「ブランド」と聞くと何を思い浮かべるでしょう?
きらびやかなファッションブランドや、美しい腕時計やジュエリー、ハンドバックや靴…高価で名前が知られているメーカーを思い起こされるのではないでしょうか。
「ある特定の商品やサービスが顧客から識別されている時、それらはブランドであるといえます。」と、一般社団法人ブランド・マネージャー認定協会では定めています。すなわち、ブランドというのは私たちの暮らしの中にある規格品のほぼ全てに当てはまると言っても過言ではありません。
新たに商品やサービスを売り出すとき、どうしたら手にとってもらえるだろう、どうしたら検討してもらえるだろう。売り手としては必ず考えることです。そうした際に、商品を意図的に顧客に好意をもって認識してもらおうとする行為を「ブランディング」と呼びます。それは、他の類似製品との差別化を明確に行いその商品の価値を創造すること。そして、その価値を顧客に向かって発信していくことなのです。
ブランディングの手順に正解はありませんが、一般的な例を考えると下記のようなフローになります。
リサーチ…市場を調査し、競合他社の情報や自社製品の差別化ポイントを明確にし、市場におけるポジションを設定する
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ターゲティング…商品のメイン購買層となるボリュームを年齢・性別・嗜好等をあらかじめ設定する
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コンセプトの設定...ブランドの方向性・何を伝えるかを設定する
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デザイン…CI・VI・ロゴデザイン・パッケージ・店舗デザイン・web・広告・など
このような段階を経て、一つのブランドというものを形作ってゆくのです。こうしたブランディングの作業の中でも顧客と直接的な接点をもつのは「デザイン」の部分です。視覚的な情報はもっとも届きやすく、印象を残します。商品のデザイン全体を総じて「VI(ビジュアルアイデンティティ)」といいますが、そのVIの要となる部分がロゴデザインです。商品やサービスの第一印象を左右する顔の役割を果たし、その商品の特性が反映されているものである必要があるからです。
今回は、そうしたブランディング事例としてブラジルにある カフェ「Café Torra Clara」を紹介します。ブラジルを拠点にグラフィックデザイン・webデザイン・ブランディングで活躍する Danielle Tsuzukibashi 氏がブランディング・パッケージデザイン・インテリアデザインを手掛けています。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Danielle!)
ブラジルは世界最大のコーヒー産地。生産量・輸出量共に世界1位を誇ります。コーヒー産地として名高いブラジルですが、自国以外のコーヒー豆の輸入を禁じていて、国内で飲まれているコーヒーのほとんどがブラジル産のものです。
しかし、上質な豆の多くは輸入用となり、国民が家庭で消費しているのは輸出規格に満たない品質の商品であることも。そんなブラジルですが、近年では急速にインフラが進み、徐々にコーヒーへの意識も変わってきています。国内産のコーヒーを使用することには変わりありませんが、より美味しい豆を美味しい淹れ方で飲めるカフェが増えてきているそうです。
「TORRA CLARA」を直訳すると「コーヒー焙煎クララ」となります。名前の通り、コーヒーに特化したカフェです。ブラジルでは、近年カフェが増えてきているとはいえ、まだまだバールのようなスタイルのお店が多く、意外にもコーヒー専門店は少数派です。増えてきているカフェスタイルのお店も、高級店が多いそうです。
そこで「TORRA CLARA」は、コーヒーにとことんこだわりながらも、どんな人でも気軽に利用できるようなカジュアルでお洒落なカフェをコンセプトに始動しました。
店名とコンセプトをもとに出来上がったのが上のロゴデザインです。ロゴタイプはサンセリフ体Avenirに似た、親しみやすくカジュアルな印象を与える書体で構成されており、中央のシンボルマークであるコーヒーの葉を囲むように弧を描いています。カフェのシンボルマークというと、コーヒー豆やカップなどが一番に思い浮かびますが、あえて葉をモチーフにしているのには2つの理由があります。
1つは、コーヒーへのこだわり。コーヒーがまだ葉であるところから品種を選定し、店主が最高のものと認めたものだけを提供しています。
2つめは店内のインテリアとの親和性。木がふんだんに使われた居心地のよい店内には、あちらこちらにグリーンが置かれ癒しの雰囲気を演出しています。シンボルを葉にすることで、他店との差別化を図り、このカフェのもつコンセプトと合致するビジュアルを提示できているのではないでしょうか。
シンボルマークの下に書き添えられた「café」の文字は、カフェの黒板に書かれた手書き文字を彷彿とさせ、やさしいぬくもりとカフェに流れる心地よい時間を思い起こさせます。
作成されたロゴマークをもとに、パッケージデザインの制作に移ります。
イートイン用のオリジナルマグや、テイクアウト用のペーパーバッグ、カップなど多岐に渡ります。ブランディングに限ったことではありませんが、ロゴマークをデザインする際、どのような用途でロゴが使われるかを念頭に置き制作することで、その後の展開が格段に変わってきます。制作を依頼する側も、引き受ける側も開始段階でその辺りの配慮を怠らないことが重要です。
また、ブランドイメージを守る尺度として、ロゴマークを使用する際に守らなくてはならないガイドラインを設定することも好ましいでしょう。レギュレーションとも呼ばれますが、ロゴまわりの余白の設定、色、装飾等ロゴマークによって細かに設定しておくことで、どの媒体においても見え方を一定に保つことができます。
設定したコンセプトをもとに外観のデザイン、インテリアデザインも進められていきます。
外看板は作らず、外壁にそのままロゴマークを描いて店舗サインとしています。このカフェの特徴の一つでもある、多彩なコーヒーの抽出法をアイコン化したシンプルなイラストをガラスにプリントすることで、店舗外観部分の大半を占めるガラス窓にアクセントをつけ、街行く人の目にも留まりやすくしています。
店内は白を基調に、木やレンガをポイントで使い温もりを感じる佇まいに仕上げています。黒板やグリーンをインテリアにすることで、気持ちの良いコントラストが生まれています。
最後に完成した店舗で撮影等がなされ、Webサイトも同様のコンセプトで制作されます。
まとめ
最初に設定された店舗のコンセプトと、それに基づいて制作されたロゴマークが、ビジュアルアイデンティティの方向性を決定付け、そのルールをもとに更なる展開へと繋がっていきます。
ブランディングのスタート地点に立ったとき、今後広げていきたい事業の全体像を見据え、デザインしたロゴが顧客にどのように映るかを想像し、どのように見せていきたいのかを充分に考慮することが、そのブランドの行く末を決定付ける大切な作業といえるのではないでしょうか。
Designer : Danielle Tsuzukibashi ( Brazil )
・この記事は制作者に許諾を得て掲載しています。
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