ロゴマークにとって大切な要素とはどんなことでしょうか。ブランドの印象を左右するロゴマークの存在は、その企業やサービスのイメージを一目であらわすアイコンです。インパクトやトレンドなども大切な要素ですが、やはりどのような意味をもち、何を伝えたいデザインなのかという点が重要なのではないでしょうか。
今回ご紹介するのは、ルーマニアでブランディングやグラフィックデザインを手掛けるRomina Chitic さんの作品です。大学で、コンピューターサイエンスとグラフィックデザイン課程で学位をおさめている彼女は、物事に対して高い分析力をもち、論理的にアプローチすることで、より高度なクリエイティブワークを実現しています。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Romina!)
コンセプトから築き上げる、ブランディングプロジェクト
クライアントからロゴマークの依頼を受ける際、いつもクライアントが明確な志向やコンセプトを持っているとは限りません。時には、クライアントの意向を汲み取り、形にしていく中でブランドコンセプトを模索していく状況もあります。ロゴマークを持つことが一般化していく時代の中で、よりよいイメージを求めるためにはブランディングの視点を持ちながらデザインしていくことが必要不可欠となってきており、そこにはメッセージ性とデザインが同居していることが前提条件であるといえます。
このロゴマークは、アジアとアメリカを市場に活動しているアパレル企業「scarf network」のものです。ロゴマーク制作を依頼するにあたり、企業側からは明確なアイデンティティーの提示はなく、制作サイドでコンセプトワークから作り上げていきました。
モチーフとしてスポットライトが当たったのは、フラミンゴ。ブランド名である「スカーフ」をさらりと纏うことのできるすらりと長く繊細な首、そして首と同じく細く長い足は片足立ちを得意とし、モデルのようなスタイリッシュな印象を与えます。
フラミンゴがモチーフとなったのはビジュアルだけの判断ではありません。もう一つの理由としてその”習性”があげられます。フラミンゴは単独で行動せず、その多くが大規模なグループに属しています。社会性が高く群れを作って暮らす様子は、まさにネットワークを重んじているように見えます。そう、もう一つのキーワード「ネットワーク」にも通じるモチーフであることからフラミンゴはシンボルマークに選ばれたわけです。
フラミンゴのもつ可憐で華やかなイメージはファッションのイメージとも合致し、さまざまなツールの展開や広告宣伝に対応しています。 こうした、メッセージや意味の込められたロゴマークは他社のそれとは明確な差別化がされ、独自の世界観を築くことができます。
次に紹介するのは、ルーマニアで活動するサービス業「pixtory」のロゴです。このサービスは、顧客がアップロードした写真データを管理し、1枚単位でのプリントやアルバム制作などに対応する画像プリントサービス事業です。デジタルデバイスが普及した現代が抱える「思い出の保管」という問題を解決する画期的なビジネスです。
Romina Chitic氏はこの事業の立ち上げから密接に関わり、ネーミングからロゴデザイン、カードやグッズ等の販促ツールのデザイン、ウェブサイトのインターフェイスの開発までトータルにディレクションを担当しました。
「picture」と「history」を掛け合わせたネーミングはこの事業に相応しく、そのロゴタイプは少し丸みを帯びたサンセリフ体を採用しており、家族や友達との大切な思い出に寄り添うように優しく楽しげな印象を与えます。シンボルマークは、本のページや吹きだしを思わせる形が何枚も重なっている様子を、透明感のある色彩を重ねて表現しています。色は活発なコミュニケーションを思わすイエローから深い暖色系に向かってグラデーションを重ねられています。これは、一枚一枚が思い出を映した写真をあらわし、また、それを保存するためのアルバムを示唆しているのではないでしょうか。
こうして制作されたロゴマークを基本に、アイデンティティーは構築され、さまざまなツールのデザインや、ウェブサイトまで一環したデザインで統一されました。ロゴマークはCI(コーポレートアイデンティティー)の構成要素の一つです。しかしながら、ロゴマークがブランドイメージに与える影響は計り知れなく、ビジュアル面におけるロゴマークの役割は指針といっても過言ではありません。
アーティスティックな印象を見せる画廊のロゴデザイン
「esthetic brushwork」というオーストラリアにある画廊のロゴマークです。絵筆をシンボルマークに据えデザインされています。まさに絵の具を塗っているような、動きのある絵筆のフォルムが印象的ですが、この絵筆は画廊の名称「esthetic」の頭文字「e」のフォルムでもあるのです。筆の艶感のような「e」の真ん中の空き部分、そして絵筆の先端部分の微妙なかすれ具合など、非常に絵画的な描き方をしており、繊細で独特の表現方法にこの画廊のこだわりがにじみ出ているようです。
また、この絵画的でボリューム感のあるシンボルマークとは対照的に、ロゴタイプは細字のサンセリフ体を採用しており、画廊のもつ高級感やセンシティブな雰囲気が伝わってきます。
この画廊のロゴマーク制作にあたり、Romina Chitic氏は別案も提案しています。採用された案は絵筆そのものをフィーチャーしていましたが、この2つ目の案は、絵画の中の絵筆を表現しています。1枚の絵の中で重なり合う図形、そこに色を塗っていく絵筆の存在感が異彩を放っています。
3つ目の案は、絵筆を中心にした色の世界がモチーフとなっています。重なり合った色同士が図形を作り、そこに絵筆が白いシルエットとして立っています。筆の傍らに白い丸があることで、バックの図形がパレットのようにも見えてきます。さかさまにすると人の顔のようでもあり、絵筆のシルエットは夕景に燃える聖火のようでもあります。さまざまなイマジネーションをかきたてる面白みのある図柄です。また、黄色地に暖色を多く配色した色使いは、オーストラリアらしい温暖で広大なイメージを誘い、全体にオープンな印象をもたらします。
文字をイラストで表現したロゴマーク
ロゴマークに意味をもたせるとき、シンボルマークやブランド名の一部に関連性のあるイラストや装飾などを施し、ロゴマークのアクセントにすると伝えたいイメージを表現しやすくなります。
「iberQ」というスペインにあるレストランのロゴマークです。最後の「Q」の文字が円をくぐるフォークになっています。「Q」はアルファベットの中でも特異なカーブを描くフォルムの文字です。その特徴であるやや上向きなラインをフォークのしなやかな形状で表現しています。一目でフードサービスであることがわかり、あざやかな赤が食欲を刺激する秀逸なロゴマークです。
「Autumn solutions」というIT系企業のロゴマークです。シンボルマークは社名の頭文字「A」を象っています。小さな点の集合のように見えますが、この一つ一つは鳥のシルエットになっています。IT企業というと、日本国内でも数え切れないほどありますが、世界規模でみると更なる規模で拡大し、星の数ほどの企業が存在しています。このロゴマークの頂点にいる鳥に注目してください。上を目指して天高く飛び立っていく姿が描かれています。並居るライバルを抜き去り、業界でトップに上り詰めたいという気構えを感じるロゴデザインです。
「PRIMA FASHION HOUSE」というファッションメーカーのロゴマークです。この会社はアメリカを主な市場とし、カスタムオーダーで受注した製品をインドの自社工場で生産し納品するというシステムをとっています。従来のメーカーとの違いは、卓越したコミュニケーション力とスムーズな取引、そして商品の品質の良さです。顧客ターゲットも見本市やイベントがよく行われるラスベガスを中心にした富裕層やバイヤーたちです。
そのようなターゲットを意識し、自社製品のイメージのアピールのため、ロゴマークは品のある繊細なデザインで仕上げられています。ほぼブラックに近い深い紫をベースカラーに、ゴールド色で丁寧にラインが引かれています。シンボルマークは頭文字「P」。主力製品であるスカーフをイメージし象られています。繊維の原料となる植物のモチーフも添えられ、美しくバランスがとられています。
「CONSCIENCIA VISUAL」という眼科医のロゴマークです。この眼科は、今までにない新たな治療法で子どもたちの近視や乱視を軽減していく医療機関で、主に光工学を応用したコンタクトレンズを使用する治療法を確立しているようです。そのコンタクトレンズをモチーフとし「O」の字を象っています。近未来的な質感を持ち、他にないこの治療法をアピールするロゴマークとして機能を果たしています。上下段間に設けたフォントのウェイトの違いがデザインを引き締め、繊細な仕事を感じさせます。
「SIGMA」という会計事務所のロゴマークです。シンボルマークはギリシャ文字の「Σ」がモチーフとなっています。数学では「総和」をあらわし、ご存知のように表計算ソフトExcelでも合計を意味する関数のアイコンとして使用されています。経済に関わる会計事務所では、簿記や経理は欠かせない作業です。
そして、このシンボルマークの「Σ」はいくつかのパーツに分かれ、まるで岩石の集合のようなかたちで表現されています。会計事務所の業務特性をあらわす「Σ」、そしてスタッフそれぞれの意思や個性の総和としての「Σ」。その二つが見事にマリアージュしたロゴマークなのではないでしょうか。
視覚的な面白さが目を引くロゴマーク制作例
ブランド名や企業名を視覚化したシンボルマークは、わかりやすく視認性に優れたものがよいとされています。Romina Chitic氏のつくるシンボルマークは、簡潔ながら繊細でちょっぴりユニーク、そして少し考えさせられるようなテイストが持ち味です。
このロゴマークは個人的な用途で制作されたものです。「Pocket Fox」というのは、神話に登場するポケットに入るほどの小さなキツネという意味と、小柄で魅力的な女性という2つの意味を持ちます。アパレルなどでこのモチーフが扱われるとき、ポケットから顔を覗かす可愛らしいキツネが描かれがちですが、そこをあえてキツネのようなポケットとして表現することで、よりカジュアルな雰囲気を醸しだしています。レディース向けのジーンズカジュアルのロゴマークなどにぴったりではないでしょうか。
「Five Element」というルーマニアにあるIT企業のロゴマークです。「Five Element」とは、古代中国に端を発する自然哲学の「五行」を意味します。万物は木・火・土・金・水の5つの要素から成り立ち、互いに影響しあいながら生滅盛衰を繰り返し循環している。という考え方をあらわしています。そしてこのシンボルとなっている5本の線は、それぞれの要素をあらわし、また同じように中国古来より伝わっている易の代表的な記号の組み合わせ「八卦」をモチーフとしているようです。非常にアジア的な要素を、シンプルにスタイリッシュに見せており、背景にあるストーリーを知る人を唸らすような卓越したデザイン力です。
こちらがもう一案の「Five Element」のロゴマークです。企業ロゴとしてはこちらが採用になっています。重なり合うハートのような図形、まるで鼓動が聞こえてくるような動的なイメージを感じます。そして中央に5をあらわす「V」の文字。何かが息づいている、何かが生まれてきそうな、静かながら命の躍動を感じるロゴマークです。創造的な業務を主軸とする企業には相応しい、独特の期待感を感じさせるロゴマークです。
そして最後にご紹介するのが「Esquawk」というWebデベロッパーのロゴマークです。このロゴマークは複数パターンが提案されています。
企業ロゴとして採用されたのは3つめのロゴマークを少し改変したものです。モチーフとなっているものは、水面に何かを落とした時に現れる波紋のような、新たなものが出現したときの衝撃のような、そして方向を示す矢印のようにも見えます。いずれにしても突出したような勢いと驚きに満ちたインパクトをもたらすデザインです。Webサイトのデザインや構築などを手掛ける業態ですから、常に新たな表現や奇抜なアイデアを発信していくという姿勢を表現するには相応しいロゴマークと言えそうです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。論理と美しさを両立させた才色兼備なロゴデザイン、秀逸な作品ばかりでした。どのロゴマークにもしっかりとしたコンセプトの設定があり、その軸をどのように表現するべきかをじっくりと検証し様々な角度からアプローチする彼女の姿勢には、デザイン業に限らず、どのような場面でも参考になるものではないでしょうか。
Designer : Romina Chitic ( Romania )
・この記事は制作者に許諾を得て掲載しています。
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