
南アフリカの首都ケープタウン。ヨーロッパからの開拓移民の前哨基地であったこの街は、さまざまな人種・文化がミックスされた独特の匂いをもっています。各国から訪れる観光客も非常に多く、活気に溢れ、熱い空気に満ち満ちています。
今回はそんなケープタウンから、フリーランスのグラフィックデザイナー Hanno van Zyl 氏が手掛けた2つのカフェのロゴデザインとブランディングを紹介します。私たち日本人が思い描きがちなイメージとは異なる、リアルな南アフリカのデザイン事例を、2つのカフェを通して見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Hanno ! )
「2つのカフェ」を1つの記事で比較することで見える「同業種のブランディングの差別化ポイント」
この記事が2つのカフェのブランディングを1つの記事にまとめている構成は、「同じ業種でもブランディングの方向性がまるで違う」ことを可視化しています。
同じ「カフェ」でも、ターゲット層、立地、提供する体験、オーナーの哲学が異なれば、最適なブランディングは全く変わります。2つの事例を並べて観察すると、「何が共通で何が異なるか」が浮き彫りになり、「カフェのブランディングで変えるべき変数」と「変えなくていい定数」が見えてきます。
アーティスティックなカフェ「The Aviary Café」

ケープタウンのアート地区ウッドストックにある、コーヒーと料理を出す小さなカフェレストラン「The Aviary Café」。
このカフェはアーティストであるEmma Nourseと彼女の父親がオーナーで、Emmaの作品と融合するように設計・プロデュースされて運営されています。

Emmaの作風は自然をありのままの形で受け入れ、その美しさを生かすようにデザインされた作品が多く、そのスタイルはカフェのあちらこちらに見受けられます。生と死、動と静。自然の摂理に逆らわず、あるがままを愛でる彼女の作品は、不均衡な自然の美しさを讃え、儚さをもって表現する独特なものです。

また、彼女が好むものの一つに、クラシックで伝統的な英国のカフェスタイルがあります。この2つの相反するような要素を重ね合わせて生まれたのが、この「The Aviary Café」。植物や動物が生きる自然の世界と、古き良き英国の香りが漂う不思議な場所なのです。
「The Aviary Café」のロゴデザイン

このカフェのロゴタイプに選ばれた書体は、独特の抑揚や角度をもつ、古めかしいローマン書体。文字の端々にセリフと呼ばれるウロコのような装飾を持ち、このような書体はセリフフォントともいわれ、伝統や歴史・格式などを表現したい時によく使われます。特にこのカフェのロゴに使われた書体は、斜めに走る線の強弱が特徴的で、まるで石板に彫ったかのような、緻密さと粗さの両方を兼ね備えています。

カフェのイニシャル「A」と「C」で構成したロゴパターン。2つの文字の真ん中にあるのは、鳥かごをイメージしたシンボルマークです。カフェの名前になっている「Aviary」は「鳥の檻」の意味。鳥かごといっても、Emmaのイメージする鳥かごは冷たい鉄でできたものではなく、やわらかなツタでできたような有機的な鳥かご。カフェに人々が集い、コーヒーや軽食をとりながら語らう様子は、鳥かごの中で宿り木に留まる鳥たちのような光景なのでしょうね。

同じイニシャルを使ったパターンでも、さまざまなスタイルのロゴデザインが考えられています。住所と同じ文字の大きさとフォントでまとめたデザインは、クラシックな要素よりもスタイリッシュな印象が優先し、シンプルでお洒落な空間をイメージさせます。

同様にサンセリフ体だけを使ったパターンです。店名の表記は外され住所のみになっていますが、印象的なシンボルマークのおかげでこのカフェのロゴデザインであることが一目でわかります。地域名とストリート名をアーチ状にすることで、エンブレムのような装飾に仕立てています。

最後のパターンは、シンボルマークとイニシャルのみのミニマルなロゴ。店内の装飾や、グッズなどへの刻印に適したパターンです。
質感で店のコンセプトを語るショップカードデザイン



シンプルながら、シックで高級感を感じるショップカードです。ゴールドの箔押しと質感のある紙質がラグジュアリーな雰囲気を醸し出しています。裏面のスタンプ欄のランダムな形の空欄が、自然を賛美するこのカフェのコンセプトを体現しているかのようですね。
Food photography: Samantha Lowe
カフェのロゴに「コーヒー豆やカップを描くか描かないか」の判断基準
2つのカフェのロゴを比較すると、「コーヒー豆やカップのモチーフを使うか使わないか」の判断が分かれていることがあります。この判断は「ロゴだけで業種を伝える必要があるか」に依存します。
路面店で看板に使うロゴなら、店構えが「ここはカフェだ」と伝えるので、ロゴに業種モチーフは不要です。一方、ECでコーヒー豆を販売するなら、パッケージのロゴだけで「これはコーヒー関連の商品だ」と伝える必要があるため、業種を示すモチーフが有効です。ロゴが「どの文脈で見られるか」によって、業種モチーフの要否が変わります。
多店舗展開する人気のカフェ「Yours Truly Café」

2010年にオープンしたケープタウンのカフェ「Yours Truly Café」。小さなコーヒーショップからはじまったこのカフェは、年々利用客が増え、今では市内に4店舗の支店を持つまでになりました。昼夜問わず客足が絶えないこの店は、飲食だけではなくイベントスペースとしてもよく利用され、個人法人問わず大小さまざまな催しが行われています。
そして近年、ブランドファミリーのイメージ統合と、規模の大きくなった店舗にふさわしいビジュアルにイメージチェンジするため、カフェのリ・ブランディングが行われました。
「Yours Truly Café」のビジュアル・アイデンティティ

デザインに求められたのは、数あるブランドファミリーやサブブランドにも幅広く対応できる応用力のあるデザインであることと、印象に残るユニークなものであること。
そのリクエストに応えるため、ビジュアル・アイデンティティに関するルールを決定しました。そのルールとは、たったの2つ。一つは、タイポグラフィはシンプルに、最小限に表現すること。もう一つは、黒と白のモノラインで表現すること。
単純なルールでありながら、この2点を遵守することで、ビジュアルのトーンは見事に統一され、かつ、自由度の高いデザインも可能になりました。
「Yours Truly Café」のロゴデザイン

ビジュアルイメージを決定づける2つのルールに従い、ロゴマークも新たにデザインされました。シンプルなタイポグラフィとモノライン。これらのルールの元、デザインされたロゴマークは、どれもスタイリッシュで都会的。洗練されたファッショナブルな印象を持たせます。


イニシャルを組み合わせたパターンのロゴデザインや、クロスをモチーフにしてデザインしたロゴ、スクリプト体を使ったものや、タグラインを入れエンブレム調に仕上げたロゴなど、多数のパターンが制作されました。



これらのロゴデザインパターンは、Tシャツや店内装飾・メンバーズカードや看板など、ブランドを構成するさまざまな用途のデザインに組み込まれ、ブランドを賑々しく飾っています。






ビジュアル・アイデンティティを軸にしたデザイン展開

ロゴデザインの基本となったビジュアル・アイデンティティのルール。このルールを生かし、店内外を装飾するさまざまなデザインが制作されました。

モノラインで描いた風景画をデザインしたワインのラベル。


同じく、モノラインで描いたイラストを使用した、メニュー表や壁紙。


コースターやサイネージ。さりげない注意書きやメッセージなども、同様のビジュアル・アイデンティティで表現することで、他のデザインと統一を図っています。


ブランドのビジュアル・アイデンティティというと、ロゴデザインを軸に多少のアレンジを加えながら、同じスタイルのデザインを繰り返し使用するというのが基本的な方法ですが、このカフェの場合はデザインの方法に関する決め事を作るだけで、広範囲に渡るデザインやアレンジを許容しています。このふり幅の広さが、カフェのデザイン表現の枠組みを一気に広げ、ユニークで斬新なスタイルを完成させたといえるのではないのでしょうか。
Photography by: Ian Engelbrecht / Shopfitting by: JL joiners
紹介した2つのカフェは、まったく個性の異なるカフェでしたが、自由度の高いデザインの方法や、カフェのコンセプトをビジュアルに上手く投影させるデザインテクニックは共通していたように思います。同じロゴやデザインを繰り返しビジュアルに登場させることで、ブランドのイメージを印象付けていくというビジュアル戦略もありますが、ある一定のルールを決めてブランドのイメージを共有しつつ、さまざまなビジュアルを展開するというのも、非常に興味深いブランディングの手法の一つです。
ブランディングを考える際、そのブランドの規模や店の特徴を踏まえ、ビジュアルのルールを作り、柔軟にデザインを展開していくというのも、効果的なブランディング戦略の一つなのではないのでしょうか。
design : Hanno van Zyl ( South Africa )
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