世界的なグローバル化が進み、国籍の違う文化が浸透・融合する今日ですが、デザインの世界でも同様に国境間のハードルが低くなりつつあり、様々な背景を持ったデザインが幅広く認識されやすい世の中になってきています。
ロゴのデザインに関しては、認知度の高さから英字アルファベットを使用して作られるものが依然として世界的に主流ですが、他の欧米文字や漢字・アラビア文字などを使ってデザインされたロゴも最近では目にする機会が増えてきました。特に漢字は諸外国でも大変人気のある書体で、内容や意味・読み方がわからなくてもエキゾチックな図柄と見なされ、一種のアートとしても受け入れられています。
アルファベットに比べ構成要素が多い漢字をデザインに取り込むには、視覚的なバランスを考慮して制作する必要があります。 今日は漢字を使用して魅力的なロゴをデザインしている Tzou Yun-Da 氏の仕事をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Tzou ! )
Yun-Da氏は台湾を拠点とするグラフィックデザイナーです。台南市の昆山科学技術大学の視覚コミュニケーション学科を卒業後、漢字を上手に取り入れたロゴやパッケージなどの一連のブランディングデザインを多数手がけています。
台湾茶のロゴデザインとパッケージデザイン制作例
最初に彼の代表作である『舞光茶詩禮盒』のロゴとグラフィックデザインを見てみましょう。 『舞光茶詩禮盒』は、台湾のお茶ブランド「舞光茶詩」社の「紅玉紅茶」のギフトボックスです。
台湾茶と言えば一番に思いつくのが凍頂烏龍茶ですが、紅茶も各地で生産されており、最近ではその人気も急上昇中。その中でも「紅玉紅茶」は台湾で研究開発された品種の高級紅茶で、台湾紅茶特有の甘いミントとシナモンの香りとさっぱりとした味わいが特徴です。このギフトボックスに内包されているのは、化学肥料や農薬を一切使わず有機栽培生産された紅玉紅茶と午後のティータイムを楽しむためのクッキーです。
ギフトボックスを見て真っ先に目につくのが、オーガニックをイメージさせる爽やかな緑色をバックに白色のモノラインで描かれているロゴデザインですね。急須・湯呑み・お茶の雫・立ち昇る湯気・お茶の葉の他に、山の形状やペン先、原稿用紙の一部などを円の一部や直線を用いて幾何学的に構成・組み合わせが行われています。山は茶畑を連想させ、ペン先や原稿用紙は美味しいお茶とお菓子を頂きながらリラックスして執筆を、というメッセージでしょうか。
それぞれのパーツが互いに連結しながら配置良く並べられており、実に繊細で丁寧なイメージを放つロゴデザインです。また、モノラインで描かれていることより、レトロな雰囲気も同時に醸し出しています。
同じテイストでサイズの小さいバージョンも制作されており、こちらは紅茶の個包パッケージに使われています。
商品名の表記は、「有機紅玉・ORGANIC RUBY・オーガニックルビー」と漢字/英字/日本語カタカナの三表記です。商品名が記載されるラベルには、先のロゴデザインの1パーツである原稿用紙がモチーフとして使用。三表記を上手に配列し、原稿用紙の枠に縦書きで整然と記したこのラベルから、商品の品質や製造過程の誠実さが伺えます。カラーリングには紅茶をイメージさせるエンジ色を採用。ギフトボックスの緑色とラベルのエンジ色がこのブランディングのメインカラーリングとなり、梱包されるクッキーや紅茶の個包パッケージにも展開されています。
活気を伝える台湾食堂のロゴデザイン
次は、台湾料理レストラン『來坐熱炒Come&Sit Stir Fries』のブランディングデザインです。 ポピュラーな台湾食堂につきものなのが「音」と「動き」。レストランの前を通る人への大声での呼び込みから、ジュッと熱い油で食材を炒めあげる音、鍋・フライパン・什器が激しくぶつかり合う音、また厨房内での大声など、常に何らかの音と動きが活発に感じられるのが台湾食堂の風景のひとつです。
Yun-Da氏の提案するレストラン來坐熱炒のブランディングのコンセプトキーワードは「來坐!來坐啊!(来て!さぁ椅子に座って!) 。エネルギッシュな喧騒の中、次々と台湾特有の熱くて美味しい料理を楽しむことのできるレストランであることをビジュアル的に認識させるブランディングをこのキーワードから展開しています。
まず、ロゴを見てみましょう。太いマーカーで描かれたような「來坐熱炒」の各々の漢字の要素を、斜体させたり伸ばしたりと変化させ、四つの漢字が踊っているような流動感溢れる形態を創り上げています。下部には漢字の店舗名と同じテイストのラインで描かれた三つスツールのイラストレーション、右横には英字店舗名「Come&Sit Stir Fries」がユニークな余白の取り方でバランス良く配置され、これら全ての要素がフリーラインの輪郭の中に収まっている様相です。
カラーリングには赤に近いオレンジ色を採用。強い火力で調理された数々の温かい料理、そこから立ち昇る湯気や匂い、アクティブなお店の雰囲気や料理を堪能する人たちの賑やかな会話など、音・スピード感・温度感をイメージさせるロゴデザインです。 このロゴのデザインは、食器やカトラリー・お箸、メニュー表などのレストランで使用されるあらゆるデザイン媒体に展開し、一環としたブランディング効果を担っています。
その他各種漢字ロゴデザイン
Yun-Da氏の制作するロゴは、漢字を形成する要素をバリエーション豊かに変化させて作られています。
『意識循環』や『背包能』、『真的好』は、各辺を曲線で構成することにより漢字の持つ硬さを取り払い、ひとつのロゴマークとして仕上げています。
斜体で表現された『全美影城』、『大肝走一歩』は、シンプルですがスピード感や流れ、前進するイメージを彷彿させるテイストです。
『OUR VOICE』『協同指導』は、各文字の一部をカットし、ロゴをステンシルのように見せていますね。特に後者は全て直線で構成しすっきりとしたスタイリッシュなロゴマークで、漢字というよりもある種のパターンの様なデザインです。
『十周年』や『狐星涙』は、語句の意味に沿って文字の一部を図形に変えて出来ています。文字の周辺に図形を配置するよりも一体感が出て、ロゴマークとしてユニークな印象を与えます。また、文字だけのものよりも具体的なイメージが湧きやすく、見る人の興味を引く効果もあります。
他にもインパクトの強いオリジナルな書体を上手に英字と組み合わせたり、並べ方を考慮したりしながら、多数の秀逸なロゴデザインを制作しています。
まとめ
私たちは漢字ロゴを見る時、真っ先にその意味を把握したいという心理に駆られますが、漢字を解らない人たちにとっては、ロゴデザインの形や雰囲気から内容をイメージします。 漢字の文字の性質を存分に生かし、意味合いとデザイン性を兼ね備えたロゴが作れるのは私たちの個性のひとつ。様々なシーンで漢字のロゴも選択肢として考慮していきたいものです。
design : Tzou Yun-Da ( Taiwan )
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