
ロゴデザインプロジェクトの工程を覗くことができるというのは、制作過程を疑似体験できる貴重な体験です。今回はロゴデザインプロジェクトの過程を記した一つの記事「ウォリントン合唱団のロゴデザインプロジェクトから得た教訓」を紹介したいと思います。この記事を書いたAndrew Wilshere 氏は、イラストレーター・デザイナー、そしてライターと多彩なフィールドで活動している素晴らしいクリエイターです。
原文 : “The lessons I learned from a logo design project for Warrington Choral Society”
以下翻訳内容です。※翻訳・掲載は記事製作者の許諾を得ています。(Thank you, Andrew ! )
「教訓」をプロジェクトから引き出して共有する姿勢が「デザイナーの成長速度」を決める
この事例が「プロジェクトから得た教訓」を明示的に共有している点は、制作の姿勢として非常に参考になります。プロジェクトが完了したとき、「納品して終わり」にするか、「何を学んだか」を振り返るかで、デザイナーの成長速度が大きく変わります。
制作の振り返りでは、「うまくいった点」と「次回改善すべき点」の両方を記録しておくと、似た案件が来たときに過去の学びを活かせます。特にフリーランスは自分で自分の振り返りを行う必要があるため、プロジェクト完了後に30分だけ「教訓の記録」をする習慣が、長期的な品質向上に効果的です。
ウォリントン合唱団(WCS)のロゴデザインプロジェクトから得た教訓
去年、私はブランドデザインコースで学んでいました。さらに学んだことをより実践的に活かすため、いくつかのデザインボランティアを行っていました。当時、数週間に渡って私はウォリントン合唱団のディレクターと一緒に、合唱団の為のブランドアイデンティティのアイデアを出し合っていました。
それは今まで私が試みたロゴデザインプロジェクトの中で、最も挑戦的なプロジェクトでした。この記事を通して、自身が行ったリサーチや思考などロゴデザインに役に立つもの全てをお届けしつつ、プロセスを簡潔に説明したいと思います。私はそれぞれの段階でどのくらいの時間を要したのか、直面した問題、どのようにそれを解決したのか、またはどのようにそれを乗り越え進んだのか、私が学んだことを私自身がどう思うかなどについてお話ししたいと思います。
ステージ1:事前調査(1~2時間 クライアント共に)
クライアントとの初めてメッセンジャーで会話をした後、私は重要な情報を収集するためにアンケートを作りました。
私が尋ねた内容は…
・ウォリントン合唱団(以下 WCS)は、どんな音楽を演奏するのか。
・メンバーはどんな感じの人たちなのか。
・オーディエンスはどんな感じの人たちなのか。
・WCSを表す10個の形容詞があるとしたら?
・WCSはどのようなメッセージをオーディエンスに受け取ってほしいか。
・新しいロゴやブランドデザインのゴールは何なのか。
・新しいロゴやブランドデザインの制作にあたって不安は点はあるか。
・希望する最終納品物は何か。(例:高解像度のJPEGのロゴ、名入り便箋のためのワードテンプレート、ポスターのためのテンプレートなど)
・このプロジェクトに集中するためのあなたのモチベーションは何か。
・プロジェクトの納期はいつか。何かイベントなどの締め切りがありますか?
数日後、2つの重要なことを聞くことを忘れていたことに気付き、次の質問をしました。
・あなたのお気に入りのブランドや、作りたいロゴに近いブランドなどがあれば教えて欲しい。
・WCSのライバルは何処なのか。(合唱団を探している歌手、オーディエンス両方に対して)
ステージ2:簡潔にまとめる(1~2時間)
それらの質問に対するクライアントの返答から、私は下記のように簡潔な情報にまとめてみました。
・WCSは年齢層は若いが、経験豊富な素晴らしい音楽家30名で構成されていて、主にバロックと現代音楽をレパートリーとしている。
・コンサートはいつも100人くらいのオーディエンスを魅了している。100人のうち、1/4はメンバーの友達や家族で、3/4は様々。主に地元の人たちが多いが、中には全国から駆け付けるお客さんもいる。
・オーディエンスはコンサートを高く評価している。その理由はレパートリーではなく、音楽的なレベルが高い地元のソリストや楽器演奏者がいるから。
・ブランドの形容詞:力強い / エキサイティング / 珍しい / 音楽的 / コミット / プロフェッショナル / 成長 / インスピレーション / 才能 / 調和
・ブランドのメッセージ:崇高な音楽、素晴らしい歌、地元。私たちは自信をもってお届けする。お金払う価値がある。プロフェッショナルで、成功している。
・ロゴに求めるものは?:目を奪う、忘れられないものであるべき。
ステージ3:調査とスケッチ(9~12時間)
私はこのプロジェクトのために2段階のスケッチを行いました。最初の段階で行った大量のスケッチは、どれもアイデアの段階から今ひとつだったのです。そのため、振り出しに戻り、再び困難に立ち向かいました。下記は私がプロジェクトの間に書いた11ページのスケッチを撮影したものです。このようなことを行った理由としては、30~40のスケッチを通して、音楽の表記や記号などのイメージと遊んでみることが出来るからです。

ステージ4:クライアントへ自分が用意したアイデアのセレクションをプレゼンする。(12〜18時間)

まず私はこれら3つのアイデアを候補として選びました。
第1案は、合唱団のイニシャル「W」と男性・女性のコンサートドレスを表現したロゴ。
第2案は、3つの休符でブラックレター風の「W」を表現したロゴ。
第3案は、ヘ音記号を頭に用い、フラットの記号を歌っている口に見えるように回転させて仕上げたロゴ。
この中でクライアントは3番目のアイデアを選びました。私はそれを発展させようと多くの時間を費やしたのですが、どうしてもいくつか完璧に越えられない問題がありました。まず、回転させたへ音記号が「C」のように見えてしまうこと。第2に、ロゴの方向性(与えるイメージ)がはっきりしないこと。第3に、口が歌っているのか、笑っているのか、叫んでいるのか、舌を出しているのか、曖昧なことです。仕方なく、私はこのロゴのアイデアを使用することをあきらめる結論を出しました。
再び数時間かけてスケッチを行い、シンプルな幾何学的形状へ戻しました。ふとデザインコースで最初に学んだことを思い出しました。組織や会社が行っていることを忠実に表すようなデザインをする必要はないということです。音楽的なことを盛り込むのは確かに良いのですが、必須ではありません。もっと重要なことは、強く、そして忘れることが出来ないようなロゴマークを作る事でした。

そこから私が発展させたアイデアはすべて「W」を基調としたものでした。上の列のロゴは音楽のトリルマークで「W」を形成しています。そして下の列のロゴについてですが、左のロゴは3つの三角形を組みあわえて制作しています。真ん中にロゴは「W」を抽象化して、伝統的なハープのシンボルと組み合わせています。そして右のロゴは、三角形と四角形で構成されています。
ステージ5:完成版ロゴセットの制作(1〜2時間 最終調整してクライアントへ納品)
下の列のアイデアから、クライアントが三角形で形成された「W」をとても気に入りました。私はそれを発展させ、壮大で大規模な合唱を想起させる”王冠”のモチーフを提案しました。
最終的に、半透明の三角形で構成されたバージョンを含む、複数のロゴバリエーションを開発しました。

このロゴデザインプロジェクトから学んだこと
・事前調査の段階でたくさん情報を集めることは大変貴重で、ロゴを制作する上で重要なプロセスである。
・もし自分のアイデアが思い通りにならない時は、時間をあけて、もう一度アイデアを見直す。
・最後のシンプルかつ幾何学的なロゴに到達するには、ロゴアイデアの広範囲の開発が必要だった。
・シンプル=簡単とは限らない。
・ミニマルも意味を持たせ、要点に合うものにする。
・かなり早い段階から展開することはせず、やり過ぎるくらいにスケッチをした方が良い。
・音楽記号のような特定のグラフィックエレメントを含めることを考えるときは、デジタル上でそれらの記号を実験できるようにすると非常に効果的。この方法だと(私の音符で作った「W」のブラックレターのような)紙の上のスケッチに無いようなアイデアを生み出すことが出来る。もし、スケッチは全てアナログであるべきだと考えるなら、これはリサーチの代わりと考えるとよいでしょう。
・色の力は非常に強力なので注意。クライアントにロゴの色付きイメージを提示すると、色と全体の構図のどちらに対して反応しているか判断できない。
・最初の段階から体系的にそのロゴがどのように機能するかについて考えることは理にかなっている。今回のロゴであれば、ポスターの余白などに文字なしで運用することも可能。
・簡潔なロゴが一番良い。間違った考えに行かないように常に注意が必要。誰にでも主観や好みがある。
created by Andrew Wilshere
合唱団のロゴに求められる「伝統と革新のバランス」の難しさ
合唱団のロゴは、メンバーの年齢層が幅広い(若手からシニアまで)ため、「伝統を大切にする層」と「新しさを求める層」の両方に受け入れられるデザインが求められます。
この「幅広い年齢層を一つのロゴで満足させる」課題は、合唱団に限らず、自治体、学校、スポーツクラブなど「多世代の構成員を持つ組織」のロゴ全般に共通する課題です。解決のアプローチとして、「構造はクラシカル(安心感)、仕上げはモダン(新鮮さ)」の二層設計が有効であることを、この事例は示唆しています。
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