デザイナーにとって、企業や商品、サービスのブランドロゴやシンボルを新しくデザインすることは、様々な観点からの総合的な考慮が求められる作業です。ロゴを形成するためのコンセプトから発し、イメージ、サイズ、形、カラーリング、使用フォントなど、考えなければならないことが数多くあります。企業のロゴマークは、目標や理念、そしてユーザーに向けたメッセージを凝縮した、言わば『企業の顔』。企業のブランドイメージに合致したデザインであることが基本ですが、ビジュアル的に誰が見ても理解しやすく、記憶に残るものであることも必要不可欠です。
優れたロゴデザインを作成するためには数々の手法がありますが、中でも大切なのはシンプル性とストーリー性です。個性的でありながらも分かりやすいシンプルなロゴマークや、色や形など、全ての要素によってブランドを具現化したことが彷彿できるロゴは、時間の経過や流行に惑わせられることのなく、永久的にブランドコンセプトを伝えていくことが可能です。
ポーランドの首都ワルシャワを拠点として創作活動を繰り広げているデザイナーのGravika 氏は、白と黒のモノクロームのカラーリングを使用し、想像力を掻き立てるロゴを多数発表しています。彼女仕事を紹介し、ロゴのデザインのあり方について考えて見ましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Gravika! )
ペット用品会社のロゴデザイン
最初の制作例は、インターネットサービスによってペット用品を販売するポーランドの企業『Pets Pupilion』社のロゴデザインです。一般的に白と黒で統一されたロゴは、重量感や力強さを感じさせることができます。また、ネガティブスペースを上手に利用してより強いインパクトを引きだしたり、ポジティブ・ネガテイブの上手な視覚的構成によりモチーフの数を増やしたりすることも可能です。ペット用品を取り扱っているということで、このロゴのモチーフは犬と猫。黒色をベースにした猫に、余白部分で犬を表現した構成です。黒色(猫)と白色(犬)の面積比もほぼ同等で組み合わされています。
会計事務所の企業ロゴデザイン
次は、1994年より、ビジネスの立ち上げ・実行・清算と、ビジネスのパフォーマンスを円滑に遂行させることを業務とする経理会計事務所『RAAKS s.c.』社の企業ロゴです。この事務所のモットーは、信頼性とプロフェッショナリズム。機密性を保ちつつ、最新のITソリューションを採用しながら、各クライアントのニーズに応じた多様なサービスを提供しています。
Gravika氏が提案したロゴは、ブラックの円の中から放射する数本のラインで構成されたもの。このラインは、『RAAKS s.c.』社の多岐に渡る業務内容を示唆し、外に広がっていくことで、 幅広いビジネス展開やその継続性を匂わせる表現です。会社の名称「RAAKS 「BIURO RANCHUNKOWE」を、一番下のラインをベースとしてロゴマークから流れるように配置し、シンボルマークとロゴタイプの一貫性のあるスタイリッシュなデザインとなっています。
グラフィックデザイン事務所のロゴデザイン
こちらはグラフィックデザイン事務所のために作成されたロゴマークです。出版や広告、印刷、映像などのデザインやレイアウトを主とする事務所『Grafitowe』社のロゴのモチーフにGravika氏が採用したのは、頭文字の「G」とグラフィックの創作活動に欠かせない「ペン」と「筆」。「G」の字の先端をペンと筆に置き換え構成されています。ペン先の持つ確固とした精密なイメージと、筆先の奏でる自由で独創的なイメージで組み合わせられたこのロゴは、『Grafitowe』社の創作方針を暗示させるテイストとなっています。
イベント企画会社のロゴデザイン
こちらは、海外では著名なのにポーランドではあまり知られていないDJアーティストやミュージシャンのイベント、コンサート、パーティーを企画する『Soulution Group』社のロゴです。『Soulution Group』は、音楽の分野で優れた才能のあるアーティストを発掘、イベントを通して聴衆にプレゼンテーションし、ジャズ・ファンク・ラップなど幅広い音楽文化に貢献することを業務としています。
Gravika氏が提案したのは、レコードの中で光を放つ電球がモチーフのロゴ。素質がありながらも認知度の低いアーティストに焦点を当て、その才能や技術を多くの人たちに知ってもらいたいという、まさに『Soulution Group』のコンセプトを形で表した制作例です。
工業デザインユニットのロゴデザイン
『KOFILOLEKTIF』は若い二人のデザイナー、Gabriela Kowalska氏とKrzysztof Filipczyk氏が形成するデザインユニットです。現代的なインダストリアルデザインの作品を創り続けているユニットですが、中でも彼らのシンボル的な作品は、多岐にわたるガラス製品のデザイン。Gravika氏は、ユニットの特徴を一目で推察できるロゴを制作しました。二人のデザイナーの横顔と、余白を巧みに構成して生み出されたグラスがこのロゴの要素です。
黒色の作り出す洗練された高級感の溢れるイメージと、白色の持つ清潔さやモダンな印象を上手に組み合わせた 秀逸なロゴマーク作成例です。
写真スタジオのロゴデザイン
こちらは、Tom Sochacki氏と Dom Sochack氏によってイギリスで経営されている、写真スタジオ『Tomsochacki Photography』社の企業ロゴです。ロゴのモチーフとなったのは、彼らの名前を構成するアルファベットの「T」「O」「M」「D」の文字。T字を二つ傾けM字を生み出したり、同じくT字と上部の白いラインで横たわったD字を成形したりと、文字を自由に回転させることで新しい様相を形成しています。また、「O」字を模した丸は、写真スタジオに相応しいカメラのレンズを彷彿させます。
戦争の歴史を伝える総会のキャンペーンロゴデザイン
こちらのロゴは、2010年の『Rada Ochrony Pamięci Walk i Męczeństwa(戦争と殉教の記憶と保護のための総会)』ためのグラフィックコンテストに参加した作品です。この総会は、ポーランドの国の戦争の歴史を後世に伝え、国に貢献した人々や機関を永久的に評価することを主旨としています。2010年の総会開催に際して、高齢者にも友好的であり若者への興味を引く現代的なロゴデザインの募集がなされました。
Gravika氏は、「人間の目」「記憶の維持」「燭台に灯る永遠の炎」の三要素を基本に、ロゴを制作しました。白と黒のセンスの良い使い分けを施し、モノクロームが生み出すシンプルながら明確な表現でこの総会のメッセージを描写している作品です。
まとめ
Gravika氏が作り上げるモノクロームでも豊かな表現力を持つロゴを、駆け足で見てきました。モノクロームの優れたロゴを構成するには、企業コンセプトや商品・サービスのメッセージを的確に捉え、合致した最小限のモチーフを見出すことがポイントです。また、デザイナーのセンスが直接反映されるのもモノクロのロゴの特徴であり、デザイナーの力量が大きく問われます。Gravika氏の仕事は、ロゴ制作を試みるデザイナーに一つの方向性を示しているのではないでしょうか。
design : Gravika ( Poland )
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