
デジタル化が日進月歩の発展を遂げている状況にともない、現代ではコンピューターやスマートフォンなどで既成の文字を打つことが当たり前となっています。そんな環境の中、改めて見直されているのが「手書き風の文字」や「筆記体の文字」の魅力です。東洋の書道や西洋のカリグラフィーなどを基本とし、視覚的効果を向上させてデザインされた文字は、人の目を惹きつけるインパクトが強く、イラストレーションなどともに溶け込みやすいので多くのロゴのデザインに利用されています。
ロゴはビジネスにおけるブランドイメージの重要な基盤。企業や商品の特色を忠実に反映し、オリジナリティーに富み、一度しか目にしていなくても人の記憶に残るようなものが優れたロゴと言えます。
近年欧米で人気が高いのが、文字の形を自由にアレンジしアート性をより高めたモダンカリグラフィー。このモダンカリグラフィーで作られたシンプルかつおしゃれな雰囲気を醸し出すロゴタイプが至るところで見られ、人気を博しています。今回はバリエーション豊富なモダンカリグラフィーと、人の心理を刺激する優れたカラーリングを駆使して、数々の優れたロゴタイプを創造しているStarov Evgeniy 氏のロゴをご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Starov ! )

Starov Evgeniy 氏はロシアのサンペテルブルクを拠点に活動するグラフィックデザイナーです。今年で創設88年目を迎える名門サンペテルブルク州立工業技術大学(Saint-Petersburg State University of Industrial Technologies and Design)を卒業後、カリグラフィーやレタリングに焦点を当てたロゴの制作を展開しています。
モダンカリグラフィーのロゴが「高級感」を伝える仕組みは「手仕事の希少性」の視覚化
モダンカリグラフィーを使ったロゴが「高級感がある」と感じられるのは、「この文字は手書きで書かれたもの=大量生産ではなく1つ1つ手間をかけて作られたもの」という希少性の連想が働くからです。
機械的に均一なフォントは「効率的」「合理的」の印象、手書きのカリグラフィーは「丁寧」「特別」「一点もの」の印象。高級ブランド、ウェディング関連、アーティザン食品など「特別感」を訴求したいブランドでカリグラフィーロゴが選ばれるのは、この「手仕事の希少性=高級」の連想を活用するためです。
ロゴコレクション 1
まずは、2017年に発表した一連のロゴタイプ作品を見てみましょう。


Tシャツのブランド『Son of a Pitch』と『Bunky Boutique』のロゴデザインは、丸みを帯びた様相のイタリック体を使い、右上がりのレイアウトで動きを感じさせられるテイストでできています。どちらもブランドロゴ自体のカラーリングには黄色系、背景には赤系統のカラーを使い、活発で温かみのあるイメージを駆り立てています。

『Bunky Boutique』の別バージョンには、中世ヨーロッパで用いられていたブラックレターを彷彿させるタイポグラフィーに青系統の背景カラーリングを使用したものもあります。こちらは文字の奏でる神秘的な雰囲気に加え、ブルーの爽やかなテイストが組み合わされ、まさにクールビューティーなブランドロゴデザインです。

『Stay Wild』もファッションブランドですが、こちらはブランド名の頭文字「S」と「W」の二つの字を、まるで糸を絡ませたように組み込んでロゴマークを形成しています。カラーリングには、ロゴに黄色系であるオレンジ、背景に紫系を採用。一般的に、気品を感じさせる紫色に光や太陽をイメージさせる黄色系の組み合わせは、斬新で人の目を惹くカラーコンビネーションですが、明度・彩度を低くし落ち着いたオレンジ色の色使いにより品位を高め、ハイセンスな印象をブランドロゴに漂わせています。

同じく文字を組み合わせて構成されているものは、携帯電話のアプリケーションブランド『Shitty Pins』のロゴです。筆記体を使用しブランド名Shittyの頭文字「S」を大きくとり、Sに続く「h」字に絡ませてできています。最終の「y」字を長く伸ばし、その中にサンセリフ体の「PINS」を挿入。柔軟性とライト感を持つ筆記体と、デジタル的で堅実感溢れるサンセリフ体がバランスよく配されているロゴデザインです。

パーソナルロゴ『Ozerova Natalie』も筆記体とサンセリフ体の組み合わせでできていますね。ゴールドの色で流れるように形成された頭文字「O」と「n」に、アクセントとして白抜きの文字「DESIGN」を付加し、一体感のあるロゴマークに仕上がっています。


アクセサリーショップ「Glitbit」とチャリティー財団「Maren & Medley」のロゴは、筆記体を単一のラインで構成してできたもの。視認性をしっかり保ちながら優しさやおしゃれ感が伝わってくるテイストです。

車ブログのロゴ『Makelower』は、太めのマーカーで勢いよく書き殴ったような味わいのタイポグラフィーですね。ブログの内容が車ということで、機敏性や重厚性が感じられるロゴです。

一方、建築デザイン会社『LAD company』のロゴは、「Laboratory of Architecture & Design」の頭文字「L」「A」「D」を幾何学的に組み合わせてマークを制作。下部に社名をバランス良く配置し、視覚的に統制の取れたロゴに出来上がっています。
ロゴコレクション 2
Starov Evgeniy 氏の創り上げるモダンカリグラフィーには、綴られた文字全体の形状をひとつのマークとして構成したものも多々あります。
四角いフレームに収まるロゴデザイン








丸みを帯びた柔らかい容姿の筆記体を使って作られたパーソナルロゴ『Showalter』、ステッカーショップ『Whats Up Haters』、不動産会社『Aire』、ヒーリングカンパニー『American Brainch』、出版会社『Riddim & Juize』、アプリケーションの制作会社『 Ultimo』、レコーディング会社『Basta Beats』、スケートボードの会社『Streetfame』等のロゴは、文字自体の形を変形したり各々の文字間隔を調整したりしながら配列された文字に一体感を与え、ひとつのフォルムとして出来上がっています。この手法では文字としての視認性が低下することは否めませんが、文字で構成されたマークとしてビジュアル的な認識を施し、人の記憶に残りやすいロゴを作ることができます。
丸いフレームに収まるロゴデザイン




ファッションブランド『High Vacation』、Adobe 1234プロジェクト『Fail Harder』、印刷会社『One click stick』、パーソナルロゴ『Killing it with jQuery』は、円や楕円をベースにロゴデザインのシンボル性を一層高くした仕上がりです。
特徴的な装飾を加えたロゴデザイン


文字とイラストレーションの組み合わせで単一のマークを形成しているものに、ラップアーティストのTシャツロゴ『Brick Bazuka』、バーバーショップ(理髪店)のロゴ『Marennah』が挙げられます。
ブラックレターを用いたロゴデザイン


また、ブラックレター系の特殊なタイポグラフィーで組成しているものにファッションブランド『CnalbHnin』や『New Kingz』のロゴが挙げられます。どの作品にも的確なカラーリングがなされ、デザイン性の高いものばかりです。
ロゴコレクション 3
最後に、オリジナルタイポグラフィーで創られた美しいモノクロームのロゴをみてみましょう。




文字自体に柔らかいイメージや勢いを感じさせられるもの、文字を組み合わせてシンボルマークにしたもの、単一ラインで構成し視認性の優れたもの、など様々なタイプのロゴデザインが存在していますね。
モノクロームということで色に頼らず純粋に形や輪郭だけで表現され、Evgeniy氏の作り上げるモダンカリグラフィーの繊細さや品位が顕著に表れ、魅力的な作品群です。
まとめ
西洋の正式なカリグラフィーは文字を構成する上で厳密で格式張った細かいルールがあるのに対し、モダンカリグラフィーはルールにとらわれずフリーなスタイルで文字を創ることができます。従って、文字にいかにアート性・メッセージ性を持たせるか、いかにスタイリッシュにまとめることができるかはデザイナーの腕次第。Starov Evgeniy氏のロゴを参考に、モダンカリグラフィーを用いたロゴデザインも取り入れていきたいものです。
design : Starov Evgeniy ( Russia )
カリグラフィーのロゴで「再現性」を確保するための実務的なアプローチ
カリグラフィーのロゴは「手書き」であるがゆえに、「同じ文字を2回同じように書けない」という再現性の問題があります。ブランドのロゴとして運用するには、1回の手書きを「確定版」としてデジタルデータ化し、以後はそのデータだけを使用する、というルールが必要です。
名刺を発注するたびに「毎回手書きする」のではなく、「一度書いたものをベクターデータ化し、そのデータを全媒体で共通使用する」。手書きの「1回性」をデジタルの「再現性」に変換する工程が、カリグラフィーロゴの運用を成立させる不可欠なステップです。
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