今ではロゴマークはCIデザインだけでなく、イベントやライブでも制作される機会が増えています。一部のアーティストはライブの度にライブイメージのロゴを制作するなど、コンセプトやテーマの視覚化はさかんになる一方です。
ロゴマークがここまで広がっているのは、企画書を一冊見るより、ロゴマークがシンプルに明確に、団体やイベントのイメージやコンセプトを伝えてくれるからではないでしょうか。今回はイラクの建築デザイナーでありグラフィックデザインもこなす、Mohammed Siyamand さんの作品を参考に、ロゴマークのコンセプト作りについて探っていきましょう。※記事掲載はデザイナーに許諾を得ています。(Thank you Mohammed !!)
シンプルでニュートラルなロゴデザイン
単純に見えて実に計算されたロゴマークです。LOGOFOLIOはロゴマークをまとめたポートフォリオを意味しています。ポートフォリオは作品集なので、ロゴマーク自体に極端なコンセプトイメージをつけるわけにはいきません。どんなロゴを収録してもいいように、シンプルかつニュートラルなデザインが求められます。
その上で、シンプルなだけではなく、スペルに含まれる「O」に注目します。字数では上下にLOGOとFOLIOを並べただけではOの位置は合致しません。Oの位置をあえて揃えることによりファイリングの穴とみなすレイアウトが可能になりました。ロゴをファイリングして指し示すというLOGOFOLIOのコンセプトを過不足なく体現したデザインです。
不動産の安心感を伝えるロゴデザイン
REAL ESTATEとは不動産です。ロゴには社名のAPTが使われています。注目点はモチーフに鍵を使用している点です。不動産のロゴでは、家やビルなど取り扱うものをモチーフとする場合、会社の名前やコンセプトをイメージする場合などが多くありますが、このロゴは不動産物件において殆ど必要とされる鍵をモチーフとしています。鍵であれば、扱う商品のタイプにも左右はされません。
また鍵というモチーフは、不動産を守るために使用するものです。つまり見た人に与えるイメージとして「安心」「安全」「防犯」「セキュリティ」など、不動産を選ぶ上で重要な要素になるキーワードをインプットすることができます。アルファベット部分と鍵を合成する部分もただ直線のラインではありません。鍵の持ち手側を広げることで鍵を挿入する方向を指しています。これは「鍵を開ける」行動の形でもあり、顧客に対して、新しい不動産への扉を開けるように促しています。
ソフトウェアエンジニアのプロジェクトロゴ
ソフトウェアのエンジニアに絡んだフェアのロゴでは略称の「SEDAF」をロゴにしています。基盤を思わせるシンプルな太めのラインで作られたスタイルはシャープさがあります。
またEやFは他のアルファベットに重ねるように制作することで一体感を出しています。エンジニアという技術を表すために、プロジェクト名を使い、ソフトウェア工学のイメージであるコンピューターに通じるニュアンスも伝わってきます。
農業投資取引会社のロゴデザイン
農業投資のための国際カンパニーのロゴマークは農業のイメージに合う落ち着いたグリーンを使用しています。日本の農業関連の団体にはJAがありますが、こちらも色はグリーン、配色としては定番のカラーです。モチーフとなっている形状は、トラクターのタイヤ痕のようなた形です。しかし一方で遠目に見れば、まるでツリーのような形にもなっており、農業を印象づけることに役立っています。
形そのものをモチーフにしたロゴ
ロゴマーク制作では、実在するモチーフを扱う時にピクトグラム制作のような記号化させるテクニックがよく知られています。このASTIのロゴマークでは鳥をモチーフとしています。記号化する上で重要な点は、簡素である点とモチーフとなるものを明確に伝えることです。象形文字から漢字へと変化する様子に似ており、絵文字のようにひとつでその事柄が伝わる形に制作されます。
例えば鳥をモチーフにするなら、鳥が一番鳥らしい形である必要があります。鳥を鳥として認識する特徴は、パーツであれば、羽やくちばしが挙げられます。また鳥の行動であれば、飛ぶ、羽ばたくなどが挙げられ、ロゴとして使うなら、そのような鳥が持つ特徴的な要素を活用することが重要です。
ASTIのロゴはその点がすべて押さえられており、簡素な形を使用しながら、特徴的な鳥が飛び立とうとしているシーンをロゴにしています。グラデーションを使うことで、より立体感を出した効果も単色のロゴとはまた違った印象を与えます。
地域の伝統的な文様を取り込んだロゴデザイン
イメージさせたいものがある時に伝統的なモチーフを使うのも、ロゴ作りにおいてポピュラーな方法です。例えば、和であれば流水柄や麻葉柄を使うことで表現できます。同様にこのロゴマークで使われている玉ねぎ型のドーム屋根では、西アジアに広がるイスラムの建築様式を彷彿とさせるデザインになっています。
ブルーモスクなどの建築に代表されるように、イスラム建築では屋根や壁にオリエンタルな文様を装飾することもめずらしくありません。その繊細な美しさは、世界中に知られています。このロゴマークではシルエットだけではなく、そのような認知度の高い文様による装飾を加えてあります。こうすることで、伝えたい団体イメージをより明確にすることができるのです。
AL TAFSEERのロゴも中東の伝統的でエスニックな形状を思わせるデザインです。安定したデザインで、繊細な中に重厚感もあります。長い歴史を持つものだからこそ、奇抜なデザインより、こういった印象を残しながら精査されたデザインはマッチしやすい傾向があります。
アラベスクに代表される文様ロゴ
イスラム文様には、モザイクやアラベスクなど、特徴的な文様が多くあります。イスラム教では偶像崇拝が禁止されていることもあり、文様は独自の発達を遂げています。偶像が使えないというのは、デフォルメしたものであっても実際に存在するものは使えないケースもあり、ロゴデザインを始め、イメージの具現化に繋がるデザインがNGになるケースも多くあります。
そのような時にも重宝するのが、この文様です。タイルなどのデザインにも採用されていますが、幾何学模様が多く、中でも円形のデザインは放射線状に広がってく繊細なものが存在します。ロゴマークに生かすなら、このロゴのようなアラベスク様式やオスマントルコ様式に見られる幾何学模様の構造を踏襲したデザインも、活用しやすいテクニックです。
カフェタイムのカジュアル感
カフェやスイーツ関連のロゴでは、取り扱うものやショップのコンセプトがロゴのイメージを左右します。
スタイリッシュでラグジュアリーな印象を与えたいショップであれば、シャープで高級感あるデザインとなる傾向がありますが、このロゴはコミカルなタッチでカジュアル感がある仕上げになっています。また湯気をモチーフとして入れることで、より、コーヒーのイメージを伝えやすくなっています。
建築(アーキテクト)をシンプルに語るロゴ
レンガやタイルを緻密に重ねるように、丁寧に積み重ねて建築物を作り上げるイメージを感じるロゴです。建築に関してのロゴは不動産と重なる点もありますが、特化しているのでなければ、家やビルだけに限定しないデザインであれば、業務内容に誤解を招くこともなく、様々な業務を受けやすくなります。またその上で一貫して大切にしたいイメージを重要視し、スタイリッシュかつ安定性のある、建築に必要な安心感を担保したデザインとなっています。
同じくこちらもアーキテクトのロゴです。こちらは骨組みを意識した建物の軸に重点を置いた発想からのデザイン。建築会社として求められる、安定や安全、安心といったイメージを与える構成になっています。例えばこのロゴは山型になっている形状を2つシンメトリに並べています。シンメトリ構図は基本的に安定や静の印象を与えるために使われるレイアウト構造です。線を太くしている点も安定感に繋がります。また完全なシンメトリではなく、中央のVをアシンメトリデザインにしてあります。ビジュアルはアシンメトリですが、使用している面積はほぼ同等であり、洗練された印象を加えながら、安定感を維持したロゴに仕上がっています。
こちらのロゴもアーキテクトのロゴです。前の2つとは印象が違うやわらかいエッジのデザインです。
ALPHAのAを三角をベースに考えて、円との比率から計算されて出した形状で立体的で計算され尽くした、印象深いロゴに仕上がっています。またこのロゴは、単色のバリエーションも存在します。単色のデザインは側面を白抜きにすることで、不思議な立体感を出しています。さらにこのロゴはロゴタイプと縦に並べるバリエーションもあり、ロゴタイプの最初と最後のAの角度がロゴマークのAとほぼ同じです。これによって、縦に並べた時に、ロゴタイプと合わせてもきれいに三角に入るデザインになります。
シルエットや、エッチングなど、ロゴを使うシーンごとのバリエーションによって、立体感の付け方を変えています。またロゴ部分だけをデザインのためのグラフィックとして取り入れた活用例もあります。
安定と防御をイメージさせるセキュリティをテーマにしたロゴ
次はセキュリティ関係のロゴマークです。インターネットセキュリティにおいて、ウイルスから守るシールドとして、具体的なモチーフとして盾を活用するのはオーソドックスです。また強固なセキュリティを印象づけるためにも、攻めより落ち着いたバランスで、ユーザーに安心感を与えるバランスになっています。完全なシンメトリデザインですが、明度を左右で変えることで、盾の立体感を出しながら、単調過ぎないロゴデザインになっています。
企業名のイニシャルであるHをうまく縦のモチーフと融合させています。
Lucid Sourceはイラクにあるインターネット企業です。この会社のロゴはエッシャーの錯覚絵を彷彿とさせる面があり、幾何学形体を使った1色ロゴにも関わらず、立体感を感じさせます。数学の展開図にも似ていますが、水平と垂直の面を認識されやすい構造となっており、そのため、濃淡がなくとも、立体的な印象を与えることができます。直方体や立方体を意識した時、そのエッジ部分を描くことで、実際に直方体を描かなくても、その存在を感じさせる手法です。
歯をシンプルに記号化する歯科のロゴデザイン
医療のデザインで重要なのは清潔さと信頼です。歯科は歯をモチーフにしたロゴが使われることが多いですが、リアルなものより、より記号化された、生々しさがないものが好まれる傾向にあります。また内容によって審美や矯正のように美しさが重要にもなります。このロゴデザインでは、清潔感があり、冷たすぎないライトブルーとグリーンを使った、三角という幾何形体による歯のモチーフになっています。青は鎮静作用があるとも言われており、歯痛などに訪れる人にも好印象の色彩です。
また、全体的にエッジを丸く仕上げてあるのも好印象です。エッジが鋭い仕上がりは、スタイリッシュではありますが、同時に攻めの印象を強くします。痛みにマイナスな印象がある歯科において、丸みのあるエッジは患者を安心させる印象を与えます。
総合建設業のシンプルかつ汎用性が高いロゴ
このロゴはゼネコンのロゴです。ゼネコンのように大きなプロジェクト、しかも複数企業をよりまとめるような立場の会社が使用するロゴは、個性を出すと共に、汎用性も求められます。このロゴは形もシンプルで工具のように見えながら、同時にいくつもの四角が集まり、ひとつの輪を作っているようなデザインです。
また、作業着や安全服にも使用するため、服の色に合わせながら、はっきりと見える配色も必要です。このロゴでは安全服のような朱色ではグリーンを基調としたロゴにするカラーバリエーションも存在します。また作業着のつなぎのように濃いグリーンの場合、白とオレンジを反転させた配色のロゴも採用しています。
このカラーレギュレーションは、会社が使用しているステーショナリー関連、封筒や名刺などにも採用されています。また、拡大してロゴデザインの一部をカットしても、この会社とわかるため、ロゴとは別にグラフィックとしてもこの形を活用もしています。
Mohammed Siyamandのロゴデザインはただコンセプトに合わせてビジュアルを起こすだけでなく、ユーザビリティやユーザーが受ける印象を考慮した、目的にフィットしたスタイリッシュなデザインです。
ただ美しいだけでなく、無駄がなく、計算され、更に目的に応じた適量の情報を伝達する力を持つデザインは、その制作のテクニックを探ることで、学べるものが多く、自身の制作プラスになるのではないでしょうか。多くのアイデアのTIPSを見つけるには、クオリティの高いデザインを解体すれば、そのヒントを見つけることができるかもしれません。
Designer : Mohammed Siyamand (Iraq)
・この記事は制作者に許諾を得て掲載しています。
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