台北教育大学の博物館1階にオープンしたカフェ「Tropical DeliCafé」。名前の通り「熱帯」をコンセプトにしたこのカフェスペースは、台湾の著名な映画監督のチームやホスピタリティを専門とするコンサルティング会社などがコラボレーションし、実験的なスペースとして開設されました。ブランディングは台湾のグラフィックデザイナー Jay Guan-Jie Peng 氏によって行われています。 ※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Jay ! )
熱帯の植物をモチーフにしたロゴデザイン
さまざまな人が、さまざまな目的で集うこのカフェ。多くの人が文化的交流を交わすために集まるこのスペースは、多種多様な生態系が存在する熱帯さながら。そんな個性豊かな人の関わりをコンセプトに、「Tropical DeliCafé」のロゴデザインは考えられました。温かみのあるピンクをベースに、丸みのあるシルエットで描かれた「シダの葉」をモチーフにしたシンボルマーク。ジャングルによく見られる、熱帯を象徴する植物の一つです。このシンボルマークをビジュアルの要とし、ロゴデザインが構築されていきます。
シンボルマークの下には漢字で書かれた「熱帯」のロゴタイプ。台湾の中国語は繁体字のため日本の漢字と似た文字が多いのが特徴です。
注目したいのが、「熱」と「帯」の漢字の一部分をアレンジしたパーツです。 シンボルマークのシダのイラストを思わすシルエットを漢字に取り入れ、可読性を保ちながらも、ロゴデザインの一部としてカタチを変化させています。 また、イラスト化したパーツ以外にも、漢字全体をシンボルマークのスタイルに寄せるように、文字の先端を丸くデザインし「熱」の下部分にある烈火を真ん丸にするなど、シンボルマークと連携が計れるようにビジュアルが整えられています。
ロゴのカラーは、基本の白と黒・ベースカラーのピンク・深いジャングルをイメージさせる瑞々しいグリーンが用意されています。 温かなピンクとフレッシュなグリーンのコンビネーションは、「熱帯」といえども、暑すぎない都会のオアシスのようなイメージを見せる絶妙なカラーリングです。
架空の植物が生い茂る新たな生態系の表現
ロゴデザインのシンボルマークとなった「シダ」の葉のイメージからはじまり、熱帯のジャングルに生えていそうな想像上の植物が多数生み出されました。 この想像上の植物たちは、都会で見かける植物とは違い、鮮やかな色のものや不思議な形のもの、植物とは違う何かに似たものなど、同じものは一つとない個性豊かな面々。カフェに集う多様な人々を象徴するかのような植物のイラストは、さらにアレンジと組み合わせを繰り返し、ロゴマークと絡めて16のデザインイメージにブラッシュアップされました。
こうして作られた16のイメージは、ポスターやテイクアウト用のパッケージ、コースターやクーポン、メニュー、ウェブサイトなど、カフェに関わるさまざまな部分に使用され、カフェのイメージづくりに一役買っています。
このカフェのコンセプトは「熱帯」。正確に言うならば「熱帯に生きる多様な植物」です。最初に作られた「シダ」を中心に、色や形を自由に設定し、伸びやかなイラストでいくつもの新たな植物が誕生しました。その新たな植物は単体でも絵になり、また、集合することで一つの森を形成するかのように違った景色を見せてくれます。森に集まる植物や生き物たちには、常に新たな出会いがあり、さらなる新種の誕生を待ち望んでいます。
物と人とをオーバーラップさせたカフェのコンセプトは、刺激溢れるクリエイティブなスペースに相応しい、可変的で人を惹きつける魅力的なビジュアルで表現されています
ロゴの世界観をリアルに体感させるインテリアデザイン
都会に出現した「熱帯」スポット。コンセプトを伝える仕掛けとしてロゴデザインの他にも、内装にかなり力を注いでいます。 映画関係者が深く関わっているプロジェクトらしく、店内の内装は映画のセットさながらのつくり。キッチンの前面にはイベントなどにも使うことができる大きなスクリーンを設置し、プロジェクターで映像が投影できるようになっています。
天井には、プロジェクターのほかに、木の枝や板がディスプレイされていたり、大きな木の塊が置かれていたりと、店内では人工物と自然が織り成すアートな世界が繰り広げられています。
また、キッチンのカウンターの下のディスプレイにも注目です。まるでカウンターをくり抜いて作ったような穴がいくつも空いていますが、これは、カウンターを作った後で、木の板を1枚1枚足して厚みを持たせて作られたもの。
石を削りだして作られた彫刻のように見せていますが、スタッフの手作業により作られた映画のセットのようなものなのです。
まとめ
「熱帯」をテーマにしながらも都会的でスマートなビジュアルを組み立て、コンセプトの裏に隠された多種多様な文化の交流や人との関わりという、もう一つのテーマを見事にリンクさせてデザインの中に落とし込んでいました。
多くの人が関わる店舗プロデュースではデザインの他、インテリアや商品・メニューなど様々な要素と均衡を図る必要があります。今回はアートディレクション・グラフィックデザインを Jay Guan-Jie Peng 氏が担当し、企画のディレクションや内装などは別の人が担当しています。
ブランディングは、ロゴのデザインや広告戦略、提供する商品など、ブランドを構築するすべての要素が同じ世界観を共有し、それぞれの役割を果たしてはじめて成功するものです。そのためには発信するものが同じ方向性であることが重要で、その基幹となるものがコンセプトであり、それを可視化したビジュアル・アイデンティティでもあります。 ブランディングが成功するかしないか、その鍵を握るのは、その世界観を伝えるビジュアルが担う部分が大きいといえます。
この「Tropical Deli Café」の事例でも、Jay Guan-Jie Peng 氏が作り上げた「熱帯」の世界観は、カフェ全体のイメージを決定づける確かな指針となっています。 これをブランディングを成功へ導く、コンセプトを深く掘り下げたデザインの好事例とし、ブランディングや店舗プロデュースに取り組む際の参考にしてみてはいかがでしょうか。
Art Direction / Graphic Design : Jay Guan-Jie Peng ( Taiwan )
Client: Tropical Deli Café / Chan Shuo
Strategy: Kelly Chen
Photography: Tropical Deli Café / Chan Shuo
Print: 山山印刷
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