VVORKROOMは、メキシコとスペインのバルセロナを拠点とするクリエイティブスタジオです。人間味あふれるアプローチを大切にしながらブランディングを行なっています。
Vicky González氏が2008年にIván García氏と共同で創立したクリエイティブスタジオFuturaは、メキシコデザイン界のトップスタジオのひとつに数えられています。
数々のすぐれたプロジェクトを生み出してきたGonzález氏が、ふたたび実制作現場の最前線に立つために、2018年に設立したスタジオがVVORKROOMです。
González氏は、同スタジオのフィロソフィーとアプローチについて、次のように述べています。
「私はすべてのクライアントを一人の人間として見ており、すべてのプロジェクトを自分のもののように大切にしています」
※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。( Thank you, VVORKROOM! )
「ロックな」ニワトリをアイデンティティの中心に据えたスポーツバーのブランディング
メキシコシティ中心部のソナロサ(Zona Rosa)地区は、メキシコシティの代表的な繁華街のひとつで、観光客も多くおとずれます。
このソナロサ地区に店を構えるスポーツバー「Lalo Lalita」のヴィジュアルアイデンティティは、入店する前から楽しい気分にさせてくれます。
看板メニューは手羽を揚げたバッファローウィング
スポーツバーLalo Lalitaの看板メニューは、バッファローウィングです。鶏の手羽を素揚げして、辛味と酸味のきいたソースをからめて食べる料理で、特にビールのあてとして好まれています。米国ニューヨーク州の都市バッファローが発祥です。
Lalo Lalitaでは、米国生まれのバッファローウィングを、地元メキシコのチリソースと組み合わせて提供しています。
サッカーとビールとスパイシーな料理が楽しめる店
メキシコシティでは、気取った超クールな店か、屋台料理のどちらでもない、中間的な店が減っていました。そこで、肩の力を抜いて楽しめる場所として考えられたのがLalo Lalitaです。
アメリカンなコンセプトをベースに、「メキシコ風」にアレンジされた店のコンセプトについて、VVORKROOMは次のようにコメントしています。
「サッカー、ビール、そしてスパイシーな料理が大好きな国であることを受け入れ、リラックスできるような場所」
ことば遊びにもなっているブランド名
店舗の名前は、男子名「Lalo」と女子名「Lalita」を並べたものです。LaloとLalitaは、それぞれEduardoとEduardaという名前の愛称です。もし、日本で同じような店名を考えるとするなら、「太郎と花子」あるいは「はると&なるな」みたいな感じでしょうか。
男の子の名前としてEduardoは最近人気のようです。また、Lalitaの方は、ことば遊びにもなっています。Lalitaの発音は「la alita」という言葉と同じで、その意味は翼です。
グラフィティ風のロゴタイプとキャラクター
スポーツバーLalo Lalitaのルック&フィールの基本には、ロックのテイストがあります。実在の人物にインスパイアされて決められたブランドパーソナリティは次のようなものです。
「ロックバンドで活躍し、メキシコに帰化して久しいアメリカ人。型破りで機知に富み、包容力があり、楽しく親しみやすい」
ロゴタイプの制作過程が、VVORKROOMのSNSにあげられています。スプレーで描いたグラフィティを思わせるものから、本格的なレタリングまで、アイデアスケッチはすべて手作業で描かれました。
ニワトリのキャラクターもグラフィティ風のイラストです。
「このキャラクターはタフぶっているけれども、結局はかわいらしくなってしまうニワトリで、ブランドの個性を反映しています」
ネーミング、ロゴタイプ、キャラクターのどれをとっても、「肩の力を抜いて楽しめる場所」というバーのコンセプトを反映しています。超クールな店と屋台の中間の場所というポジショニングに基づいて、適切に練られた戦略の好例です。
フェアトレードチョコレートのブランディング
メキシコで100%製造されたビーン・トゥ・バーチョコレート「Cuna de Piedra」では、コンセプト作りから、ネーミング、ブランド戦略、パッケージデザインまで、VVORKROOMがトータルに関わりました。
フェアなカカオ生産のための「ビーン・トゥ・バー」運動
「ビーン・トゥ・バー(bean to bar)」というのは、原料のカカオ豆(カカオビーンズ)の厳選から、最終的な製品(板チョコ=バー)まで一貫しておこなうチョコレートの作り方です。
メキシコのカカオ生産チェーンでは、消費者が手にするまでに、少なくとも6つの仲介業者がかかわっています。Cuna de Piedraのプロジェクトでは、仲介業者をはさまずに生産者と直接取引をおこないます。これによって、生産者の労働環境が適切であることを確認できます。また、従来よりも高い報酬を生産者に支払えます。
この「ビーン・トゥ・バー」運動は、生産プロセス全体の透明性を促進します。Cuna de Piedraのプロジェクトに関わっているのは、慈善活動でもなく、見返りや評価を求めているわけでもない、とVVORKROOMは述べてきます。
「私たちの夢は、こうした仕組みが少しずつ世界中のカカオ生産における一般的な基準となり、不公正が完全に消えることです」
ビジュアルコミュニケーションの老舗メディア『Communication Arts(CA)』の2020年のインタビューでGonzález氏は、それまでの人生で取り組んだ中で最も重要なプロジェクトであるとコメントしています。
ブランド名は「石のゆりかご」
ブランド名「Cuna de Piedra」の意味は「石のゆりかご」です。
なぜ「石」かというと、メキシコ料理では先住民の時代から、石が調理で重要な役割を果たしてきたからです。タコスやトルティーヤなどで使われているトウモロコシの粉は、石臼(うす)で挽いています。サルサ作り専用の石臼もあります。昔はテキーラの原料を絞るときにも石臼が使われていました。
また、「ゆりかご」には、カカオ豆が誕生した場所であるという意味が込められています。メキシコはカカオの原産地のひとつです。この地域では、三千年以上前からカカオ栽培がおこなわれてきました。ヨーロッパ人が訪れる前のアステカ帝国では、カカオ豆をすりつぶして、チョコレートの祖先のような飲み物が作られていました。
Cuna de Piedraの板チョコには全面に文字がレイアウトされていて、石碑のような印象を与えます。刻まれた文字の意味は「メキシコ。カカオのゆりかご。豆からバーまで。」というブランドのエッセンスです。
アート作品を主役にしたパッケージデザイン
VVORKROOMは、多様性がメキシコ文化の特質であると見ています。そこで、多様なものの共存をブランドのコンセプトのベースとしました。対照的なものが隣り合わせに同居しているというメキシコ文化の特質は、パッケージデザインにも反映されています。
3つの石で構成されているビジュアルは、先住民時代の彫刻を再解釈したアートです。それと同時に、石を素材として創作している現代メキシコのアーティストたちへのオマージュでもあります。
カカオ豆の産地やチョコレートの味の違いによってパッケージの色が異なります。バリエーションをすべて並べると書籍のようにも見えます。
VVORKROOMは、メキシコという場所に対する謙虚な気持ちと感謝を持ってこのプロジェクトに取り組んだと言います。この土地こそが、国内外でメキシコを堂々と代表できるブランドと製品づくりの基盤なのです。
Cuna de Piedraのパッケージは、歴史、伝統、文化、そして土地への誇りが凝縮されたデザインとなっています。
チョコレートを手にしたひとは、カカオ生産者へのリスペクトが自然と湧き上がるのではないでしょうか。フェアな取引をするのが当然だと思えるでしょう。
「Cuna de Piedraは、⋯⋯<略>⋯⋯メキシコとメキシコのカカオ、その生産プロセスに関わるすべてのひとへの敬意を込めたオマージュです」
イランの豊かさを身にまとう紅茶のブランディング
紅茶ブランド「Persian Apothecary」は、イランにルーツを持つオーナーがロンドンで立ち上げました。ブランド名は、「ペルシャの薬剤師」といった意味です。
イランでは紅茶がよく飲まれています。英国人とイラン人のハーフである創業者は、母親が教えてくれたペルシャ紅茶のレシピにヒントを得て、伝統的紅茶の味や香りを現代的に解釈しました。
このブランディングを手がけたVVORKROOMは、ペルシャの歴史と文化を研究し、その豊かさをビジュアルアインデンディティからパッケージで伝えています。
ロゴタイプは、古代ペルシャの楔(くさび)形文字にインスピレーションを受けてデザインされた書体で組まれています。また、ペルシャ書道を思わせる仕上がりにもなっています。
アイコンやデザインエレメントのモチーフは、イスラム建築の模様に着想を得ています。
書籍のようなパッケージデザインはペルシャ文学へのオマージュです。商品名は本のタイトルのようなあしらいになっています。使われている写真は、「Driving in Tehran」を除いてイラン人写真家Tahmineh Monzaviの作品です。また、各パッケージには、それぞれ異なる1遍の詩が、英語とペルシャ語で掲載されています。
「ベル・エポック」に由来するオーセンティックなバーのビジュアルアイデンティティ
1900年にパリ万国博覧会が開催されるなど、産業革命がもたらした繁栄をパリ市民が享受した華やかな「ベル・エポック」の時代。あたらしい芸術や文化が花開きました。
その輝かしい時代が終わりを迎えつつあった1912年にメキシコのモンテレイに「グランホテル・モンテレイ」が開業しました。メキシコ北西部で最初の近代的豪華ホテルでした。80年後には、国立芸術院と国立人類学歴史研究所によって国家の芸術的記念物および文化遺産として指定されます。
時が経ち、ホテルのバーはスポーツバーに変えられるなどしたのちに閉店しましたが、モンテレイのある事業家がバーを再開するプロジェクトを立ちあげ、VVORKROOMにブランド戦略を依頼します。
店名「Bar 1900」のロゴタイプは、1900年に出版された書体に関する書籍に掲載されている文字をベースにしてデザインされました。
デザインエレメントとしては、ヌエボ・レオン州特有の植物を図案化しています。
カラーパレットは、ベル・エポックの代表的な画家のひとりアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの「La Modiste」という作品にインスピレーションを得て作られました。
メニューなどのタイポグラフィは、1909 年にモンテレー市で出版された「Guía para cantineros」というバーテンダー向けの本を参考にして、その当時の雰囲気を再現しています。
全体に、映画の小道具作りを思わせるような、几帳面で丁寧な仕事ぶりがうかがえます。
design : VVORKROOM (Mexico City, Mexico)
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