーザーの代わりにLEDも多く使われています。1980年代中ごろに登場したDTP(デスクトップパブリッシング)で重要な役割をはたしました。
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