「規律無しにデザインは存在せず、知性なしに規律は存在しない。」
これは、2014年に永眠したデザイン界の巨匠 Massimo Vignelli (マッシモ・ヴィネッリ) の言葉です。モダニズムの考え方を忠実に形に落とし込み、一貫して単純な幾何学形態によるシンプルさを表現した Vignelli のデザインは世界中の人々を魅了してきました。
卓越したタイポグラフィーに洗練されたカラーリング、計算され尽くした完璧なレイアウト構成によって生み出された数々の作品や、デザイナーとしてモノづくりに対する心構えやデザインに対する考え方など、Vignelliから影響を受けた若いデザイナーたちは少なくありません。 今回ご紹介するのは、その若いデザイナーの一人、Gianluca Santoro 氏のロゴデザインです。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Gianluca ! )
Gianluca Santoro氏は、イタリアの首都ローマを拠点に活動するグラフィックデザイナーです。造形美術の専門学校Scuola Internazionale di Comicsにて視覚や画像の創造的なプロセスを学んだ後、ローマのマーケティング・広告代理店にてグラフィックデザイナーとして就業。2017年に独立し、フリーランスデザイナーとして数々のブランディングデザインを手掛けています。 彼のモットーは、巨匠Vignelliの言葉「規律無しにデザインは存在しない」。機能と美しさを絶妙に組み合わせ、規律の取れたスタイリッシュなロゴデザインを多数製作しています。
「デジタル世界への出航」を掲げる企業のロゴデザイン
最初に、彼の代表作である『Digisails』のブランディングを見てみましょう。
Digisailsは、企業の持つDNAを抽出し、デジタル化のサービスを通してビジネスの支援することに重点を置く新しいコンサルティング会社です。 世界中のあらゆる媒体でデジタル化が推進し、その波を避けてのビジネスの成功はありえないこの時代に、正しい航海コースを取り、迷うことなくそれぞれの目的に辿り着くための航海(sail)サービスを提供するのがDigisails社。社のキャッチフレーズには「デジタル世界への出航」が掲げられました。
ロゴデザインのコンセプト
ブランディングを担当したSantoro氏がまず取り組んだのは、ロゴに使うシンボルマーク。「Digisails社のアイデンティティーが明確に表れる形態であり、紙のデザイン媒体にもウェブ上でも全てのメディアに対応し、また各メディアに合わせて展開が可能なデザイン」がシンボル制作の鍵となりました。モチーフに選ばれたのは、Digisails社の頭文字である「D」の文字、sail(航海)を表す「帆」 、そして「目的に向かって前進するという状態」の三要素です。
ロゴのスケッチ
この三要素をどのように組み合わせ、ひとつのシンボルを形成するのか。Santoro氏は愛用のモレスキン手帖に数多くのスケッチを描いて検証していますね。頭の中で生まれた構想を手早く描き留めることのできるこの工程は、デザイナーにとって大事な作業です。
最終的にセレクトされた図柄は、風によって膨らんだ二つのD字の帆で表現され、カラーリングにはブルーを採用。青い海をイメージさせ、信頼感や誠実性を連想させるブルーのカラーリングは、Digisails社の企業理念やクライアントへのメッセージを描写するのに的確な色彩です。
図柄の構成には、フィボナッチ数列に基づいた黄金比を持つ円形の一部を使い、バランスの取れたデザインに仕上がっています。
ロゴタイプの制作
シンボルマーク設定の次に行われたのはロゴタイプの形成。社名DigisailsのDをシンボルに置き換え、 Azo Sans Boldフォントで構成されています。
視認性に優れデザイナーに好まれやすい Azo Sans フォントですが、Santoro氏はこのフォントの特徴でもある端点の尖った角に丸みをつけて調整し、文字と文字の間隔にも入念な配慮がなされています。
シンボルマーク及びロゴタイプを使用する際の余白の取り方や、各メディアに対応するロゴタイプのカラーバージョンの規則を設定し、整合性のある規律の取れたロゴマークとなっています。
完成した企業ロゴの展開例
レターパッドや名刺、ホルダーやエントランスパス、WEB上のホームページやスマートフォンのアイコン等すべての媒体に適応し、一貫したコーポレートアイデンティティを形成することを可能とした秀逸な企業ロゴと言えるでしょう。
自身のパーソナルブランディング事例
次はSantoro氏自身のパーソナルブランドのデザイン製作例です。
まずはロゴですが、Gianluca Santoro氏の頭文字である「g」と「s」を縦列に組み合わせ、明確でモダンなモノグラムで形成しています。二つの文字をミックスしながら、小文字のアルファベットが持つ柔軟性や流動性をより一層生かした形態を作り上げています。
このマークを基本に、自身の氏名とGRAPHIC DESIGNERを明記したロゴタイプを制作。様々な用途に合わせて使用できるよう、ロゴタイプを下部に配置したものと右側に配置したものの二つのバージョンがデザインされています。
カラーリングにはPANTONEのP179-10Uと179-2Uを採用。二色の濃淡グレーのコンビネーションは穏やかで落ち着いた印象を与え、上品でエレガントな雰囲気も醸し出しています。
このロゴマークも、名刺やレターパッドなどあらゆるビジネスキットに使用されていますね。ロゴマークを端然と上手に配置し、すべてモノクロームを主体としたこれらの媒体から「誠実できちんとした仕事を提供するグラフィックデザイナー」 の像が伺えます。
その他各種ロゴデザインの制作例
Santoro氏が2015年から2017年にかけてデザインした一連のロゴデザインを見てみましょう。
ファッションメーカー96 Dress Lab の企業ロゴです。上部をカットした9と下部をカットした6に半円を組み合わせてできています。すっきりしたシンボルでは視覚性に優れ、おしゃれなテイストのロゴに仕上がっています。
こちらは若いロックミュージシャンを発掘、プロモーションする新しいロック・レーベルBloom Recordsのロゴです。ロックというジャンルを視覚的に感じさせつつも、新鮮さと斬新さを与えるロゴというテーマでの制作依頼を受け、Santoro氏が掲げたモチーフは「ダーツの矢」と音響機器アンプ・エレキギターやベースの接続に使われる「プラグ(シールド)」でした。
新進ミュージシャンの発掘ということでダーツの矢を、またロックミュージックに欠かせないものとしてプラグ、ということからこのモチーフが選ばれたのでしょうか。 ダーツの矢の先をプラグに置き換え、二つの要素をミックスして作られたのがこのロゴデザインです。下部に配置されたサンセリフ体のタイポグラフィーともマッチし、力強さや俊敏性が連想されるテイストです。
こちらはホスティングサービスWho’s Hosting Me? の企業ロゴです。 Who’s Hosting Meの頭文字「W」「H」「M」を、ホスティングサービスいうことでウェブ(波)を連想させるようにモノグラムで組み合わせられています。 シンプルながらインパクトがあり、デザイン性の高いロゴです。
同じくモノグラムで作られているのはHuber Buildingの企業ロゴです。建設会社ということで、 頭文字「H」と「B の組み合わせが建物や間取りをイメージさせる様相になっています。
こちらは、靴下メーカーUrban Socks の企業ロゴです。頭文字の「U」字を真ん中でカットし、水平に三本のホワイトラインを入れています。一見して「U」とも一足の靴下とも認識できるロゴデザインです。
Santoro氏のデザインは、余白の見せ方を利用して見る人の意識を惹くタイプのロゴが多々あります。
Caterina Vaccaroはパーソナルロゴで、頭文字の「C」と「V」を組み合わせたものです。「C」はコンマ形を残しカットされ、「V」 は小さな三角形を残してカットされていますね。余白部分が多いにも関わらず「C」と「V」 が認識できるように全体が纏まっています。
ケータリング会社Mondo Caffè Marconi、スポーツウェアメーカーENBの双方の企業ロゴも頭文字が主体ですが、Mondo Caffè Marconiは二つの「M」字の間にCaffèを表すコーヒーカップが、ENBは「N」が白抜きの文字でデザインされています。
まとめ
規律正しいデザインで制作されたロゴは、見る人に安心感や親近感を感じさせるだけではなく、時間の経過や流行に惑わされない永久的なブランドコンセプトを伝えていくことが可能です。Gianluca Santoro氏のロゴは、自身のセンスを随所に盛り込みながら巨匠の教えを忠実に反映させて創られています。シンプルな要素で細部に渡り配慮を施すSantoro氏の制作姿勢は、優れたロゴ制作への足掛かりとなるものではないでしょうか。
design : Gianluca Santoro ( Italy )
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