ブランディングとパッケージデザインを得意分野としているAnton Antishin氏は、ウクライナで活動しているデザイナーです。コスメティック分野のブランドを得意としています。世界的なファッションブランドの広告を手掛けた経験もあります。
Antishin氏のデザインの印象は、クリーンで清潔感があるというものです。奇をてらわず、正統派のアプローチで、クライアントの課題をまっすぐに解決していると感じられます。なかでも、オーガニックでフェミニンなトーンの作品に、Anishin氏の強みが活かされているようです。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。( Thank you, Anton Antishin! )
シンプルで機能的なフェイスマスクのパッケージデザイン
保湿を目的としたハイドロジェル・スキンケア製品のパッケージデザインを、Antishin氏が手掛けています。ウクライナの「Joko Blend」というコスメティックブランドが発売しているハイドロジェルマスクのパッケージは、ミニマリスティックなアプローチで、清潔感のあるデザインです。
商品に関連する素材や成分のイメージをひとつだけ大きく配置したパッケージは、とてもすっきりしています。カラーリングも、白い背景に対して、花と同系の1色をあしらっただけの簡潔なもの。テキスト要素も、サンセリフ系の読みやすい書体を1種類だけです。
基本的でオーソドックスなデザインのようですが、ここにはAntishin氏の戦略があります。市場に流通している競合製品には、マスクをつけたモデルの顔をイメージとしているものが多いのです。ここに、Antishin氏のデザインしたJoko Blendのパッケージを並べると、ライバル製品たちに埋もれることなく、消費者の目を引くことになります。
王道を行くブランド・ガイドブック
Antishin氏は、前述のJoko Blendのブランド・ガイドラインの作成にも関わりました。あらゆるタッチポイントで、さまざまな消費者に、一貫性のあるブランドメッセージを正しく伝えるためには、ブランド・ガイドラインがとても重要な役割をになっています。ブランド・ガイドラインはスタイルガイドと呼ばれることもあります。
クライアントの全社員や外部クリエイティブスタッフを含めた、ブランドにかかわるすべてのひとびとで、ガイドラインを共有するために作られるのが、ブランド・ガイドブックです。ブランド・ガイドブックには、コンセプトの説明と運用ルールが記載されます。
Joko Blendブランドのガイドラインを策定するにあたって、Antishin氏は、競合他社が市場でどのようにブランドを提示しているかの分析からスタートしました。次の段階では、マーケティングチームとともに、ロゴやカラーパレット、書体、写真のスタイルといった、ブランディングの核となる要素を決定しました。
ガイドラインの冒頭にはブランドのスローガンが提示され、ミッション、ターゲットの解説、ブランドのフィロソフィ、ブランド価値の説明がそれに続きます。
ガイドラインを作成するなかで、Antishin氏は、ロゴとグラフィック要素の使用ルールに特別な注意を払ったそうです。また、マーケティングチームに対しては、ガイドブックに記載されている各要素とその使い方についてのトレーニングもおこないました。
Antishin氏の制作したガイドブックは、それ自体が、提示されているガイドラインに基づいてデザインされていることがわかります。前掲のフェイスマスクのパッケージデザインと同じトーンです。また、構成面でもグラフィカルな面でも、無駄を省いたミニマリスティックなアプローチで作られています。
ブランド・ガイドブック自体のデザインに注意を払わないデザイナーがいることは残念なことだ、とAntishin氏は考えています。美しいレイアウトにこだわってガイドブックを制作するには時間と労力が必要ではありますが、Antishin氏は、ガイドブック自体を美しくスタイリッシュにすることには、それだけの価値があると言います。
コスメティック製品のギフト用パッケージデザイン
ここ数年、スーパーフードが脚光を浴びています。スーパーフードとは、一般的な食品よりも栄養価が高かったり、アントシアニン、ポリフェノール、ビタミンといった特定の栄養成分を豊富に含む食品のことです。例えば、アサイー、カカオ、チアシード、ココナッツ、アマニ油などがあります。すでに試したことがある、というひとも多いのではないでしょうか。
このスーパーフードは、美容やアンチエイジングにも効果があるとして、美容効果をうたったコスメティック市場向けの製品も話題になっています。
コスメティックブランド「Tink」は、ウクライナ初の「コスメティック・スーパーフード」をうたっています。ただし、これは食品ではなく、ボディケア、フェイスケア、ヘアケア用の化粧品です。フルーツや野菜などから抽出した自然由来の成分で作られた、肌や髪にとっての「スーパーフード」だという、比喩的に考え出された製品名です。
同ブランドのギフトボックスのパッケージデザインも、Antishin氏の手によるものです。これは、シャワージェルやハンドクリーム、リップバームなどをセットにしています。
製品のフレーバー別に、トロピカル、エキゾチック、ヴィーガンという3種類のギフトセットが準備されました。そのギフト用パッケージを作るというのが、Antishin氏への課題でした。パッケージがキャンディの包みをモチーフにしているのは、「スーパーフード」という製品シリーズ名とフレーバーからの素直な発想といえます。
Tinkのインスタグラムを見ると、ブランドのターゲットは、比較的若い層のように見受けられます。ビジュアル表現も、オーセンティックというよりは、ハツラツとしてポップなトーンです。その点では、やや誇張したようなパッケージのフォルムも、ブランドのルック&フィールにマッチしていると言えるでしょう。
節度を保ちながらもユニークなロゴデザイン
ポートフォリオで紹介されているAntishin氏のロゴは、鋭く主張するようなインパクトの強いタイプではありません。しかし、いずれも他で見ることのない、個性的なアイデアと処理が印象的です。やわらかく、優しい雰囲気を持ったデザインだという点がどのロゴにも共通しています。
丸みのあるスラブセリフ書体とユニークなパンダの顔との組み合わせ。ほんの少し飛び出した気球とおぼしき物体の処理が記憶に残るシンボルマーク。試し書きのような短いストロークだけで描いた横顔。ロゴタイプの一部を拡大してグラフィックエレメントにした処理の仕方。どのデザインも、ロゴのアイデアのためのちょっとした刺激になるのではないかと思います。
design : Anton Antishin (Ukraine)
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