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印刷史のなるほど雑学02:活版印刷と活字について

活版印刷とは?仕組み・歴史・魅力(活字印刷)をまとめて解説


印刷史のなるほど雑学02:活版印刷と活字について

活版印刷とは?

ステーショナリーショップや雑貨店でアルファベットや数字の1文字だけのハンコ(スタンプ)を売っているのを見たことはありますか。そのハンコのように文字や記号を彫り込んだ部品を「活字」(かつじ)といいます。その活字を組み合わせて版を作り、そこにインクをつけて印刷する手法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。

活字の出っ張った部分にインクを付けて文字を紙に転写するので、活版印刷は凸版(とっぱん)印刷に分類されます。東アジアでは11世紀には活字が生まれていましたがあまり普及せず、世界中に活版印刷が広まったのはドイツのヨハネス・グーテンベルクが近代的活版印刷技術を考え出した15世紀以降でした。

世界中で文字印刷の主流となり、19世紀には日本でも導入されました。20世紀後半になって登場した写真植字、複写機、DTP(デスクトップパブリッシング)などによって活版印刷への需要は激減しましたが、独特の風合いへの人気は根強く、品質や芸術性を求める特別な用途で現在でも利用されています。

 

活字を組み合わせて印刷する活版印刷

活版印刷の字面

活字は主に金属の角柱で、その先端に文字が浮き上がるように掘り出してあります。文字を1つだけ転写する1本のハンコのようなものです。飛び出た文字の面を「字面」(じづら)といいます。活字を組み合わせてテキストを印刷する方法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。

活版印刷

たとえば、「楽しいです。」というテキストを印刷する場合は、「楽」「し」「い」「で」「す」「。」という6つの活字をテキストの順番に並べて印刷用の版を作ります。活字を組み合わせて版を構成する作業を「活字組版」(かつじくみはん)といいます。印刷が完了すると、用のなくなった組版は解体されて活字はバラバラにされ保管されます。もし次に「いい気分だ。」という文を印刷するときは、「い」「い」「気」「分」「だ」「。」の6つの活字で版を新たに組みます。

このように印刷するテキストに合わせて活字を組み換えて対応できることと、活字を繰り返して使えることが活版印刷の特徴のひとつです。個々の文字を動かせることから英語では活字を「movable type」(ムーバブルタイプ)といいます。「動かせる文字」の意味で日本語では「可動活字」と訳されたりします。ちなみに「movable type」という単語が生まれるよりも前に中国で「活字」という言葉は使われていました。

活版印刷の魅力は、「印刷の痕跡」が紙に残ること

活版印刷が現代でも特別な用途で選ばれる理由のひとつに、「印刷の痕跡が紙に残る」という物理的な特徴があります。活字を紙に押し込んで印刷するため、文字部分にわずかな凹みが生まれます。この凹凸感が、オフセット印刷では出せない独特の質感を生みます。

オフセット印刷は、紙の表面にインクをきれいに乗せる方式なので、文字も画像も平滑な状態で再現されます。これはこれで美しいのですが、すべて画面の延長として見える、という側面もあります。一方、活版印刷では「紙が立体的に変形している」ため、指で触るとインクのある部分が凹んでいるのが分かります。「触感がある印刷」は、視覚以外の感覚にも訴えるため、記憶に残りやすくなります。

招待状、名刺、結婚式の引き出物、ブランドのコンセプトカード、特別な書籍など、「手に取って長く残してほしい」用途で活版印刷が選ばれるのは、この物理的な印象の強さによる部分が大きいと思います。デジタル媒体に慣れた現代だからこそ、紙の凹凸という昔ながらの特徴が、新鮮に感じられるようになっています。

 

最古の活版印刷は中国の陶活字

世界で初めて活版印刷が発明されたのは中国であるとされています。

北宋時代の11世紀半ばに「陶活字」を使った活版印刷を畢昇(ひっしょう)という人物がおこなったことが『夢渓筆談』という随筆集に記録されていました。土とニカワを混ぜた「膠泥」(こうでい)に文字を掘って焼き固めた活字であるため「膠泥活字」とも呼ばれています。

松ヤニやロウを塗った鉄板に1文字ずつ作った活字を並べ、それを熱して松ヤニやロウを溶かします。冷めて活字が固定されると上に紙を置いて印刷しました。

最古の陶活字の印刷物

・『仏説観無量寿仏経』(1103年)/ 三猎 (CC BY-SA 4.0)

現存する最古の陶活字の印刷物は北宋時代の12世紀初頭の『観無量寿経』です。また、14世紀には木活字も作られました。しかし、アルファベットに比べてはるかに文字数が多い漢字は、活字を大量に準備する必要があり、また、版を組むのにも時間と労力を要しました。そのため中国では木版印刷ほど普及しませんでした。

 

13世紀に朝鮮半島で金属活字が実用化

13世紀には朝鮮半島の高麗(こうらい)に活字印刷が伝わり、金属活字による印刷がおこなわれたという記録が残っています。金属活字を利用した世界で初めての印刷ということになります。印刷物自体は残っていませんが、その頃の銅活字が見つかりました。

現存する最古の金属活字による印刷物

現存する最古の金属活字による印刷物は14世紀後半に高麗で印刷された『白雲和尚抄録仏祖直指心体要節』という仏教の書籍です。李氏朝鮮時代の15世紀初頭に作られた「癸未字」(きびじ)と呼ばれる書体を皮切りに国家的事業としてさまざまな書体の活字鋳造がおこなわれました。

李朝時代の活字印刷物は現在まで残っていて、李朝時代の文化的発展に印刷物が大きく貢献したことがわかっています。15世紀の李朝朝鮮は活字先進国であったと言えます。ただこの時代は一般大衆向けの大量印刷ではなく国家的刊行物の出版にとどまっていました。

 

グーテンベルグは何を発明したか

ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutenberg)

・ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutenberg)

ルネサンス期のヨーロッパで活版印刷技術を発明したのがヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutenberg)と言われています。グーテンベルクは1450年ごろに世界で初めて活版技術を使った聖書を印刷しました。

活字や活版印刷は先に述べたように東アジアでもおこなわれていましたが、グーテンベルクは何を発明したのでしょうか。

まず、自身が持つ彫金技術を活かして文字の父型を彫り、それを元にした母型に鉛合金を溶かして流し込んで活字を鋳造する方法を発明します。これにより短時間で活字を量産することが可能になりました。

また、油性インクを用いることで、当時の低品質の紙や羊皮紙に対しても黒々と印字できるようにしました。さらに、インクをつけた活字に紙を押し付けるために、ぶどうの絞り機を改良したプレス印刷機を考案しました。

このように、さまざまな技術を組み合わせることによって、書物の大量印刷を可能にする画期的な新技術を生み出したことがグーテンベルクの発明と言えます。

グーテンベルク聖書

・グーテンベルク聖書の1ページ目

グーテンベルクの「42行聖書(グーテンベルク聖書)」自体はまだ一般大衆向けというものではなく、印刷部数も150~180部しかありませんでした。テキスト本文を黒一色で活字印刷し、後から色文字や飾り文字などを手描きで追加してあります。グーテンベルク印刷技術はまたたく間にヨーロッパに広まりました。

グーテンベルクの活版印刷機

活版印刷では膨大な量の同じ文字が必要ですが、漢字に比べて文字数の少ないアルファベットは活字の実用化と普及の面で有利だったと言えます。

初期の活版印刷では、活字のテキストに木版画の挿絵を組み合わせて印刷されることもおこなわれていました。

 

日本の活版印刷「古活字版」

16世紀末にはふたつの経路でほぼ同時期に活字と活版印刷が日本にもたらされました。

・ドイツのアウグスブルグで印刷された天正遣欧使節の肖像画(1586年)

ひとつはローマへ派遣された天正遣欧少年使節が1590年に持ち帰ったグーテンベルク活版印刷機と鉛活字です。キリスト教の布教と宣教師の日本語学習のために印刷されたローマ字の書物で、漢字やかなの印刷物もありました。江戸幕府からキリスト教禁止令が出されるまでの約25年間に主にイエズス会が刊行した書物は「キリシタン版」と呼ばれています。ローマ字表記によって当時の日本語の発音を探ることができるなど重要な研究資料となっています。

もうひとつは豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に略奪品として1593年に持ち帰った李朝朝鮮の銅版活字や印刷機です。

後陽成天皇は秀吉が献上した銅活字を使って『古文孝経』(こぶんこうきょう)を印刷したのち、木活字による書物の印刷をおこないました。また、秀吉のあと江戸幕府を開いた徳川家康は後陽成天皇から借りた銅活字をもとにして、駿河版銅活字を鋳造させるとともに木活字や銅活字による印刷・出版に力を注ぎました。

しかし日本においては。明治期に本木昌造が登場して日本語の近代活字印刷技術の基礎を築くまで木版印刷が主流であることは変わりませんでした。キリシタン版も含めて16世紀末から約50年間に刊行された活字本を「古活字本」(こかつじぼん)といいます。

 

活版印刷は「活字拾い」から始まる

活版印刷では原稿に基づいて印刷に必要な活字を集めます。文字や書体、大きさなどに従って活字は棚に整理保管されています。この活字棚から活字を選ぶことを「活字を拾(ひろ)う」と言います。

活字拾い

日本語の印刷物では文字の数が多く、活字を選ぶために必要な労力と時間が大きくなります。日本語の活版印刷ではこの作業を「文選」(ぶんせん)と呼んで独立した工程となっています。

次に「ステッキ」という組版用金具に原稿の指示どおりに活字を並べていきます。この工程を「植字」(しょくじ)または「組版」(くみはん)といいます。版が組み上がると、「誤植」(ごしょく)などがないかの確認のために試し刷りをします。試し刷りは「校正刷り」「ゲラ刷り」といいます。必要に応じて校正と訂正を繰り返します。

訂正の必要がなくなり、印刷可能な完全な版ができた状態が「校了」(こうりょう)です。

印刷が終わると版を清掃後に分解して活字は活字棚の所定の場所に戻されます。「解版」(かいはん)といいます。

活字の収納ケース

ちなみにアルファベットの大文字は「アッパーケース」(upper case)、小文字は「ロウアーケース」(lower case)と呼ばれることがありますが、これは活字を分けて収納するときに、大文字用のケースや引き出しが小文字用のケースや引き出しよりも上にあったことに由来しています。

活版印刷は「少ロット・高品質」と相性がいい印刷方式

活版印刷は、現代の大量印刷の用途にはほとんど使われませんが、これはコストの問題が大きく関わっています。大量印刷には不向きな反面、少ロット制作には独特の強みがあります。

オフセット印刷は、版を作ってしまえば1枚あたりの単価が下がるため、数千〜数万部の印刷に向いています。一方、活版印刷は1枚ごとの工程に手間がかかるので、大量印刷では割高になります。逆に言えば、50〜500部程度の少ロットでは、オフセットと比べてもコスト差が小さくなり、その代わりに圧倒的な質感の差を得られます。

「少ロットで、印象に残るものを作りたい」という用途——たとえばブランドのVIPカード、アーティストのライブグッズ、限定パッケージ、結婚式の招待状などは、活版印刷の真価が発揮される場面です。コストを単価で比較するのではなく、「1枚あたりの印象の強さ」で比べてみると、少ロット・高単価の媒体ほど活版印刷の選択肢が現実的になってきます。

手作り感が再評価される活版印刷

印刷・出版界のデジタル化の荒波を受けて絶滅寸前だった活版印刷ですが、近年は世界中でふたたび脚光を浴びています。活字を紙に押し付けることによる凹凸や、インク溜まりやかすれなど活版印刷独特の風合いが新鮮に受け止められているのです。

活版印刷の再評価

また、活字を選んで文字を組み、紙に圧をかけて印刷するという作業に人間的なぬくもりを感じる人が増えています。特殊な紙への印刷やインクをつけずに凹凸だけを残す空押しなど幅広い表現の可能性に関心を持つアーティストも増えました。

従来のような大量印刷としての需要はありませんが、名刺や招待状、賞状、パッケージ、少部数の詩集・句集など、品質や芸術性へのニーズに応える新たなポジションを獲得しつつあります。

完璧なデジタル時代こそ、活版の「不完全さ」が価値になっていく

記事の最後で「手作り感が再評価される活版印刷」が触れられていますが、この流れは、デジタル時代になればなるほど強まっていく可能性があります。AIや高精度な印刷技術によって、視覚的に「完璧」な仕上がりは身近なものになりつつあるからです。

完璧に整った印刷物は、モニター画面と区別がつきにくくなりつつあります。一方で、活版印刷の「インクが少しムラがある」「文字の凹凸が均一でない」「かすれが生まれる」「紙に手の温もりが残るような揺らぎ」は、人間の手と物理的な機械が関わった証として、強い説得力を持つようになっています。

これは活版印刷だけの話ではなく、手書き文字、レコード、フィルム写真など、「不完全さが残るアナログ媒体」全般に通じる現象です。デジタルが完璧を目指すほど、「あえて不完全な領域」が差別化要素として価値を増していきます。活版印刷の現代における立ち位置は、こうした大きな流れの中にあると捉えるとその意味が立体的に見えてきます。


【参考資料】
Letterpress printing – Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Letterpress_printing)
Movable type – Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Movable_type)
Printing press – Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Printing_press)
活版印刷 – Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/活版印刷)
活版印刷とは | 活版印刷|CAPPAN STUDIO(活版スタジオ)(https://cappan.co.jp/archives/2116)
技術と方法(1)活字 | 文字を組む方法 | 文字の手帖 | 株式会社モリサワ(https://www.morisawa.co.jp/culture/japanese-typesetting/04/)
1. 活版印刷とは 嘉瑞工房 レタープレス・活版印刷スタジオ(https://kazuipress.com/basic/kappan.html)
日本印刷学会誌49-2(76 – 80)、日本印刷学会(2012/5/1)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/nig/49/2/49_076/_pdf/-char/ja)
謎の人グーテンベルク | インキュナブラ~西洋印刷術の黎明~(https://www.ndl.go.jp/incunabula/chapter1/chapter1_02.html)

 

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この記事について

執筆: ASOBOAD編集部

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