カフェはコーヒーや軽食を提供する場として世界各地で愛されています。通りに面したお洒落な店や、路地裏にある味のある店、SNSにアップしたくなるような斬新で話題性のある店など、その個性や特色はさまざまですが、そこにコーヒーがあり、人が関わり合うスペースがあれば、そこはもうカフェと呼べるスペースだといえるでしょう。
都市の中にあるカフェは、そこに座りコーヒーカップを持ち、雑踏を眺めているだけで街の様子を傍観することができます。絶え間なく刻まれる街の時間の流れの中で自分だけが留まり、街の風景を切り取るように観察することで、あたかも自分が都市の一部になったような、都会の息づかいとシンクロするような感覚を覚えることもあるでしょう。
また店の常連になれば、スタッフと顔見知りになり、そこからコミュニケーションが始まり新たな人間関係が生まれることもあります。 カフェは、都会の中で生きている人間にとって、傍観することも参加することもできる、街とのアクセスポイントのような場所。だからこそ、好感度が高く、思わず立ち寄りたくなるような存在であることが、繁盛するカフェであるかどうかの分かれ目になるでしょう。
今回紹介する、ポーランドのデザイン事務所Cosa Nostraは、カフェをはじめ、さまざまなブランドやショップのロゴデザインやブランディングを手掛けています。彼らのシンプルでありながら都会の香りを感じる作風は、街の高感度スポットのビジュアルとしてしっくりとハマるデザイン。具体例を見ながら、街のカフェに相応しいデザインを考えてみましょう。 ※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Cosa Nostra ! )
伝統と今をブレンドしたカフェ「Beyond Coffee」のロゴデザインとブランディング
Beyond Coffeeは欧米のコーヒー文化とアラビアのコーヒー文化をミックスさせた、互いの文化の架け橋となるカフェです。欧米のコーヒー文化は知っての通り、コーヒーの粉をドリップし、カップに注いで飲むというメジャーな飲み方。世界的なカフェのチェーン店も多く、カフェでテイクアウトして、街を闊歩しながら飲んでいる姿などもよく見られます。
それに対し、アラビアのコーヒー文化は独特です。コーヒー発祥の地と言われるアラブ諸国では、コーヒーの粉ごと小鍋で煮出してカップに注ぎ、液体だけを飲み干します。カルダモンというスパイスを入れることも多く、基本的には砂糖などの甘味料は入れず、甘いスイーツと一緒にいただくのがスタンダードのようです。
また、飲み干したカップの底に沈んだ粉を小皿にとり、その形を見て占いをするという独自の文化もあります。
▪ロゴデザイン
シンボルマークのモチーフとなったのは、アラビアコーヒーの占いに使う粉が描くカタチと、コーヒーカップを置いた時にできる輪ジミ。ドーナツのような丸い輪をシンプルでモダンな印象で描き、少し離れた右斜め上に小さな円をアクセントに入れています。
ロゴタイプの文字は、丸みを帯びたサンセリフ書体を採用し、親しみやすくカジュアルな印象で仕上げています。
歴史が長く文化的にも貴重とされるアラビアコーヒーと、大衆文化と密接に関わりファッショナブルなイメージを持つアメリカのコーヒー文化。この2つの文化を繋ぐシンボルマークのリングは、普遍的な美しさを持ちながらも、キャッチーで親しみがもてる「いま」の感覚を大切にしたデザインになっています。
Beyond Coffeeのロゴデザインは、メインのカラーにテクスチャーを使ったパターンを軸に、モノクロのパターンや白を背景にしたものなど、数パターンのバリエーションが用意されています。ほかにも、シンボルマークとロゴタイプの組み合わせ方や余白の取り方など、ビジュアルから伝わるイメージを崩さないように、ロゴの使用に合わせた細かなレギュレーションが設定されています。
▪各種アイテムデザイン
媒体やグッズなど、さまざまな場面で使われるロゴデザインには、このようなアレンジの仕方を定めたレギュレーションの設定が必須です。このガイドラインを元に、各種広告やオリジナルグッズなど、幅広くブランドのビジュアルイメージが展開されていきます。
NYのライフスタイルカフェバー「Dear Mama」のロゴデザインとブランディング
ニューヨークのイーストハーレムにあるカフェバー「Dear Mama」。イーストハーレムは、別名「スパニッシュハーレム」とも言われ、プエルトリコ人やメキシコ人などの南米系の人々が多く住む町。多様性を尊ぶこの街は、ニューヨークの縮図のような人種や文化のるつぼ。独自のコミュニティが発達し、カラフルに彩られた看板や店からはワイルドな匂いとエネルギッシュなパワーが感じられます。
店のキャッチフレーズは「DO GOOD & FEEL GOOD」。飲食をするだけの場所に留まらず、街のコミュニティスペースとして、芸術・文化を発信していくためにこのカフェは生まれました。
▪ロゴデザイン
そしてその存在の象徴として、輝く太陽のようなフレアを枠に、中心に果実のようなコーヒーカップを据えたロゴマークがデザインされました。内側からほとばしる強いエネルギーは、街のエネルギーそのもの。シックでありながら熱を感じるこのロゴマークは、この街に住む人々の内面を表わしているのかもしれません。
ロゴデザインは、完成形に至るまで数々の変遷を経ています。エンブレムのような枠の中に、パイナップルや植物・床屋の看板などハーレムのさまざまな要素を詰め込んだデザインからはじまり、形を円形に変え、徐々にビジュアル要素を絞り込んで最終形に近づいていきます。
最終的には中心にマグカップを抽象化した図柄を置き、太陽のような装飾の円形パターンと、シンプルなひし形の枠で囲ったスクエアパターンの2つが残りました。
カラーは夜のように深く濃い藍色をベースに、華やかに映えるレッドとラグジュアリーなゴールドが選ばれました。シックな配色ながら、鮮明で艶やかな色を合わせることで、情熱的な温度をもつカラーリングになっています。
ロゴタイプには、幾何学ベースのサンセリフフォント「GOTHAM」をセレクト。基本的には、力強く安定した存在感のあるフォントです。太さが豊富に揃っているので、イメージを統一しつつ、バリエーションに富んだビジュアル展開が望めます。美しく均整のとれた幾何学ベースのフォルムは、文字の太さに関わらず安定したスタイリッシュな印象をキープしてくれます。
▪パターンデザイン
メインビジュアルの中央にあるモチーフはコーヒーカップをイメージしていますが、この表現スタイルに合わせてメイン商材であるティーとベーカリーもアイコンとしてデザインされました。ティーのデザインは葉のフォルムを象っており、ベーカリーはやや抽象化され、中央に空洞をもつ丸の重なりで表現されています。これらのアイコンは縦につなげていくことで、装飾性をもつパターンとしても機能するように仕上げられています。
コーヒーをイメージしたパターンです。器の中には温かい飲み物があり、そこから湯気が立っているようにも見えますね。コーヒーに温められる人たちがたくさん居るような。色調は抑えられたゴールドで、シックな印象を与えますが、ユニークで生命感に溢れるデザインに仕上がっています。さすがニューヨーク、ハーレムのパワーを感じさせる見事な仕事ですね。
ティーのデザインです。コーヒーと比較して、ティーはすっきりと爽やかなイメージに仕上がりました。ティーを頼む客層に合わせたのでしょうか。落ち着いたテイストです。
ベーカリーのデザインです。パンをここまで抽象化したデザインはなかなかお目に掛かれないでしょう。このデザイン単体では何だかわかりませんが、コーヒーあるいはティーのアイコンデザインとセットで目に入ることで、「ああ、この丸はパンか!」とわかるところが面白いですね。いくつかのアイテムとセットで展開することで、高い抽象性を獲得できたケースだと言えるでしょう。
3つの商材が組み合わさったパターンです。にぎやかになりましたね。繰り返される都会の喧騒が聞こえてきそうですが、色調はあくまで静かで落ち着いた印象を崩しません。喧騒から逃れて一息つきたい都市生活者に、落ち着きと癒しをあたえる色合いです。
▪各種アイテムデザイン
アイテムのデザインです。基本の3色は、カップの蓋のカラーリングにも使用されました。紺色と渋いウッドベースの色合わせから、和の雰囲気も感じられますし、バックの市松模様はエッシャーを想起させます。結果としてメインビジュアルとなった太陽マークからは、エジプシャンやアラビアン、ブディズムのアイコンのイメージも連想できます。
しかしその造形は都会的に洗練されており、多国籍かつ先端、文化のるつぼとしてのニューヨークという街のアイデンティティーを見事に体現しています。
▪看板・内装デザイン
ショップの看板と店内です。カウンターの下はキーカラーの紺が配され、照明はゴールドの印象を与えます。差し色の赤もちらほら見えていますね。インテリアデザインにおける色面量の配分もコンセプトに沿っています。
まとめ
Cosa Nostraの洗練されたデザインワークは、そのカフェがどこに在り、誰が来るかをしっかりと見据えています。現代文化の最先端ともいえるカフェ空間は、デザインの最先端ともいえますね。私達はそこに都市生活の有り様、「いま」のカタチを見ることができるのです。
design : Cosa Nostra ( Poland )
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