新たな挑戦には、いつも期待と不安がつきものです。満を持して用意したプロジェクトやキャンペーン、施設のオープンなど、提供する側は、この新たな試みがどのように受け取られるか、賛同を得られるのかとても楽しみでもあり不安でもあります。

内容や商品そのものがどんなに良くても、ユーザーへのアプローチの心証が悪くては、スタートラインで転んでしまいます。Tata&Friends Studioは、そんな第一印象をポジティブなイメージに変換するデザインスタジオ。男女のユニットである彼らのプロジェクトはいつもユニークで、新たなチャレンジに臆することはありません。彼らがどんなイメージを作り出していくのか、二つのプロジェクトを通して考察していきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, studio Tata&Friends Studio! )
「ポジティブで自由」な印象を生むビジュアル要素の組み合わせ
この事例のポスター・チラシが「ポジティブで自由」と感じられる具体的なビジュアル要素を分解すると、「高彩度の暖色系配色」「手描き風またはラフなイラスト」「非対称のレイアウト」「要素がはみ出すダイナミックな構図」の4つが浮かび上がります。
「ポジティブ」は暖色と明るさから、「自由」は非対称と要素のはみ出しから生まれます。クライアントから「ポジティブで自由な感じに」と依頼されたとき、この4要素を指標にして設計すると、感覚に頼らず再現性のあるデザインが可能になります。
オープングリッドをベースにしたポスター&チラシデザイン作例

スペインのマドリードにあるデジタルアートセンター「Medialab Prado」。6つの専門分野に分かれた研究所からなるこのアートセンターは、各研究機関が街と密接に関わり「hacking the city」をキーワードに、コミュニケーションとテクノロジーを駆使して独自の発展を遂げてきました。センターでは年間150以上のイベントを主催し、市民に広く開放することで研究をバイパスにたくさんの人が繋がることができる場を提供しています。

Tata&Friends Studioは、「Medialab Prado」のブランディングをするにあたり、オープングリッドをデザインの手法に取り入れることにします。
グリッドとは一般的に格子状の基線のことをいいますが、グラフィックデザインでは主に文字や画像などを配置するための目安として用います。今回導入する「オープングリッド」とは、通常格子状の線であることが基本のグリッドを「点」として扱い、点と点を結ぶ線の使い方やカラーの違いで、6つの研究機関の個性をそれぞれあらわしていこうというものです。格子状のグリッドよりもさらに自由度が高く、表現の幅が広がるフレキシブルな手法です。


研究所ごとにイメージカラーを設定し、グリッドの表示の仕方のルールを決めます。直線や曲線、斜めに入る線の方向や繰り返しのパターンに違いを持たせることで、それぞれの研究所にビジュアル・アイデンティティが設定されます。各所で行われるイベント案内のチラシやポスターなどは、そのアイデンティティをデザインのルールとし、写真や見せ方などでアレンジを加えながらデザインされていきます。



点と点をつなぐ線に方向性や動きを持たせてイメージに違いを持たせたり、同じ図柄のものでも、大きさや用途を変えたり 写真や文字を組み合わせることで、デザインに目新しさを持たせたりと、そのアレンジの幅は無限と思えるほどバリエーションを数多く作成することができます。
このオープングリッドがあらわしているのは研究所の個性の違いだけではありません。研究やイベント、芸術や学問、あらゆる要素はすべて「点」であり、それを基点に繋がっていくのは「人間」です。このアートセンターは、人と人とが様々な要素で繋がることができる開かれた場所。多くの繋がりを生むことでコミュニティは広がり、成長していきます。
点と点が次々と繋がっていく様子は、細胞が発達していくようにも、コンピューターの回路が繋がっていくようにも見えます。そしてもう一つ、夜の街に次々と明かりが灯っていくようにも。このアートセンターを介して街がますます発展していくように…。そんな思いが込められたブランディングデザインなのではないのでしょうか。
文化イベントのチラシでは「情報の正確さ」と「ビジュアルの自由さ」を別のゾーンで処理する
この事例の文化イベントチラシでは、紙面を「ビジュアルが自由に展開されるゾーン」と「日時・場所・料金などの情報が正確に配置されるゾーン」に分けて構成されています。
ビジュアルの自由さと情報の正確さを同じゾーンで処理しようとすると、「自由なのに読みにくい」か「読みやすいけど堅い」のどちらかに偏ります。ゾーンを分けることで、「上半分で感情を動かし、下半分で情報を提供する」など、1枚のチラシが2つの異なる機能を同時に果たせます。
斬新な見せ方で提起する環境問題を訴えるポスターデザイン作成例

「Plan A」と題されたこのポスターは、マドリード市が策定した環境改善プロジェクトを啓蒙するためのものです。
紙面の9割を占める「Plan A」。その下に書かれた「No hay plan B」は、「プランBはありません。」という意味。環境への切迫した事態に対し、他に選択肢はあり得ない。という強いメッセージを示しています。ポスターのメインビジュアルとなっている「A」の文字。立体的な箱のように描かれているこの形は、マドリードの街に立つ建物をイメージしています。
キャンペーンに合わせ、ポスターデザインの他、アニメーションも制作されています。街の景観に溶け込むビルディングのような「A」の周りに、「Plan A」が提唱する街のこれからが描かれています。木々が点在する街中に自転車で往来する人々。道路には、途中で人をピックアップするカーシェアリングや、電気を燃料に走る次世代の自動車、煙突らしきものから排出されるクリーンな空気。簡略化されたピクトグラムのようなシンプルなイラストで、街が必要とするクリーンな未来が描かれています。
力強いメッセージと共に明るい未来像を見せることで、今ある不安を希望に変え、前向きな気持ちを駆り立てる素敵なアプローチです。
まとめ
複雑で難しい題材も、ユーモアをもってシンプルに見せる彼らのやり方は実にスマート。たくさんの情報を整理し、ビジュアルを見ただけで受け手側に伝えることができる表現力は、広告デザインの基本であり肝ともいえます。広告はメーカーとユーザーを繋ぐ架け橋。分かりやすく好感を持てるものであることはもちろん、さらに注目を集めるためにも、新たな仕掛けやアイデアを積極的に活用し常に前進し続けたいものです。
design : Tata&Friends Studio ( Spain )
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