ブランディングとは、特定のブランドをユーザーに認知してもらい、市場におけるポジショニングを確固たるものにすること。言葉にすると広義で非常にあいまいな部分があります。ゆえに、ブランディングを行う広告代理店やマーケティング企業、デザイン事務所など依頼する企業により方法はさまざまで、その精度もブランドが求めるもの、そして手掛ける企業により千差万別です。
ノルウェーにあるブランディングに特化した企業「KIND」。ノルウェーの他、イギリス・中国にオフィスを構え、国境を越えてさまざまなブランドの構築を行っています。
彼らはブランディングを「コンセプトブランディング」と呼び、単なるデザインの整備では留まらない、ブランドのコンセプトに根差した奥の深いブランディングで多くの企業から称賛の声をもらい、数々のアワードを手にしています。今回は彼らが手掛けた6つのブランディング例を紹介しながら、いかにしてブランドが持つストーリー性を引き出し、コンセプトを可視化していくのかを考察していきたいと思います。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。( Thank you, KIND! )
GRIFF AVIATION ― 世界屈指のドローン開発会社のロゴデザインとブランディング
昨今急速な進化を見せる、無人偵察機。ドローンと呼ばれ、軍事需要や災害救助、捜索や調査、撮影等その用途は多岐に渡ります。
ノルウェーにある「GRIFF AVIATION」は、業界ではフラッグシップと呼べる、最高品質の無人偵察機を開発している世界的な企業。このノルウェーが誇る最先端企業のブランディングを、KINDはどのような切り口で行っていったのでしょうか。
社名の由来
社名である「GRIFF AVIATION」。この「GRIFF」とは、伝説の生物「グリフィン」に由来します。グリフィンは上空を制する「鷹」と、地上の王者「ライオン」とが掛け合わさった架空の生き物。鷹が持つ大空を舞うための力強い翼と強靭な前足、ライオンの威風堂々とした風格と俊敏で獰猛な後ろ足を併せ持っています。
鷹のように大空を舞うドローン。その中でも業界ナンバーワンの実力を持つ「GRIFF AVIATION」にはうってつけのシンボルです。
ロゴデザイン
Sky, King, Power, Grip, Guardian, Strength, Protection, Flight
この8つのワードをヒントに、伝説の生物グリフィンをモチーフにしたロゴマークがデザインされました。
獰猛でありながら凛々しく気品を漂わせるフォルム。シンプルな線だけで描きながらも重みを感じさせる絵柄は、さすがといわざる得ない完成されたプロポーションです。
ロゴタイプとシンボルマークは同一の角度で描く斜線に沿うように、計画的に配置されています。美しく均整のとれたフォルムは、狂いのない下準備によって作り上げられているのです。
ブランドカラー
黒地に赤茶系の色で設定されたブランドカラーですが、印刷物になると金属のような輝きを伴った箔押しで印刷され、より重厚感と高級感が増します。金や銀よりも落ち着きと深みを持った銅色の輝きは、王者の風格漂う「グリフィン」にしっくりハマる色合いです。
「空を舞う王者」そんなコンセプトに相応しいグリフィンのモチーフ。
出来上がったロゴデザインを中心に、看板やグッズ、WEBサイト等が展開され「GRIFF AVIATION」の世界は広まっていきます。
FRIEL ― 伝統と革新を表現した老舗コーヒーブランドのロゴデザインとブランディング
世界でもコーヒーを愛する国として知られるノルウェー。日本人的にはノルウェーとコーヒーはあまり結びつきを感じない人も多いかもしれませんが、コーヒーの消費量の世界ランキングでは11位である日本と比べ、ノルウェーは3位。ノルウェーでは、昔からコーヒーは生活の一部として愛されてきました。
そんなノルウェーで1799年からコーヒーに携わる事業を展開してきた「FRIEL」。長い歴史に一区切りつけ、ブランドの顔を刷新する “リブランディング” がKINDによって行われました。
FRIELは、いまやコーヒーだけではなく、フードビジネスを広く行うグループ企業。グローバルな視点と長く続いてきた伝統と歴史。この二つを備えたロゴデザインが考えられました。
「F」と「E」の文字に印象的につけられた長くカーブしたセリフ。
美しく下側にカーブしていくフォルムは、コーヒーのドリッパーを彷彿とさせます。
カーブのラインは、シンボルマークに採用された楕円形に沿ったもので、「E」の一番下のラインも同じ円周に沿って切り取られています。こうして安定した美しいラインは描かれ、この2文字をベースに、ブランドオリジナルのフォントがデザインされました。
オリジナル書体
一見すると、クラシカルで標準的なセリフ書体。縦と横の線で太さに強弱がある品のある美しいプロポーションです。そこに長いセリフを持つ「E」「F」が加わることで新しさとユニークさが加わり、単なる伝統だけではない、新しいことへ挑戦する企業に相応しい書体として強く印象を残します。
伝統と革新。
この相反する要素を両立させた新しいFRIELの顔は、ノルウェーの食品業界に新たな風を送り込んでくれることでしょう。
Badaboom ― 「竹」を原料にした新たな衣料品メーカーのロゴデザインとブランディング
「Badaboom」は竹を原材料としたテキスタイルを製造し、肌着やルームウェア・寝具などに製品化して販売する衣料品メーカー。
竹でできたテキスタイルは、絹のように滑らかでやさしい手触りが特徴。しかも抗菌性に優れ、消臭効果もある繊維。生分解性も高く、竹自体CO2の削減にも貢献する植物であることから、地球環境にも優しい生地として注目を集めています。
特に肌触りの良さとアレルギー体質や肌の弱い人でも安心して使えることから、赤ちゃんの肌着やシーツなどに重宝されています。
そんな「Badaboom」のロゴデザインは、シンボルマークとロゴタイプの比率の常識を大きく逸脱する規格外のユニークさ。
ロゴタイプは輪切りにした竹をイメージし、コロコロとした円が並ぶシンプルなサンセリフ体を採用。シンボルマークは竹林をイメージし、ところどころに切れ目が入ったバーコードのような縦線が並びます。
ユニークで今までにない機能が備わったテキスタイルを象徴するかのような、型破りで自由なロゴデザインです。
カラフルなタグに、型押しされたロゴセット。こだわりの繊維×シンプルなデザインのウェアにピッタリのユニークなタグです。
大人、子ども、赤ちゃん用サイズそれぞれのウェアを包むバッグにも、ロゴマークとメッセージが整然と並んでいます。身体のサイズに合わせて竹の長さの比率が変わっているところがポイントです。
カラフルなウェアを着た赤ちゃんが飛び跳ねるCMや、シーツでできた世界をルームウェアで冒険する、まるで映画のワンシーンのような情感あふれる写真。
ロゴデザインのユニークさを筆頭に、独自の世界観を作り上げる斬新な仕掛けの数々。ブランディングとはこうあるべきという見本を見せられたような、他に類を見ないプロモーションです。
Enhanced Drilling ― 理念をカタチで表わす掘削会社のロゴデザインとブランディング
「Enhanced Drilling」は世界中にオフィスを持つ、掘削機械とソリューションを提供する土木業界の先導的企業。設立25年の節目の会社再編に伴い、ロゴデザイン及びブランドアイデンティティの再構築が行われました。
新ロゴマークの構成要素
新たにデザインされたシンボルマークには、Enhanced Drillingを構築するさまざまな要素が重ねられています。
デザインの中心に位置する滴のようなマークは、「オイル」や「資源」を指し、同時に「機会」や「きっかけ」も意味しています。
周りを取り囲む六角形は、「技術」を指し、同時に「コントロール」や「安全性」を象っています。
そして、渦を巻くような回転は、主な事業である「掘削」と「到達」を意味しています。
これらがすべて揃い、重なり合った姿がEnhanced Drillingのブランドアイデンティティそのものを表現しています。
また、六角形を構成する6つの三角形にも意味を持たせており、
協調性・行動力・革新性・完全性・安全性・リーダーシップ
という6つの行動原則の象徴にもなっています。
企業ロゴの活用イメージ
理念と行動原則をカタチにしたロゴマークは、会社の看板や機械、現場で働く人々のユニフォームやヘルメット、ステイショナリーやカードとなり、内外の人が目にするさまざまな場所に使われています。
常に安全で正確であることが求められる仕事であるからこそ、心得ておきたい事柄を視覚化する必要性があるのではないでしょうか。
UNA ― 新たな形式のブルワリー&レストランバーのロゴデザインとブランディング
「UNA」はラテン語で「一つに」「一緒に」という意味を持つ言葉。その言葉の通り、UNAはビールの醸造所とレストランを併設する新しいタイプのレストランバー。
一体感を示すように、3つの文字が連なり、一つのロゴタイプを形成しています。中心の「N」の斜め線を基本に、「A」の中心にある線、「U」につけたセリフの3つの線が同じ方向に傾き、一体感をより強く、またアクセントとなるモチーフにもなっています。
内装・外装デザイン
「UNA」のもう一つの一体感は、地元の素材を使った美味しい料理と、それにマッチしたビールが飲めるという点。
レンガ造りの味わいある建物に合わせ、ぬくもりのある看板や内装がデザインされています。歴史を感じる建物に現代的な照明やカウンター、ディスプレイなどが溶け込んでいるという点にも一体感を感じますね。
ロゴを活用したペーパーアイテム
ロゴをあしらってデザインされたカードやメニュー。白・赤・茶のカラーリングは、店内外に見られるレンガの色と同じ色合い。素材感のある紙を使い、ここでも一体感を感じる仕掛けがなされています。
UNAの店内を見回すと、「現在」と「過去」、「料理」と「ビール」、「店員」と「客」・・・あらゆる物が「一つ」になる場所であることに気がつきます。
一つに繋がるロゴは、店のコンセプトを体現するシンプルで力強いメッセージなのです。
7 Fjell Brewery ― ノルウェーのクラフトビールメーカーのロゴデザインとブランディング
ノルウェーの都市”ベルゲン”は7つの山に囲まれた街。ベルゲンで誕生した7 Fjell Breweryの「7 Fjell」とは、7つの山を意味しています。ここで作られるビールには背景に地元の所縁ある場所やエピソードがあり、地域の風土に根差した独自性の強い商品づくりが特徴です。
7 Fjell Breweryは、数十年に渡りベルゲンで醸造を続ける意欲的なクラフトビールメーカー。伝統的な醸造技術と新たな技術を組み合わせ、世界的に通用するビールを製造することがブランドの目標であり、プライドでもあります。
2つの「7」を背中合わせにしてデザインされた、7 Fjell Breweryのロゴは、数字だけではなく、ビールの醸造窯やボトルネックのカーブ、グラスのシルエットなどをイメージしてデザインされています。
「7」の中心に入ったラインを横に伸ばし、文字と重ねることで一体感とモダンな雰囲気を演出しています。
新たなブランドの顔としてシンボルマークとロゴタイプは、ビールのボトルやカード・ラベルなどにさまざまな表現で印刷されています。
消費者が最も目にする、販売用のビールボトルやバーに置くグラスには、ビールやボトルとのコントラストが目を引くくっきりはっきりとしたデザイン。
試飲ボトル用のラベルやステイショナリー・カード類には、シンプルで見やすさを優先したデザインを施しています。
限定版のパッケージデザイン
また「Wood Concept」と題された限定版は、ノルウェーの森をイメージした「木」を使ったパッケージが採用されています。
木の皮を加工して作ったラベルにロゴマークを焼印で記したラベルは、ハンドクラフトビールの名に相応しい一点もの。ボトルを入れる箱もすべて木で作られ、贈答品や記念品などにぴったりの高級感のあるパッケージに仕上げられています。
ポスターやwebサイト、デバイス向けアプリなどは、黒をベースにした奥行きのあるデザインで統一されています。ビールのシズル感を伝える水滴や気泡を随所に取り入れ、思わず手に取りたくなるような鮮度の良いデザインが印象的です。
まとめ
KINDが手掛けた6つのブランディングを紹介してきました。どのブランドについてもコンセプトを深く掘り下げ、クライアントにも消費者にも納得のいく、オンリーワンのブランディングがなされていたように思います。
何を売るにも、何を宣伝するにも、まずは発信する側が、その商品なりブランドのファンにならなくてはなりません。ファンになるには、ブランドについてよく知り、より理解することが不可欠。ブランディングに携わるなら、ただデザインをするだけではなく、見る人にブランドの思いを届けられるような心を動かすプロモーションをしていきたいですね。
design : KIND ( Norway )
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