
真実とは何か。美とは何か。正しさとは何か。世の中には、答えが明確に出ない疑問が数々あります。この世の中に起こる事象は、さまざまな見方により、白とも黒ともつかいないことがほとんどなのではないでしょうか。
それは、デザインの世界でも然り。数学の方程式のように、論理立てて決められた正解がない世界は、見え方、見せ方、受け取り方によって、その価値は変化します。
とくに、広告宣伝は、ある商品を宣伝するという「見えるもの」についてのプロモーションは、まだわかりやすくイメージを伝えることが可能ですが、カタチがないサービスや団体のプロモーションは、受け取られる印象を想定し、イメージをビジュアルに変換する作業が非常に困難であり、また、面白い部分でもあります。
スペインはバルセロナにある、Estudi Walabiは、目には見えない「コミュニケーション」をデザインするのに長けたデザインスタジオ。彼らが伝えてきた、コミュニケーションをカタチにしたブランドデザインの数々を一緒に見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Estudi Walabi! )
「不完全さ」を意図的に残すデザインが「完璧なデザイン」より記憶に残る理由
この事例集が「不完全の中に本質を見出す」と表現しているのは、ロゴやビジュアルに「あえて完成させない部分」を残す手法です。線が途中で切れている、形が閉じていない、要素の一部が欠けている。こうした「不完全さ」が、見る人の脳に「この欠けた部分を自分で補完しよう」という無意識の作業を促し、結果として記憶に残りやすくなります。
完璧に閉じた形は「見て終わり」ですが、開いた形は「見た後に脳が処理を続ける」。この認知心理学的な効果(クロージャー効果)を制作に応用すると、「少し足りない」方が「完全に足りている」より印象に残る、という逆説的な設計が可能になります。
7 sentits~7つの感覚を可視化した子ども用施設のロゴデザイン

7 sentitsは、日本語で「7つの感覚」を意味します。作業療法を通して問題を抱えた子どもたちをケアするこの施設では、7つの感覚を使い、育てることを基本理念としています。
7つの感覚とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・バランス・動きを指します。施設のブランディングにあたり、ロゴデザインを考慮する段階で、それらの感覚を可視化し、デザインを組み立てることになりました。
7つの感覚それぞれの象徴的なパーツをデフォルメし、シンプルな形で描くことにより、7つの幾何学的なパターンが出来上がります。

単独では意味をなさないこれらのパターンですが、さまざまな配置で置くことにより、人の顔を形作り、さらには、バラエティ豊かな表情が生まれます。まるで、日本の福笑いのようなユニークで愛嬌あふれるこれらの組み合わせは、子どもたちの豊かな個性と、彼らが持つ無限の可能性をあらわしているようです。


この自在に動く7つのパーツは、顔のような組み合わせの他、さまざまな見方ができます。整然と並ぶことで文字が並んでいるようにも見え、自由に転がる姿はまるで積木のようでもあります。明るく賑やかなカラーリングは軽快さを表現し、オリジナリティあふれる新たな言語のようなパターンは、どこにもない新しいコミュニケーションの方法を開拓していくように思えます。
Fincas Sancho Gil~自由にカタチを変える不動産会社のロゴデザイン

バルセロナにある不動産会社、Fincas Sancho Gil。元々使われていたロゴマークは、Sancho Gilの頭文字「S」と「G」を組み合わせたスタンダードなモノグラムデザインでした。不動産という大きなお金を動かす企業のロゴは、信用を第一とする性格ゆえに奇をてらわない、定番のデザインに落ち着くことが多い業態ですが、競合との差別化を図るため、Fincas Sancho Gilは、大規模なリ・ブランディングを図りました。

そのテーマとなったのが、「レスポンシブ」と「楽観性」です。
Webデザイン用語で聞くことの多い「レスポンシブデザイン」。一つのデザインがどんなデバイスにおいても最適に調整され、機能を損なうことなく快適に閲覧できるデザインを指します。
今回のロゴデザインのコンセプトになる「レスポンシブ」は、webデザインのそれと同じように、どのようなものにロゴがデザインされても、一目でFincas Sancho Gilのものであることがわかるデザインになっています。
基本は、コーポレートカラーの明るいブルーで描かれた、四角い箱の中にあるスマイルマークのような記号。この二つを基本とし、カードや便箋、封筒、ステッカーなどあらゆるグッズにデザインを展開しています。

枠の大きさが変わっても、記号が中にあっても外にあっても、カラーと枠・記号の組み合わせで、Fincas Sancho Gilのロゴであることが一目でわかります。ロゴマークというと、ガチガチのレギュレーションで固められた制約の多いものというのが一般的ですが、このような自由なデザインのロゴマークが、今後増えていくのかもしれませんね。



カード類には、ロゴのデザインと共に顧客に語りかけるようなメッセージが添えられています。ロゴマークのデザインと同様、顧客との間柄も「レスポンシブ」になるよう、コミュニケーションを積極的にとっていきたいという企業の姿勢があらわれています。
カードに描かれた、軽快なブルーと口角が上がったスマイルマークが後押しし、何でも相談できるような楽観的な気持ちにさせます。
La Pedrera Hotel~あえて完璧を求めないホテルのロゴデザイン


ブラジルにある小さなリゾートホテル「La Pedrera Hotel」。
このホテルのリ・ブランディングに際し、Estudi Walabiが行ったのは、ホテルのスタッフ一人一人に「円」を描いてもらうこと。

当たり前ですが、彼らが描いた円は、どれも一つと同じものがないオンリーワンの円。
Estudi Walabiは、この当たり前の真実に、ホテルのあるべき姿を見つけました。
ホテルは、スタッフ一人一人がホスピタリティ精神をもって奉仕する、究極の接客業。そこに決まったカタチなどなく、スタッフそれぞれの個性が合わさって、一つのホテルとしての個性が生まれます。

そこで、彼らがホテルのシンボルマークに選んだのが、まさに従業員たちに描いてもらった手書きの円。
サンセリフ体で書かれたシンプルなロゴタイプの上に、手書きの円を加えることでホテルのロゴマークとして完成します。


印刷物となったロゴマークにもすべて同じ円が入っているのではなく、アイテムによってその時々に違った円が入っています。この円には決められたカタチはなく、このホテルの従業員が描いた円であればすべてが正式なシンボルマークになります。
ホテルは、工業製品とは異なる接客業。
一人一人の個性がすべて違うように、その接客も異なります。
ロゴマークとしては、非常にイレギュラーといえるデザインですが、大きな組織化されたホテルとは違い、そうした個性を尊重し、スタッフそれぞれのベストを尽くしたおもてなしを売りとする、このホテルに相応しいロゴデザインといえるのではないでしょうか。
「コミュニケーションをデザインする」とは「受け手の解釈の余地」を設計すること
この事例集が「コミュニケーションをデザインする」と表現しているのは、デザインが「情報を一方的に伝える」のではなく「受け手が自分なりに解釈する余地」を持たせていることです。
一方的に全部を説明するデザインは「わかりやすい」が記憶に残りにくく、解釈の余地があるデザインは「少し考えさせる」が記憶に定着します。広告、ロゴ、パッケージのいずれにおいても、「どこまで説明し、どこから受け手の想像に委ねるか」の線引きが、コミュニケーションの深さを決定します。
まとめ
今回ご紹介したロゴデザインは、感覚やコミュニケーション、サービスをテーマにしたものでした。どのロゴデザインも、カタチを作ったことだけで終わらない、その後の展開にこそ真価がある能動的なロゴデザインといえるのではないでしょうか。
人と人とが関わる上で欠かすことができないコミュニケーション。コミュニケーションとは、相手がいてはじめて成り立つものです。
デザインも同じように、発信しただけでは終わらないもの。これからは、決まったカタチを一方的に発信するロゴデザインではなく、受け取る相手によって最適なカタチに姿を変えられる、レスポンシブなロゴデザインが求められるのかもしれませんね。
design : Estudi Walabi ( Spain )
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