みなさんもご存知のように、ロゴのデザインは、企業、団体、サービスなどを象徴化した図形やイラストレーションで構成される「シンボルマーク」と、社名、ブランド名をデザインした文字で表記する「ロゴタイプ」の二種が挙げられます。
日本企業には漢字表記やローマ字表記といった各種の表記方法が存在しますが、国際的な観点から眺めてみると、認知度の高さから英字アルファベットを使用したロゴのデザインが世界的に主流です。 しかし、グローバル化が進むにつれ、表記に対する考え方や製品やブランドのプレゼンテーションのあり方・そのトレンドも少しずつ変わってきています。
例えば欧米では、漢字の存在は年齢を問うことなく一般の人たちに広まりつつある傾向が見られます。内容や意味、読み方がわからなくてもエキゾチックなフォルムとして、漢字を表記したTシャツやアルファベットを宛て字にして漢字で書かれたタトゥーが、若い人たちの間では人気を博したり、博識者やデザイナーの間では漢字を一種のアートとして見なしたり、漢字への親近感が高まっていると言えそうです。 今回は漢字を使って魅力的なロゴ/タイポグラフィーをデザインしている Chiajung Hung 氏の作品をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Chiajung Hung ! )
Chiajung Hung氏は、台湾を拠点に活動するグラフィックデザイナーです。台南市の昆山科学技術大学視覚コミュニケーション学科に在籍しつつ数々の制作活動に挑み、多くの人々から支持を得た多数のデザインを発表しています。
ニューイヤーカードに記された幾何学的な漢字ロゴ
こちらは2017年のニューイヤーカード(年賀状)の向けのロゴデザインです。 「酉年おめでとう」を意味する『恭雞恭喜』の漢字表記と、朝を告げる縁起の良い動物である干支の鶏がこのカードを構成するモチーフ。鶏を表すトサカやクチバシのパーツを『恭雞恭喜』の漢字表記に組み合わせて仕上がっています。
カラーリングには金と黒の二色を採用しています。中国では大変ポピュラーな金色ですが、もともと古代中国時代に皇帝だけが身にまとうことを許された高貴な色。ちなみに、日本では紫色がこれにあたります。ノーブルで高尚さを連想させる金色は、黄金や発展をイメージさせる縁起の良い色として、赤色と並んで現代の中国人に圧倒的に支持されているカラーです。
シンプルな英字アルファベットや数字と異なり、漢字は多数の直線や曲線で構成される表記方法。これを生かして、Hung氏は『恭雞恭喜』の一画一画に、金と黒のカラーリングを施しながら、塗りつぶしや白抜き、またそれぞれのラインの太さを変化・加工させ、リズムよく配した図柄を形成しています。
構成要素の多い漢字ならではの特徴を活かし、視覚的にポップにアレンジした事例です。
その他魅力的な漢字ロゴデザインの数々
Chiajung Hung氏は漢字を色々なイメージに変換させて、多数のユニークなロゴタイプを制作しています。 彼の一連のデザイン制作例を見ていきましょう。
ラフさがストーリーを想像させるロゴタイプ
『阿公阿姥欸代誌』は、過去の世代を綴った歴史書を意味します。イベント公演のロゴでしょうか。 黒板に白いチョークで書きなぐった様なテイストのデザインですね。古き時代への懐かしさや儚い時間の経過を彷彿させるロゴです。
数字と漢字をポップに交えたバンドの楽曲ロゴデザイン
次は『100萬 – 歌詞設計』。こちらは台湾の「Crispy脆樂團」というバンドの音楽作品のロゴデザインです。 タイトルの『100萬』には、数字の「100」に漢字の「百」またはドルを表す「$」を組み合わせて作られていますね。数字の1,000,000(百万)を視覚的に認識させる効果を狙った組み合わせが特徴です。
各漢字の構成には、オレンジ色と緑色のカラーリングを採用。漢字、英字の各パーツ施された配色から、文字で構成された形態というよりも、記号的で、ある種パターンの様相を生み出しています。
モノトーンで描かれたアーティストのタイトルロゴデザイン
こちらの『太空人漢母 – HAM THE ASTROCHIMP』も、音楽タイトルのロゴデザインです。 横罫線を意識しながら太い筆で描かれたテイストのデザインで、どっしりとしたイメージや、宇宙の広大さや幻影を彷彿させるロゴです。
クリスマスをモチーフにしたシンプルな漢字ロゴ
『聖誕』は「メリークリスマス」を表します。こちらのロゴは、漢字を白抜きで構成、ラフに崩しながらイラストレーション化していることが特徴です。クリスマスを象徴する赤と緑の花模様のアクセントを「聖」の字の中に配し、柔らかい温かみのある雰囲気の文字を形成しています。
漢字の表記の一番の特性は表意文字であることです。書かれている意味を理解できる人にとっては、瞬時に伝えたいメッセージを視覚的に認識できます。 『聖誕』の作品にも見られるように、Hung氏はこの特性を利用して、漢字そのものの持つ意味に加え、漢字の構成要素をビジュアル的にアレンジすることで人の感覚を刺激するロゴタイプを制作しています。
淡い朝の光を彷彿とさせる漢字ロゴタイプ
『天色光 – Wake up』は、薄日が差し込む寝起きの気だるい感覚を文字で表現しています。
時の流れを思わせる流れるようなロゴデザイン
『好久好久 – long time no see 』は、「久しぶり」に会うときに感じる懐かしさや時間の推移を、漢字の辺の流れや配置の仕方で伝えています。
文字でストーリーを表現したロゴデザイン
『越過 – Across the difficulties』は「困難を超えて」という意味ですが、このロゴタイプはその意味を象徴するように作られています。「越」の字を構成する線を右上がりにアレンジすることで難しいことに立ち向かい、「過」の字の中には山のイラストレーションを挿入することで結果的に安定や均衡を彷彿させる形態を取っています。
物悲しさを湛えた漢字ロゴデザイン
『夢遺少年 – Juvenile lost dreams』、意味は「少年の失われた夢」。繊細な漢字のロゴタイプを雫と組み合わせ、夢が実現せず涙を堪える表情や後悔、物寂しさを連想させるデザインです。
シンプルに動物の特徴を漢字に取り入れたロゴ
『斑馬 – ZEBRA』は、漢字の構成を「シマウマ」 の白と黒の縞に倣い記号化し、英字ZEBRAを巧みにレイアウトさせて一種の烙印のようなロゴデザインに仕上げています。
未来的な研究所の漢字ロゴデザイン
『光構成貫験室 』は Hung氏の所属する昆山科学技術大学にある視覚コミュニケーション照明デザイン研究室のロゴタイプ。「イルミネーション」「ネオン」「白く輝く光」のイメージが連想させられるデザインです。
まとめ
世界の人口率のトップを占める中国系企業の増加・発展も著しい昨今、英字アルファベット表記に追従して漢字表記で制作されるロゴタイプを目にする機会も今後益々増えていくことが予想されます。
一つ一つの文字が意味をなす表意文字である漢字は、字形そのものの視覚的な美しさと文字の持つメッセージ性を兼ね備えています。 ご覧頂いた Chiajung Hung氏のロゴのように、漢字の特性を生かしたアレンジしながら、伝えたいメッセージを意味的にも視覚的にも一瞥しただけで認識できる漢字ロゴは、大きな可能性をまだまだ秘めていそうです。
design : Chiajung Hung ( Taiwan )
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