バルト三国のひとつリトアニアのGreat&Goldenは、首都ビリニュスを拠点に活動しているデザインスタジオです。ブランディングからパッケージデザインまで、広くサービスを提供しています。
スタジオGreat&Goldenは、プロジェクトを進めるにあたって、クリエイティブな課題に取り組む前に、調査、観察、ヒアリングを徹底的におこないます。このことを公式サイトでは次のようにコメントしています。
「私たちは、お客様自身よりもお客様をよく知る必要があります」
同スタジオの制作例の視覚的な特徴は、ミニマリズムを基本とした、シンプルな力強さといえるでしょう。
しかし、その背後には、クライアントのミッションや、製品、サービスに対する深い理解と、それを視覚化する柔軟な発想という裏づけがあるのです。それが、いずれのプロジェクトからも理知的で精緻な雰囲気が感じられる理由でしょう。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。( Thank you, Great&Golden! )
格安通信会社の環境負荷軽減というミッションを体現するブランディング
デザインスタジオ「Great&Golden」は、ベルギーのMVNO企業「UNDO」のブランドリニューアルを手がけました。
通信インフラを持たない仮想移動体通信事業者をMVNOといいます。おもにMVNOは格安スマホや格安SIMを提供しています。
スマホ使用を通してCO2削減を目指す「UNDO」
日々の生活で、スマートフォンを使う時間はますます長くなっています。実は、メールを書いたり、電話したり、ネットサーフィンしたりといったことも、CO2(二酸化炭素)の排出量を増やしているのです。
スマートフォンは、製造過程だけでなく、使っているときもCO2を排出しています。地球環境に負荷をかけているものといえば、プラスチック製品・自動車・食品などがまず浮かぶのではないでしょうか。そういったものに比べると、スマホ利用による温室効果ガスの排出量は少ないかもしれません。しかし、世界中で約45億台のスマートフォンが使われていることを考えれば、影響の大きさが感じられます。
UNDO社は、この事実をユーザーと共有し、地球環境への負荷削減を日常生活の一部にしてもらおうと考えました。利益の最大化だけにフォーカスするのではなく、同じコミュニティの一員として、地球環境の持続可能性を最優先すること。それがUNDO社のミッションです。
「私たちは、モバイルサービスのブランドとしてだけでなく、気候と環境への影響を逆転させることに焦点を当てたライフスタイルのブランドでもあると考えています」
ブランド名「UNDO」と「めくられる」グリッドのモチーフ
ブランド名「UNDO」は、英語の「元に戻す(アンドゥ)」という動詞から付けられました。
温室効果ガスを削減する、というUNDO社の目的を達成する方法のひとつが植樹です。ユーザーがUNDOに加入するごとに、同社はアフリカのコンゴに木を植えます。木はCO2を吸収してくれます。
こうすることで、スマホを使うことで排出してしまうCO2を相殺し、森林再生にも貢献します。言い換えると、地球環境に与えた負荷を「元に戻す」わけです。
スタジオGreat&Goldenは、UNDOのブランディングにあたって、正方形のグリッドを基本的なデザイン要素として採用しました。
ビジュアルでは、正方形の面がめくられるように反転する動きが表現されています。オセロで敵のコマにはさまれて、次々にめくられていくのを連想するひともいるかもしれませんね。これは、「元に戻す」ことを表現したものです。
環境負荷軽減を考慮したWEBサイト
UNDO社は在宅勤務とペーパーレスを基本としています。また、ほかの通信事業者と異なり、実店舗を持ちません。ですから、同社とユーザーとのきわめて重要なタッチポイントがWEBサイトです。
スタジオGreat&Goldenは、環境への負荷が可能な限り小さくなるようにUNDO社の公式サイトをデザインしました。WEBサイト閲覧時にサーバーからダウンロードするデータ量が多いと、それだけ電力消費が大きくなります。そのため、Great&Goldenは、次のような工夫をしました。
まず、画像はモノクロ写真と単色との組み合わせとしました。ダブルトーンにすることで、カラー画像よりもファイルサイズが小さくなります。
また、サイトで使用する色を限定することでエネルギー消費を抑えています。
色の組み合わせについては、アクセシビリティに配慮しています。そのコントラスト比は、World Wide Web Consortium(W3C)が作成したアクセシビリティのガイドラインの中で、もっとも高い達成基準「レベルAAA」に準拠しています。
サイトを読み込むときのダウンロードを減らすため、書体はシステムフォントが使われます。
Strategy: Toma Stasiukaitytė, Mantas Velykis
Art Direction & Graphic Design: Gabija Platūkytė-Azarevičė, Julija Stasiulaitė
Project manager: Eglė Paliulienė
リトアニアを代表するグローバル企業のリブランディング
首都ビリニュスに本社を構えるIT企業のトータルなリブランディングをGreat&Goldenは手がけました。
依頼主は、30カ所以上の国や地域でグローバルに活動しています。リトアニアIT業界のトップ企業のひとつで、ソフトウェアの開発からコンサルティングまで、専門的なサービスを16年以上提供してきました。
グローバルにもローカルにもなじみやすい新ブランド名
リブランディングは、ブランドのネーミングも含むものでした。
グローバル市場でのさらなる展開を目指すためには、企業の特徴をはっきりとあらわす短い名前が必要であるとGreat&Goldenは考えました。
「上昇する」という意味の英語「rise」を連想させるような「Reiz Tech」というブランド名が生まれました。ことばの響きも見た目も、テクノロジー企業らしい雰囲気を持っているのがポイントです。
また、リブランディング以前から国内で多くの事業にかかわっているため、リトアニア人にとっても発音しやすい名前にもなっています。
ロゴタイプは先進性を感じさせるモダンなサンセリフ書体で組まれています。
ユニークな幾何学図形エレメントとシンボルマーク
あたらしいシンボルマークを作るにあたり、Great&Goldenは、3種類の基本的なエレメントを設定しました。
ひとつは、星を思わせる、辺が曲線になった図形。これはReiz Techの提供するソリューションは、顧客を目標に導く北極星のようなものである、という考えからです。
それに、フォーカスを象徴する円と、既成概念にとらわれずに考えるという意味の英語表現「think outside the box」に着想を得た正方形です。
そして、これらのエレメントを重ね合わせて作ったユニークな図形をブランドのシンボルマークとしました。組み合わせたエレメントに対しては、Adobe Illustratorのパスファインダー機能を使った処理と同様の加工がおこなわれています。
サービスの柔軟性を示すシンボルマークと色の組み合わせ
Reiz Tech社の公式サイトでは、シンボルマークは1種類しか掲載されていませんが、基本のエレメントの重ね合わせ方を変えたバリエーションも作られました。シンボルマークは全部で6種類です。
カラーパレットは、グリーン、黒、パープル、マゼンタ、オレンジ、ブルーの6色です。グリーンは、HEX値「#00FF00」に指定され、公式ウェブサイトでは、このRGBグリーンとライトグレーで構成されています。ほかの色も「#0000FF」など、基本的なHEX値で指定されています。
シンボルマーク6種とカラーパレット6色は、自由な組み合わせが可能です。さまざまなバリエーションが使われています。
Reiz Tech社は、顧客のためにカスタムソリューションを提供しています。当然、顧客ごとにさまざまなソリューションが考え出されるわけです。バリエーション豊かなシンボルマークとカラーパレットの組み合わせは、Reiz Tech社の柔軟な対応とダイナミックな精神を表現しています。
Strategy: Toma Stasiukaitytė
Brandname: Kęstas Nevera
Art direction: Gabija Platūkytė, Agnė Alesiūtė
Graphic design: Agnė Alesiūtė
Motion: Miglė Narkevičiūtė
Project Manager: Eglė Paliulienė
法律事務所のトリックアートのような動的なシンボルマーク
リトアニア第2の都市カウナスの法律事務所「Būdvytis ir Partnersiai」のブランディングを依頼されたスタジオGreat&Goldenは、とてもユニークなシンボルマークを生み出しました。
この法律事務所は、主にビジネスや税務関連の問題を取り扱っています。同事務所の特徴は、どんな困難も克服し、従来の境界を超えたソリューションを発見する、ということです。
その特徴を伝えるために、Great&Goldenは幾何学的なシンボルマークをデザインしました。四角形と半円が合体したエレメントが基本です。そして、大きさとプロポーションが異なる3つのエレメントを重ね合わせました。
このシンボルマークは、事務所名の頭文字BとPを組み合わせたモノグラム「のように」見えます。しかし、「B」と「P」の正体を見極めようとすると、実際にそこにあるのは、重なりあった3つの幾何学図形でしかないのがおもしろいです。
また、スタジオGreat&Goldenは、この3つの要素の位置や大きさが変化する、動的なバージョンも作られています。重なり具合によって新しい形が生まれます。これは、クライアントである法律事務所が、広い視野から柔軟に状況を分析する能力を持っていること、そして、課題克服の手段を探求する様子を表現しています。
法律事務所としての信頼性を保ちながらも、強いインパクトで記憶に残るビジュアルアイデンティティとなっています。
Strategy: Toma Stasiukaitytė
Art Direction & Graphic Design: Julija Stasiulaitė, Gabija Platūkytė-Azarevičė
Project manager: Eglė Paliulienė
スローファッションブティックのリラックスしたビジュアルアイデンティティ
「Homobono」は、先に紹介した法律事務所と同じく、リトアニア第2の都市カウナスに店を構えるブティックです。
Homobonoは、地球環境にやさしく、持続可能性に配慮している衣料ブランドだけを扱っています。取引先は、CO2排出量削減、フェアトレードなどの証明書を取得しています。
HomobonoのSNSには次のようなメッセージがあります。
「店内には有害なものは一切ありません。最も重要なことは、エシカルで持続可能なファッションを購入することで、気分が良くなり、体にも安全だということです!」
しかし、いわゆる「スローファッション」はニッチ市場であり、すべてのユーザーに受け入れられるというわけではありません。
ブランディングを依頼されたGreat&Goldenは、スローファッションに関心のある、限られたターゲットにアピールする魅力的なビジュアルアイデンティティにする必要があると考えました。
スタジオが考え出したアイデアは、「持続可能なよいニュースを伝える鳥」というマスコットです。
シンボルマークは、ミニマルなアプローチのデザインにありがちな、幾何学的な冷たさはまったく感じません。丁寧な仕上げによって、柔らかみのある愛らしい姿をしています。
さらに、このマスコットの足跡は、デザインパターンとしてパッケージなどにあしらわれているのも楽しいです。
ブランド名は、「よい人」という意味のラテン語「homo bono」を元にしたものです。スタジオGreat&Goldenが作り出したロゴタイプとシンボルマークは、やわらかいフィールを持っています。地球と自分自身にとって良いことをゆっくりと続けましょう、といっているかのようです。
初めてことのロゴを見たとき、Homobonoを「ほのぼの」と読み間違えてしまったのも、アルファベットのせいだけではなさそうです。
Art direction & Graphic design:
Gabija Platūkytė-Azarevičė, Agnė Alesiūtė
多様な製品に統一感を与えるシステマティックなパッケージデザイン
30年以上続く家族経営の食品ブランド「USTUKIŲ」は、オーガニックなシリアルケーキやチップスを製造販売しています。同社の製品レンジはとても広く、さまざまな名前の商品があります。
スタジオGreat&Goldenが作り出したパッケージデザインのフォーマットは、統一感とバリエーションを両立させる巧みなものです。
デザインし直したロゴタイプを大きくあしらい、円形のエリアに素材と製品の写真を示す、というレイアウトで全製品の統一感を生み出しました。
一方、カラーバリエーションと背景のイラストパターンで、各製品それぞれにカスタマイズされたパッケージにもなっています。イラストは製品の原料を描いたものです。
Strategy: Toma Stasiukaitytė
Art Direction & Graphic Design: Gabija Platūkytė-Azarevičė, Julija Stasiulaitė
Project manager: Lilė Adomaitė
design : Great&Golden (Vilnius, Lithuania)
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