
消費者のライフスタイルの多様化が進み、それぞれのニーズの顕在化がしにくい現在、共通のイメージや価値観をユーザーに持たせる手法であるブランディングの考え方がビジネスの世界では大変重要となってきています。ブランディングを正しく行うことで、競合との差異化を計り、ユーザーに明確な価値を認識してもらうことを促し、長期的な利益を得ることのできるようになる、という企業の飛躍をプッシュアップすることが可能となるためです。
ブランディングをデザインする上で避けなければならないのは、ロゴや名刺、WEBサイトなどのデザインを単におしゃれでかっこ良くした、という表層的な発想。確かにビジュアル的に美しく見せることは大事ですが、ブランディングの成功にはそれだけでは不十分です。効果的なブランディングには、ビジネスのあり方や商品価値そのものをデザイナー自身が深く知ることを必須とし、事業内容や消費者に持ってもらいたいイメージを忠実に視覚化するためのベストな方法を思索しながら、記憶に残るビジュアルメッセージとしての造形を施すことが求められます。
一瞬でブランドの価値・魅力を伝えられる、つまり話題力や販売力を宿すことのできるロゴマークやWEBサイトのデザインには、造形制作の根底に説得力のあるブランディングコンセプトの設定がなされていることが多いもの。今日は、その商品やサービスの独自性を反映させた数々のブランディングデザインを発表しているTOFU STUDIOの作品をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, TOFU STUDIO ! )
「コンセプトに根ざしたロゴ」は「コンセプトのない状態から出発したロゴ」とは説得力が段違い
この事例集のロゴが「説得力がある」のは、ロゴの形に「なぜそうなったか」のコンセプトが先行しているからです。コンセプトのないロゴは「きれいだけど、なぜこの形?」に答えられませんが、コンセプトに根ざしたロゴは「ブランドの◯◯という価値観を、この形で表現しました」と答えられます。
この「答えられるかどうか」の差が、クライアントへのプレゼン、社内の合意形成、消費者の共感のすべてに影響します。コンセプトの策定に時間をかけることは、制作フェーズに入る前の「投資」であり、制作後のプレゼンと運用における「リターン」を最大化する準備工程です。
TOFU STUDIOは、バルト海南部に面するポメージュ地方東部に位置し、グダニスク湾を擁するポーランド最大の湾岸都市グダニスクで2010年に創設されたデザインスタジオです。ブランディングデザインやコミュニケーション戦略、モーショングラフィックスを専門とし、2Dや3Dグラフィック、アニメーションデザイン、また映画制作に到るまで、グラフィックデザインを軸として幅広い制作活動を行っています。国際コンペティションにおいて多数の受賞歴を持ち、世界中のクライアントから支持されているスタジオです。
ポーランドで最も重要な文学賞のリブランディング

はじめは『Literary Prize Gdynia』のブランディングデザインです。Literary Prize Gdyniaはポーランドで最も重要な文学賞です。TOFU STUDIOはこのアワードイメージのリニューアルを担当。ロゴのリデザインをベースとし、アワードイベント全てにおけるビジュアルアイデンティティーの再構築を務めました。
ロゴについて

まずはブランディングデザインの基本となった新しいロゴのデザインを見てみましょう。旧ロゴに比べて真っ先に目につくのは、規則性と視認性の向上ですね。どちらも正方形の中に当アワード名を配置したものですが、アルファベット大文字を使用し、文字を右寄せ、文字間隔や余白を最大に配慮した新しいデザインは、文学賞に相応しい誠実で真摯なイメージを保有し、かつ、視認性にも大変優れています。


ベースカラーには、赤・黒・シルバーを採用。おめでたさを醸し出す赤色にシックな黒やシルバーのコンビネーションは、厳粛かつ祝福すべき授賞式や表彰式を物語るにはぴったりな雰囲気を持つ組み合わせです。
グラフィックアイデンティティの形成

ロゴのリデザイン後に行われたのはグラフィックアイデンティティーの形成。このアイデンティティーには二つの要素が挙げられました。一つ目は、この文学賞のシンボルでもある立方体の彫像を基に構成された一定の規則を取りながら変動する立方体。

そしてもう一つは、多様性や柔軟性を彷彿し、赤・黒・シルバーのベースカラーを施したオリジナルなタイポグラフィー。こちらは、非常に多くのモチーフを使って様々なテイストの文字を作成しているのにも関わらずどことなく規則性を感じさせられ、統一感を醸し出すタイポグラフィー群です。
イベントの各種デザイン媒体



この二つの要素とロゴを上手に融合させ、イベントのリーフレットからエントランスパス、バッグ、ピンバッチ、受賞作品の帯、コマーシャルビデオ等、全てのデザイン媒体のデザインがなされています。
まさに一貫したブランディングデザインの成功例とも言える作品でしょう。
製薬メーカーのバックグラウンドを表現したロゴ&ブランディング

次の作品はイタリアの製薬メーカー『SIGNORINI』社の新しいビジュアルアイデンティティーのためのブランディングです。
このプロジェクトのTOFU STUDIOの掲げたデザインコンセプトは、SIGNORINI社の製薬が天然植物由来の抽出物より作られていることを視覚的に感じられるようにデザインの中に落とし込むこと。会社自体のプロフェッショナリズムや製品のバックグラウンドを強調することに重点が置かれました。
ロゴデザインについて

ロゴのデザインには、直線や円弧を使用して幾何学的に構成されたスタイルで、一種のエンブレムの様なテイストにデザインされています。一般的に研究所やテクノロジー関連などの特化した分野を担う業種のロゴマークには、シンプルで洗練されたイメージを持たせることのできる幾何学模様をベースにしたロゴが多いのですが、この事例もその一例ですね。誠実性や専門性を感じさせ、鮮明に記憶に残る様相に仕上がっています。

カラーリングにはベージュ・青・濃紺の三色を使用。ナチュラル系の製薬のイメージに相応しく、爽やかでモダンな配色です。このカラーリングはSIGNORINI社の全てのデザイン媒体に活用されています。
ビジュアルアイデンティティの形成

幾何学的な構成のロゴに加え、一目見ただけでSIGNORINI社を想起させるコーポレートアイデンティティーの設定にも力を入れています。天然植物をオリジナルにしているということより、植物の葉や花の陰影をつけながら美しく繊細に描き込まれたイラストレーションをデザイン媒体に展開させ、ロゴだけでは表現しきれなかったバックグラウンドの認識強化を計っています。植物の持つ特性を忠実に描いたボタニカルアートのようなこのイラストレーションからは、自然との調和を一層感じさせられるテイストに仕上がっています。
パッケージデザイン

パッケージデザインにあたっても、シンプルながら製品の良さを彷彿できる洗練されたデザインで、SIGNORINI社のプロフェッショナル性を喚起させる出来栄えです。
法律事務所のロゴ制作&ブランディング事例

こちらは、グダニスク市にある法律事務所Grodecki Rybacki and Partners社のブランディングです。TOFU STUDIOが担当したのは、この法律事務所のブランドアイデンティティーの創造。その取り掛かりのはじめとして、ロゴマークを形成しました。「Grodecki Rybacki」の頭文字である「G」と「R」をモチーフに、こちらも前述のSIGNORINI社のロゴと同様、直線と円弧を駆使してデザインされた幾何学系ロゴマークです。

モノラインのストライプで形成されたこのロゴは、シャープでありながらリズミカルで都会的なイメージを想起し、Grodecki Rybacki and Partners社の在るべき姿をビジュアル化しているデザインです。ロゴマークの下部に配置されるサンセリフ書体のロゴタイプとの調和にも配置及び余白が慎重に検討され、絶妙なバランスを取っています。

ロゴマークで用いられたストライプは、レターパッドや封筒などの他のデザイン媒体にも展開して使われ、一貫したデザイン性を担っています。

このロゴマークは、第二回ポーランドグラフィックシンボル展にて、2000年から2015年にかけてデザインされた335の優秀シンボルのひとつとして表彰されています。
その他各種ロゴ作成事例
TOFU STUDIOは、企業やサービスの内容に応じた幾何学系のロゴマークとシンプルでセンスの良いロゴタイプを上手く組み合わせた様々な作品を創作しています。

Develop Company『TORUS』のロゴは、正方形のモチーフをアレンジし、頭文字Tを浮き立たせながら開放的で柔軟な開発をイメージさせるテイストに仕上がっています。




同じく正方形をベースとしたものに、書籍そのものやコミュニケーションをイメージさせる形態をとったポーランド文学祭『miasto stowa』のロゴ、赤いストライプで表現したポーランド・クラクフ市のユネスコ創造都市ネットワーク文学部門のロゴ、また社名の頭文字を正方形内に配置した不動産会社『REZYDENCJA WINTERA』や文化センター『konsulat kultury』の事例があります。




社名のロゴタイプをメインとし、ワンポイントマークを融合させたものには、ポーランド不動産株式市場『PGNK』やITオフィスビル『enter』、不動産会社『MERANO PARK』、ソフトウエアテクノロジーの『Application Architect』 等のロゴが挙げられます。


また、オイルカンパニー『pern』や、投資事業センター『PCI』のロゴは、オリジナルなタイポグラフィーで構成され、シンプルかつ可視性に富んだデザイン性の高い作品です。
どの作品からも、シンボルの構成のプロセスやタイポグラフィー・カラーリング・レイアウトの設定などを十分考慮してデザインされた跡が感じられ、無駄を極力排除し、何年経っても魅力が持続するタイムレスなロゴデザインです。
「説得力」は「ロゴの完成度」だけでなく「コンセプトの言語化の品質」にも依存する
この事例集のロゴが「説得力がある」もう一つの要因は、コンセプトが明快な言葉で言語化されている点です。同じロゴでも、「なんとなく良い感じです」と説明するのと、「御社の◯◯という理念を、△△という形状で表現しました。この色は□□の意味を込めています」と説明するのでは、受け手の納得感が全く異なります。
デザイナーの「言語化スキル」は、デザインの技術と同等かそれ以上にプロジェクトの成否を左右するスキルです。制作する力と説明する力の両方を磨くことが、プロのデザイナーの総合力です。
まとめ
ブランディングデザインの一角で在るロゴのデザインは、企業の掲げる理念や特性を視覚化したものであり、流行や時代の変化に左右されることのない普遍性や競合企業と明確に差別化するための独自性を持っていることが重要です。
ユーザーに正しい印象を与えるロゴは、シンプル性・認知性・タイムレス性・各種媒体への汎用性を持ち合わせているもの。TOFU STUDIOのデザインは、これらの要素を全て持ち合わせており、まさにロゴデザインのお手本と言っても過言ではないでしょう。
design : TOFU STUDIO ( Poland )
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