スタジオohSevenは、韓国の首都ソウルを拠点に活躍するデザインスタジオです。世界的ブランドを含む国内外のクライアントにサービスを提供しています。
スタジオohSevenのデザインの特徴は、シンプル、ミニマルを基調としながらも、絶妙なバランス感覚によって表現が豊かになっている点です。韓流ドラマ、韓国映画、K-POPなど、韓国のカルチャーの人気は、日本でも波のように何度も盛り上がっています。
ひとびとの関心が韓国のトレンドに向けられることをきっかけに、韓国のコスメブランドも日本の消費者に浸透してきました。スタジオohSevenは、コスメブランドのプロジェクトの経験も豊かです。そのいくつかを見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。( Thank you, ohSeven! )
ヴィーガンコスメのリブランディング
「ヴィーガン」とは、人間のために動物を利用すべきではない、という考え方「ヴィーガニズム」に従って生活するひとたちを言います。
ヴィーガンは肉を食べないだけではありません。卵や牛乳など、虐待につながると考えられる動物由来の食材も口にしません。魚も食べません。また、食べ物以外に、ウールや毛皮、革製品など動物由来の製品も避けて暮らします。
こうしたヴィーガニズムの考え方に共鳴して作られたコスメ製品がヴィーガンコスメです。ヴィーガンコスメの特徴には、動物由来の成分を含まない、動物実験をおこなわない、などがあります。
デザインスタジオohSevenがリブランディングを手がけた「Veganifect(ヴィーガンイフェクト)」は、韓国で人気のヴィーガンコスメのブランドです。サステナビリティを重視し、肌への効果を追求するスキンケア製品は高く評価されています。
ブランドアイデンティティの再構築
リブランディングにあたってohSevenは、オーディエンスに伝えるべきポイントを次の3点としました。誠実なヴィーガン、クリーンビューティー、サステナビリティです。「クリーンビューティー」というのは、肌にも環境にも負担をかけない、透明性の高い製品のことです。
ユーザーに届けるメッセージを「自然の息吹、波、風、質感を感じましょう」としています。
そして、それに基づいてブランドストーリーを再構成し、スローガンを変えます。また、ナチュラルカラーを使ったミニマルなビジュアルデザインを採用しています。
Veganifectの公式サイトには、次のようなメッセージが掲載されています。
「趣旨はいいけれども効果に妥協するヴィーガンはダメ!」
「ヴィーガンの可能性をお見せします」
磨きのかかったロゴタイプ
サンセリフ書体を採用し、大文字「V」と小文字の組み合わせにしている点は、以前のロゴタイプを踏襲していますが、ピリオドは取り去っています。
前バージョンの「n」は、書体「Bauhaus」(バウハウス)などに見られるような、U字磁石に似た形状をしています。「a」の終端の処理も特徴的です。
新しいロゴタイプは、前バージョンの文字の骨格をほぼ維持しながら、全体にこまかく手を加えています。書体「Futura」(フーツラ)を思わせるような印象です。
新旧のロゴを比べると、丁寧にブラッシュアップされていることがわかります。新しいデザインは、緊密度と力強さが増しています。製品の効能をアピールするのにふさわしいリニューアルといえるでしょう。
ブランドの信頼性を感じさせるシンボルマーク
今回のリブランディングにともない、シンボルマークが新たに作られました。ブランドの信頼性を高めるのが目的です。ロゴマークと一緒でも単独でも使われます。
「v」と「e」を組み合わせたモノグラムは、ハイファッションブランドと共通する気品を感じさせるデザインになっています。
それぞれの文字がなにを象徴しているかは表明されていません。「Veganifect」の最初の2文字かもしれませんが、「vegan」(ヴィーガン)と「efficacy」(効能)の頭文字であるとも考えられます。
材料をモチーフにした上品なカラーパレット
Veganifectの代表的なスキンケア製品は、青麦(あおむぎ)の成分を含んでいることが特徴です。
以前のカラーパレットのグリーンは、青麦らしい若々しさを感じさせる色でした。リブランディングによって、くすみカラーに変更されました。「Veganifect Green」と名付けられた新しいグレイッシュグリーンは、よりナチュラルな印象で、大人の落ち着きを感じさせます。
また、リブランディングのタイミングでリリースされた新製品に、イチジクの成分を使ったものがありました。「Veganifect Pink」と名付けられたピンクも、上品なくすみカラーです。
いずれの色も、本格的ヴィーガンコスメであることを伝えるのに成功しています。
精緻なタイポグラフィとサステナブルなパッケージデザイン
新しいデザインシステムに採用された書体は、サンセリフ系の「Circe」(サースまたはキルケー)と、セリフ系の「Georgia」(ジョージア)です。Georgiaはイタリック体のみとしています。
パッケージに印字されているタイポグラフィはエディトリアルを思わせます。キッチリとしていると同時に、抑制された視覚的アレンジが施された、クオリティの高いデザインです。
以前のパッケージラベルのデザインは、ロゴに効能リストが添えられたものでした。効能に重点を置いたブランドの意図に沿ったものです。しかし、新しいパッケージデザインに比べると、素朴でやや薬品ぽさが強いように感じます。
新しいパッケージの外箱には、明るい矩形がデザイン的アクセントして入れられています。ボトルのラベルにも同じ矩形が見られます。実は、これはラベルをはがすときのタブとなっているのです。
また、ラベル全体の形状が、タブの飛び出し部分に呼応しているのも気が利いています。
Client : Boostlab
ohSeven Design
Executive director : Sukyoo Bae
Project Manager : Yunje Park, Boyeon Yeon
Designer : Chaelin Kim
Photography : Sungwoong Yoon
Motion Design & 3D : Chaeyeon Kim
メンズコスメのロゴとキービジュアルをリニューアル
日本では2010年代に入ってメンズコスメ(男性用化粧品)が話題になりました。その後、SNSや動画配信の普及、コロナ禍でのリモート会議やマスクによる肌荒れのケアなど、いくつかの要因でメンズコスメ市場は拡大しています。
ビジネスシーンでも、第一印象の大切さから、さまざまな世代で男性コスメへの関心が高まってきました。多くのブランドがスキンケアやメイクアイテムの商品ラインを拡充させています。
日本市場にメンズコスメが浸透してきた背景には、K-POPや韓流ドラマの影響もあります。韓国では、日本よりも少し早く、2000年代後半からスキンケアやメイクアップへの関心が高まり、メンズコスメ市場が急成長しました。
若い世代をターゲットにコンセプトを再構築
コスメブランド「Ideal For Men」の名前はズバリ「男性に最適」という意味です。2017年に韓国でリリースされました。
2023年になると当初からのコアユーザーの年齢層も上がりました。そこで、新たなターゲットとして、より若い年齢層にアピールするデザインにリニューアルすることになったのです。
日本でも男性用化粧品が登場したてのころは、黒やシルバーのパッケージが多かったように思います。同様に、リニューアル前のIdeal For Menもダークグレーを採用した、いかにも男性向けのパッケージデザインです。
新しいターゲットに向けたIdeal For Menのビジュアルコンセプトは、「自己肯定感と明確な価値観を放つ、自信に満ちた理想的な男性像」になりました。
力強い書体でロゴタイプをリニューアル
書体は、以前よりも太く、文字幅の広いデザインのものに変更されました。ストロークの太さに微妙な調子がついているため、重たくなり過ぎていません。また、強さとともに柔らかさも備えています。
ロゴタイプには、さらに大きな変化が加えられています。「Ideal For Men」の頭文字をアレンジした「IDFM」というロゴタイプを前面に出したことです。
ブランド名が長いため、リニューアル以前は「ideal」を大きくあしらって、その下に小さく「FOR MEN」と添えていました。これに比べると、確かに「IDFM」の方がインパクトがあります。
パッケージに印字されたロゴを見ると「ID.FM」とピリオドが挿入されています。これによって「ID」がひとつのかたまりとなって際立ちます。「ID」は「identity(アイデンティティ)」の略字でもあります。これも、自己肯定感と自分の価値観に自信を持とうという、新しいビジュアルコンセプトに沿ったアイデアなのでしょう。
ポップなカラーパレットとデザインエレメント
従来のカラーパレットがダークな色調であったのに対して、新しいパレットではブルーグリーンが選ばれました。このブルーグリーンは、淡さや明るさよりも、しっかりとした印象を与えるトーンです。
濃淡のグリーン2色と黒と白で構成されたカラーパレットは、以前とは異なるブランドイメージを、より若い年齢層にアピールするのに効果的でしょう。
このグリーンは、マーカーとして自在にデザインの幅を広げます。新しいビジュアルでは、さまざまな形状のデザインエレメントが準備されています。ロゴタイプやメッセージなどとの組み合わせで、いろいろなバリエーションが作られました。
ブランドからのメッセージは「Be yourself. Be ideal.」です。自分自身でいよう、理想の姿になろう、といった感じでしょう。多彩なデザインパターンは、自信を持って理想を目指し、ひとりひとりの個性を輝かせよう、というビジュアルコンセプトを形にしたものだと考えられます。
Client : CJ Oliveyoung
Designer : Hyewon Kim
ohSeven Design
Executive director : Sukyoo Bae
Project Manager : Yunje Park
Designer : Song-yi Gu, Jinju Kim, Jahee Lee
Photography : Sungwoong Yoon
効能の象徴を組み込んだダーマコスメのロゴタイプ
皮膚科学を英語で「dermatology」(ダーマトロジー)といいます。これに由来するのが「ダーマコスメ」です。ダーマコスメ(dermocosmetics)という言葉は、皮膚科学と化粧品のコラボレーションが始まった20世紀後半に生まれたと言われています。
ダーマコスメは、皮膚科医との共同開発など、皮膚科学に基づいたスキンケア製品や化粧品です。皮膚や髪の健康に重きを置いて、美しさを保つことを目的としています。最近の皮膚科学の進化にともない、ダーマコスメへの関心は高まっています。
韓国の最大手製薬会社、東亜製薬が立ち上げたダーマコスメブランドが「Fation」(パティオン)です。
「+」の効果と「−」の刺激
スタジオohSevenは、ダーマコスメ「Fation」のブランドリニューアルで、頭文字の「F」を「+」と「−」で表現しています。肌にプラスの効果があり、肌への悪い刺激は無い(マイナス)ということです。
書体はセリフ系からサンセリフ系に変更され、効能の確かさを感じさせるものになりました。
新しい「F」のロゴは、グリーンの矩形に白ヌキで入れられ、単独でシンボルマークとしても使われます。このとき、「+」は医療系のシンボルである十字形を連想させ、ダーマコスメであることを強くアピールします。
「F」の文字は、エッジにわずかな丸みがほどこされています。これによって、ロゴデザインが冷たく無機質になることが避けられました。とてもデリケートでこまやかな処理です。
健康的な蛍光グリーンと落ち着いたライトグレー
カラーパレットは、蛍光グリーンとライトグレー、白、黒で構成されています。
グリーンは、自然、希望、健康、再生などを表す色で、スキンケアの目的や効能を象徴しています。落ち着きと温かみのあるライトグレーからは、ダーマコスメの科学的な確かさが感じられます。
Fationとファッションとパティオン
英語の「fashion」と日本語の「ファッション」は発音が異なります。同じく、韓国語式の発音も英語とは異なります。これをアルファベットで表記したのが「fation」です。SNSやカジュアルなシーンではハングル文字ではなく、このようにアルファベットで表現することがあります。
また、韓国語では、英語の「f」の発音がなく、「fight」(ファイト)も実際には「パイト」のように発音するようです。これは、日本語には英語の「v」の発音がなく、ビオラやヴィオラなどのように表記が複数あることに事情が似ています。
このため、日本で「Fation」ブランドが紹介されるときは、カタカナ表記が「パティオン」となります。Fationのパッケージは、科学に基づいたダーマコスメらしい理知的なデザインですが、ブランド名が「ファッション」なのが面白いですね。
오세븐 ohSeven
디렉터: 배수규
프로젝트 매니저: 연보연
디자이너: 홍광표, 오유진, 김진주
동아제약 Dong-A Pharm.
원미영
design : ohSeven (Seoul, Republic of Korea)
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