テクノロジー全般の発展、コンピューター技術やデバイスの進化、多様化するユーザーのライフスタイルなど、近年の世界的な社会現象の変化は、デザインにも大きな影響を及ぼしています。過去では10年かかっていたような流行のタームが、現在では数年単位となり、そのスピードはこれからも益々加速していくと言われています。最新のトレンドをキャッチアップし、デザインの中にいかに反映させていくことが出来るかが、目まぐるしく変化する現代のモノづくりへの大きな課題です。
そんな状況の中、ロゴマークのデザインに至っては、シンプルでミニマルなデザインがここ数年注目され続けています。ロゴは企業やブランドのアイデンティティーや存在感、ユーザーに対するメッセージを形態に表し、基本的には一度デザインされたら永久に使用されるもの。複雑で急速に変化する現代社会において、流行に左右されず、美しさやわかりやすさ、そして、印刷物にもデジタル媒体にも容易に展開が可能なオリジナル性を持ったロゴデザインが求められています。
今日は、研ぎ澄まされたシンプルなデザインで、伝えたいメッセージをクリアに表現した秀逸なロゴを多数発表している Atipo® 社の作品をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Atipo®! )
Atipo®は、スペインのサンタンデール市出身の二人のデザイナー、Raul Garcia del Pomar 氏 と Ismael Gonzalez 氏のグラフィックデザインスタジオです。彼らは首都マドリードの西北西に位置するサラマンカにある大学「Universidad de Salamanca」の美術科で共に学び、2010年、大西洋のビスケー湾を臨む湾岸都市ヒホンにてスタジオを立ち上げました。 多数のオリジナルタイポグラフィーの創作や、写真・絵画・イラストレーション・ビデオをコンビネーションさせたグラフィックデザインを精力的に制作し、ヨーロッパの数々のデザインアワードを受賞している新進スタジオです。
建設コンサルタント会社のロゴ・ブランディング
まずは、『Svarking』のブランディングデザインを見てみましょう。 Svarking社は、2013年に設立されたスェーデンの建設のコンサルタントの会社です。主に都市計画に携わり、建築・デジタルソリューション・エネルギー・環境・ビジネス・プロジェクト管理の幅広いサービスを提供しています。
ロゴデザイン
Atipo®社提案のブランディングの要となったのは、ロゴのデザインとカラーリングです。 建設コンサルタントという業務柄、ロゴデザインのモチーフに採用したのは幾何学形態である二つの台形で、それを点対称に並べSvarking社の頭文字である「S」字を彷彿させる至ってシンプルなマークですね。一見、簡単に並べたようにできているマークですが、台形そのものの形態の設定・設置角度・二台形の間の距離など、実に慎重な配慮が施されたデザインで、どっしりとした雰囲気を醸し出しながらも、どことなくリズミカルで開放性を感じさせるロゴデザインに仕上がっています。
カラーリングにはブルーと白を使用。空や海、水といった広大で生命の源を連想させるブルーと、信頼感や清潔感といったクリーンなイメージを与える白色は、誠実で知性に富んだコンサルタント会社という気質を視覚的に誘導する配色コンビネーションです。
アイテムのデザイン
名刺やリーフレットといった紙媒体からWebサイトやスマートフォンのアプリケーションなどのデジタル媒体と、Svarking社の全てのグラフィック媒体のデザインには、一貫してこのロゴマークとカラーリングが使われています。 一般的に言われていることですが、ミニマルデザインのデザイン性をアップさせる秘訣のひとつに、「配色に目的を持たせること」と「十分な余白スペースを考慮すること」があります。
白もしくはブルーの背景に、最小限の構成要素でできているロゴをセンス良くレイアウトし、媒体毎に余白面積を考慮してデザインされたSvarking社の全グラフィック媒体は、スタイリッシュで統一感溢れるテイストに仕上がっています。
コミュニケーションマーケティング企業のロゴ・ブランディング
次は『Idear Ideas』のブランディング です。Idear Ideasはスペインのバレンシア地方の都市アルマツォラ市を拠点に、20年以上の経験を持つコミュニケーション・マーケティングエージェンシーです。イベントのプロモーション、インテリア・出版・Webデザイン、企業ブランディングの制作、情報通信技術サポートなど、幅広い活動を業務にしています。
会社の規模拡張や顧客の増加、ニーズの多様化に伴い、2015年にIdear Ideas社が決断したのは、社のビジュアルアイデンティティーをリニューアルさせること。今までの組織・経営・生産・創作プロセスを基盤に、より一層創造性の高い企業としての新しいスタートとなるブランディングが必要と考えました。興味深いのは、そのブランディングを外部であるAtipo社に依頼したことです。「自社内でブランディングを遂行するのは公平性に欠ける可能性があり、自分たち自身について客観的に表現するのは難しい。Idear Ideas社の変貌や進化を表すビジュアルアイデンティティーは、外部の専門チームに創り上げてもらうことが最善と考えた。」とIdear Ideas社の広報は語っています。
こうしてAtipo®社がIdear Ideas社のブランディングデザインと、リニューアルキャンペーンポスターの制作プロジェクトを担当することとなりました。
ロゴデザインとそのプロセス
最初にロゴを見てみましょう。 Idear Ideas社自身の頭文字であり、業務活動の基本となる「idea(アイデア)」「invention(創作)」「imagination(想像力)」の頭文字でもある「I」字がロゴシンボルの起点となっていますね。その「I」字に、SF映画の古典的名作と言われているスタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」で要所に出てくるモノリスをプラス。ほのかに灯る光源を持つこのモノリス長方形は、Idear Ideas社の「intelligence(知性)」「progress(進化)」「evolution(発展)」を意味しています。
最終的に、柔軟かつ発展性のある創造を意味する「I」字モノリスに、時代の変化へフレキシブルに対応するIdear Ideas社の能力を意味する黄金の円で構成されたシンボルが仕上がりました。 ロゴタイプには、視認性の高いサンセリフ系タイポグラフィーを用い、社名「Idear/Ideas」を二つの行に凝縮して出来ています。それぞれの行の終字「R」「S」は異なりますが、上下がミラーリングしているのが特徴です。
ロゴタイプには視認性の高いサンセリフ系タイポグラフィーを用い、社名「Idear/Ideas」を二つの行に凝縮して出来ています。それぞれの行の終字「R」「S」は異なりますが、上下がミラーリングしているのが特徴です。
黒色の「I」字モノリスと移動する黄金の円は、Idear Ideas社の名刺やレターパッドなどに美しくレイアウトされ、スマートで都会的な様相を醸し出しています。
企業のキャンペーンポスターのデザイン
ブランディングリニューアルに際して、ロゴの構成要素(黒色の「I」字モノリスと黄金の円)を使ったキャンペーンポスターが制作されました。
ポスターの主人公となったのは各時代、各地域で活躍した偉大な発明家たちです。 彩度を下げた落ち着いた色合いをバックに、バリエーション豊かな黒の長方形と黄金色の円が各ポスターに構成されています。 最小限でミニマルな要素から発信する無限の可能性を感じられるポスター群で、Idear Ideas社のキャパシティーの高さを示唆するメッセージを秘めたデザインです。
コロッケレストランのロゴ・アートディレクション
『creoquete』は、ヒホン市で営業する、伝統的かつ創造的な手作りのコロッケを楽しめ、テイクアウト可能なレストランです。Atipo®社は、ネーミングからビジュアルアイデンティティー形成、レストランのインテリアデザインに至るまで、このコロッケショップの総合アートディレクションを務めました。
まずはネーミングですが、コロッケの語源であるフランス語の「croquette」に、スペイン語の「creaciòn(創造)」や「creo que te gustará …(私はあなたが好きになると思う)」の「cre- を掛け合わせて出来たのが「creoquete」。レストランcreoqueteは、慎重にセレクトした高品質の素材を使い、徹底した品質管理の元、ミシェラン星付きシェフAlejandro G. Urrutia氏によって監修されたレシピに沿って美味でユニークなコロッケをひとつひとつ大事に作ることをコンセプトとしています。「伝統の味を思い起こさせたり、新しい発想から生まれた斬新な味を堪能させたりする私たちのコロッケは、きっとあなたたちを虜にするでしょう・・・」というメッセージを発しているネーミングです。
ロゴデザイン
ロゴは、店名を小文字でシンプルに、セリフ系タイポグラフィーで綴ったロゴタイプ。「creoquete …」の「・・・」部分が、この店独特の球形のコロッケの形状とリンクしていますね。
creoqueteのコロッケの特徴でもあるクリーミーなホワイトソースを彷彿させる白と、ナチュラルさをイメージさせるクラフト色、それに黒色を加えた三色がカラーリングの基本です。テイクアウト用のパッケージをはじめ、全てのアイテムはロゴとこの三色を使ってデザインされています。
インテリアデザイン
店のインテリアデザインを見てみましょう。ショップカウンターを配しバックヤードに続く、床・壁・天井が木材でコートされた主要エリア、外部からのアクセスを優しく受け入れる白色で構成された導入エリアの二つのエリアで店は構成されています。床壁天井に加え、メニューの表記や備品などインテリアを構成する全ての配色にも、クラフト色を置き換えた木材の色・白・黒の三色で統一したものとなっています。
メッセージ性を巧みに取り入れた記憶されやすいネーミング、シンプルで認識しやすいロゴ、一貫性を持ったカラーリングで構成された『creoquete』は、ミニマルデザインの長所を存分に活かしたデザインです。
オンライングラフィックサービスのブランドデザイン
最後は『minke』のブランディングです。Minkeはオンライングラフィックサービスのプロバイダーです。新しい感覚や技術を常に探求し、紙を媒体にしたグラフィックアートを介してアナログ世界の素晴らしさを追及していくことをモットーとしています。
ロゴデザインと制作プロセス
Minke 社を表すキーワードは、「印刷」「創造性」「管理」「情熱」そしてMinke社の最優先事項である「信頼ある人間関係」。これらのキーワードに相当するそれぞれの形態を組み合わせて出来たのが、二つの同幾何学形態で構成され、角張ったハートを彷彿するロゴシンボルです。
小文字で社名を記したロゴタイプには、セリフ系のイタリック体で表現されています。
滑らかで洗練されたイメージを施すこの書体は、Minke社の紙媒体上の全てのテキストにも使用されています。
Minke社が持つ高度な印刷技術や豊富なカラーペーパーを引き立たせるため、ロゴをはじめとするブランディングのカラーリングにはモノクロームを採用。色鮮やかなカラーペーパーにシックなロゴやテキストが見事に調和していて、Minke社の能力や質の高いサービスへとイメージを繋げる効果を施しています。
まとめ
脳科学の研究によると、一見した際に人間の記憶に残せる割合は、表示要素の20%程しかないそうです。このことからも無駄な要素を極力排除したものの方が情報伝達しやすい事が伺われます。 ロゴ の一番の役割は「認知」されること。シンプルかつデザイン性の高いAtipo®社の作品は、ロゴ デザインを試みるデザイナーにとって参考にすべきモデルと言えるでしょう。
design : Atipo® ( Spain )
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