みなさんはポスターやチラシのデザインをする時、どんなことを重視していますか。ポスターとチラシの大きく違うところは「見る距離」です。通常、チラシの場合は手に持って見るので距離は30cmから50cm前後、ポスターの場合は2mから3m以上離れた距離から眺めることを想定しています。
見る人の興味の度合いや環境・状況によっても異なりますが、一般的にポスターの前に立ち止まってじっくり見るという行為はなかなかありません。そのため、瞬時に情報を伝えられるようなデザイン、つまり短いキャッチコピーや人の目を惹くビジュアル重視のデザインがポスターには求められます。
逆にチラシは、『手にとって熟読また熟視される』可能性や、『後々時間のある時に見られたり、内容に興味があれば保管してもらえたりする』可能性のある媒体なので、センスの良いビジュアルであることは基本ですが、想定ターゲットを意識しながら必要な情報をわかりやすくチラシ上に表現することが必要です。
世界には多くのグラフィックデザイナーが日進月歩しながら、新しいスタイルのポスターやチラシのデザインを発表しています。今日は、ハンガリーの首都ブタペストで精力的にグラフィックデザイン活動に取り組んでいる、Kata Moravszki 氏の作品を見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Kata Moravszki ! )
時空を意識して作成された繊細なポスター作品
はじめに見ていただくのは、2014年にハンガリーで行われた第8回MATT 主催のコンクール『Tér+Kép』のエントリー作品です。MATTはハンガリーのグラフィックデザイナーとタイポグラファーの協会であり、視覚文化の専門能力の開発と推進を奨励し、数々のグラフィックデザイン展やコンクールを開催しています。
『Térkép』はハンガリー語で「地図」を意味します。また『Tér』は「空間」、『Kép』は「イメージ」。コンクールのタイトルに『Tér+Kép』にあるように、2次元や3次元の空間とイメージを感じさせられる地図をテーマとしたアートポスターの制作コンペティションです。
Moravszki氏の作品のコンセプトはブタペストの仮想マップ。バックグラウンドにブタペストの市内地図のシルエットを配し、空間とイメージを想像できる精密なイラストレーションが盛り込まれたポスターデザインです。アルファベット『BUDAPEST』の各文字を様々な書体で表現し、画面一面に散りばめられ、「空間とイメージ」に併せて「時空」を意識して制作されました。
カラーリングは黒、グレー、白色のモノトーンで構成。一見、どことなく懐かしさを感じさせられ、中のイラストレーションを一つずつ見入ってしまう作品です。このポスターは優秀作品40点の中に選ばれ、ハンガリー・グラフィックフェスティバルで公開されました。
ハンガリー語の良くあるフレーズをポスターデザインへ
個人差はありますが、 どの国の言葉でも外国人にとってその習得は一般的に困難なものです。こちらは、そんな思いを解消させるために生まれた『ブタペストで学ぶハンガリー語のフレーズ』プロジェクトの作品です。
簡単な日常会話に使えるフレーズのハンガリー語の発音の仕方や意味、その言葉を使う状況の説明を、様々なタイプのイラストレーションで表現して構成されたポスターのシリーズです。
手書きでラフに描かれたもの、写真をコラージュして作られたもの、またアニメーションタッチで表現されたもの等、ビジュアル的に幅広いイラストレーションの数々に、それぞれに 異なるタイプの書体が組み合わされて制作されていますね。何と言ってもこのシリーズの大きな特徴は、シリーズで共通しているカラーリングにあります。
蛍光色の黄色と黒色というコントラストの非常に強い2色で全てのポスターデザインは作られているため、中のイラストレーションや書体の様相がそれぞれ異なっていても、一見して、『ブタペストで学ぶハンガリー語のフレーズ』のポスターだということが認識できるのです。
まとめ
今日見て頂いたKata Moravszki氏の作品は全てポスターですが、最初のひと目で見る人の感情を促し、瞬時に「一体何が書いてあるのだろう」という欲望を駆り立ててくれる効果を持っています。つまり、『認識してもらう』というポスターの目的と『熟読してもらう』というチラシの目的を両者兼ね備えた作品なのです。ポスターやチラシデザインの制作の参考にしたいですね。
design : Kata Moravszki ( Hungary )
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