昨今のビジネスにおいて重要とされているのは、企業のブランドを積極的に構築し、そのイメージや価値を高める企業ブランディングです。大企業は勿論のこと、とりわけ中小企業やスタートアップの会社は、設立の歴史や背景・企業理念・提供するサービスや商品のラインナップ紹介など、その企業の持つ魅力を的確にユーザーに伝えていくことが必要です。自社のブランド力を確固とすることは、認知度をあげると共に社会的信頼にも繋がり、ビジネス戦略に大きな成果をもたらします。
効果的な企業ブランディングに欠かせないのは、企業の存在や提供内容を十分にアピールしたビジュアルデザインです。コンセプトやアイデンティティーを盛り込み、視覚的な観点から企業の特色やイメージの認識を促すことのできるロゴデザイン。そして様々なデザイン媒体やメディアに展開・発信できる一貫したグラフィックデザインは、ブランド力の引き上げに大きく貢献し、ユーザー獲得への足掛かりとなります。
今回は、企業の特色をデザインの中に落とし込み、企業に調和する秀逸なブランディングデザインを数多く発表している Ahmed Qurany 氏の作品をご紹介します。 ※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Ahmed ! )
Ahmed Qurany氏は、エジプト・アラブ共和国の首都カイロを拠点と活動しているフリーランスのグラフィックデザイナーです。綿密なヒアリングを通して企業のアイデンティティーを把握し、企業の特色を反映するブランディングデザインに定評があります。適切なカラーリングコンビネーション施し、幾何学形態・黄金比を上手く活用しながらバランスのとれたフォルムを創り上げるデザイナーです。
インテリアデザイン会社のロゴ&ブランディング事例
最初に『INTERNO』のブランディングデザインを見てみましょう。
『INTERNO』はラグジュアリーな空間を創造するインテリアデザイン会社です。アンテークなデザイン要素を随所にアクセントとして取り入れながら、未来的でスマートな空間を生みだすことをモットーとしています。
ロゴデザイン
最初に見て頂くのはロゴです。ロゴの作成にあたり、Qurany氏が用いたデザインモチーフはアラビアンカリグラフィー。アラビアンカリグラフィーと言えば、古代アラビア語のライティング方法の一種であり、アラビア文字で描かれた経典や詩を一つのアートとして見せる芸術スタイルで有名ですが、Qurany氏はこのアラビアンカリグラフィー斜線と円形をベースにした幾何学的なスタイルに組み合わせ、一つのユニークなシンボルマークを形成しました。
アラビアンカリグラフィーが放つ繊細さと幾何学形態が作り出す正確さが同時に感じられるロゴマークで、INTERNO社の創り上げる洗練された精度の高いデザインや、社のプロジェクトに対する方針をイメージさせるのに最適なマークです。
Qurany氏のブランディングデザインの進め方の大きな特徴は、使用するタイポグラフィーやカラーリング、各種のレイアウト構成・サイズ、そして展開の仕方など、デザイン構成要素をひとつひとつ入念に設定することにあります。
タイポグラフィー
まずは、タイポグラフィーですが、『INTERNO』のロゴタイプにはLuxiaフォントを設定。このフォントはロゴのみに活用し、他のいかなる媒体には使用不可と規定しています。一方、Source sansフォントはロゴタイプ以外のあらゆる表記に使用することが可能です。
ブランドカラー
カラーリングの設定を見てみましょう。メインカラーとなるのはゴールドをイメージしたPANTONEカラーのP 20-12C。ロゴのカラーリングにも使われ、高品質でラグジュアリー性を意識させる色使いです。ロゴを使う背景画像の明るさによっては視覚性を高めるためにP 20-12Cより深みを持たせたP 26-13Cを使用することや、補色として青色のP 100-8Cや黒系のP 179-16Cが細やかに設定されています。
その他ブランドデザインのルール
各種画像のレイアウトに関しても詳細な設定がなされています。
FacebookやTwitterなどのバナーに相当するカバー部分の縦横比は5:21。プロジェクト名は高さ1Xで表記しカバー上部から1.5Xの高さに中央部に配置。またプロジェクト名の下には縦0.5X、横8Xのパターンラインを配し、その位置はカバーの底辺から1.5Xのところに設置。ちなみに、プロジェクト名の表記はSource sansフォントで大文字を使うよう指示しています。
写真画像には、8X x 8Xの正方形と8X x 13X の長方形の二種類の推奨画像サイズを提唱。正方形には画像上に全てのオブジェクトを中心に配置することを奨励し、長方形のタイプにはオブジェクトの位置を自由に設置することを可能としています。
ロゴマークのデザインと連動するそれぞれのパターンのスタイルも大変興味深く出来上がっています。名刺の背景に使われる格子状に並べられたSQ-P、上記のカバー部のラインやレターバッドなどのデコレーションとして使われるLN-P、映像画像や紙媒体にアクセントをつけるLW-PやRW-Pなど、実にハイセンスなテイストのパターン群です。
■ロゴを用いたアイテム・媒体の展開例
名刺やレターパッド等の紙媒体やWeb上のデジタル媒体など、INTERNO社の全てのグラフィック媒体には、これらの徹底した設定を施したデザインが展開され、INTERNO社のイメージが美しく構築されています。
貿易会社の3大キーワードを表現したブランディング事例
次は、国から国へ製品の輸入・輸出を業務とする貿易会社『AMG』のブランディングです。
AMG社の企業コンセプトは、「迅速さ(Fast)」「スムーズさ(Smooth)」「力強さ(Poweful)」の三つのキーワード。”デリバリーを迅速に行い時間に正確であること” “安全で問題なくスムーズに輸出入を可能とすること” “顧客の望むところへ何処にでも配達すること” を約束するパワフルな業務態勢を企業理念としています。
このコンセプトをベースにして、Qurany氏はブランディングデザインの要と言えるロゴデザインから作業を始めます。
一般的に、それぞれの幾何学形態にはその形が自ら放つ雰囲気があります。例えば、正方形は「どっしりと重厚で不動」なのに対し正円は「自由で敏捷」、直線で構成された波線の「荒々しさ」に対し同じく波線でも曲線を取り入れたものは「滑らかでスムーズ」、というように、各々の形はそれぞれの性格を持っています。また、細い線は「弱さ」、太い線は「力強さ」を印象付けます。
ロゴデザイン
Qurany氏がAMG社の企業ロゴデザインの要素として採用したのは、迅速さを表す「正円」、スムーズな対応を約束する「滑らかな波線」、力強さを強調する「太いライン」です。この三つのモチーフを使い、社名の「AMG」文字と丁寧に取扱うことを意とする「ハンドグリップ」を表現し、物流を通して人と人を繋ぎ、人間味あふれる会社であることをイメージさせる「人の顔」とも見えるシンボルマークを制作しました。
シンボルマークとその横に並列させて社名を表記した「AMG For Trading / And Supplies」のレイアウト構成にも、マークのサイズ・余白の取り方・文字のサイズや文字間の調整など、視覚的にバランスよく納まるような充分な配慮が行われています。
ブランドカラー
カラーリングを見てみましょう。メインカラーは、青色のPANTONEカラーP 120-12CとベージュのP 4-1Cで、この二色を使って基本的なロゴのカラーリングがなされています。この二色に加え、サブカラーとして提示されたのは水色のP 127-3Cや黒系のP 172-14C、また背景色のみとして使用されるピンク系のP 80-8Cです。
ロゴの置かれる媒体の色環境やその視覚性を重視し、この全五色を使った多数のカラーコンビネーションが展開されています。
■ロゴを用いたアイテム・媒体の展開例
名刺・レターパッド・DVDのパッケージなどの紙媒体から、スマートフォンのアプリケーションのアイコンまで、AMG社のあらゆるデザイン媒体をロゴマークと設定カラーリングを使って創作し、実に統一性のあるブランディングデザインが構築されています。
国際投資不動産会社のロゴ&ブランディング事例
『Mawada』は、エジプトのインターナショナル投資不動産会社です。湾岸諸国の投資不動産分野で経験豊かなオーナーによって、エジプト経済の活性化に貢献するため2013年に設立されました。主としてエジプト人やアラブ人のための投資レベルの上昇や物質的経済効果の促進を図ることを企業方針としています。
Qurany氏は、投資不動産市場に新しい地位を築くためのブランドアイデンティティーの創造と古いロゴに代わる新しいロゴの制作を依頼されました。
ロゴデザイン
構成要素が非常に大きく、ロゴとしての認識性に欠ける旧ロゴに対し、Qurany氏が選んだ新しいロゴシンボルのモチーフは、Mawada社の頭文字「M」字と、多くの人々に奉仕をしていきたいという企業方針を新しく芽を出し成長する花に擬えた「フラワー」。
モノラインの曲線で「M」字を連想させる様相を作りあげ、全体で花や植物の蔓を彷彿とさせるシンボルをデザインしました。とても繊細で落ち着いたテイストのシンボルマークですね。
シンボルマークと共に表記される社名「MAWADA / DEVELOPMENT」も英字バージョンとアラビア文字バージョンの二つを用意し、それぞれ媒体毎に対応できるように、縦版・横版を提案しています。どのタイプも視覚性に優れ、安定したレイアウト構成が行われていることにも注目です。
ブランドカラー
今プロジェクトにも徹底したカラールールが施されています。
ロゴ、パターン、テキストに使われる主要カラーは黄金色系の三色(P 15 –C、P 166 – 4C、P 26 -15C)で、前述の『INTERNO』のカラーリング同様、ラグジュアリーでゴージャスな様相です。 また、ロゴの背景のみに使われるサブカラーには紫系のP 98-15Cと黒系のP 179-15Cを提示。黒や紫系もシックで高級感を醸し出すカラーで、先の黄金色との組み合わせることにより優雅で高貴なシーンを作り上げています。
シンボルを繋いだ美しいパターン
ロゴのシンボルマークを繋ぎ合わせて出来たパターンは、イスラム建築の壁面に取り入れられている幾何学的な植物文様とも連動して「エジプト・アラブ・建物」と言ったキーワードが浮かび上がり、Mawada社のアイデンティティーをビジュアル的に表現したものとなっています。
今回ブランディング事例を見て頂いたAhmed Qurany氏は、企業のコンセプトやアイデンティティーを忠実に反映させながらデザイン性の高いロゴを制作しています。さらに、徹底したカラーリング・配置構成を行い、統一性のあるブランディングを展開しています。 計算し尽くした緻密なデザインの統一は、企業のイメージをぶれさせることなく、一ブランドとしてユーザーに正しく認識してもらうことが出来るものです。 デザインの展開方法として参考になれば幸いです。
design : Ahmed Qurany ( Egypt )
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