香港のデザインスタジオToby Ng Designの創設者でクリエイティブ・ディレクターのToby Ng(トビー・ンまたはトビー・ウー)氏の作品は、一見、典型的なミニマルデザインです。しかし、どのプロジェクトも、シンプルさだけでなく、豊かさと広がりを持っていることがわかります。
2001年頃からネット上で話題になった『世界がもし100人の村だったら』という文章について聞いたことがあるひとも多いでしょう。その内容をベースにしてToby Ng氏が制作したインフォグラフィックシリーズ『The World of 100』は高く評価され、ニューヨーク現代美術館(MoMA)で展示されるなど、世界中にNg氏の名前を広めました。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Toby Ng!)
郵便を送りたくなるおいしい切手のデザイン
はがきや封筒で手紙を送る機会はかなり減ってきました。切手を貼るという作業もめったにしなくなったのではないでしょうか。ところで、切手を貼るとき裏のノリを水でぬらしますか。それともペロッとなめる派ですか。
この見るからにおいしそうな切手は、なんとチョコレートの味がつけられています。シートはまるでチョコレートバーのようです。しかも本物のチョコレート同様にちゃんとパッケージ入り。ダーク、ミルク、ホワイトの3パターンのデザインがあり、それぞれのフレーバーに味付けされています。切手をなめたからには、だれかにハガキか手紙を送らなければいけませんね。
自由な発想を紙の柔軟性で表現したビジュアルアイデア
香港の若いデザイナーと建築家にキャリアアップの機会を提供する目的で、Hong Kong Young Architects & Designers Competition 2017というコンペティションが開催されました。このコンペティションは、九龍半島のウォーターフロントに仮設されるパビリオンのデザインを競うというかたちでおこなわれました。そのイベントアイデンティティをNg氏が手がけています。
開催告知と参加者を募るシリーズポスターは、柔らかく波打たせたカラーペーパーと小さなフィギュアを組み合わせた写真をビジュアルとしています。建築デザインに関するイメージとしては、一風変わったこのアプローチについて、Ng氏は次のように述べています。
「このコンペティションアイデンティティのコンセプトは『地元の若い才能』向けのものであるという側面に深く根ざしています。『若さ』の本質と、新鮮で自由奔放なアイデアの可能性を捕らえるための抽象的なアプローチをとりました」
すなわち、きっちり、しっかり、がっちり、といった建築デザインに対するイメージが一般的であるなかで、「親しくかかわりあえる空間」という別の考え方を提示したものなのです。小さなフィギュアは、若い才能によって作り出される、まだ姿を見せないパビリオンと人々の関係を表現しています。同時に、建築物のスケール感を出すためにも必要だったのでしょう。
活動のコンセプトをミニマルに表現したロゴデザイン
非営利団体「Culture for Tomorrow」のブランディングでは、団体の活動をミニマルかつ十分に視覚化しています。Culture for Tomorrowは、香港で文化的な変革を起こそうとしている人びとと、さまざまなネットワークやプラットフォームと結びつけることで、支援していこうと立ち上げられました。
つながりを表現するために、3つの単語「culture」「for」「tomorrow」がつなげられています。そして、つなげられた言葉が形作っているのは、「つながり(connection)」の頭文字「C」です。一方、アイデンティティー・カラーは、グリーン、オレンジ、灰青、黒のバリエーションが設定され、団体の柔軟な活動に対応しています。
この単語を「C」の形につなぐというフォーマットは、Culture for Tomorrowのほかのプロモーションツールにも適用されました。ロゴと同じように組まれることで、多様なプロジェクトのタイトルやキャッチも、同じひとつのアイデンティティを示すことができます。
世界的に認められるきっかけとなった「100人の村」のインフォグラフィック
世界を人口100人の村にたとえて、統計的実態をわかりやすく説明した『世界がもし100人の村だったら』という文章が2001年ごろからネット上で広まりました。言語、宗教、人種などから、教育、預金、識字率といったテーマについて63億人を100人に圧縮してどのような比率になっているか示しています。
世界がもし100人の村だったら、52人が女性で、48人が男性。70人が有色人種で、30人が白人。20人は栄養不足で、死にそうなひとがひとり、15人は太りすぎ。このようなファクトを踏まえて、世界を正しく理解したり、自身の幸福を確認するきっかけとして広く受け入れられました。1990年に米国のドネラ・メドウス(Donella Meadows)教授が、1000人の村にたとえて世界の比率を説明した文章がベースになっているそうです。
この『世界がもし100人の村だったら』に掲載されているデータをToby Ng氏はシンプルで愛らしいインフォグラフィックにしました。『The World of 100』と題された20枚のポスターシリーズは、高く評価され、数多くの賞がNg氏に送られました。作品はのちにポストカードブックにまとめられ、ニューヨーク現代美術館(MoMA)をはじめ世界各地で紹介されています。
識字率のデータはメガネのイラストで表現されていますが、文字が読めない14%をレンズの割れた部分で示しています。また、パイチャートで示している食料摂取についての比率は、ピザの具の量で貧富の違いを演出しています。シンプルでわかりやすいイラストとともに、そういった発想にきっと刺激を受けるでしょう。
工芸美術の伝統を守る財団のブランディングデザイン
中国伝統の職人技術を守ることをミッションとする財団、K11 Craft & Guild FoundationのブランディングをToby Ng氏は手がけました。同財団は、美術工芸品を作る職人技や経験が失われていくのを防ぎ、後継者を育てるための活動をおこなっています。
ブランドロゴは、英語名「K11 Craft & Guild Foundation」に、職人あるいは職人ワザの象徴として漢字の「工」を組み合わせたものです。極端な横長に加工された「工」は、文字というよりも限りなく図形に近づき、ミニマルな図形でありながら、精緻な技や作品を思い起こさせます。
ステーショナリーや、木建築、灰塑、廣彩、百宝嵌を紹介する本、廣彩の皿を入れるギフトボックスなど、いずれも伝統にふさわしい品格のあるモダンなデザインとなっています。
香港グラフィック界の次代を担う代表的デザイナー
香港で生まれたToby Ng氏は、ロンドン芸術大学(University of the Arts)のセントラル・セント・マーチンズ (Central Saint Martins) でグラフィックデザインを学びました。卒業後はロンドンのデザインスタジオでの見習い期間を経て、フリーランサーとして働きますが、香港在住のデザイナーSandy Choi氏から声がかかり、2009年に香港に戻ります。
3年間Choi氏のもとで働いたのち、シンガポールでブランディングを経験しました。世界的デザイナーであるアラン・チャン(Alan Chan)氏のデザイン事務所にも2年間在籍しています。そして、2014年に自らのデザインスタジオToby Ng Designを香港に設立しました。香港でもっとも期待されるグラフィックデザイナーのひとりに数えられ、国際的広告代理店に伍して活動中です。
design : Toby Ng (Hong Kong)
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