
ヘクトグラフとは?
ヘクトグラフ(hectograph)は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機(gelatin duplicator)、ゼリーグラフ(jellygraph)と呼ばれることもあります。
欧州から日本に紹介されると、「コンニャク版」と呼ばれるようになります。これはゼラチンの代わりにコンニャク粉を使うことがあったためですが、コンニャク版といっても使われていたのはゼラチンが多かったようです。コンニャクやゼラチンのかわりに寒天を使ったものは「寒天版」「寒天印刷」と呼ばれます。

ひとつの版で印刷できるのが、せいぜい数十枚ですので、印刷というよりは複写(コピー)技術と考える方が理解しやすいかもしれません。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。
ヘクトグラフの印刷の原理
まず、ゼラチンとグリセリンを混ぜて、板状に固めてゼラチンパッドを作ります。その上に染料インクで書いた原稿を重ねると、インクがゼラチンパッドの表面に転写され「版」となります。原稿をとりのぞいて、代わりに紙をのせると、そこにインクが付いて原稿が複製されるという仕組みです。
ゼラチンパッドの表面には、原稿が左右反転した状態でインクが付きます。新しい紙には原稿と同じ向きに転写されるので、原稿をわざわざ反転させて準備する必要がありません。版の制作と印刷の工程がとてもシンプルなことがヘクトグラフの特長です。
19世紀後半に誕生

ヘクトグラフは、19世紀後半にロシアまたはドイツで考案されたとされています。ヘクトグラフのヘクト(hecto)は、100を意味するギリシャ語由来の単語です。印刷可能な部数が100枚程度であることから、この名称になったそうです。
謄写版、いわゆるガリ版が登場するまで、日本でも学校や官公庁、企業では盛んに利用されました。夏目漱石の作品『坊ちゃん』にも、「蒟蒻版(こんにゃくばん)」ということばが登場します。
ヘクトグラフとして欧州から持ち込まれる前から、日本ではコンニャク版が使われていた可能性もあります。江戸時代の製作と推定される焼き物で、コンニャク版によって絵付けされたと考えられるものが見つかっています。
アート表現技法のひとつとして復活
ヘクトグラフ、あるいはゼラチン版またはコンニャク版は、印刷用途には使われることはなくなりました。版を簡単に作成できることから、現在ではアート表現の技法として利用されています。
ヘクトグラフの手法によるアート作品の制作工程をネット上で見ることができます。版をどんどん重ねて作品をつくる様子は、まるでPhotoshopのレイヤーのリアル版のように思えておもしろいです。
【参考資料】
・Hectograph – Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Hectograph)
・Hectograph | machine | Britannica(https://www.britannica.com/technology/hectograph)
・「ガリと蒟蒻」といっても印刷の話(https://hirameki.noge-printing.jp/konnyaku_171123/)
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