「Less is more」 みなさまはこの言葉を耳にされたことがありますか。
20世紀のモダニズム建築を代表とする近代建築の巨匠のひとりであるミース・ファン・デル・ローエによって提唱された「より少ないことは、より豊かなこと」という意味の言葉で、無駄を削ぎ落としたものはより美しく効果的であるという考えです。 この考えをベースにし、最近のデザイントレンドとして全世界的に広く支持されているのはミニマルデザインです。
要素が多すぎて何を主張したいのかわからないデザインを避け、余分なものを極限にまで除去し、本当に見せたいものや伝えたいものだけを残した最小限度におさえたデザインがミニマルデザインです。 ユーザーへより明確にメッセージを伝えることが可能なこのデザインスタイルは、企業や商品・サービスのブランディングに影響を与えるロゴのデザインに大変有効で、近年のロゴデザインの主流となっています。
今回は、ミニマルデザイン特有の高級感や上品さを上手に演出し、洗練された多数のロゴデザインを制作している Przemek Bizoń 氏の仕事をご紹介します 。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Przemek ! )
Przemek Bizoń氏はポーランドのグラフィックデザイナーです。クラクフ市にあるポーランド最古の芸術大学The Academy of Fine Arts のデザイン科を卒業後、ポーランド中南部、シロンスク県の都市ビェルスコ・ビャワで創作活動を営んでいます。 彼のデザインの持ち味は、なんと言ってもそのミニマル性。厳選したタイポグラフィー、カラーリング、イラストレーションを使い、シンプルながら細部までバランスに拘ったハイクオリティーなロゴマークを制作しています。
ロゴコレクション
クリエイティブエージェンシーのロゴタイプ
こちらはクリエイティブエージェンシー『NONSENSE』社のロゴタイプです。 サンセリフ系のイタリック書体で構成し、カラーリングには赤色を採用。一見、非常にシンプルな様相ですが、文字間を微妙に調整したり文字配置の高さを変えたりと、視覚的に動きが感じられるテイストです。
法律事務所のロゴデザイン
こちらのロゴは法律事務所『PATRIMONIUM』のものです。 ヨーロッパ法制史の起源であるローマ法をイメージさせるオリーブの葉の冠を着けた彫像をモチーフに、モノラインで描かれたイラストレーションのロゴデザインです。 モチーフの性質とモノラインが醸し出すレトロさと、下段に配置されたスマートな社名ロゴタイプが上手く融合し、現代的な様相に仕上がっています。
タイルメーカーのロゴデザイン
次はタイルメーカー『GRUPA WIECEK』のロゴです。 この作品の特徴は、社名の頭文字「G」と「W」を活用したマークにあります。非常に少ない要素で構成されているこのマークは、左側のパーツは「G」の字をカットしたものが配置され、全体を見てみると「W を彷彿する形にデザインされています。 タイルメーカーのロゴということで、それぞれのパーツがタイルの断面のディテール形状とリンクしているところも興味深いです。
Bizoń氏は、英字アルファベットにセンスの良いカットを施し、元の文字を連想させながら一つの新しいマークを制作し、ロゴを形成する方法を頻繁に行なっています。この作品はその代表的なひとつと言えるでしょう。
歴史ある都市を象徴するロゴデザイン
KALISZ (カリシュ)はポーランド中央部に位置しポーランド最古の都市と考えられています。現在の市の中心部には2世紀から人が定住し、一帯からはローマ時代の加工品が数多く出土されています。地域工業と通商の中心地であり、伝統的な民俗芸術地としても有名です。
中世時代には大ポーランド王国の下にあったこのKALISZは、その後の歴史的の変動により、プロイセン王国、ワルシャワ公国、ロシア帝国と統治下が変わり、20世紀にポーランド共和国に再び加わったという特殊な歴史を持った市です。Bizoń氏が提案したこの市のロゴは、 起源をローマ帝国に持つというイメージを施し、街の三大遺産である歴史・伝統・質素を反映したモノラインで構成された横向きの人物像のマーク。市の振興スローガンである「Kalisz – dopisz swoją historię (あなたの歴史や声を組み入れる市、カリシュ)」に対応し、人物から発せられた吹き出しがマークの図柄に取り込まれています。
建築設計事務所の直線を活用したロゴ制作例
ここで、二つの建築設計事務所のロゴデザインを見てみましょう。
まず、『ATRIUM』のロゴですが、頭文字の「A」を使い、山形の構造物と化したフォルムを形成。上面に山形を反転したパーツを乗せ、開放感や連続性を感じられるロゴマークとなっています。
一方、『P/G: ARCHITEKCI』のロゴは、PとGの間のスラッシュを伸ばして「ARCHITEKCI」の「A」に相当する形態を取り、このスラッシュで解き放たれた感じを表しています。 どちらも建築事務所ということで、堅実で建設的なイメージに加えて、自由さや率直性を認識できるテイストになっています。
端的に内容を表現したエンブレム調のロゴマーク
こちらの作品群は、それぞれの活動内容がエンブレムのような形の中に描き込まれて作られたロゴです。
不動産会社『ROTUNDA』のロゴには、環境やスケール感・建物をイメージした絵柄。
カトリックのスポーツクラブ『ICHITYS』には十字架を主体とした絵柄。
テニスクラブ『ADVANTAGE』はテニスボールとネット。
そしてボートチームの『AMATORDKA SEKCJA WIOSLARSKA』の絵柄は、頭文字A・S・Wにボートの断面図、オール、という具合に、マークを見ただけで内容を把握できるようになっています。
これらのイラストレーションは基本的に太さが均一の線で構成されており、簡潔で無駄の無い、端然としたデザインとなっています。
タイポグラフィを用いたロゴデザイン
Bizoń氏の象徴的なロゴ作品には、用途にあった的確なタイポグラフィーをデザインセンス高くレイアウトして形成したものが多数あります。
マーケティングエージェンシー『M16』のロゴは、「M」字と「16」を掛け合わせて作られたもの。緑と黒のカラーリングの仕方にも注目です。
ソーラーパネルの『SOLAR FALCON』社には、「FALC」と「ON」を切り離し、「on」をソーラーパネルと太陽に見立てて形成しています。
幻覚剤のメスカリンと同名のデザイン事務所の『MESKALINA STUDIO』のロゴは、アルファベットMESKALINAの各文字の間にメスカリンを意味する化学記号「C11H17NO3」を挿入したもの。非常に個性的なスタイルですね。
最後はPrzemek Bizoń氏自身の事務所のロゴです。 前述のGRUPA WIECEKロゴ同様、頭文字の「P」と「B」を組み合わせ、適所にカットを施して形にしています。Bizoń氏のデザイン思想を物語る、究極なミニマルロゴです。
まとめ
「Less is more」に反する「少ないことは退屈だ – Less is bore 」というアメリカ合衆国の建築家ロバート・ヴェンチューリの言葉も存在します。確かに、少ない要素で構成される美しいミニマルデザインと退屈で垢抜けないデザインは紙一重。効果的でスタイリッシュなミニマルデザインに仕上げるには、デザイナーの器量とセンスにかかっています。
レイアウト、タイポグラフィー、カラー等を吟味し、常に細部に拘りながら制作を展開するPrzemek Bizoń氏の姿勢は素晴らしいですね。
design : Przemek Bizoń ( Poland )
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