クロアチア共和国は、アドリア海をはさんでイタリアの対岸にあります。サッカーやテニスを通してクロアチアの名前を記憶しているひとが多いかもしれません。また、スタジオジブリのアニメ作品に登場する美しい街もクロアチアの都市をモデルにしたといわれています。
首都ザグレブを拠点に、ブランディング、グラフィックデザイン、イラストレーションを中心に活躍するデザインスタジオMireldyの制作例を紹介します。同スタジオを運営しているのは、Imelda Ramović氏とMirel Hadžijusufovićのふたりのクリエイターです。
広告業界から、美術や音楽などのアート分野、ファッション業界まで、さまざまなクライアントを持ちます。クライアントの製品やサービスを深く掘り下げ、最適なアイデアと質の高いクリエイティビティを提供して15年以上になります。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Mireldy!)
クリエイティビティがほとばしるビール醸造所のパッケージデザイン制作例
大量のホップを使った、香り高いIPA(インディア・ペール・エール)が日本でも徐々に人気が高まっているようです。ホップの種類やブレンドの仕方などによってさまざまな味と香りが楽しめます。
ベルリンのFuerst Wiacekは、2016年に創業した新進気鋭のビール醸造所です。公式サイトで自らを「冒険心にあふれた会社である」と謳い、IPAを中心に新しい味作りに果敢に挑戦しています。
豊富なラインナップには、それぞれ独特な名前が付けられています。頭がからっぽな人(Airhead)、興行主(Impresario)、イケてる(Hawt)、多色(Poly chrome)、白日夢(Daymare)、ディスコ(Discotheque)、などなど。
ビールの名前に劣らずユニークなのが、Mireldyのデザインです。自由奔放な発想で、ポップなイラストとグラフィックデザインで缶を彩っています。さながらビールの缶の1本1本がアート作品のようです。アートディレクション、デザイン、イラストレーションをRamović氏が担当。クリエイティビティが躍動しているのを感じます。
ビールとグラフィックというふたつの表現が呼応しあって、気分が上がること間違いなしですね。
「機関室」という名のゲストハウスのビジュアル・アイデンティティ
クロアチア最大の港湾都市リエカ。その港をながめるおしゃれなゲストハウスが「Engine Rooms(エンジンルーム)」です。エンジンルームといえば、自動車のエンジン用のスペースを思い浮かべます。しかし、歴史的な港町のホテルであることから、船の機関室にちなんだネーミングと考えるのが妥当でしょう。
Mireldyスタジオは、部屋の間取り図をビジュアル化しました。異なる間取りのシンボルが何パターンかあります。タイプライターを連想させるスラブ系のセリフ書体で組まれたワードロゴは、このシンボルにマッチしています。
幾何学的でモダンなシンボルは、基本的にモノクロームでポジとネガのバージョンがあります。いずれもゴールドの箔押しが効果的に使われていて、カジュアルながらもクオリティの高い時間を提供する宿泊施設であることを体現しています。
このシンボルは、ロゴマークのような固定的なものではありません。柔軟にアレンジして、ビジネスカードなどのステーショナリーから、バスローブやタオルなどのアメニティやワインのラベルまで展開されています。客室を飾るアイテムとして額縁に入れたアート作品も同じコンセプトです。アーティスティックな看板としても利用されています。
宿泊予約サイトなどでEngine Roomsの内装を見ることができます。いわゆるデザイナーズホテルなどと同じく、インテリアにこだわりを感じる素敵な空間です。その中でMireldyスタジオのデザインが、まさにビジュアル・アイデンティティを作り出していることがよくわかります。
遊び心に満ちたビジュアル・アイデンティティがスタッフそれぞれの個性も表現
クロアチアのデジタルマーケティング業界で、Drap社はパイオニア的存在です。そのDrap社からリブランディングの依頼を受けたDireldyスタジオは、まず調査からスタートします。クライアントはDrap社をどのように認識しているか。また、Drap社は自社の価値をどう考えているか、創業者からスタッフまで全員にインタビューしました。その結果から浮かび上がったキーワードは、「プロフェッショナリズム」と「ゲーム」でした。
Drap社は、強い向上心と責任感のあるプロフェッショナルの集団です。またそれと同時に、ときには子供っぽいほどの遊び心にもあふれています。相反するようなこの個性を、Direldyはユニークな方法でビジュアル化しました。
社名のアウトラインを幾何学的でシンプルな図形にしたうえで、そこに補助線的ラインで遊び心を表現しています。さらに、このラインと頭文字「D」を基本的なモチーフにして、スタッフひとりひとりの専用ビジュアル・アイデンティティも生み出しました。
ユニコーンやパンダ、スペース・ディレクター、バイク、料理など、スタッフひとりひとりの個性を楽しく表現しています。それぞれのビジュアルアイデンティティが印刷されたビジネスカードやTシャツも作られました。キャラクターの違いとプロ集団としての統一感の両方がうまく視覚化されています。
アート作品の創作プロセスで表現する現代美術展のポスター制作例
若手の現代アーティストに作品発表の場を提供するとともに、人々に絵画への興味をもってもらうためのプロジェクト「Boiling Point(沸点)」が2013年に企画されました。スタジオMireldyが、プロモーションにあたって着眼したのが、絵画制作のプロセスです。
プロダクトの製造は一般的に、できる限りの短納期とローコストなものが良しとされがちです。絵画の創作は、これとはまるで正反対です。完成した作品からは分からない工程が多くあります。想像できない紆余曲折があることもしばしばです。そこでMireldyのふたりは、そのプロセスを視覚化することにしました。素材にプラスチックの球体を作り、手作業で加工・着色。文字要素はシルクスクリーン印刷です。ポスターを仕上げるまで3ヶ月をかけました。
ゴールド、ブルー、オレンジ、ブラックなど7つのバージョンの手作りポスターは、現代美術展開催を告知するプロモーションツールでありながら、それ自体がアート作品です。美術展にうってつけのトーンで制作されたと言えます。ストップモーションで撮影されたプロモーション動画は、シンプルながらMireldyが制作した作品の力によって、とても印象深いものとなっています。
Stop motion animation: Fran Mubin, Demijan Bačić
Client: Boiling Point (Amela Pašalić & Ivana Krnjić)
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