スペイン、バルセロナにスタジオを構えるMeteoritoは、ブランディング・パッケージデザイン・コミュニケーションプロジェクトを専門としています。
スタジオは2013年創設ですが、Meteoritoのメンバーは、デザインやコーポレートアイデンティティ(CI)・パッケージング・編集デザイン・小売・コミュニケーションなどの分野で20年以上の経験を持っています。スタジオMeteoritoのミッションは、ブランドが明確な方向性と目的を持ち、独自の光を放つようにすることです。
「そうすることでのみ、ブランドはインパクトを与え、足跡を残し、記憶に残る存在になることができます」
同スタジオが手がけたブランディングとパッケージデザインの例を見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。( Thank you, Meteorito! )
チェリートマトのブランディングとパッケージデザイン
スタジオMeteoritoは、トマトのブランディングとパッケージデザインもおこないました。スペインのアンダルシア州でチェリートマトを生産してる農業法人Nijasolから依頼されたプロジェクトです。
20世紀最後の年、2000年に、ふたりの若い大学生が温室を借りて事業を立ち上げたのがNijasolの始まりです。トマトへの強い情熱と、それぞれのスキルの組み合わせが、事業を成功へと導きました。
Nijasolは、ハイテク水耕栽培温室で高品質チェリートマトを生産しています。また、製品のクオリティだけでなく、従業員が快適に働ける職場環境づくりや、地球環境への負荷低減にも熱心な企業です。
ハイパーマーケット向け製品のブランディング
スタジオMeteoritoが請け負ったのは、フランスを拠点とする世界的ハイパーマーケットCarrefour(カルフール)に向けた限定製品のブランディングでした。
Nijasolはトマト一筋に改良をかさねてきました。ハイテク水耕栽培で育てられた作物は、ていねいに手作業で収穫され、優れた品質を誇ります。
農業法人Nijasolは、高い専門性と深い知識を持ち、こまかいところまで配慮が行き届いています。これは、ソムリエがワインを知りつくしているのと同じである、というところから、スタジオMeteoritoは「トマティエ(Tomatier)」というブランド名を考え出しました。
プレミアム製品にふさわしいパッケージデザイン
Carrefourルート向けに出荷しているチェリートマトは、「Sharmita」という品種です。甘味と酸味のバランスがとれたプレミアムクラスのトマトです。この製品にふさわしい、高級感のあるパッケージをスタジオMeteoritoがデザインしました。
枝が均一であることもSharmita種の特徴です。トマティエのパッケージでは、細長いトレイに枝つきのチェリートマトが入れられています。スリーブには大きな窓があけられ、整然とならんだトマトが見られます。
スリーブには、銅版画スタイルで描かれた枝つきトマトのイラストが印刷されています。トレイにスリーブを重ねると、中のトマトとイラストのトマトが一体化するのが、おもしろいところです。
枝つきのトマトが窓から見えていることで、手作業による収穫という職人的ていねいさや、トマト自身のみずみずしさが印象づけられます。また、上品なイラストが、製品のプレミアム感を演出しています。
環境への配慮から、容器の素材には、プラスチックではなく紙が選ばれました。
「モンスターもトマトもかっこいい!」
「トマティエ」に続いてカルフールルート向けに農場Nijasolが販売を開始した製品が「トマティエ・スナック(Tomatier Snack)」です。
このプロジェクトでは、子供とその親の両方がターゲットとなっています。ユニークで愛らしいトマトのモンスターをブランディングの中心に据えました。
モンスターをモチーフにしたパッケージは、さまざまなアイデアで満ちています。
チェリートマト8〜10個が入った箱自体が、四角いトマトのモンスターです。モンスターの頭部は、トマトのヘタのように巧みに作り込まれています。
箱の前面と後面には、それぞれ異なった表情のモンスターが描かれました。
ひとつは、口を開けてトマトをかじろうとしているモンスターです。口の形に抜かれた窓からは、きれいなトマトが顔をのぞかせています。そこに添えられているフキダシのセリフは「モンスター級においしい!」です。
もうひとつの面では、小さめの窓から1個のトマトが顔を出しています。ちょうどモンスターがそのトマトを両手で持っている形になっています。こちらのセリフは、「甘くて健康的!」です。
「モンスターもかっこいいしトマトもかっこいい」がトマティエ・スナックのキャッチフレーズです。
プラド美術館3Dデザインコンテストのブランディング
2023年に「El Prado en Vol.」という文化プログラムが開催されました。このプログラムのブランディングとネーミングをスタジオMeteoritoが手がけています。
この文化プログラムは、スペイン国内のデザイン教育機関の学生を対象としたコンテストです。参加者は、プラド美術館の名画を題材にして、3D作品を創作します。
コンパクトで印象的なネーミング
このユニークなプログラム名「El Prado en Vol.」の「Vol.」は、「volume」の略です。「立体」を表現する単語として選ばれました。
書籍や映像・音楽作品などで、第1巻、第2巻という意味で「vol.」が使われますが、このプログラムの場合は、「分量」を表すときの「ボリューム」です。量の多い料理などで、ボリュームたっぷりのランチ、と言ったりする場合と同じ意味合いになります。
「El Prado」はプラド美術館ですから、プログラム名「El Prado en Vol.」は、「プラド美術館を立体的に」といった感じでしょうか。プラド美術館の作品が3D化されることを凝縮した、キャッチーな表現です。
プログラムのコンセプトを視覚化したビジュアルアイデンティティ
スタジオMeteoritoが提供したビジュアルアイデンティティは、プログラム名を大きくあしらったデザインです。
プログラムのテーマである3Dを象徴する「Vol.」の文字がボールドのイタリック体で強調されています。さらに、厚み、または文字が飛び出した軌跡を表現する色の面が、大きなシルエットとして付けられていて、「立体」を強く印象付けます。
選ばれた書体は、トランジショナルローマンスタイルのセリフ体です。代表的なトランジショナルローマンスタイルには、書体BaskervilleやTimes New Romanなどがあります。
この書体が象徴しているのは、プラド美術館の伝統や優雅さ・古典的な芸術です。また、蛍光オレンジで表現された立体部分には、現代デザイン・創造性・革新的ひらめき、といったものが表現されています。
オレンジの立体部分を、プラド美術館の古典絵画を見せる「マド」として効果的に使っているバリエーションもあります。
芸術とデザイン、伝統と革新、物質と仮想をつなぐコンテスト
欧州連合(EU)理事会の議長国は、半年ごとに交代します。2023年後半の議長国にスペインが就任したことを機会に立ち上がった文化プログラムが「El Prado en Vol.」です。
スペイン内閣府とプラド美術館、スペインデザイン協会連合(READ)が共同で開催しました。芸術とデザインを融合させた革新的な企画です。スペイン国内のデザイン教育機関25カ所でトレーニングしている200人以上の学生が参加しました。
プラド国立美術館のコレクションの絵画のコンセプトや、描かれている対象を再解釈して3D作品を作る、というのが課題です。作品は、3Dプリントで出力した物理的作品でも、仮想現実や拡張現実でも構いません。創作の条件は、オリジナル作品であり、オーディエンスの体験に価値を与え、 機能的であること。そして、できるだけインタラクティブであることでした。
大学の施設を疑似体験できるアーティスティックな箱
スペインのIE大学のセゴビアキャンパス内に、2022年に開設されたクリエイティビティ・センターを宣伝するツールとして、DM用の特別なボックスセットをスタジオMeteoritoがデザインしました。
クリエイティビティ・センターは、学生たちが自分達の創造的アイデアを形にすることができる施設です。展示ホールや会議室、演劇、ダンス、絵画などさまざま分野の芸術のためのスペースを備えています。学生は、ミーティングをし、共同作業をおこない、成果を発表できます。
さまざまなヌキ加工が施されたカードで施設を紹介
ボックスには複数のカードが重ねて入れられています。各カードに描かれているのは、音楽や絵画、文学など芸術活動に関する象徴的な事物です。水車のイラストもあります。カードごとに文章による説明が添えられています。
各カードの中央にレイアウトされているのは、アーチの門です。門は切り抜かれてマドになっています。カードを一枚ずつめくっていくたびに、施設をどんどん奥へ進んでいるかのようです。
限定60セットの手作りプレミアムボックス
このボックスセットは、60個だけ手作りされた限定品です。素材には、イタリアのFedrigoni社のプレミアムコットンペーパーなどが使われています。Fedrigoni社は、1888年創業の老舗企業で、ヨーロッパを代表する製紙会社のひとつです。
世界遺産に登録された歴史的な街セゴビア
首都マドリードの北西に位置するセゴビアには、ローマの水道橋や、16世紀に建てられた大聖堂など、多くの歴史的遺跡が残っています。セゴビアの旧市街とローマ水道橋は世界遺産に登録されました。
IE大学のセゴビアキャンパスからほど近いところにある王立造幣局も、象徴的な歴史的建造物のひとつです。16世紀に建てられ、水力を利用したオートメーション技術で硬貨を鋳造していました。
スタジオMeteoritoがデザインしたDM用ボックスセットの中央にレイアウトされた門は、その王立造幣局の入り口がモチーフとなっています。
トップランクのビジネススクールが大学の母体
マドリードのIEビジネススクールのMBAプログラムは、オックスフォードやケンブリッジなどとともに世界のトップランクです。そのIEビジネススクールが創設した4年制大学が、IE大学です。マドリードとセゴビアにキャンパスがあります。
芸術、人文科学、起業に関心のある若者が、交流し刺激し合える場所がクリエイティビティ・センターです。このボックスセットは、造幣局の門をくぐり、さまざまな部屋を巡りながら、その創造的な空間を体験できるように作られました。
design : Meteorito (Valencia, Spain)
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