「伝えたいメッセージがなかなかデザインに反映できない…」ロゴデザインをしていると、こんな悩みが出てくるものです。優れたロゴは、一目でそれが示すブランド(商品)の具体像をイメージさせてくれます。そういったロゴを目にした人は、すぐにそのブランド(商品)の特長を理解してくれるでしょう。さらには、背景のストーリーまで想像してくれるかもしれません。
そんなメッセージ性の高いロゴを作るためには、どうすればよいのでしょうか? 今回は、台湾を拠点に活躍するグラフィックデザイナー lee chieh-ting さんの作品を参考にさせていただきました。日本人デザイナーの作品とは一味違った漢字ロゴの数々は、デザインの新たなヒントとなるはずです。※記事掲載はデザイナーに許諾を得ています。(Thank you lee !!)
メッセージ性の高いロゴを作るためのヒント
メッセージ性の高いロゴを作るためにポピュラーな手法は、文字をシンボリックにアレンジすることです。まずはロゴにしたい文字を表現したいイメージに添って加工して、その次に、視覚的に訴えかけるモチーフで装飾していきます。
しかし、ロゴの元となる文字がひらがな、カタカナ、英字などのシンプルなものだと、この手法にも限界があります。そこで、情報量の多い漢字を使ってみましょう!漢字文化圏の日本ならではの手法で、さらには国際的なPRも可能です。
漢字は情報量が段違い?!
漢字の強みは「表語文字(意味と音を同時に表す文字)」であることです。漢字が読める人なら、見ただけでそれが表している意味を読み取ることができます。また、欧米などの漢字を読めない文化圏の人々も、画数が多くて絵画のように美しく見える漢字には、アーティスティックなイメージを抱いてくれるようです。漢字そのものの意味が通じなくても興味を持ってもらえますし、モチーフや英字で意味を補完することもできます。
漢字の持つメッセージ性とビジュアル的な美しさ。これらをぜひロゴデザインに生かしてみましょう。
1.伝えたいメッセージをダイレクトに表現したロゴ
まずは、漢字のメッセージ性を最大限に活用したロゴの例を見てみましょう。漢字そのものの意味をダイレクトにアピールして、デザイナーが伝えたいメッセージを強力に印象づけています。さらに漢字の意味に合ったモチーフと組み合わせることで、ビジュアル的な効果も強めています。
これは、文字通り“大きな感謝=BIG THANK”を表したロゴです。にっこりと笑った目や口をイメージさせる曲線を多用して、柔らかくて温かなイメージを演出しています。フォントの隅々まで角を取って丸めることで、そのコンセプトは徹底されています。丸みや曲線は、柔らかさや温かさを感じさせます。この基本的な要素を大事にしつつ、デザインコンセプトがしっかり伝わってくるロゴマークを実現しています。
サンクスイベントや優待セールなどに最適なイメージで、街頭広告や電車の中吊り広告などで並んでいたら、多くの人の目を惹きそうですね。漢字の意味もよく生かしてあるロゴ制作例です。
こちらのロゴマークは“寂しい夜”を表現しています。やはり一目で意味とコンセプトが伝わってきますね。物悲しさの中にも美しさが感じられるデザインで、慎重に選び抜かれた繊細なフォントに、よく似合ったモチーフ(涙のしずく)が添えられています。
漢字の“ 寂夜 ”とその英語表記の“ lonely night ”の組み合わせも秀逸です。か弱い女性が夜に一人寂しく涙を流している姿…誰かを待っているのか、もう来ないことを知って悲しんでいるのか…そんなイメージがすぐに浮かび上がってきます。書籍のタイトルなどに使われていたら、物語のストーリーまで連想して思わず手にとってしまいそうです。
このように、漢字の持つ意味そのものをダイレクトにアピールしたデザインは、強力なメッセージ性を持ちます。ただし、その分特定のメッセージのみが強調されてしまうため、ロゴに普遍的なイメージを持たせたい場合や、複数の意味を含ませたい場合は不向きかもしれません。
イベントロゴや、注意表示のためのロゴなどには最適ですが、企業ロゴなどにはなかなか難しいでしょう。まずは使いたい用途に合っているかどうか、よく検討してみましょう。
2.漢字をイラスト調にアレンジしたロゴ
次は、漢字が示している物や事象をイラスト化したロゴです。絵のように視覚的にPRできて、受け手に強く印象付けることができます。文字とそれが示しているモチーフを組み合わせるのは、ロゴデザインのポピュラーな手法ですが、情報量の多い漢字でおこなうと、より効果的でわかりやすくなります。
ロゴマークとしての具体的な使用例は、ブランドロゴ/商品ロゴ/イベントロゴなどが挙げられるでしょう。抜きん出た個性が示せるので、他の商品やサービスと大きく差別化することができます。
こちらは、果物やそれらを使った菓子のロゴです。果物を示す漢字にイラストのモチーフを付け加えることで、非常にわかりやすく楽しいロゴマークとなっています。台湾では誰もが知っているブランドフルーツから、知る人ぞ知る果物まで、知識に関係なくそのビジュアルと味がイメージできます。
また、デザイナーのlee chieh-ting氏の定番の手法として、漢字と同じ意味の英字を付記しています。これは漢字が読めない人にも、常用漢字が違う国の人にもわかりやすくするための親切なデザインです。たとえその漢字の意味を知らなくても、イラストとこういった英字とが組み合わせてあれば、絵画の解説文を読むように意味を理解することができるでしょう。ロゴマークで表現したいコンセプトやメッセージを幅広い層に伝えることができるため、言語を越えて集客できます。
これは「月が昇る王国」という意味の“月昇王國”という漢字をアレンジしたロゴです。月の円を上部に、それが昇ってきたと思われる山を下部に配置することで、月の動きまでイメージできる素晴らしいデザインです。左右に添えられた月齢カレンダーのような月の満ち欠けも、さらなるストーリーを感じさせます。
とても個性的でファンタジックなロゴマークですが、その分、使いどころは限られるかもしれません。ビジュアル要素を多く詰め込んだことで、受け手のイメージも限定されます。このような手法でロゴデザインを行なう場合は、伝えたいイメージを確実に打ち出して、受け手との齟齬をなくす必要があるでしょう。それさえクリアできれば、様々に活用できそうな手法です。イメージコンセプトがはっきりした商品、ストーリー性の強いイベント、観光施設、書籍のタイトル、などが向いているでしょう。
3.表現したいイメージに合わせてデザイン化したロゴ
3つ目は、漢字そのものの線や構成を、表現したいイメージに合わせてデザイン化したロゴです。デザイン性は2番目よりもさらに高まって、元の漢字よりもぐっとスタイリッシュな印象になります。
これは「漂流する手紙」を意味する“漂流信件”をデザイン化したロゴです。全体が波をイメージした流線で再構成されていて、流れる水と、それに乗って漂う手紙の映像が浮かんでくるかのようです。
ただし、台湾や中国で「手紙」を意味する“信件”という漢字になじみがなければ、すぐには読めないかもしれません。また、線を波のフォルムに見立てて大胆にアレンジしているため、元の漢字の形が少々わかりづらくなっています。これらの欠点をカバーするために、同じ意味の英語の“Rafting letter”を目立つ位置に大きめに配置しています。デザイン性とわかりやすさの両立が考慮されたロゴマークです。
こちらは輝く光を表現したロゴです。“未来光”という漢字をアレンジしたシャープな直線の組み合わせですが、上部のほぼシンメトリーなデザインに対して下部がアシンメトリーとなっていて、「光」の漢字が印象に残るようになっています。また、右上の「来」と下部の「光」の交差ポイントが輝きのようにデザインされていて、やはり光のイメージが鮮明に伝わってきます。
漢字からデザインされたロゴとしてはシンプルな構成ですが、縮小しても拡大しても使いやすそうな、完成度の高いロゴマークです。きっと様々なシーンで活用できるでしょう。イベントロゴやタイトルロゴなどにぴったりです。
このように、漢字そのものを大胆にデザイン化したロゴは、アーティスティックで洗練された印象を与えます。ロゴデザインのテクニックの本領が発揮できる手法と言えるでしょう。
注意点としては、上記でも述べたように、元の漢字の形がわかりにくくなることです。どこまで崩したり省略するか、引き算の加減を間違えないようにしてください。クライアントだけでなくユーザー側の人に意見を聞くなどして、コンセプトやメッセージがきちんと伝わるかどうかを確認してみましょう。
ロゴに使う漢字はどう選ぶ?
ここまで、漢字を効果的に使ったロゴ制作例についてご紹介してきました。では、実際にこれらの手法を使ってロゴデザインを行なうためには、どういった事に気をつければよいのでしょうか?
最も気をつけたいのは漢字の選び方です。ブランド名、企業名、商品名など、すでに使う漢字が決まっているなら問題はありません。しかし、自由に選択できる場合は、先にどのようなコンセプトとイメージでロゴ制作を行なうかを決めてから、慎重に選んだ方が良いでしょう。
表現したいコンセプトやイメージに合っているかどうか
漢字の形とそれが持つ意味が、あなたが表現したいイメージに合っているかどうかを確認しましょう。特に意味には要注意です。よく知られている意味以外にも、別の思わぬ意味が隠されている場合があります。
それがあなたのデザインコンセプトやイメージに反していた場合、せっかくのデザインが台無しになってしまう危険があります。まずは使いたい漢字の意味をしっかり確認してから、使うかどうかを決めましょう。
アレンジしやすいかどうか
漢字は画数が多いため、あまりアクロバティックなアレンジはできません。あなたがそれを可能にする高いスキルを持っている場合も、ひらがなやカタカナよりは自由度が低いはずです。先に決めたイメージに合ったデザインが可能な形かどうかを、まずは検討しましょう。
どこまで省略するか/崩すか
アレンジの仕方によっては、漢字の形が崩れすぎて、元の形がわかりにくくなってしまいます。ロゴマークの目的は「受け手にイメージを伝えること」です。どんなに素敵で印象的なデザインが完成しても、せっかく決めたイメージやコンセプトが伝わらなければ意味がありません。漢字そのものの意味を生かしたデザインを考えているなら尚更です。
作業に取りかかる前に、予定しているアレンジに合っているかどうかを考えましょう。
漢字ロゴの可能性~国境を越えたユーザーの獲得~
漢字は日常的に使っていない文化圏の人には、とてもエキゾチックに見えるようです。また、画数の多さが絵画や漫画を連想させるようで、それ自体がアートのように受け止められています。漢字Tシャツや漢字グッズは、幅広い国々で人気を集めていて、いろんなシーンで身に付けられています。
東洋の神秘性に憧れる海外の人々にとっては、漢字を使用したロゴマークも同様に魅力的なようです。国際的なマーケティングを視野に入れているブランド(商品)に使うのは、とても有効でしょう。特に和の要素が強い商品やサービスのロゴマークとして使えば、イメージを高めて付加価値をつけることができます。
このように、漢字とそれに準じるモチーフを効果的にアレンジしたロゴマークは、国内向けにも海外向けにも大きな可能性を秘めています。漢字を理解できる人にはデザインコンセプトをダイレクトに伝えられますし、漢字を知らない人にもアーティスティックな美しさを感じてもらえます。
今回は台湾のデザイナーlee chieh-ting氏のロゴデザインをご紹介しましたが、同じ漢字でも、日本人デザイナーの作品とは一味違ったコンセプトやデザイン性を感じられたかと思います。日本でポピュラーな漢字ロゴは、1文字か2文字をモチーフ化して大きく強調したものや、筆文字をメインとしたものが多いですが、このように文字数の多い熟語的なロゴも、とても新鮮で興味深いものです。アート的な見せ方としても斬新ですので、ぜひ新たな手法として参考にしてみてください。
Designer : lee chieh-ting (Taiwan)
・この記事は制作者に許諾を得て掲載しています。
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