
メキシコの古都グアダラハラを拠点に活動しているデザインスタジオEstudio Albinoは、自身を「可能性を実現するための白紙のページ」であると表明しています。固定観念にとらわれることなく、自由な発想でブランディングをおこなう、という宣言です。
同スタジオの作例を見ると、ほかにないオリジナリティのあるアイデアをたくさん見つけられます。しかし、そのアプローチは、足に地のついた、正統派とも言えるものです。その上で、ていねいで緻密な作業がおこなわれていることを感じます。自然や色、文字に対する、繊細な感受性がうかがえます。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Estudio Albino!)
Estudio Albinoの繊細な表現を支えている「線の太さの統一」
Estudio Albinoのブランディングが「繊細」と評される要因を技術的に分析すると、制作物全体を通じて「線の太さ」が厳密に統一されている点が浮かび上がります。ロゴの線、イラストの線、罫線、アイコンの線。すべてが同じ太さで描かれている。
この統一により、紙面のどこを見ても「同じ手で描かれた世界」という一体感が生まれます。逆に、ロゴの線が太くてイラストの線が細い、罫線だけ太い、という不統一があると、紙面に「継ぎはぎ感」が出ます。ブランディング全体の繊細さは、個々のビジュアルの品質だけでなく、ビジュアル間の「統一ルールの一貫性」に宿ります。
先住民伝統の品質を表現するロゴとパッケージデザイン

あたらしいはちみつのブランド「Amantoli」のブランディングをEstudio Albinoは手がけました。ブランド名は、メキシコ先住民のことばで「職人技」を意味します。ミツバチと花、すなわち自然と共存しながら、何世紀にも渡って受け継いできた製法で、高品質のはちみつを提供するのがAmantoliです。
15世紀以降のスペイン植民地化よりもはるかに長い歴史を持つ先住民は、現在でも恵まれた環境にあるとは言えません。伝統的なはちみつの良さを知ってもらうとともに、製造者とのフェアトレードを実現させることも、Amantoliは目指しています。
はちみつの質感を持つロゴタイプ

ロゴタイプの書体は、ひげを取り去ったセリフ体のようなデザインです。極端に細くしたストロークやスワッシュ(ひげ飾り)が、流れるはちみつを表現しています。ほかにも、たれるはちみつのような「A」や「a」のストローク、「t」の上端、「i」のドットなどからもはちみつを感じます。

はちみつの雰囲気を演出しながらも、遊びすぎてカタチがくずれるようなことはありません。製品のクオリティを感じさせるデザインです。容器のラベルやビジネスカードでは、ハイグレード製品にふさわしく、ゴールドで箔押しされます。
手と花でブランドストーリーを表現

はちみつは何種類かあり、それぞれ異なるテーマカラーが割り当てられています。ラベルを飾るイラストは、パリ在住のイラストレーターStéphanie Desjeunes氏が描いたものです。みつを集めた花を持つ手が共通のモチーフとなっています。

このイラストは、はちみつの種類を表しているだけでなく、はちみつ作りに関する先祖代々の知識や、いま実際に作業をしているはちみつ生産者を象徴しています。先祖伝来の高品質な高級品の背景にあるストーリーを、オーガニックでやさしいタッチのイラストが魅力的に伝えているのです。
ブランドのストーリーをまとった高級テキーラのデザイン

シャンパンやコニャックと同じくテキーラも、特定の地域で、決められたとおりに管理・製造された製品以外は、テキーラと名乗れません。原料としては、ハリスコ州などメキシコ国内のいくつかの州で育てられたブルー・アガヴェ(アガヴェ・アスール)を51%以上使わなければならない、などの条件があります。
ほかのものを一切加えず、ブルー・アガヴェだけで作られたテキーラは、ラベルに「100%アガヴェ」と表示され、プレミアム・テキーラと呼ばれます。Estudio Albinoがブランディングを依頼された「Primo 1861」もプレミアム・テキーラです。
先駆者としての誇りを凝縮したラベルデザイン

ハリスコ州には、テキーラの名前の由来となったテキーラ地区以外に、農場や蒸溜所が集まったエリアがいくつかあります。そのひとつであるアランダス地区の最初の蒸溜所は、ペドロ・カマレナ(Pedro Camarena)によって1861年に作られました。しかし、20世紀初頭のメキシコ革命のときに、この蒸溜所は焼け落ちてしまいます。
ペドロ・カマレナにちなんで、あたらしく作られたのが、テキーラ「Primo 1861」です。ブランド名「primo(プリモ)」は、英語の「prime(プライム)」と同様に「最初」「最高」を意味します。
Estudio Albinoは、ブルー・アガヴェの色と、伝統的な製法で使われる石うすの色、そして、蒸溜所の歴史から着想を得た焼けた木の質感などから着想を得てブランドのカラーパレットを作りました。

開拓地や南極から月面まで、はじめて到達したパイオニアが立てたフラッグのように、Primo 1861のキャップにもドラマチックにフラッグが描かれています。はじめての土地で蒸溜所を作るのは簡単なことではありませんでした。さらに、火災による消失や、その後の長い時の流れなど、さまざまな困難を克服してPrimo 1861は生まれました。この開拓者精神を、Estudio Albinoはフラッグでシンボライズしました。

ボトルのネックには、原料であるブルー・アガヴェのイラストが、ゴールドで箔押しされています。ブルーグレーとゴールドの組み合わせからは、高貴さも感じます。
歴史とモダンが融合したロゴタイプ

大文字で組んだロゴタイプは、歴史的な香りとモダンさが融合したデザインです。抑揚のコントラストが強く、ストロークには太さに微妙なニュアンスがあります。
「P」「R」「O」のカーブしたストローク部分(ボウル)の内側には、頂点が付けられています。太いストロークの中央には、細いゴールドのラインが入れられていて、これにも同じように角度がつけられています。これらによって、木の板に手彫りしたかのような雰囲気も感じます。
フラッグのシンボルやブルー・アガヴェのイラストと一緒にロゴタイプに印刷されているロゴは、焼印のような印象です。また、ブランドカラーのカートンボックスに印刷されたロゴは、モダンで落ち着いた顔をしています。
ナイトクラブ向けのトロピカルなアール・デコ調ブランディング

グアダラハラのクラブ「Café De Palma(カフェ・デ・パルマ)」は、地元の若者がオールナイトで音楽と踊りを楽しむホットなスポットです。来場者には無料のコーヒーが提供されます。
ミニマルなアール・デコ調のロゴデザイン

このクラブのブランディングを依頼されたEstudio Albinoは、アール・デコ調のスタイルで、トロピカルな雰囲気を演出することにしました。

シンボルマークには、トロピカルなムードを表現する象徴の代表格であるパームツリーを採用。葉をモチーフにして、幾何学とオーガニックがブレンドされた美しいイメージが作られました。
ロゴタイプは、スクリプト書体とサンセリフ書体との組み合わせです。「De Palma」には、幾何学的なサンセリフ書体が使われています。とてもシンプルながら、うまくアール・デコ風に見せているのは、位置を低くした「A」のクロスバーや「E」のアーム、「A」の大きなカーブなどです。
「De Palma」のうえには、手書き文字風の「Café」が添えられています。掲載されているロゴをみると、筆で書いたようなかすれが見えるので、実際に手で書いたものかもしれません。
ナチュラルでゴージャスなカラーパレット

パームツリーの葉やトロピカルな草木にヒントを得た、ややイエローがかった渋いグリーンがブランドカラーです。そのグリーンとゴールドをカラーパレットとしました。都会の中心部でありながら、自然を感じさせるゴージャスな組み合わせです。

ビジネスカードやコースターには、グリーンをバックにしたゴールドのシンボルマークが大きくレイアウトされています。印象的なパームツリーのデザインは、非日常的な空間と時間を予感させます。
ブランディングにおける「箔押し・エンボス」などの特殊加工の使いどころ
Estudio Albinoの事例に見られる箔押しやエンボスの使い方は、「控えめだが確実に効いている」点が参考になります。名刺のロゴだけに箔押し、パッケージのブランド名だけにエンボス。つまり「ブランドの核となる要素にだけ特殊加工を施す」という判断です。
特殊加工は、使いすぎると全体が過剰に装飾的になり、使わなすぎると加工の効果が感じられません。「紙面の中で最も目立たせたい1箇所にだけ使う」というルールを持つと、特殊加工のコストを最小限に抑えながら、最大のインパクトを得ることができます。
ファンとのつながりを強めるためのキャンディー型石鹸のデザイン

2020年、COVID-19のパンデミックに対応するロックアウトのために、ひとびとが集った特別な場所との物理的なつながりがとぎれてしまいました。クラブCafé De Palmaもその例外ではありませんでした。
非日常的時間の記憶をよびおこすスペシャルギフト

ソーシャル・ディスタンスと手洗いうがい、といった「ニューノーマル」が呼びかけられるなかで、Café De Palmaは顧客に特別なギフトを送ることにしました。
ハンドソープをギフトにすることを決めたのですが、それは店のエッセンスが詰め込まれた、まさにCafé De Palmaの分身とも言えるものでした。
半透明のカラフルなハンドソープはアイスキャンディバー仕立て。ロックアウトで家に閉じ込められて、気分も暗くなりがちなところへ、さわやかなトロピカルな風を運んでくれます。楽しさを味あわせてくれるのも嬉しいです。


キャンディーのバーが包まれているのは、金のインゴットのようなパッケージです。グラフィックは、アール・デコのスタイルでデザインされています。Café De Palmaのブランディングのエレメントであるパームツリーが、クラブの店内を思い出させてくれるでしょう。
つらい時期のムードとは正反対の、ハッピーでゴージャスなギフト。Café De Palmaの非日常的空間と楽しい思い出を、クラブのファンに呼び起こすのにぴったりのアイデアです
design : Estudio Albino (Mexico)
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