
ポルトガル第2の都市ポルトにスタジオを構えるデザインエージェンシーAnother Collectiveは、深く戦略を練りながら創造する職人集団です。彼らのこだわりを、クライアントは「情熱」と呼びます。
これまで手掛けてきたプロジェクトを見て感じるのは、Another Collectiveがロゴタイプの名手であることです。モダンとレトロが融合したデザインは、どれもユニークで力強く、大胆さと繊細さの両方を持ち合わせたスタジオであることがわかります。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Another Collective!)
Another Collectiveのロゴに見る「タイポグラフィだけで個性を出す」手法
Another Collectiveのロゴデザインは、シンボルマーク(アイコン)を使わずタイポグラフィだけで個性を表現している事例が多く見られます。この「ロゴタイプのみ」のアプローチが機能するのは、文字の形そのものに独自の処理(特定の文字の一部を削る、文字と文字を繋げる、一画だけ色を変えるなど)を施しているからです。
既存のフォントをそのまま並べただけでは個性が出ませんが、「1つの文字に1つだけ手を加える」処理を加えると、ロゴタイプに記憶のフックが生まれます。シンボルマークなしで印象に残るロゴを作りたい場合、「どの文字のどの部分に手を加えるか」の1点だけに集中する方が、全体をいじるよりも効果的です。
変容しながらクライアントの本質を表現するロゴ

建築家André Dias Araújo氏が2006年に設立したアトリエArquitetura e Designは、都市計画、エンジニアリング、施工管理、監督、コーディネートなどのサービスを提供しています。
建築アトリエArquitetura e Designは、都市計画からインテリアまで、規模の異なるさまざまな種類のプロジェクトを手掛けています。多方面の分野の専門家からなるチームは、そのときどきの状況に応じて変化します。その様子を、Another Collectiveのロゴが表現しています。
建築物のようにさまざまな顔を見せるモノグラムロゴ

アトリエの名前「Arquitetura e Design」は、英語にすれば、「Architecture and Design」で、建築とデザインという意味です。頭文字はAとDです。リブランディングを依頼されたAnother Collectiveは、このAとDを組み合わせたモノグラムをデザインし、特別な柔軟性を持つロゴを生み出しました。
直線で描かれたロゴは、建築物の輪郭や、部屋の見取り図などを思わせます。このデザインのユニークな点は、ロゴを配置するエリアの空間に合わせて、プロポーションが自在に変化することです。おもしろいことに、天地左右のプロポーションだけでなく、「A」と「D」の文字幅の割合も変わります。ダイナミックロゴのひとつの形と言えるかもしれません。
建築物は、与えられた敷地や構造物の大きさ、プロポーションが、ケースごとに異なります。また、建築物の間取りもさまざまです。それを思えば、Another Collectiveが変幻自在なロゴデザインを思いついたのは、自然な流れでしょう。しかし、デザインをゼロから作り出して、具体化するのは簡単なことではありません。また、うまく視覚化できるかどうかも別のことです。

基本的に無彩色で構成されたパレットは、モダンでクールなトーンですが、ADロゴは、幾何学的なデザインでありながら、不思議なことに、ぬくもりも感じます。エンボス加工をほどこされた、ミニマルなビジネスカードは、建築家らしい洗練とクリエイティビティを印象付けるデザインです。
Art Direction Another Collective
Design Bruno Soares / Eduardo Rodrigues / Joana Moreira
Motion Graphics Nuno Leites
Client André Dias Araújo — Arquitetura e Design
Year 2018
サービス内容と矛盾するアプローチがとられたブランディング事例

建設現場の進捗状況を施主と共有するアプリが日本でも開発されているようです。もしかすると、工程管理のデジタル化は進んでいても、施主やクライアントとの情報共有についてはこれからなのかもしれません。
建設プロジェクトの各工程を詳しく知りたい、というクライアントのニーズにこたえるために生まれた建設会社が「AR2」です。この新しいコンセプトの建設会社のブランディングをおこなうにあたって、Another Collectiveは、20世紀前半にインスピレーションを求めました。
レトロモダンなデザインでビジネスの独自性を表現

1900年代前半には、バウハウス、構成主義、アール・デコといったアートの大きな潮流や、現代のグラフィックデザインの基礎といえる国際タイポグラフィ様式などが起こりました。この時代には、手書きのレタリングに基づいたオーガニックな書体から、機能的でシンプルなサンセリフ書体まで、個性の際立つデザインが数多く生まれています。
Another Collectiveの生み出したユニークなロゴタイプも、強さとエレガントさをそなえています。エックスハイト(x-height)がとても低く設定されているため、Rのレッグ(あし)は鍵状に曲がっています。また、数字の2は、そのエックスハイトに揃えるために、
曲線と水平線の接点の処理が独特です。

ロゴタイプ以外のテキスト要素は、シンプルなサンセリフ書体で統一されていますが、自由なレイアウトに20世紀前半の実験的な精神へのオマージュが感じられます。オレンジと黒、グレーとベージュで構成されたカラーパレットは、建築業にマッチした堅実さと、アーティスティックな主張のブレンドです。
モダンとレトロという相反するデザインを同時に取り入れるアプローチで、AR2のビジネスコンセプトの先進性が表現されています。
Art Direction Another Collective
Design Bruno Soares / Eduardo Rodrigues
Motion Graphics Luís Pedro Ferro
Client AR2
Year 2019
つながりと独自性を同時に示すラベルデザイン作例

Another Collectiveが依頼を受けたプロジェクトは、赤と白のワイン1組のビジュアル・アイデンティティの制作でした。
ポルト市のAvessoグループは、形態の異なるいくつかのレストランを経営しています。その中には、ポルトガル料理や地中海料理を提供するレストランEsquina do Avesso、寿司レストランSushiaria、そしてステーキレストランTerminal 4450があります。
Another Collectiveが目指したのは、その3店舗向けのそれぞれ独立したデザインであると同時に、Avessoグループとして一貫したアイデンティティを示すラベルを作り出すことでした。
店舗のイニシャルを大きくあしらった高級感のあるラベル

店舗ごとのアイデンティティを示すグラフィック要素としては、店名の頭文字が選ばれました。「E」「S」「T」をそれぞれのラベルに大きくあしらうことで、店舗ごとの独自性を確保しています。


一方、グループ全体をまとめているグラフィックは、オーガニックな曲線を重ねた要素と、ボーダーをゴールドの箔押しにした角丸の矩形です。
店舗ごとの視覚的な独自性は、頭文字を大きくレイアウトしたことだけでなく、グループ全体の統一グラフィック要素に重ねる位置を変えることでも作り出しています。
ラベルは、箔押しと厚盛りを贅沢に使用。ゴールドと無彩色のカラーパレットとあいまって、とても高級感があります。
Art Direction Another Collective
Design Bruno Soares / Eduardo Rodrigues / Paulo Portela
Photography Álvaro Martino
Client Avesso — Terminal 4450 / Esquina do Avesso / Sushiaria
グリッドに基づくタイポグラフィックなビジュアル・アイデンティティ

リスボンのLobo Vasquesは、税専門の法律事務所です。世界的視野を持ち、有力クライアントのために税務に関する課題を解決します。
ブランディングを依頼されたAnother Collectiveは、同事務所の文化と哲学をタイポグラフィックなデザインで視覚化しました。グリッドに基づいた整然としたレイアウトです。ロゴタイプを大きくあしらい、罫線を効果的に使っています。
このデザインを考えるにあたり、ヨゼフ・ミュラー=ブロックマンの作品を研究したと、Another Collectiveは明らかにしています。ヨゼフ・ミュラー=ブロックマンは、現代のグラフィックデザイナーの必読書『グリッドシステム』を著した、スイスのグラフィックデザイナーです。


ロゴタイプの「V」「A」には、インキトラップ のあたらしい解釈といえるような処理がほどこされています。「Q」のテイル(尾)も独特の形状です。
余分なものを排除して、明快さを追求するグリッドシステムの考え方と、税法をもとに複雑な状況から最適解を導き出す法律事務所のあり方には、共通のものがあるように思います。一方で、ユニークなロゴデザインや、大胆なレイアウトからは、Lobo Vasques法律事務所の意欲的で挑戦的な態度が感じられます。
Art Direction Another Collective
Design Bruno Soares / Eduardo Rodrigues
Web Design Bruno Soares / Eduardo Rodrigues
Developed Untile
Copy Ricardo Barbosa / Pedro Tavares
Photography Álvaro Martino / Adalberto Duarte
Motion Graphics Lyft Studio
Client Lobo, Vasques & Associados – Sociedade de Advogados
Year 2020
「戦略的なロゴデザイン」とは「使われる場面から逆算して設計すること」
Another Collectiveが「戦略的」と評される理由は、ロゴの見た目の完成度だけでなく、「このロゴがどの媒体で、どのサイズで、どの背景色の上で使われるか」を逆算してデザインしている点にあります。
Webサイトのファビコン(16×16px)でも判別できるか、モノクロのFAXで潰れないか、看板サイズに拡大しても粗くならないか。これらの運用条件を制作の初期段階から設計要件に組み込むことで、「完成してから使えないことに気づく」手戻りがなくなります。戦略的なロゴとは「あらゆる場面で機能するように最初から設計されたロゴ」です。
design : Another Collective (Porto, Portugal)
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