新たなロゴデザインを考える際、何を基準にデザインを組み立てますか?
多くの場合、ロゴデザインはクライアントからのヒアリングを基に、デザインの材料となるブランドの商品やコンセプト・理念など数ある選択肢の中からブランドの顔となるモチーフを選び、デザインに落としこむという方法を取ります。
今回ご紹介するロシアのグラフィックデザイナー Valentin Grunichev 氏は、ブランドやサービスの特徴を上手く切り取りデザインに反映した、シンプルながら印象に残るロゴを数多く制作しています。彼が手掛けてきたロゴデザインを見ながら、ブランドの特徴を捉えるデザインの方法を考えてみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Valentin ! )
業態の特徴を文字の雰囲気で表わしたロゴデザイン
Yochting/ヨットをレンタルするインターネットサービスのロゴマークです。このロゴマークをデザインする際、クライアントからの要望として挙げられたのが「ヨットやセイル(帆)などのイメージを使わずに表現してほしい」という意見だったそうです。 そこでモチーフとしてデザインに取り入れられたのが、「波」と「鳥」。海に行けば必ず目にするこれらのイメージを使い、マリンスポーツのイメージを作り上げています。
ロゴを用いたモバイルアプリのインターフェイスです。「o」の下に配置された弧は波をイメージし、単独では文字のアクセントとして連なることで連続する波間を表現しています。 また「i」のドットの代わりに使われている噴水のようなマークは、空を飛ぶ鳥たちをイメージしており、波のイメージと合わせて使うことで「海」と「空」の両方を表現し、大きな空間の広がりを描き出します。
波柄は名刺にもうまくモチーフとして活用されていますね。
everest/シェーバー(剃刀)を販売するブランドのロゴデザインです。ブランド名が、左下から右上にかけて一直線に削ぎ落とされています。これは言うまでもなく、自社製品のシェーバーの切れ味をデザインで表現したロゴマークです。「切れ味」という、感覚的な表現をロゴタイプを使ってビジュアル化し、補足説明がなくてもその製品特性を見る人へ上手く伝えることに成功しています。
また、ロゴマークの最後に打たれた三角形のピリオドにも注目です。ブランド名である世界最高峰の山「エベレスト」を端的に表現。シャープなデザインを強調し、上向きの図形はブランドの上昇志向も物語っています。
Карамель/英語で「Caramel」を意味する店名。お菓子を製造販売するブランドのロゴデザインです。一見すると、変わったところのないロゴマークにも見えますが、ケーキや焼き菓子などにデコレーションする文字を彷彿とさせる、線に強弱をつけた文字で描くことで、菓子製造業の特徴とイメージを表現しています。
Wacko!/コミックを扱うお店のロゴマークです。まるでマンガの一コマのような臨場感ある文字は、遠近感を持つ文字のシェイプで、見えない吹き出しを感じさせるように描かれています。
Океан/ロシア語で「Ocean」を意味する、子どものための施設のロゴマークです。カラフルでPOPなカラーリングとマジックで書いたような手書き風の文字が、子どもらしいハツラツとした印象を抱かせます。
OPPO/食器洗い用のタブレット型洗剤のロゴマークです。円をベースにデザインされたロゴタイプは、商品そのものの形と皿、そして洗剤をイメージさせる「泡」の形状をモチーフにしています。シンプルで簡潔なロゴマークですが、円に長方形を書き足すことで「P」に見せるという目のつけどころが、このロゴデザインを新鮮なものに見せています。
EVERGLOW/音楽関連のロゴマークです。音楽をデジタル機器などで編集する時に表示される波形をモチーフに、「EVERGLOW」の文字を白抜きしロゴタイプをデザインしています。注目すべきは、バックのグラデーションと文字の形。音の強弱をあらわすように、抑揚のあるグラデーションを使い、文字の形は、波形を構成するバー1本1本の間を空けるようにデザインされています。あくまでモチーフにした波形の特徴を損なわずブランド名を形作ることで、音が聞こえてくるようなロゴマークをデザインしています。
ブランドの特徴をシンボルで表わすロゴデザイン
Ritual/葬儀サービスを執り行う企業のロゴマークです。可読性が高く、適度な重みを持つスラブセリフ体を使ったシンプルなロゴタイプ。その上に浮かぶ「輪」は、天使の頭上にある、あの「輪」です。葬儀という厳かな業態を、カジュアルになり過ぎず、暗くなり過ぎもさせない、程よいデザインセンスが光ります。
Jenyamuzic/ミュージシャンのロゴデザインです。アーティスト名は右下に小さくシンプルに。5本のバーであらわされるシンボルマークが、このロゴマークの主役です。
シンボルマークの表す物はもうお分かりかと思いますが、ピアノの黒鍵をモチーフにデザインされています。ネガティブスペースとなる白場を生かし、鍵盤を見せるシンボルマークはまさにアイデアもの。極限まで要素を削ぎ落としミニマルにまとめられたデザインは、凛とした美しさを感じさせます。
LIVIA/薬の宅配サービスのロゴマークです。シンボルマークとなっているのは、地図アプリなどでよく目にする「ピン」のマークと薬をあらわす「錠剤」のアイコン。目的地まで薬を宅配するデリバリーらしく、2つのシンボルを掛け合わせています。
Pixel Coffee/コーヒーショップのロゴデザインです。店名の通り、モチーフとなっているのは懐かしのビデオゲームを彷彿とさせるピクセルアート。ドット絵とも言われるピクセルアートは、画像を構成する最小要素を「ピクセル(ドット)」とし、それが視認できる程度の解像度で描かれるのが基本です。今のテレビゲームは飛躍的な進化を遂げ、実写さながらのグラフィックスを持つものも少なくありませんが、30年ほど遡ればゲームはまだまだドット絵が主流でした。
大人にとっては懐かしく、若者にとっては新鮮なピクセルアート。ロゴマークを中心に数々のアイテムがデザインされることで、賑やかで楽しい店舗のムード作りが進められています。
まとめ
発信する情報が限られるロゴデザインでは、少ない要素でいかに豊かなイメージを伝えられるかが焦点になります。Valentin Grunichev氏はブランドの持つイメージを厳選し、それをわかりやすい形でロゴデザインとしてアウトプットしています。
どのデザインもシンプルでありながら、少ない要素でブランドのイメージを最大限膨らませる工夫が施されています。ロゴデザインをするにあたりスキルやテクニックが高いに越したことはありませんが、こうしたデザインを構築するための素材選びやアイデア出しはロゴ制作の基本であり、もっとも大切な礎と言えるのではないでしょうか。
design : Valentin Grunichev ( Russia )
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