近年の飲食業界の傾向に、繁盛店と衰退店がはっきりと分かれてきていることがあげられます。ユーザーのニーズやライフスタイルの変化・スピードがこれまで以上に早くなってきていることが大きな理由のひとつで、この傾向は日本だけではなく、欧米諸国の国々でも同じような状況を辿っています。
時代の変遷やユーザーのニーズに対応できない飲食店は余儀なく衰退していき、グルメブームにもあやかり、ユニークなコンセプトやオリジナル性の高い新しい飲食店の数は年々増加というのが世界的な外食産業の状況です。そんな状況の中、競合店に淘汰されずにコンスタントに顧客獲得を成功させ、いかに経営を継続できるかが飲食業界の課題となっています。
その店でしか味わえない味や雰囲気などの存在性や特別性を顧客に上手にアピールし、他の店舗と差別化をさせつつ、好印象を残すことを促進させるブランディングデザインは、もはや飲食業界のマーケティング戦略に欠かせない重要事項です。 今回は、カフェやレストランの魅力的なブランディングデザインを多数行なっている Foreign Policy のデザイン制作事例をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Foreign Policy! )
Foreign Policyはシンガポール共和国を拠点にするデザインのシンクタンクです。各種デザイナーに加え、アーティスト、科学者、研究者、叙述者など様々なジャンルの専門家が集まり、未来への可能性を秘めた現代のアイデア探求をテーマに創作活動を繰り広げています。 グラフィック・インダストリアル・インテリア・建築・メディアデザインと、あらゆる領域のモノ・空間づくりの開発創造を営むデザイン集団であるForeign Policyですが、とりわけブランディングデザインに定評があります。人の行動・考え方・視点を組み込んだ的確なデザインコンセプトに沿って、対象企業・商品の価値を引き上げ、他との差別化を明確にする戦略的なブランディングの遂行を特徴としています。
メキシカンストリートフードのレストランにおけるブランディング
『Super Loco』は、シンガポールで最高に賑わうフードエリアとして有名なリバーフロントに位置する、メキシカンストリートフードを提供するレストランです。
このレストランのブランディングを行うにあたって、Foreign Policyが掲げた目標は、「メキシコの通りを彷彿させる雰囲気」を創り上げること。メキシコの至る所で未だに頻繁に見られるノスタルジックな様相の手描きのポスターや看板のテイスト、路上で行なわれるチキンファイト(鶏と鶏を戦わせる賭け事)、タコスやパイナップルを運搬するカラフルなトラックなどがブランディング&デザインのコンセプトモチーフとして取り上げられました。
■ロゴ&アイテムのデザイン
黄色い斜めのボーダーを背景に、太いマーカで手描き感溢れるテイストのロゴのデザイン、ニワトリやサボテンなどメキシコをイメージさせるイラストレーションを随所に盛り込んだメニュー、ボーダーラインをセンスよく用いたテイクアウト用のパッケージ、メキシコの明るく爽快なムードを絵にしたコースターやカトラリーケース、どの媒体にもメキシコの燦燦と輝く太陽から受ける光やエネルギー、楽しげな空気を肌で感じることができますね。
コンセプトモチーフはレストランのインテリアデザインにも組み込まれ、ニワトリやパイナップルがアクセントとして壁面に描かれたり、懐かしいイメージを醸しつつポップなカラーリングで筆跡が感じられるようなポスターで壁面を彩ったりと、まさに中に入るだけで「メキシコ」を想像させるような展開となっています。
ロゴを背面に大きく配置したTシャツや、パイナップル・鶏にメキシカンマスク・メキシコ産の植物の模様を全面に散らしてデザインされたシャツも『Super Loco』の存在性を強化させるアイテムとして出来上がっています。
アメリカンスタイルのサンドイッチレストランのブランディング
次の事例『Park Bench Deli』は、仕事の合間や長い一日の終わりに空腹を満たしてくれる美味しいサンドイッチを提供してくれるお店です。経験豊かな数人のシェフたちの「それまでシンガポールに存在しなかった、世界中の食材をふんだんに使ったアメリカンスタイルの食べ応えのある、最高のサンドイッチを作りたい」という発想が元となり、この店が誕生しました。
ロゴ&アイテムのデザイン
はじめにロゴを見てみましょう。店名「Park /Bench /Deli」をセリフ系のフォントで三段に配置し、店の位置する通りの番号「179」を付加したロゴタイプですね。文字の一部がステンシルを使って切れているように作られ、すっきりとスタイリッシュな様相に仕上がっています。
店名である「公園のベンチ」 からインスピレーションを受け、公園のベンチでおしゃれに楽しくサンドイッチを楽しめるような、ステッカーやバッグなどナチュラルテイストのテイクアウトパッケージ。ロゴをベースにデザインされたキーホルダーや刺繍パッチの小物アイテムが制作されました。不確定多数の人々にビジュアル的に『Park Bench Deli』の存在を認識してもらう効果をもたらすアイテム群ですね。
同じく「公園」というキーワードからこのブランディングのモチーフとなったのは、世界中の多くの公園でみられる「鳩」です。「DO NOT FEED THE PIGEON(鳩に餌を与えないで下さい)」というセンテンスと、鳩そのもののが『Park Bench Deli』を表現する題材として用いられています。
細い線で丹念に美しく描きこまれた鳩のイラストレーションと、笑いを誘う「DO NOT FEED THE PIGEON」のセンテンスの融合は、質の高い食品や丁寧なサービスを提供する肩の張らないお店というイメージを醸し出しています。
各種アイテムのカラーリングにも注目です。ブルー・グリーン・ブラウンといった自然を彷彿させるカラーに、黄色やオレンジのアクセントカラーを上手く組み合わせ、それぞれの媒体がカラーリングされています。 オーダーラベルやメニューリストにもこれらのカラーが採用され、多色でありながらも一貫したデザインに仕上がっています。
インテリアデザイン
Foreign Policyは店舗のインテリアデザインも手掛けています。
インテリアは、北米のAll American Deliのスタイルを取り入れたもの。オーダーゾーンとピックアップゾーンの他は自由で開放的な空間となっています。
内装材のマテリアルの選定にも上記のアイテムデザインと同様に、ナチュラルテイストを採用。ブルーで塗られた木製パネルに幾何学模様の床のタイル、ビンテージの木材を使ったインテリア小物、オーナーの数々の愛用品、多彩な植物などがセンス良く配置され、穏やかでフレンドリーな明るい雰囲気を作り上げています。
モチーフである鳩のイラストレーションを随所に盛り込み、アイテムデザインとリンクしたカラーリングで纏められたインテリアデザインは、『Park Bench Deli』のビジュアルアイデンティティーをより一層強化してくれています。
イタリアンレストランのアートディレクション事例
『Bottura』はシンガポールのイタリアンレストランです。「Bottura」と言えば、イタリアのミシェラン星付きシェフMassimo Botturaを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。この『Bottura』は、そのMassimo Botturaの従兄弟がオーナーを務めるレストランです。イタリアの都市ボローニャは歴史的にイタリア食文化に大きく貢献してきた市ですが、そのボローニャ出身のオーナーが経営する『Bottura』は、彼が祖母から受け継いだ伝統的なイタリアンレシピに基づいたメニューを提供しています。 Foreign Policyはこの店のアートディレクションを担当しました。
ロゴデザイン
ロゴのデザインを見てみましょう。店名「Bottura」を大文字で表記したロゴタイプで、「B」「T」「A」字はサンセリフ系書体、「O」「U」「R」はセリフ系書体を組み合わせて出来ていますね。「ボットゥーラ(Bottura)」と力強いアクセントで発音されるこの名前の性質をロゴの中に取り入れるために、Foreign Policy はサンセリフとセリフの混合を試みました。
一般的に、一文の中にサンセリフとセリフが混ざって使用されるのは非常に稀有な例で、ロゴとして成り立たせるためには視覚的なバランスや読みやすさの観点から極めて綿密な調整を必要とします。
実際Botturaのロゴは、フォントの種類やサイズ・文字間隔に修整が施されており、セリフ系書体のシンプルかつ無機質な印象と、サンセリフの優雅な印象を組み合わせた、ユニークなロゴデザインに仕上がっています。
各種アイテムデザイン
このロゴデザインをベースに、各種メニュー・コースター・テイクアウトパッケージ ・リーフレットなど、様々な紙媒体のデザインが行われました。 全体を一見して目に留まるのが、ポップでモダンなテイストの配色です。
ボローニャのカラフルな食材やボローニャの街で見られる特徴的なレンガの屋根よりインスピレーションを受け、主に暖色系のカラーパレットで構成された配色が各媒体に応じて展開しています。
幾何学模様や手描きテイストのイラストレーションで構成されたパターンも、そのカラーリングから統一感を感じられるもの出来上がり、各要素を巧妙に組み合わせることで高いデザイン性を保っています。
英国ビンテージを表現したレストランのブランディング事例
『Hay Market』は「香港乗馬クラブ」の敷地内にあるレストランです。イギリスの植民地企業である「香港乗馬クラブ」は正統的なイギリスブランドを表す場所でもあります。
ブランドのコンセプト
ブランディングのモチーフとして挙げられたのは、「騎手のシルク」「英国ビンテージ」「ビクトリア朝」三つです。「騎手のシルク」は、何世紀間にも渡って乗馬騎手が身に着けてきた伝統的かつ迷信的な意味を持つシルクの布を意味し、その色合いよりインスピレーションを受け、今プロジェクトの全媒体のカラーリングに取り入れられています。 また、「英国ビンテージ」が感じられる味わい深いタイポグラフィーと「ビクトリア朝」時代の雰囲気を醸し出すイラストレーションに大胆な幾何学形態を挿入させて各種の媒体がデザインされました。
ロゴデザイン
ロゴのデザインは、古典的な文字形態に異なるイラストを付加し、豊富な配列バリエーションを展開するオリジナル性に富んだデザインとなっています。
レストランで使用される全てのアイテムから、店内インテリア、サーバーやスタッフのユニフォームまで、ロゴのデザインと三つのモチーフを巧みに取り入れた一貫としたブランディングを形成した作品です。
まとめ
一般的に、店で食事をする前に7割方の客はその店の味や接客態度・雰囲気を予測していると言われています。そのため、来店前の客にその店のアイデンティティーを正確に伝え、来店時及び来店後にその予測を覆さないような一貫性のあるブランディングが必要です。 今日見て頂いたForeign Policyのデザインが、みなさまのブランディングデザイン制作の参考となれば幸いです。
design : Foreign Policy ( Singapore )
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