
仮面を被った謎の二人組「Rocket&Wink」。彼らは、ドイツを拠点にヨーロッパで活躍するアーティストのアートワークを数多く手掛けるデザインチームです。
彼らの手掛けるデザインは、POPで斬新、そしてユニーク。アーティストの持つ個性を何倍にも増幅するような彼らのインパクトあるデザインワークは、まさに圧巻。彼らのパワフルで型にはまらないデザインの原動力はどこにあるのでしょうか? ※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Rocket&Wink! )
Rocket&WinkのCDジャケットが「音楽を聴く前から世界観に引き込む」設計
Rocket&WinkのCDジャケットデザインが「格好いい」と評されるのは、ジャケットを見た瞬間に「この音楽はこんな世界観を持っている」と予感させる視覚的な力があるからです。
CDジャケット(またはストリーミングサービスのアルバムアートワーク)は、消費者が音楽を聴く「前」に目にする最初のビジュアルです。ジャケットが音楽の世界観と一致していると、「聴く前から期待が高まる」効果が生まれます。逆に、ジャケットと音楽が乖離していると「聴いてみたら想像と違った」という不一致感が生じます。
ドイツのロックバンドDie Sterneのアルバムアートワーク

90年代に結成されたロックバンド「Die Sterne」の久しぶりのフルアルバムとなった「Flucht in die Flucht」。ビジュアルのコンセプトは、カメラの絞りのような動きを見せる正方形のフレームです。
アルバムタイトルとアーティスト名が書かれた正方形は、中心から徐々に回転し、大きくなっていきます。タイトルとバンド名を分断するように左右に引かれた矢印が、対角線の長さを一層強調し、「回転」と「拡大」を意識させます。フレームの回転は、連続した動きを見せ、ここから何かがはじまっていくような予感を感じさせます。
ブックレットのデザイン


CDに同梱されるブックレットの一部です。色とりどりの画像の上に、さまざまなフォルムやスタイルで展開される正方形をベースにしたパターン。その中央には、これまた自由なレイアウトで歌詞が書かれています。そして、ブックレットの中間に箸休めのように入る見開きのアーティスト写真。ソファに座ったメンバーたちが、いくつものフレームが刺さった極彩色の丘を眺めている姿は、この歌詞カードの世界そのまま。彼らの見ているビジョンと歌詞カードデザインの世界がリンクする面白い演出です。

このアルバムをリリースするにあたり、さまざまな音源に対応したセットが組まれました。上記のセットはもっともコンパクトなCD+ブックレット版。中面を表にして立たせるとボックス型になります。
限定版セットのアートワーク

こちらは、LPやカセットテープも含むデラックスな限定版。A2ポスターもつき、アートワークの迫力も満点です。


LP版のジャケットです。アルバムジャケットとはひと味違うサイケデリックな様相は、クラブでのプレイを意識したものでしょうか。宇宙空間のような不思議な雰囲気が、バンドの新たな魅力を引き出しています。

限定版のカセットテープ版に封入されたカード。メンバーが写ったモノクロ写真の中央の背景を正方形型に沿って反転し、ペンキで汚したような加工を施しています。メンバーそれぞれの個性とアルバムの世界観とが合致したPOPアートな一枚です。
ドイツのロックバンドBEATSTEAKSのDVD&CDアルバムアートワーク

一面にスピーカーをつけたカラフルなボックス。押し込むと何かが爆発しそうなハンドル。ドイツの人気パンクバンド「Beatsteaks」のDVD2枚とCDをセットにした豪華なパッケージ版のシンボルデザインです。

シンボルマークのボックスに使われた、インクの3原色シアン・マゼンタ・イエロー。それと同様のカラーでDVDとCDの盤面も塗られています。
同梱ポスターのデザイン

同梱されているインデックスを兼ねたポスターは、まるで、ジャケットのボックスを爆発させたかのように、カラフルな装飾と文字が飛び出すような派手派手しいデザイン。
よく見ると、きちんと段階を踏んでおり、中央上にある、ボックスから下向きに誘導されると、DVDに収録されているライブのタイトルを確認でき、そこからさらに左右に分かれ、演奏された曲名がラインナップされています。奇抜なデザインに圧倒されがちですが、機能性も十分に考えられた秀逸なデザインです。
ドイツのHIPHOPグループDeichkindのCDアルバムアートワーク

ドイツのエレクトロHIPHOPグループ「Deichkind」。皮肉でユーモラスなリリックと奇想天外なパフォーマンスで人気の彼らのトレードマークは、ピラミッドのような三角錐。ライブパフォーマンスやプロモーションビデオでは、メンバーがこの三角錐を被った姿で度々登場します。
そんな彼らの2枚組のCDアルバム「Befehl von Ganz Unten」も、当然のように三角錐をビジュアルコンセプトにデザインされています。
CDジャケットデザイン

日常的なリリックをエレクトリック色の強いサウンドに乗せるDeichkindの音楽は、日常の隣り合わせにある非日常な世界を強く感じさせます。デザインにもその印象が反映されており、三角錐型の宇宙船が地球に飛来しているシーンをリアルに、そしてユーモラスに描き、CDジャケットのメインビジュアルにしています。
ブックレットのデザイン

ブックレットにも、一貫して三角錐が登場します。妖しく未来的な輝きを放つ光と共に、ライブパフォーマンスと同じように三角錐を被った人物たちが現れ、不可思議な日常風景が展開されます。どのページの中にも三角錐が登場し、元の写真の色合いや陰影と溶け合うように収まっています。明らかな違和感がありながらも、一枚の絵として成り立つこれらの写真は、Deichkindの音楽の世界とイメージが重なります。
ドイツの多言語音楽グループCULCHA CANDELAのCDアルバムアートワーク

ドイツの音楽グループ「CULCHA CANDELA」は、メンバーそれぞれの母国語であるドイツ語・スペイン語・英語・ジャマイカ語という多言語を操り、楽曲を作る多民族グループ。言語はもちろん、音楽も、レゲエ、HIPHOP、ダンスミュージック、サルサなどさまざまなジャンルがミックスされており、独自のスタイルの音楽性を確立しています。

彼らのアルバム「CANDELISTAN」は、多民族な彼らが作った「国」をイメージした一枚。何色もの色を惜し気もなく使い、どこの国旗にもないような「多様性」を表現しています。
ブックレットのデザイン


ブックレットにはページ毎に、地域や文化の象徴となるモチーフが登場し、ありえないコラボレーションを見せながら歌詞を紹介しています。

見開きのページには、各ページのモチーフが集合したカオスともいえるコラージュが。一見バラバラに見える配置ですが、シンメトリーなバランスや配置の強弱がしっかり計算されており、意外に安定感のある構図になっています。
盤面・バックインレイのデザイン

どこまでもカラフルな世界は続いています。CDの盤面やケースの裏側まで万華鏡のように終わりのない色の世界が広がっています。
ポスターデザイン

アルバムのポスターデザインです。カラフルな海と立体感をもって区別される黄色の大地、中央に配置されたバンドのシンボルマークを象った方位記号、山や草をあらわす記号。それらが合わさることで、このポスターを色とりどりの海に囲まれた「CANDELISTAN」の地図に見せています。曲のタイトルが地名のように散りばめられ、不思議なモチーフたちがそれぞれを象徴しています。
ドイツのパンクバンドBETONTODのCDアルバムアートワーク

BETONTODは、1990年に結成以来、精力的に活動を続けるドイツのパンクバンド。エネルギッシュで揺るぎない彼らのスタンスは、年月を経ても変わらず、多くのファンを魅了し続けています。
昔から変わらない、拳を握って力強く歌う姿は彼らのトレードマーク。そんな姿をデザインのモチーフとし、アルバム「TRAUM VON」のジャケットはデザインされています。
CDジャケットのアートワーク


無骨で荒々しいサウンドに合わせ、スプレーアートでワイルドに描かれた拳。よく見ると握られた拳の中央には力強く翼を広げる鳥のシルエットが。殻を打ち破り、その先へ自由に羽ばたく鳥は、まさに彼らの楽曲にピッタリのイメージです。
ブックレットのデザイン




ブックレットのイメージの端々にも鳥が登場し、スプレーに塗られた空に飛び立っていきます。ざらついた質感と鮮烈なカラーリングが、アルバムの世界観を見事に表現しています。
CDジャケットからプロモーションツールまでの「一貫したビジュアル展開」が統合的な体験を作る
Rocket&Winkの事例では、CDジャケットのビジュアルがポスター、フライヤー、Webサイト、SNSバナー、マーチャンダイズ(グッズ)にまで一貫して展開されています。
この「1つのビジュアルコンセプトを全メディアに横展開する」アプローチにより、消費者がどのタッチポイントから入っても「同じ世界観に触れる」統合的な体験が生まれます。CDジャケットだけを単独で制作するのではなく、「このビジュアルがポスターにもSNSにもグッズにも展開される」前提で最初から設計すると、後からの展開がスムーズに進みます。
未リリースの曲を集めたコンピレーションアルバムのアートワーク

アルバムタイトルは「LOW FIDELITY」。日本でもよく聞く単語「Hi-Fi」の対を成す言葉で、略して「Lo-Fi」とも言われます。元は、音楽の録音環境や品質を表わす言葉として使われ、音質の低い音楽に対して蔑称的に使われていました。時代が進むにつれ、成功を収めた商業的な音楽に反発する価値観が生まれ、そうした傾向を持つインディーズロックなどのアンダーグラウンドと称される音楽のジャンル自体が「Lo-Fi」と呼ばれるようになったそうです。
このアルバムは、商業ベースに乗らなかった「LOW FIDELITY」な楽曲だけを集めたオムニバスアルバム。テーマはズバリ、アンチ資本主義です。
メインアートワーク

社会で、確固たる地位を築いていそうな風格の中年紳士。その紳士にテープで目隠しをし、眼前で中指を突き立てています。貼られたステッカーには、ドイツ語で「資本主義のすすめ」と書いてあります。

資本主義の象徴としてとれる目隠しをされた紳士には、中指を立てられていることさえ分からない。そんな無様とも言える姿を晒し、「資本主義のくそったれ! 」というような強いアンチテーゼを発信する、かなりメッセージ性の強いアートワークです。
インデックスのデザイン


同梱されているインデックスは、裏面には細かな筆致で描かれた奇妙なイラスト。表面は、アーティスト名と曲名、中央にジャケットの紳士の後姿が写っており、その背中には裏面のイラストがびっしりと重ねられています。二つの相反する価値観を重ね、皮肉をたっぷり効かせてデザインされたこのアートワークは、往年のセックスピストルズ「God Save The Queen」を彷彿とさせる、アツいロック魂を感じずにはいられません。
インパクト大!SEEEDのビルボード用ポスターデザイン

11人からなる大所帯バンド「SEEED」。9人のシンガーとホーンセクション、DJから成る彼らは、レゲエやHIPHOP、ダンスミュージックを融合させた独自のミクスチャーミュージックで高い評価を得ています。彼らのニューアルバムのリリースに際し、多くの人の目を奪う大胆なキャンペーンが図られました。

街中のあちらこちらに、メンバー一人一人の姿をデフォルメして描いた大小さまざまなポスターを貼ったり、タペストリーを下げるなどするビルボードキャンペーン。



赤い背景にモノクロで描かれた人物像は、メンバーをモデルにしていますが、まるでコミックから飛び出してきたようにキャラクタライズされています。彼らの音楽を聞いたことが無くても、どんな人たちなのか知りたいと思わせるに十分な、魅力あるイラストレーションです。


すべてのポスターに、「SEEED」と入ってはいませんが、街中をジャックするように貼られたポスターは、それを語らずとも強いインパクトを持って彼らの存在を印象付けます。
まとめ
どのデザインも、見事なまでにインパクトが強く、見ている側にまで作り手のバイブレーションが伝わってくるような勢いのある作品ばかりでした。なぜこれほどまでに、生き生きとした仕事ができるのか。それは、彼ら自身がデザインを楽しみ、また、そのデザインと音楽に愛着を持っているからでしょう。彼らのポートフォリオの端々には、仮面を被った彼らが楽しげに自分たちの作品を持つ姿が収められています。

仕事とは、楽しいものばかりではないというのは、誰もが知るところですが、手掛けた本人の気持ちによって左右されやすいのがデザインの仕事。彼らをお手本に、できる限り、エンジョイする精神で仕事に取り組みたいものですね。
design : Rocket&Wink ( Germany )
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