
アゼルバイジャン共和国の首都バクーを拠点に活動しているグラフィックデザイナーBahaddin Mammadli 氏の作品を紹介します。
バクーは、カスピ海を望む歴史ある街です。シルクロードの要所でもあった城塞都市バクーはユネスコの世界遺産にも登録されています。一方で、油田開発の成功によって急成長した近代都市でもあります。炎をモチーフにした高層建築「フレイムタワー」やヘイダル・アリエフ・センターなど個性的な建物が少なくありません。
この新旧の文化が溶け合う環境の中で、Mammadli氏がどのようなクリエイティビティを発揮しているか見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Bahaddin Mammadli!)
Mammadli氏のブランディングが「端正」と感じられるのは全要素の「整列精度」が高いから
Mammadli氏のデザインが「端正」と評される最大の要因は、紙面上のすべての要素が数学的な精度でグリッドに整列している点です。テキスト、ロゴ、写真、余白。すべての要素の端が揃っており、位置関係にランダムさがない。
「端正さ」は感覚的な印象ですが、実態は「整列の精度」という技術的な判断から生まれます。要素の左端を基準線に1ピクセル単位で揃える、テキストブロック間の距離をすべて同じ値に設定する、写真のトリミングの余白比率を統一する。こうした「見る人は気づかないが、ズレがあったら気づく」レベルの精度が、端正な印象の正体です。
パースペクティブをヒントにした建築デザイナーのロゴデザイン

アゼルバイジャンで活動している建築デザイナーIlkin Ahmadzada氏は、シンプルで機能的なインテリアデザインを目標としながら、現代的な空間を企業に提供しています。納入事例を見ると、モノトーンを基調としながらも独特の装飾性を備えたシックなスタイルです。
このAhmadazada氏のブランディングをMammdli氏は手がけました。ロゴのために制作したシンボルマークは、幾何学的でシンプルなデザインです。Ilkin Ahmadzada氏の頭文字IとAと組み合わせたモノグラムですが、その背景には、一般的なミニマルなアプローチとは一味違うユニークな発想があります。
このモノグラムのアルファベット2文字は、直線をグリッドに沿わせて感覚的に作っただけというわけではありません。建築物のパース画や平面図からシンボリックな図形をひろい出して、エッセンスを組み合わせたフォルムでもあるのです。シンボルとモノグラムが融合した「IA」シンボルマークは、ミニマルかつ力強いデザインとなっています。


グラフィックデザイナーMammdli氏のおもしろいところは、このシンボルマークを変形させて、ブランディングの素材として名刺やステーショナリーに展開していることです。大胆に変形されたシンボルマークは、平面図のようにも見えます。建築デザイナーであることを強く印象づけるのではないでしょうか。

「A」や「V」の頂点や、「f」と「g」のアセンダとディセンダに特徴のある書体は、2020年にリリースされたばかりの「TT Firs Neue」です。シンボルマークととてもうまくマッチしています。
オーセンティックなレストランのためのブランディングデザイン

ワードロゴは、セリフ書体Americana STDによる店名「Badam」とサンセリフ書体Montserratによる「Restaurant」とのコンビネーションです。丸みにあるやわらかい書体は、グリッドに基づいて整然と組まれています。
カラーパレットはオレンジとグレイッシュなライトブルーの2色。オレンジのワードロゴには、レストランにまつわるアイテムが淡いブルーであしらわれています。ビジネスカードや紙袋には、サブカラーのライトブラウンが使われていて、ゴールドで箔押しされたワードロゴが高級感を醸しています。

店名のBadam(バダム)は、ヒンディー語やペルシャ語ではアーモンドを意味します。オレンジとブラウン、ゴールドは、アーモンドの実をベースとしたのだろうと想像できますが、これとライトブルーとの組み合わせがさわやかです。


紙コップや紙管などのパッケージには、アーモンドのイラストを散りばめたパターンが使われています。ブランドカラーのオレンジとブルー、そして白を組み合わせた3種のバリエーションは、いずれも上品で温かみを感じるものです。
このBadam Restaurantは、おそらく習作のための仮想のレストランですが、このように品の良いデザインに囲まれて食事が楽しめる空間であれば、きっと人気店となるでしょう。
レストランのブランディングで「メニュー表のデザイン」が最も長時間見られる制作物であること
Mammadli氏のレストランブランディングにおいて、メニュー表は「最もデザインの品質が露出する場面」です。ロゴは看板や名刺で数秒見られるだけですが、メニュー表は来店客が注文を決めるまでの数分間、じっくりと見続けます。
この「視線の滞在時間の長さ」を考えると、メニュー表のデザインはブランディング全体の中で最も丁寧に作り込む価値がある制作物です。フォントの読みやすさ、価格の配置、料理カテゴリーの整理、写真の有無と配置。これらすべてが「食事の楽しみの予告」として機能します。メニュー表は「注文のための道具」であると同時に「食体験の導入部」です。
銀行のトータルブランディングの習作

こちらもおそらく習作だろうと考えられますが、架空の銀行Digital Bankに対するブランディングプランです。
この銀行のモットーを、いつでも利用できるサービスで顧客に寄り添ってサポートする、と設定しています。それを踏まえると、大文字Dをアレンジしたシンボルマークが表現しているものが見えるような気がします。
大きなブルーのアーチが顧客だとすると、赤いキューブは銀行で、いつでも顧客に寄り添って深いサービスを提供しますよ、ということかもしれません。あるいは逆に、ブルーのアーチが銀行で、赤いキューブの顧客をいつでも深く受け入れます、ということを表わしている可能も考えられます。

ロゴのプレゼンテーションでは、ビジネスカードや屋外看板、ステーショナリー、デジタルデバイスのインターフェイス、サイネージなどへの展開をシミュレートして見せることが一般的です。

しかし、Mammadli氏のブランディングプランの習作では、さらにもう一歩踏み込んだシミュレーションが作られています。バンクカードやATM、フラッグバナーなどは、銀行のためのブランディングという意味では押さえておきたいところです。

カラーパレットに基づいたプレゼンテーションシーンがあるのが興味深いです。さらに、ブランディング・ガイドラインのパンフレットをシミュレートしているのを見ると、Mammadli氏の完璧主義のようなものがうかがえます。
ロゴデザインやブランディングを提案する際に、一般的なアイテムへのアプリケーションに加え、このようなガイドラインを準備することで、アイデアの背景や根拠を示すことができます。説得力のあるプレゼンテーションの手法として引き出しに入れておくと、役立つときがあるかもしれません。
design : Bahaddin Mammadli ( Baku, Azerbaijan )
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