みなさんはブランディングをデザインする際、グラフィック的にどんなことに重点をおいて作業されていますか。企業や商品・サービスのブランドのイメージや受ける印象、また記憶に大きく影響を与えるのが配色と書体です。
色の認識についてですが、年齢、性別、出身地、時代など、先天的・後天的な要素をミックスして、それぞれの層に好ましい色や苦手な色などの相違が見られます。個人差はありますが、特に年齢によって認識する色は異なります。若い人の方が色をはっきりと認識でき、歳を重ねるごとにだんだんと色への感受が低下するという事実より、向き、不向きの色が生まれます。また、一般的に言われていることですが、男性がシンプルなものを好み、女性が派手なものを好む傾向があるのも事実です。
書体に関しては、それぞれの書体にはイメージを施すキーワードが存在します。例えば、サンセリフ系の最も使用頻度の高い書体ヘルベチカには、『堅実な』『真面目な』『安定した』などのイメージ、またセリフ系のローマン体やスクリプト系(手書きによって生み出されるような筆跡)の書体には、『洗練された』『都会的な』『女性的な』イメージがあります。
つまり、ブランディングにおける書体は、「その企業や商品・サービスが消費者に対してどのような口調で語りかけるか」という要素を含んでいるものなのです。
ブランディングデザインはターゲットを意識したイメージ戦略が大きな課題です。今日は、ターゲットに合わせた配色と書体を上手に選定しながら、数々のロゴを作り上げている、ポーランドの首都ワルシャワのグラフィックデザイナー Zuzanna Rogatty 氏のアートワークを見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Zuzanna! )
ヴィーガンに向けたブランドデザイン
最初のロゴは、Rogatty 氏の経営する、ヴィーガン(酪農製品も食べないベジタリアン)愛好家や、そのライフスタイルに興味のある人たちに向けて作られたブランドです。動物製品の使用を一切行わない生活様式であるヴィーガニズムの推奨と、ヴィーガンダイエットは心身に優しく健康的なダイエットであることのデモンストレーションを目的としています。
また、ここで取り上げられているファッションアイテムは、ブランドや業界と協力した衣服が作られる作業環境の改善を目指すFAIR WEAR財団、有機繊維を日常生活に浸透させ人々の生活や環境を向上させるビジョンを持つGOD(Global Organic Textile Standard)国際繊維規格など、様々な財団・アソシエーションより承認を得ています。
まず、真っ先に目に入ってくるのがそのロゴタイプです。
手書きの流れを残したカジュアルなスクリプト書体で描かれた『Veganise!』は、生き生きとして健やかなイメージを彷彿させるロゴタイプです。文字の配置の仕方も特徴的で、緩やかな曲線の上に載せてリズム感を出しています。ファッションアイテムとしてのTシャツやトレーナーに用いられたグラフィックモチーフも同じテイストのアルファベットで構成。堅苦しくない楽しい雰囲気で綴られたユニークなモチーフは、シリーズ一環としての共通な健康的イメージをもたらしています。
全てのアイテムに使用される配色のベースには、自然界からの色が選択されました。空の青や大地のブラウン、石や灰・煙をイメージさせるグレーなど、ファッションアイテムやパッケージングに合わせて品位の感じさせられるカラーリングがされています。
健康食品や健康に関するブランドで大事なのは、ナチュラル感に加えて、内側から・外側からの元気を提案する『活気』、 こだわりの素材やテイストを表す『厳選』、心も身体も癒される『優しさ』のイメージです。Veganise!のロゴマーク、グラフィックデザインはこれら全てのイメージが網羅されています。
製菓企業のPOPさ溢れるロゴ&ブランディングの制作例
こちらは、ポーランドのある若い女の子が経営するペイストリー(小さなケーキやタルト類)の企業です。ハンガリーの伝統的なペイストリー『Słodki Komin』(英語名Chimney Cake「煙突のケーキ」より付けられた名称)を販売しています。
Rogatty 氏が試みたのは、このケーキの存在性をはっきりさせること。ポーランドでは知られていなかったケーキなので、視覚的なブランディングデザインのコンセプトは「新鮮」で「目を引くもの」であったそうです。
このコンセプトに沿って制作されたロゴタイプは、オリジナルのスクリプト系の書体で、ポップさに溢れています。カラーに関しては、明度・彩度の高いピンク色、黄色、ターコイズブルーの三色を採用。この強いコントラストを持つ三色は、明るく陽気で華やかな雰囲気を生み出しています。
全ての宣伝媒体(ショップカード、パッケージ、メニュー、運搬用トラック、エプロンなど)は背景の白・黒色を加えた三色のカラーリングとユニークなロゴタイプで構成され、商品アイデンティティを確立し、ターゲットの若者へのブランドイメージの向上を担っています。
文化フェスティバルのアートワークとテーマロゴ作成例
最後に見て頂くのは、ポーランドのワルシャワで毎年開催される映画と芸術の文化フェスティバル『Dwa Brzegi』のアートワークです。
川を挟んで二つのホスティングの町では、最新映画の試写だけではなく、映画製作者たちの数々の講演会やライブコンサートなど盛りだくさんのイベントが計画されます。Rogatty 氏は、第九回目に続き、第十回目のこのフェスティバルでもアートディレクションを行いました。
フェスティバルのロゴの制作やブルーを基調としたブランディングを行った第9回目のデザイン性を踏襲し、より視覚性を上げることと今まで以上の親近感を持たせることを念頭に置いたデザインです。
10回目の記念エディションということで『10』の文字を散りばめ、 このフェスティバルの重要性を参加者やビジターの記憶の中に残すことのができるようにイラストレーションの中に盛り込むという工夫もされています。
発色の良い鮮やかな赤、黄、青色がテーマカラーとして採用。イベントのプログラムやフライヤーデザイン、ポスターデザインに限らず、講演会ステージのセットや巨大バナー、ピンやポストカード、アイデンティティ・カードにも共通の一貫したデザインテイストで制作されました。お祭り気分を増長し、誰にでも認識してもらえるこの作品群は、幅広い年齢層の大衆に向けて行われるデザインの好例と言ってよいでしょう。
まとめ
商品・サービスの本質やニーズをよりよく把握し、ターゲットを想定することはブランドのデザインをする上で最も基本的なことです。今回見て頂いたZuzanna Rogatty氏のロゴデザインは、それぞれのターゲット層に対し、ブランディングを通してメッセージを送るための最適な書体と配色が選ばれています。書体と配色がブランドに与える影響力を感じさせられます。
design : Zuzanna Rogatty ( Poland )
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