
ジャワ島のトレンガレクを拠点に活動しているインドネシアのデザインスタジオ Widarto Impact は、食品関連のブランディングやパッケージデザインを得意としています。
消費者に身近なブランドを、遊び心のある、シンプルでインパクトの強いアプローチでサポートします。ミニマリズムは、何を削ぎ落とすか、という点で、的確な判断力と勇気が必要です。Widarto Impactのブランディング例からは、ユーモアと親しみやすさをミニマルデザインで表現するためのヒントが得られるでしょう。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Widarto Impact!)
Widarto Impactのロゴタイプに見る「巧みな文字処理」の効果
Widarto Impactのロゴデザインで繰り返し見られる特徴が、ロゴタイプ(文字のみのロゴ)の中に「さりげない文字処理」を施している点です。文字の1画を延ばして下線にする、2つの文字が共通のストロークを持つ、文字の一部をカットして空間を作る。
こうした処理は、「よく見ると気づく」レベルのさりげなさが重要です。処理が大胆すぎると文字の可読性が落ち、さりげなすぎると気づかれず効果がない。「普通に読めるけど、少し見ると仕掛けに気づく」レベルの処理が、ロゴタイプの可読性と独自性を両立させるさじ加減です。
Z世代をターゲットにしたコーヒー豆のブランディング

この20年ほど、コーヒー豆の違いを楽しむ、厳選した少量の豆を自家焙煎するような飲み方が広まってきました。アイスコーヒーでも、お湯で淹れたホットを氷で冷やすのではなく、水でじっくりと抽出する「コールドブリュー」が人気です。
日本では、最近のコールドブリューのブーム以前から、「水出しコーヒー」として親しまれていました。そして、水出しコーヒーが生まれたのは、インドネシアがオランダ領だった時代です。そのため、水出しコーヒーは「ダッチコーヒー」(オランダのコーヒー)ともいわれています。
シェアしたくなるキャラクター風パッケージデザインで差別化

マイクロブランドであるBountyBrewの最初の製品は、カフェと同等のクオリティを家庭で楽しめる、コーヒーとお茶のパウダーです。ペットボトルや缶のコーヒーを販売しているメジャーブランドに対抗するために、マイクロブランドであるBountyBrewは、Z世代と強いつながりが持てるデザインを要望していました。
依頼を受けたWidarto Impactは、市場の既存ブランドと差別化をはかるために、従来にないアプローチを取ります。
BountyBrewのおいしいコーヒーは、ひとびとをハッピーにします。プラスの影響を受けたら、ひとはそれをほかのひとにも伝えたくなります。Widarto Impactがねらっているのは、若い世代のユーザーが、SNSでシェアしたくなるようなデザインです。

親しみやすい目のイラストを追加し、製品名のロゴを口のようにすることで、パッケージに表情を与えました。エスプレッソはパープル、抹茶はグリーンを色地にして、ブランド名、目玉、製品名というわずかな要素をブラックで印刷。ミニマルで、いきいきとしたデザインです。
将来の商品ライン拡大も考慮したブランディング

今回のブランディングについて、Widarto Impactは次のように言っています。
「ブランドが成功して生き残るためには、一貫性が鍵となります。もちろん、製品ラインナップが今後、拡大していくにあたって、ブランドの基礎をしっかりと固めなければなりません」
具体的な説明はありませんが、すでにリリースされたパッケージを見るかぎり、表情豊かなBountyBrewのブランドアイデンティティが、新製品が登場しても対応できる柔軟性と、ゆるがない強さを持っていることは間違いなさそうです。どんな顔が仲間入りするのか楽しみです。

ブランド名BountyBrewのロゴタイプには、20世紀初頭に作られたサンセリフ書体「フランクリン・ゴシック(Franklin Gothic)」のデジタルフォント「Franklin Gothic URW」が使われています。
商品名のロゴタイプに使われている書体は、極太で丸みのあるやわらかいサンセリフ書体です。60年代のサイケデリックアートの雰囲気をほんのり感じる、レトロモダンなデザインになっています。
Client: BountyBrew
Partner : Eko Widarto
Sector: Food & Drink
Discipline: Brand Naming, Brand Identity, Packaging Design
Typeface: Franklin Gothic URW
陳列棚で強い印象を与える缶コーヒーのミニマルデザイン

こちらもコールドブリューコーヒーのブランディングです。欧米で盛り上がっているこのトレンドも、ほかの国や地域では、まだそれほど勢いがあるとはいえません。コーヒーブランド「Caphe」のコールドブリュー缶コーヒーを、アジアや中東のマーケットで成功させるためのパッケージデザインをWidarto Impactが手がけました。
記憶に残る大胆なミニマルデザイン

Capheの製品は、レモネードテイストとキャラメルクリームテイストの2種類です。
ハンドジェスチャーのイラストが1点、白地の中央にどーんとレイアウトされたパッケージのインパクトは強烈。サムズアップとOKマークの、シンプルなイラストの力強さもハンパない。インパクトねらいだけではないか、という声があるとしても、それに成功しているので、狙い通りではないでしょうか。
イラストに添えられている丸いシール状のエレメントには、ピースマークのようなイラストが描かれています。その周囲を囲むテキストは、12時間かけて抽出したことと、プレミアムコーヒーであるという情報です。

パッケージの前面のほかの要素はテキストだけです。レモネード・コールドブリュー、キャラメルクリーム・コールドブリューという製品名と内容量。キャラメルクリームの缶の上部には、甘くてクリーミー、レモネードテイストのほうは、新鮮でなめらか、という特徴が描かれています。「smooth」の「oo」が溶け合っているのは、なめらかさの表現でしょうか。
ブランド名を訴求するための究極のホワイトスペース

缶の反対側にあるのは、ブランドのロゴだけ。消費者にブランドを認知してもらうための、直球のアプローチといえるでしょう。
ロゴタイプに使われている幾何学的なサンセリフ書体は、19世紀初頭に登場したセリフ書体「イタリアン(Italian)」のように、線の太さが逆転しています。ストロークのコントラストが強い書体では、垂直方向が太く、水平方向が細いのが一般的ですが、Capheのロゴタイプは逆になっています。
陳列棚で目立つパッケージデザイン

このCapheブランド缶コーヒーのパッケージで注目すべき点は、いわゆる「コーヒーらしさ」が無いということです。象徴的なコーヒー豆もコーヒーブラウンも使われていません。「いいね」のジェスチャーとOKサインのイラストで製品のクオリティをアピールしているだけです。
しかし、この缶を飲料品売り場の棚に陳列したらどうでしょうか。このパッケージと一緒に並べられる競合ブランドの缶は、これといった特徴のない、陳腐化したデザインに見えるかもしれません。Capheの缶が確実に消費者の目にとまることは、容易に想像できます。
食品パッケージに必要な栄養成分表示などがないところを見ると、このデザインはプロトタイプかもしれません。また、国や地域によってハンドジェスチャーがネガティブな意味を持つ可能性があるので注意が必要です。いずれにしても、最優先の目的にフォーカスして、ほかを切り捨てた潔いアプローチは、大いに参考になるでしょう。
Creative Director: Eko Widarto
Illustration by Lotus White Sugito
野菜チップスのタイポグラフィックなパッケージ制作例

ボルネオ島にあるイスラム教国ブルネイの「Gigitt」はハラール認証を得た、あたらしいブランドです。Widarto Impactは、同ブランドのロゴ作成を含めて、ブランディングからパッケージデザインまでを手がけました。
商品写真を使わない食品パッケージデザイン

アジアのスナックマーケットは、さまざまなブランドがひしめきあっている、まさしくレッドオーシャン状態です。スタートアップブランドであるGigittを、既存の競合ブランドに対して差別化するために、Widarto Impactはパッケージをタイポグラフィックなデザインにしました。
マレー語やインドネシア語で「ひと口」を意味するブランド名は、ふくよかでやわらかいセリフ書体で組まれています。「g」「t」の大きなターミナルボールや「g」の耳の向きなど、細部が特徴的です。「i」のドットやターミナルボールは野菜チップスの形状を連想します。
合字(リガチャ)にされた「tt」のネガティブスペースには、控えめなアラビア数字「1」が隠れています。同ブランドのタグライン「ブルネイのNo.1野菜チップス」を受けたものです。

スナック菓子のパッケージで一般的な、シズル感あふれる写真は全く使われていません。しかし、素材である、ポテト・ほうれん草・タロイモに合わせた色地と質感が、なんともいえないシズル感をかもしているのがおもしろいです。

商品写真を使っていないこと、ロゴタイプのデザイン、絶妙な色のチョイスなどがあいまって、高級感もただよわせています。考えてみれば、日本で贈答品などに使われるパッケージも、高級になるほど商品写真やイラストは少ない傾向にありますね。
「親しみやすいミニマリズム」は「幾何学的な硬さ」を「有機的な曲線」で中和する
Widarto Impactのブランディングが「ミニマルでありながら親しみやすい」印象を持つのは、幾何学的で直線的な構造の中に、有機的な曲線を1つ加えているケースが多いからです。
完全に幾何学的なミニマルデザインは「クール」「洗練」の印象が強い反面、「冷たい」「近寄りがたい」と感じられることがあります。そこにほんの少しだけ有機的な曲線(自然物由来の形、手書き風の1本の線、角の丸み)を加えると、「洗練されているけど温かみもある」印象に変わります。この「幾何学+有機的要素1つ」の配合が、親しみやすいミニマリズムの処方箋です。
商品の外観を生かした高級チップスのパッケージ例

「ブラックポテト」と「ブラックナチョス」は、最高級オリーブオイルと黒トリュフを使った、ハイグレードラインです。こちらのパッケージデザインも、タイポグラフィ主体のコンセプトを踏襲しています。ただ、上述の3種とは異なり、透明の素材を使うことで、中味が見えるようになっています。

消費者に人気の高いブラックシリーズは、商品そのものを見せる方がアピールするという判断です。ロゴと商品名をゴールドにすることで、ハイグレードラインであることも表現しています。
design : Widarto Impact (Trenggalek, Indonesia)
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