現代社会において、企業や商品、サービスの増加に伴い、世界中の至る所で目にするのがロゴマークです。単なるイラストレーションではなく、企業理念や方針、商品やサービスのコンセプトを凝縮したシンボルがロゴマークで、それぞれのブランドアイデンティティを向上させるための重要な基盤の一つです。
企業や団体に限らずフリーランスのアーティストが個人でロゴマークを持ち、自己表現する例も、昨今では多く見かけるようになりました。デジタルコミュニケーションの普及に際し、自身のブログやホームページを立ち上げる際に専用のロゴを使用したり、インターネット上のメッセージやチャットルーム、掲示板などで同じ顔や形態が並ぶアバターよりも個性が主張できるロゴを挿入したり、という事例も多くなっています。
個人のパーソナリティーを反映させたロゴマークは、自身をブランド化するのに最適なアイテムとも言えるでしょう。 ブラジルの南東部に位置するベロオリゾンテ市でデザイン活動を展開している Jhony Soares 氏は、魅力的なパーソナルロゴを創造しているグラフィックデザイナーです。 今日は、視覚的な調和を保ち美的センスに溢れる彼の作品をご紹介しましょう。 ※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Jhony ! )
女性フォトグラファーの繊細さを表現したロゴマーク
はじめに見て頂くのは、ブラジル出身の女性フォトグラファーAline Silmara氏のロゴ制作プロジェクトです。
Silmara氏は、女性、子供、妊婦を被写体にした写真を多数撮っているフォトグラファー。写真を記録としてだけではなく、各被写体が持っているイメージによって人間の根本的な繊細さを表現することをモットーとしています。彼女のトレードマークとなるロゴの作成にあたって、Soares氏は、プロフェッショナルな写真家Silmara氏がどのような人物なのか、ロゴから彼女のアイデンティティーを彷彿できるものをデザインすることをコンセプトとしました
黄金比を活用したロゴの制作過程
ロゴシンボルの形態を生み出す取り掛かりとなったのは、黄金比の利用です。
古代ギリシャ時代に建てられたパルテノン神殿の建築に取り入れられた黄金比は、人類が視覚的に最も美しいと感じられる縦横の比率です。レオナルド・ダ・ヴィンチによって描かれた「モナリザ」や「最後の晩餐」、近代建築ではバルセロナのサグラダ・ファミリア、日本においては金閣寺や唐招提寺金堂の構成や葛飾北斎の作品「富嶽三十六景神奈川沖浪裏」など、世界中で多くのアーティストが時代を超えて意図的にこの比率を使用し作品を創作してきました。
身近なものとしては名刺をはじめとした様々なカードやハガキ、Apple社のロゴや様々な製品形態にもこの黄金比が使われていますね。自然界の中でも、生きた化石と呼ばれる「オウムガイ」の殻の形状、松ぼっくりのカサやひまわりの種の配列の仕方など、至る所で見られる比率です。
Soares氏はロゴのモチーフに花のシルエットを採用。黄金比に沿って選択した大小二つの円を基準とし、螺旋状に組み合わせることにより細やかでエレガントな雰囲気を醸し出す花のシルエットを構成しました。単一の太さの線でシンプルに描くことにより、モダンでポップなテイストも同時に漂わせています。
また、出来上がったロゴの様相は、カメラのレンズの絞りの形状にリンクさせていることも注目です。
ロゴの書体とカラーリング
カラーリングは、カメリアローズとアーガイルパープルの二色に設定。柔らかで優しい女性的な印象を持つピンク系カラーと、想像力を掻き立て感性を豊かにするイメージを持つパープル系カラーのコンビネーションは、写真家Silmara氏の人間性や彼女の創り出す上品な写真アートを表現するのにぴったりの組み合わせです。
ロゴシンボルに並列するロゴタイプの書体には、ミニマルなデザイン媒体にもマッチするサンセリフ系のQuicksandが採用されました。サンセリフ書体の特徴である高い視認性持ち、バランスのとれたカジュアルでフェミニンなテイストの書体です。
細かなデザインのバリエーション展開
ロゴシンボルのデザインに黄金比を使用したSoares氏は、ロゴシンボルとロゴタイプの配置にも幾何学的に精密な検証を行ない、縦列、並列に配置した場合の余白を含めた各々のパーツの大きさや比率を細かく設定し、視覚的に安定した構成を提案しています。
デザイン媒体によって異なる各種ロゴのバリエーションに最大の配慮をしていることも特徴です。媒体によって、ロゴシンボルのみのもの・ロゴタイプのみのもの・ロゴタイプのみで名前と職業の表記・名前だけのもの等、幾つものバリエーションが想定されています。全て一貫したテイストで丁寧に展開されている豊富なバリエーションは、フォトグラファーAline Silmara氏の質の高いプロフェッショナル性のイメージへと繋げ、彼女のブランド力を向上させる働きを施しています。
クラブDJのシンプルかつ印象的なロゴマーク
次に見て頂くのは、Soares氏が創作したDJ/アーティスト、Ribeiro Fabrinni氏のロゴデザインです。Fabrinni氏はブラジルのベロオリゾンテ市を本拠地とし、多数のディスコやクラブで活躍している新進のDJ/アーティストです。
ロゴマークのコンセプト
彼のパーソナルロゴマークを制作するのにあたり、Soares氏がベースにしたのは、DJやミックスミュージックを語る音源の波形です。全ての音の成分を持ったノコギリ型の形態がロゴデザインのスタートとなりました。
この原型である音波のノコギリ型をアルファベットの『NN』と組み合わせ、出来上がった形がロゴマークの様相です。
『NN』はFabrinni氏の苗字の中に含まれるダブル『N』ですが、どうしてこの『NN』が採用されたのでしょうか。一般的にラテン系の人物の氏名では、『N』や『R』、または『C』などのアルファベットをダブルで使ってもシングルで使ってもあり得るタイプが多く実在します。例えば本件のFabrinni氏の苗字『Fabrinni』ですが、『Fabrini』という『N』を一つだけ使う苗字も存在します。もちろん、発音の仕方からシングルかダブルかを聞き分けることはできますが、現地の人たちでも間違ってしまうことが多いのが現状です。このため、氏名の間違いを避けるために名前を言う際に、「Nが一つのFabrini」や「ダブルのNのFabrinni 」「Ricardoじゃなくて、ダブルのC のRiccardo」 といった言い回しで氏名を紹介する状況が日常生活の中で頻繁に行われます。
DJアーティストとして、名前をきちんと覚えてもらうことは最大の重要事項。Soares氏は、ロゴマークの中に『NN』を投入し、Fabrinni氏の正確な苗字を視覚的に認識してもらう操作を図ったのではないかと思われます。
グリッドを用いて直線的な美しさのあるデザインに
ロゴタイプの構成には幾何学的なグリッドシステムが使われました。ロゴを作成するプロセスにおいて、グリッドを利用してのロジカルな形態の創造は、図形の調和を施し美的センス溢れるものを仕上げるのに有効な方法です。
縦横のベースラインのグリッドを基盤に、大文字のFABRINNIを並べAやRの斜めの部分より用いられたラインをグリッド内にサブラインとして挿入し、ロゴタイプをデザインしています。NN部分にはロゴシンボル『NN』をインサート。この部分はブルーのカラーリングがなされ、他の文字よりも文字の高さが若干高くなっています。ロゴシンボルの認識を一層施すアクセントとしてデザインされています。
色に囚われないロゴデザインのバリエーション
ロゴマークのカラーリングには、赤・青・緑・黄系統の蛍光カラーが採用されました。 色鮮やかで華やかな印象を持つHIPHOPやエレクトロ、テクノ等のクラブミュージックのイメージと連動し、Fabrinni氏のDJ活動を象徴するカラーリングとなっています。
まとめ
アーティストのプロフェッショナル性を幾何学的に上手に視覚化させ、ユニークなパーソナルロゴを作り上げるJhony Soares氏のデザインを見てきました
企業・商品・サービスのイメージを決定付けるロゴマークはビジネス戦略において極めて重要な要素です。個人事業でも同様で、優れたロゴは多くの人の目を引き認知度を上げ、自己アピールをするためには欠かせないアイテムです。 事業形態の多角化が今以上に顕著になると予想される将来、 パーソナルロゴを目にする頻度も益々増えていくと思われます。Jhony Soares氏の仕事は、パーソナルロゴデザインの良い参考事例と言えるでしょう。
design : Jhony Soares ( Brazil )
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