スペイン南部アンダルシア地方の都市グラナダを拠点とするデザインスタジオPlácidaをご紹介します。同スタジオは、ビジュアルアイデンティティやパッケージデザイン、エディトリアルデザインを中心に、さまざまなクライアントに広範囲なサービスを提供しています。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Plácida!)
バウハウス的アプローチで構成した製品VIシステム
特殊ラミネート用フィルムを製造・販売している世界的ブランドDerprosaが、同社のリブランディングをスタジオPlácidaに依頼しました。Derprosaは、商品の化粧箱や書籍の装丁など、デザイン製の高いパッケージの表面加工に使われるフィルムを提供しています。
フィルムといっても、Derprosa社のあつかっている製品は多様です。光沢、透明度、手触り、厚み、耐紫外線性、耐熱性などなど、仕様の違いは30種以上。同社はそれぞれの製品ごとにビジュアルアイデンティティ(VI)を作るようPlácidaスタジオに要望します。
この簡単とは言えない課題を同スタジオは、バウハウス的アプローチで解決しました。「形態は機能に従う(form follows function)」という考え方と、幾何学図形です。
光沢、マット、シルキーといった仕上げの違いを、円や三角などの幾何学図形で区別し、それ以外の製品仕様のバリエーションを色の組み合わせで示すことによって、製品ごとのビジュアルアイデンティティをシステマチックに構築しました。
フィルムのうちの代表的な9製品については、「Derprosa Select Films Collection」というボックスセットが準備されました。ラミネート加工した紙がどう見えるか、そこに印刷したらどういう発色になるかなどを、実物で確かめることができるサンプル集です。
Derprosaのラミネートフィルムは、パッケージやステーショナリーで使われる板紙に高級感や特別感などの付加価値をつけるために利用されています。たとえば、ラミネート加工によって、驚くような質感のギフトボックスつくることで、ギフトそのものをさらにかけがえのないものに感じさせる効果が期待されています。Plácidaスタジオがデザインしたコレクションボックスセットは、まさにそのギフトボックスのサンプルともなっています。
Plácidaスタジオは、Derprosaの頭文字「D」を幾何学図形の組み合わせでシンボルマーク化して、ブランドロゴも提供しました。シンボルマークと製品VIのデザインは一貫した統一感のあるものです。これによって、ブランドのトーンをブレることなく伝えています。
グラナダに「ねらいを定めた」ビジュアルシステムのデザイン
グラナダの博物館でおこなわれる会議のためのビジュアルシステムも、Plácidaスタジオならではのスタイルで作られています。
毎年開かれるこの会議のテーマは、旅行者や知識人、クリエイターにインスピレーションを与える街としてのグラナダです。会議の名前は「Granada, punto de mira」です。日本語に訳せば、照準はグラナダに、といった感じでしょうか。これは、会場である博物館にちなんだものです。博物館として利用されているのは、「Casa de los Tiros(射撃の家)」と呼ばれる16世紀の建造物で、かつては大砲が設置されていました。
会議のビジュアルシステムを構築するにあたって、Plácidaスタジオは会議の名前から「照準」をモチーフとしました。会議のテーマはいくつかのカテゴリーにわかれているため、文学、音楽と舞踊、イメージのそれぞれに、真円と正方形を組み合わせたシンボルを設定しました。また、開催年ごとにテーマカラーを変えています。デザインと機能に対する同スタジオの姿勢が、ここにもよく表れています。
パンフレットやサイトのグラフィックは、基本的にモノトーンの写真とテーマカラー1色を組み合わせたミニマルなものです。グリッドに基づいてレイアウトは整然と秩序のあるものですが、日本の家紋を思わせるシンボルと大胆な色地によって、印象深いものとなっています。
コンサルティングを方位磁石の針で象徴したデザイン
コンサルティング会社Serenaは、新規市場参入を目指す企業の戦略立案をサポートしています。スタジオPlácidaが同社のビジュアルアイデンティティ制作にあたって拠り所としたのは、いまでは世界中で用いられている、日本発祥の業務管理用語「Hoshin Kanri(方針管理)」です。
そこで、Serenaのシンボルマークは、正三角形をふたつ組み合わせてコンパスの針としました。そこに頭文字Sを添えて、コンパスの針を連想させるデザインとなっています。通常コンパスの方位表示を省略するときは、北の意味のNだけ記していることが多いのですが、Sでも「コンパス感」が出ているのがおもしろいです。
クライアント企業に方向性を示すのが、まさにコンサルティング会社のサービスの核ですから、コンパスはシンボルとしてうってつけでしょう。
公式サイトでは、Serena社の提供するサービスやコンセプトを、ミニマルな幾何学図形によるダイナミックなアニメーションで表現しています。Plácidaのミニマルな要素によるアプローチが、必ずしもシンプルで簡素な表現にとどまらないことがわかります。
こどももおとなも一緒に楽しめるフェスティバルのブランディング
グラナダで2018年に開催された「Chavea」は、家族のための文学と芸術のフェエスティバルです。本、絵、音楽、ダンス、詩、宇宙、自然などさまざまなテーマについて、子供とおとなが一緒に楽しめるイベントでした。
この催し物のブランディングを依頼されたスタジオPlácidaは、オリジナルのレタリングをデザインの核に据えました。フェスティバル名「Chavea」のワードロゴは、真円、半円、三角形、長方形、平行四辺形など幾何学図形をカラフルに組み合わせたグラフィカルなもので、ハッピーかつ強い印象を与えます。
このワードロゴは、フェスティバルの顔として、ポスターやガイドブック、プログラムなどの印刷物やウェブサイトをはじめ、イベントパスやリストバンドから、缶バッジ、トートバッグ、デコレーションテープなどの関連グッズやキット用ボックスまで、さまざまなものに展開されました。
これらのアイテムに共通しているのは、ワードロゴとサンセリフ書体との組み合わせであることです。白地を基本とした抑制的で整然としたレイアウトは、ワードロゴの自由奔放さとは対照的です。とても個性的なワードロゴは、それ自体がメインビジュアルとして機能しています。また、ロゴを構成しているアルファベットは、それぞれ個別のグラフィック要素として、いくつかのプロモーションアイテムに展開されていますが、どの文字も主役として楽しませてくれます。
さらに、このワードロゴは、レタリングのバリエーションを使ったモーションロゴとなっています。ブロックや積み木などのおもちゃを思い起こさせるデザインは、フェスティバルのコンセプトを体現していると言えるでしょう。
デザインの機能性とミニマリズム
制作例を見て強く感じるのは、円、三角形、四角形といったベーシックな幾何学図形が、いかに豊かな表現力を秘めているかということです。ロゴやシンボルのデザインを作るためのグリッドや補助線としてだけでなく、図形そのものがさまざまなメッセージを伝えています。
それが可能なのは、デザインの機能という視点から、グラフィックをシステマチックに構築しているからでしょう。スタジオPlácidaの視覚的な要素はミニマリズムの流れにあると言えます。しかしそれは、視覚的なインパクトを求めただけのミニマリズムではありません。期待する役割をデザインにしっかり果たしてもらうために、機能に悪影響を与えそうな無駄を徹底的に削ぎ落とした結果なのです。
design : Plácida (Granada, Spain)
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