記憶にある有名ブランドのロゴを思い浮かべてみてください。どんなロゴマークが浮かんできましたか?パッとアタマに浮かぶのはシンプルなロゴではありませんでしたか?世の中にはさまざまなロゴマークがあり、単純なものもあれば複雑なものもあります。それらロゴマークを、記憶への残りやすさと、再現されやすさとで比較したとき、軍配が上がるのはシンプルなロゴマークの方が圧倒的なのではないでしょうか。
今回ご紹介するのはポーランドのデザイン事務所 Rio Creativo です。ブランディングとビジュアルコミュニケーションに特化した彼らの仕事は、CI(コーポレートアイデンティティ)の中心になるビジュアルアイデンティティを決定づけるロゴデザインを主軸に、ブランド戦略を展開し数々の結果を残しています。
彼らのデザインするロゴマークは、ブランドのコンセプトを反映しつつもシンプルでミニマム。時流に流されないタイムレスなスタイルを得意としています。ロゴデザインの基本とも言える条件を押さえた彼らの作品が、どのようなものかご紹介していきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you,Rio Creativo! )
波と魚をあらわした水産加工業の企業ロゴマーク
Milarexは国際的にも有名な水産加工業のトップブランドです。生産された製品は大手チェーン店に卸されヨーロッパ、アメリカ、日本と国境を跨ぎ流通しています。そのようなグローバルな企業のビジュアルアイデンティティの創造はRio Creativoにとっても大きな挑戦であり、誇るべき大きなプロジェクトであったそうです。
Milarexのシンボルマークは、円の中の波にたゆたう魚の姿が印象的です。線で描かれた魚の絵柄は言葉や文化が違う国々でも、どんな民族の人でも理解できる共通の絵柄。その魚と波のイメージを重ね、円の中に収めることで一つのシンボルマークとして完成させています。
ロゴタイプはセリフ体フォントをベースに作られています。Timesのようなクラシックなフォントを少し太らせ、線の重なる部分に隙間を作り、ステンシル系のフォントのような見せ方をしています。ステンシル系のフォントは木箱などにプリントされることが多く、漁場や市場などでもよく見かけられる書体です。そのような意味合いからもこのロゴタイプはデザインされたのかもしれません。
シンボルマークとロゴタイプにはそれぞれカラーパレットが設定されました。シンボルマークは淡いゴールド系、ロゴタイプはブルー系です。ゴールドは品質の確かさ、またグレードの高い商品であることをイメージさせます。ブルーは、漁場となる深い海のような紺色に近い色味で展開されており、魚のふるさとである「海」をそのまま象徴しています。
完成したロゴマークを用い、さまざまなものがデザインされています。カードや名刺、バッグや文房具など種類は多岐にわたります。どのデザインもシンプルなロゴゆえに、汎用性が高く、企業のイメージを保ちながらも、それぞれプロダクトデザインとして高いクオリティをもっています。
タブレットの中に映る魚の断面図の写真と並べると、シンボルマークの図柄はその肉質と似た柄であることがわかります。波と魚だけでなく、水産加工業らしく魚の肉質もデザインの要素の一つとして模しているのかもしれませんね。
幅広い層に受け入れられるジェントルでフレンドリーな企業ロゴ
ポーランドにあるInterjotは、ホテルなどに置くアメニティやアクセサリー類を提供する会社です。顧客に自社のプロダクトを案内するにあたり、コーポレートアイデンティティを必要としていました。
クセのないサンセリフ体で書かれたロゴタイプ。「J」を赤字にすることでアクセントとしています。その「J」をモチーフにシンボルマークがデザインされました。円の中には筆記体の大文字「J」をベースにした図形が描かれています。柔らかで優美なカーブをもち、まるで楽譜の記号のような印象を持たせます。文字でありながら限りなく図形に近いそのカタチは、非常にアイコニックであり、見る人の記憶に残りやすいキャッチーな絵柄といえます。
色はロゴタイプ同様、濃い茶系の色をベースに、「J」に使われた赤を差し色にしています。気品があり落ち着いた印象の茶、カジュアルでモダンな印象の赤が合わさることで、伝統と革新のイメージを併せ持つ、「ホテル」という場所にふさわしいシンボルマークが完成しました。
ロゴデザインの他にビジュアル展開用のパターンとして、アメニティグッズのシルエットをイラストにしたものが多数用意されました。これらのパターンを効果的に使うことで、何を扱う企業なのかが一目でわかり、ロゴマークと一緒に扱うことでロゴマークのイメージと業態とが関連付けられるよう考えられています。
ロゴとパターンを中心に設計されたビジュアルアイデンティティは、名刺やグッズ、webサイトなど多彩に展開されています。宿泊客へ「おもてなし」というサービスを提供するホテルは、あらゆる面で顧客から信頼されるに足りる品質を維持・提供していくことが不可欠です。この企業ロゴは、そうした信頼の証となるべく設計され、幅広い層の顧客や宿泊施設からホスピタリティーのアイコンとして認識されています。
老舗ベーカリーのリ・ブランディング例
「domin」はポーランドのポメラニア地方に古くからあるベーカリーです。その認知度は高く、ロゴを目にすれば「あのパン屋さん」と地元の人ならすぐにわかるほど地域に根付いたアイコンとなっていました。
しかしながら、長年愛用したロゴマークは時代の変遷とともに使用することが難しくなってきており、特に3D表現を使用していることから汎用性に問題が生じていました。そこでパッケージデザインのリニューアルを契機に、ビジュアルイメージを一新するリ・ブランディングが行われることになりました。
まず着手したのは、ロゴマークのリニューアルです。長年かけて浸透してきたイメージを踏襲しつつ、シンプルで様々な媒体に対応しやすい明るくPOPなデザインが採用されました。以前のロゴデザインのカラーを引き継ぎ、ベーカリーらしい明るいイエローでロゴタイプが書かれています。以前と変わらぬ丸みを帯びた雰囲気はそのままに、3Dで書かれていた文字を2Dに変え、より親しみやすく現代的に生まれ変わっています。
ロゴと合わせ、丸や四角形といった図形をロゴカラーでいくつも用意し、商品ごとのパッケージデザインやwebサイト、企業として使用するカードや名刺等、ビジュアルアイデンティティをどんどん塗り替えていきました。
もともとあったイメージを生かしつつ、時代に合ったカタチに整えていくという作業は、変わらず続く企業のコンセプトを後世に伝え、人々の中に根付いたイメージをそのまま引き継ぐことにより認知度の低下を防ぐことができます。
大手企業やブランドでもこういったリ・ブランディングはよく見かけられます。認知度が高ければ高いほど、そのイメージの転換にはリスクが伴います。人々の中に記憶されているイメージを書き換えることは、それだけ反発も大きく、熟考を重ねた意義あるリニューアルでも批判されている場合も少なくありません。
製品に込められた思いをかたちにする寝具メーカーのロゴ制作例
「Plantule」というこの枕は、健康と幸せな毎日のために、上質なオーガニック素材で作られたこだわりの品です。そのこだわりと商品に込められた思いをあらわすロゴデザインのモチーフとして挙がったのが、原料に含まれるラベンダーや蕎麦の花です。
「Plantule」は野に咲く花々やそこから採れる殻などを使用し、できるだけ自然に近いものの恵みで製品を作っています。そうした植物が元となっていることをあらわすため、シンボルマークには花や草などのシルエットがモチーフに選ばれました。
花や草や実が素朴に描かれ、円を象っています。実りをイメージさせる淡い金色で着色されシンボルマークが完成しました。ロゴタイプは筆記体を緩やかな手書きフォントで描いています。字間のスパンが長く、たわんだ糸のような線で繋がれる文字たちは、穏やかな時間の流れと優しいぬくもりを感じさせます。最後に入るタグライン「crafted by nature」が、手作り感いっぱいのロゴマークを引き締め、質の良い製品であることを印象付けています。
カラーパターンは、濃灰・淡い金・紫を用意し、素朴でありながら野生の植物の生命力を感じさせる色合いです。
包装紙やタグ、プライスカードなど、ロゴマークのやさしくあたたかな風合いを生かしデザインされています。寝具などは製品そのもののデザイン性にこだわることが難しく、それよりも使い心地や機能を重視するケースが多い中で、商品特性を主張しイメージを訴えかけるためには、ロゴデザインはもちろん、それを軸としたビジュアルアイデンティティがとても重要になってきます。
今回の例は、製品の材料やこだわり、またその製品を通して味わってもらいたい感覚までを表現した秀逸なビジュアルコミュニケーションといえるのではないでしょうか。
まとめ
シンプル=単純ととられがちですが、実はそうではなく、シンプルであればあるほど、考え抜かれ無駄を省かれたデザインというのが、通説においてのロゴデザインのあるべき姿です。
Rio Creativoのロゴデザインはまさにそれに準じたデザインで、シンプルでありながらブランドの個性を引き出し、そこから企業のイメージへつながるようなビジュアルづくりを実践しています。ブランドに対する知識があればあるほど要素を詰め込みがちになってしまうロゴデザインですが、そんな時こそ引き算のデザインを意識し、シンプルでミニマムなカタチを考えてみてはいかがでしょうか。
design : Rio Creativo ( Poland )
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