ロゴマークを制作する際にベースとなるのがブランドコンセプト。そのコンセプトから関連イメージを洗い出し、何をモチーフにビジュアルに仕立てていくかという作業がロゴデザインワークの第一段階です。モチーフが決定したら、そのモチーフをどのように表現するのか、方法や見せ方を検討するのが第二段階。最初からこだわっているフォルムやスタイルが決まっている場合や、クライアントから指定がある場合はこの限りではありませんが、多くの場合、この第二段階での作業がロゴマークの方向性を左右する大きなターニングポイントになります。
アメリカに拠点を置くRamotionは、AdobeやBMW、MAZDAやOSMOなど大手企業からも依頼を受ける、ブランディングやUIデザインを得意とするデザイン事務所です。彼らはロゴデザインにおいて、特にこの第二段階の作業に注力し、幅広いレンジで表現方法を模索し最適なスタイルを探し出します。決して近道をしない、とことんまで答えを追求する姿勢は職人気質とも言えるプロのロゴデザイナーの仕事そのもの。どのように表現を吟味し、ロゴマークに仕上げていくのか。彼らのアプローチをみていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Ramotion! )
概念的なイメージをカタチにする、送金システムのロゴデザイン作成例
wyreは前身であるウォレットサービス「SNAPCARD」を引き継ぐ国際間送金サービスの名称です。「Faster than Email」のキャッチフレーズが示すように、国際間の送金をスピーディーかつ安全に、尚且つ送金手数料を節約することのできるシステムです。ロゴマークをデザインするにあたり、「信頼できる安定したサービス」と「グローバリズム」をコンセプトにすすめることになりました。
コンセプトからビジュアルを導き出すため、まずはコンセプトとサービス内容から連想されるキーワードをいくつかピックアップします。
スピード・移動・お金・ワールドワイド・ネットワーク・テクノロジー・ブロックチェーンの7つのワードが浮かび上がってきました。次に、このキーワードをベースに考え得るロゴのビジュアルを模索していきます。
思いつくままデザインを手書きで書き留めていきます。そこから最終形の候補となるデザインを絞り、パソコンで描き起こします。
最終選考に残ったのは大きく分けて3パターン。ワールドワイドとスピード・ネットワークを表現した惑星型のマーク、スピードと移動・ネットワーク・テクノロジーを表現した「wy」を象ったマーク、最後に、スピード・移動・お金・ブロックチェーンをイメージする3枚のカードをモチーフにしたマークです。
さまざまなシチュエーションを想定して、どのデザインがwyreのイメージとして相応しいか熟考を重ねていきます。
その結果、最終的に選ばれたのが3枚のカードをモチーフにしたシンボルマークです。多くの検証を経て選ばれたこのマークは、高いポテンシャルを秘め、サービスの仕組みを論理的に反映している構成となっています。また、SNAPCARDの後継サービスに位置づけられるwyreにとって、SNAPCARDのロゴのモチーフになっていたカードを同じくシンボルとするのは、それだけでもイメージが連動され、元SNAPCARDユーザーからも安心して利用できるイメージ付けができるのではないでしょうか。このシンボルマークを選定する作業は、ブランディングをしていく中でイメージを決定付ける最も重要なステップです。
続いて、決定したモチーフのカラーリングやプロポーションの詳細な検討に入ります。いくつもテストし、イメージに合致したパターンを決めていきます。
シンボルマークの詳細パターンが決定したら、ロゴタイプの検討に入ります。この時重視するのは、シンボルマークと文字の整合性です。文字のもつ丸みや傾斜、リズムなどあらゆる角度から検証します。
上に4つの候補があげられています。これまで紹介してきたwyreのコンセプトから考えて、どのロゴタイプが的確だと思われますか?最新のテクノロジーを駆使したサービスであることから、シャープで鋭角な印象、また金銭に関わる業態であることからクリーンなイメージが絶対不可欠です。それらの条件をすべて満たし、シンボルマークともバランスがとれているのは左上のロゴタイプと判断されました。
シンボルマーク、ロゴタイプが揃ったら、デザインの最終段階であるブラッシュアップに入ります。この作業はブランディングワークフローの中で最も慎重に、微細なところまで気に掛けるステップです。形成は、黄金比で知られるフィナボッチ係数を基にした独自のグリッドシステムを用いて行われます。この方法で作られるデザインは、多くの人に美しいと感じさせる結果をもたらします。
ロゴマークの完成の後、ガイドラインとなるブランドブックとスタイルガイドを作成します。いわゆるロゴマークのレギュレーションにあたるもので、カラーに関する取り決め、単色使用の場合の条件、余白スペースの設定等ロゴマークを扱う際の説明書になります。
「ロゴマークはマーケティングにおける強力な武器。しかし、武器が強力であればあるほど、取り扱いルールに従うことが重要だ」と彼らは言っています。ロゴマークのイメージが強ければ強いほど誤った使い方をすれば、そのイメージも強く受け取り側に残ります。正しいイメージを発信するならば、その扱いに慎重になることは必然といえるでしょう。
ファイル転送共有アプリケーションのリ・ブランディング例
データ転送と共有に特化したアプリケーション「Xender」。
デバイスの壁を越えスマートフォンやPCを自由に行き来し、あらゆるドキュメントを転送することを可能にします。Xenderは全世界で利用され、30言語に対応し、約8億人のユーザーを抱えています。
そんなXenderが直面していた問題、それは時代遅れのビジュアルでした。平面的で工夫のないロゴマークはそのサービスとは反しあまりにも平凡過ぎました。市場を世界に広げた今、より競争力の高いロゴマークが求められたのです。そこでRamotinsは、国際社会でより競争力があり、モダンで魅力あるロゴマークの考案に取り掛かりました。
最初のステップとして、サービスに関するキーワードに沿い、イメージ画像を集めました。そこから的をさらに絞り、ロゴの基となるモチーフを決定します。
モチーフを決定後、そこから連想される図形をスケッチで描いていきます。
スケッチの中から、いくつかイメージに合うものをピックアップし、パソコンで詳細に作り込んでいきます。
そこからさらに候補を3つに絞り、色を付けていきます。
この段階でディスカッションを重ね、どのデザインがブランドコンセプトを体現しているか見極めた上でシンボルマークを決定します。Xenderのシンボルマークには、転送やネットワーク信号をイメージさせながらも、有機的なダイナミックさをもつ、上段のマークが選ばれました。
プロポーションをブラッシュアップするため、黄金比をベースにしたグリッドシステムでかたちを整えます。どこから見ても完璧なフォルムを形成する黄金比は、ロゴデザインに重宝する古くから提唱されてきた法則です。
こうして制作されたシンボルマークは、同様に整合性を基準に選定し制作されたロゴタイプを伴い完成しました。国境を超え、デバイスの垣根も超えて使用されるサービスに相応しい、ダイナミックで永続性を感じさせるロゴマークです。詳細なレギュレーションを設定した後、各デバイスや媒体に向け新ロゴマークがお披露目されました。
まとめ
ロゴデザインを考えるとき、良いアイディアが生まれたらそこにばかり焦点をあてて作業を進めがちですが「他に違った見せ方はないか?もっと他に適したモチーフはないか?」と貪欲に可能性を探る作業を行うことで、そのブランドが持つ違った側面を見つけ出したり、他のポテンシャルに気づいたりと、新たな要素に出会う確率が高くなります。
また、クライアントに対しプレゼンテーションする際もイメージを決め打ちせず、多角的な検証を経てたどり着いた結果であることをアピールすることで、そのデザインへの理解を深め、納得と信頼を得られるのではないでしょうか。
デザイナーにとっては数あるデザインの仕事のうちの一つであっても、クライアントにとっては何年も何十年も付き合っていくロゴマーク。できる限り可能性を検討した上で、納得いただけるデザインを提供したいものですね。
design : Ramotion ( USA )
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