ブラジルのグラフィックデザイナー Rafael Cardoso 氏のデザイン哲学は、シンプルさと明快さです。Cardoso氏は、ブラジル南東部のミナスジェライス州の州都ベロオリゾンテを拠点として、おもにブランドアイデンティティとパッケージデザインを手がけています。
Cardoso氏のポートフォリオには、独自のアイデアに満ちたミニマリスティックなデザインがたくさんあります。その中からいくつか紹介しましょう。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。( Thank you, Rafael Cardoso! )
信頼性と親しみやすさを感じさせる設計事務所のブランディング
住居の設計や景観デザインを手がける建築家のブランディングを依頼されたCardoso氏は、目と耳に響くビジュアルアイデンティティを生み出しました。
建築家の3つの情熱を融合したネーミング
その建築家が愛情を注ぐ対象は、建築、妻、そして音楽です。ギタリストでもある依頼主は、とくにベースの低い周波数に親近感を持っています。設計事務所の「Studio BAASS」というネーミングは、この3つの情熱を融合して生まれました。もしかすると、夫人の姓がBaassだったのかもしれません。
幾何学的デザインのロゴタイプ
ロゴタイプは、幾何学的な書体で組まれたミニマルなデザインです。カウンター、つまり「B」や「a」の空間や、「S」の囲まれた部分が矩形に加工されているのが特徴で、設計図や建築物の正確さのようなものを感じます。
このロゴデザインの使われ方には、いくつかのバリエーションがあります。頭文字「B」は、独立してシンボルマークとなります。また、公式サイトでは、「B」に5本の細いタテ罫が添えられています。
罫線との組み合わせによるバリエーション
Studio BAASSのブランドデザインの特筆すべき点のひとつが、ロゴタイプとタテ罫の自由な組み合わせです。
規則的に並べられた罫線は、ギターの弦や五線譜を連想させます。ロゴタイプと同じ高さに揃えられた罫線が文字と交互に並べられたデザインは、ギターのネックのように感じるひとがいるかもしれません。
罫線がロゴタイプと一緒になって、いかにも建築家的なクリーンさを感じさせると同時に、音楽的な楽しさも伝わります。建築家のプロフェッショナルとしての面と、個人的なキャラクターの両方が伝わる、ストーリーテリングにすぐれた、巧みなブランディングです。
政治コンサルタントのビジュアルアイデンティティ制作例
Cardoso氏が手掛けた、コンサルティング会社のブランディングは、コンセプトとビジュアルデザインの関係をわかりやすく見せてくれる好例です。
データ分析で政治戦略をアドバイスするクライアント
ブラジルの首都ブラジリアに拠点を置くコンサルティング会社「Arini Inteligência」は、政治・社会・経済データに基づいて、政策・立法に関する課題や政治戦略をアドバイスを提供しています。また、国会議員へのアンケートや、法案通過の可能性の調査といった、高い専門性が必要とされるサービスです。
クライアントの業務にふさわしいデザイン
ロゴタイプに選ばれた書体は、モダンなサンセリフ書体で組まれています。カラーパレットは深い紺と白。とても落ち着きのあるデザインとなっています。
情報のキャッチボールを示す動的なドット
ポートフォリオに掲載されているロゴタイプの動画では、ふたつある「i」のドットが互いの位置を交換します。ドットは、ステーショナリーの各アイテムでも、重要なデザインエレメントとなっています。
このドットは、高速度カメラで撮影したボールのように、動きを感じさせます。
政治環境は常に変化しています。それを逐次分析して顧客に伝えることがコンサルティング会社の重要な役割です。このドットのモチーフは、緊密な情報交換と速やかなデータ分析を象徴しています。
インコを図案化したシンボルマーク
ブラジルは、とても多品種の動植物が生息していることで知られています。鳥の種類も多く、コンゴウインコやニョオウインコなどもブラジルを代表する鳥とされています。
Arini Inteligência社のシンボルマークも、こういったインコ系の鳥のシルエットです。
詳細はわかりませんが、Cardoso氏のポートフォリオからわかる範囲では、コンサルティング会社のブランド名は、当初「Arini」であったものが、最終的には「Arini Inteligência」に落ち着いたようです。いずれにしても、ビジュアルアイデンティティのデザインコンセプトは変わらず一貫しています。
顧客の未来を創造する建築デザイン会社のシンボルマーク
建築会社「Krause Interior Architecture」は、米国アリゾナ州の州都フェニックスにオフィスを構えます。インテリアデザイン会社として、数多くの受賞歴を誇る、評価の高い会社です。創業25周年を迎えるのを機に、建築・インテリア会社へと転換を決定しました。
新たなKrauseにふさわしいブランドの再設計をCardoso氏が請け負いました。
クライアントの変革をアイデアで後押しする設計デザイン会社
Krauseは、変革を目指すクライアントに対しては、ほかのひとが不可能だと考えそうなことでも、挑戦するよう促します。そして、クライアントのためにアイデアを尽くして、独創的な空間を作り出してきました。Krauseの公式サイトには次のことばがあります。
「クリエイターとして、私たちは未来を恐れません。なぜなら、私たちはすでにそれを心の中で現実にしているからです」
Krauseは、顧客の期待以上のデザインを常に追求し、非常に高い顧客満足度を得ています。結果として、仕事の90%がリピーターからの依頼です。
敷地模型にヒントを得たシンボルマーク
Cardoso氏が作った新しいシンボルマークは、高低差のある敷地に建てる建築物をデザインするときの敷地模型にインスピレーションを得ています。敷地模型(またはコンタ模型)は、等高線に沿って切り抜いた板を重ねて、土地の起伏を立体的に見せるものです。その一部を真上から見たような図形をアレンジしてシンボルマークとしました。
また、このシンボルマークは、ブーメラン状の図形が、徐々に起き上がりながら大きくなっていく様子にも見えます。変革を求める顧客に、アイデアを提供するのがKrauseのサービスです。顧客の上昇と動きを、このマークは伝えています。
Photos & copy: @krause_phx
3D Artist: @fpinheiro_design
天然由来のコスメブランドのロゴタイプとパッケージデザイン
コスメティクスブランド「Trietto」は、天然由来の成分を使用した製品を開発しています。髪の再生・修復のためのトリートメントなどを中心に、一般消費者向けからプロフェッショナル用まで、幅広いラインナップを揃えています。
切り込みが付けられたロゴタイプ
ブランドアイデンティティを制作するにあたって、Cardoso氏はクリーンで落ち着いた雰囲気を核にしました。
大文字で組んだロゴタイプは、字幅が広い幾何学的な書体を使っています。古典的な雰囲気とモダンなテイストを合わせ持つ書体「Aviano Sans」を思わせるデザインです。
Triettoのロゴタイプでは、「T」のアームとステムが出会う部分に、小さな切り込みがつけられていて、アクセントとなっています。板紙のカートンにはロゴタイプがエンボス加工されていて、とても効果的です。
製品の特性にマッチしたシンプルなパッケージデザイン
ボトルは簡素な形状が採用されています。装飾的ではなく、実用的なタイプが選ばれました。
ラベルデザインも、クリーンで落ち着いたレイアウトです。細い罫線のおかげで、無愛想になるのが避けられています。ボトルの色とあいまって、どことなく薬品のボトルを連想します。
ラベルの横に大きくレイアウトされた色帯は、製品の種類ごとに色分けされて、目当ての製品が見つけやすくなっています。
組み立て玩具を思わせるパブレストランのロゴタイプ
伝統的なブラジル料理を提供するパブレストランのために、Cardoso氏が作り出したロゴデザインは、シンプルであると同時に遊び心にあふれたものです。
図形のように組み合わされたロゴタイプ
店名「Casa」のロゴタイプの文字は、直線で構成されていますが、エッジやコーナーには微妙な丸みを持たせあり、オーガニックな手触りが感じられます。
このロゴタイプは、小文字の「a」「s」をタテに並べて、それを両側から大文字の「C」と「A」ではさんだようなデザインです。実印などで使われる篆書体(てんしょたい)を思わせます。
ブロック玩具のような自由さを持つパーツ
ビジネスカードや紙袋、コースターなどでは、ロゴタイプの文字がバラバラに分けられ、自由にレイアウトされています。それはまるで、きれいに整頓されていたレゴ®️のブロックを、ぶちまけたり、並べたり、ほかの形を作ったりして遊んでいるかのようです。
また、ロゴタイプの大文字「A」は椅子のように見えます。実際に、ビジネスカードでは、この「A」がカウンターに並べられたスツールのようにレイアウトされています。
あらためてほかの文字をみると、レストランの調度品を図案化したかのようにも感じますし、平面図に書き込むパーツのようにも思えます。
design : Rafael Cardoso (Belo Horizonte, Brazil)
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