演劇やパーティー、イベントなどのエンターテイメントは、人々に感動や興奮を与える娯楽の一つ。上演施設や開催会場などに足を運び、多くの人と時間と体験を共有するこれらの娯楽は、とても刺激的で魅力あふれるものです。
映画や本なら試し読みや予告編が見られますが、舞台やイベントだとそういうわけにもいきません。そこで大切になってくるのが、開催を告知するポスターやチラシ、CMなどの広告媒体です。
今回、ご紹介するブラジルのアートディレクター Luciano Cian 氏は、グラフィックデザインをはじめ、ブランディングやファッション、動画制作など広範囲に渡り広告制作をディレクションしています。その仕事内容は、ロゴ制作やパッケージデザイン、イラストレーション、アニメーション、ビデオ・web制作など実に幅広く、その多才さを感じずにはいられません。そんな彼の仕事の中から、舞台やフェス、イベントに関するプロジェクトをいくつかピックアップしてみました。思わず会場へ足を運びたくなる、華やかでハイセンスな広告作例を見ていきましょう。 ※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Luciano ! )
ブラジルと世界の音楽を繋ぐ、文化的な音楽フェスティバルのブランディングとポスター作例
音楽フェスティバル「MIMO」は、2004年にブラジルではじまったミュージックフェスティバル。世界各地の音楽やブラジル国内のインストメンタルミュージックを市民に広く親しんでもらうことを目的にはじまり、教会での演奏や、音楽をテーマにしたフィルムフェスティバルなど、現在に至るまで様々な手法で音楽をブラジル国内へ広げていきました。良質な音楽に触れることができるこの無料イベントは、子どもたちが音楽に触れるきっかけを作り、プロのミュージシャンの育成にも寄与してきたそうです。
2013年には、イベントから永続的な文化活動となり、2014年には、インストメンタルの賞などを授与する芸術式典としての側面も持つようになりました。
そんな「MIMO2014」のアートディレクションを、Luciano Cian氏が指揮を執っています。
MIMO2014のポスターデザインです。コントラバスのような大きな弦楽器を軸にいくつもの楽器が集合し、一つのビジュアルを作っています。このポスターに至るまでには、細かなガイドラインが設定され、綿密にビジュアル・アイデンティティが構築されています。
MIMO2014の、ビジュアル・アイデンティティの使用マニュアルです。このマニュアルに従い、すべての広告や販促品がデザインされていきます。
全部で7つからなるビジュアルパーツです。楽しさとぬくもりを感じさせる、版画で描かれたような手作り感溢れるイラストレーションで構成されています。
広告の種類により選んで使用することができるように、様々な組み方が前もって用意されています。
ロゴのレギュレーションや使用する際の配置も細かく設定されています。
チラシ・パンフレットやwebサイト、Tシャツのデザインまで、ガイドラインに沿って制作されています。予めガイドラインを設定しておくことで、対外的なイベントのアイデンティティを一定に保ち、どの媒体を見ても「MIMO2014」であることが明確にわかるようになります。ブランディングを進める上では、ビジュアル・アイデンティティの統一はもっとも基本的なことであり、ブランド自体のイメージを左右する大きなファクターでもあります。
MIMO2014のビジュアル・アイデンティティは、カラフルな色味、人のぬくもりを伝えるハンドメイドな質感が大きなポイントです。ポスターやチラシデザインから音は聞こえてきませんが、デザインの力でリズムを感じるようなビジュアルを作ることは可能です。カラフルに彩られた楽器、テンポよく配置されたパーツからは、彩り豊かな音楽の存在が感じられ、手書き風のイラストからは、人が奏でる歌や演奏がイメージできるのではないでしょうか。
陽気なサンバが聞こえてくるミュージカルのポスター作例
このポスターシリーズは、舞台で上演されるミュージカル「SAMBRA」のポスターデザインです。タイトルからも想像できる通り、全編「サンバ」が流れ、ブラジルの歴史をサンバで綴る陽気なステージです。
味のある、筆で描かれたような筆致に強弱があるイラストとラフな彩色が、力の抜けた陽気なサンバのリズムを感じさせ、ハンドライティングで書かれたコピーが、まるでサンバにのった歌詞のようにリズミカルに踊っています。
ロゴマークに使われている、南国ブラジルを思わす赤・青・緑・黄色の力強い4色は、この白地以外の4パターンのポスターの地色にも使われています。
女性を様々なアプローチで表現するユニークな舞台ポスター作例
舞台劇「O Teatro é Uma Mulher(=女性は劇場)」のポスターデザインです。タイトルから推察するに、様々な側面を持ち合わせる女性を、色んな演目を上演する劇場に例えたコメディ劇のようです。
ポスターは3つのバージョンで制作されています。一つめは、女性たちの顔に「もう一つの顔」を描いた作品です。片目をそのまま生かし、サインペンで描かれた2つめの顔。まるで、表の顔と裏の顔をあらわすような演出に、思わずドキッとしてしまいます。片目を共有することで、一人の人物が持つ別の顔であることがよくわかります。
演劇のタイトル表現も、黒の背景に鮮烈に映える赤でシャープに書かれ、サスペンスの香りを漂わすタイポグラフィです。
2つめは、鼻の下に口髭を蓄えた女性たちの写真。女性の中の男性的な一面をあらわしているのでしょうか。舌を出しユーモラスな表情をしている女性もいれば、自慢げに髭を触る女性もいます。
タイトルの処理も、はっきりくっきりとしたサンセリフ体で書かれ、堂々とした雰囲気が男装によく馴染みます。
ラストの1枚は、女性らしさを強調する真っ赤なルージュをモチーフにしたポスターです。モノクロ写真の唇だけが、真紅に塗られ、女性たちがそれぞれ違った女性らしい表情でこちらを見ています。
タイトルも、口紅で描かれたようなスクリプトで書かれ、柔らかで繊細なイメージを抱かせます。
女性の内に秘められた様々な側面を、ユニークな演出を通じてビジュアル化するとても面白い試みです。また、4人の女性が登場することで、それぞれ違った個性を見せ、「女性」という枠組みの中でも更なる多様性を表現しています。 広告デザインを見て、この女性をテーマにしたコメディに心惹かれる人は多いのではないでしょうか。
複雑な人間模様を描く舞台劇のポスター・チラシ作成例
人間群像劇「MULHERES SONHARAM CAVALOS」は、家族経営を営む3人の兄弟とその妻たちの家庭内不破を描いた、人間模様を綴る作品。タイトルを訳すと「女性が夢見た馬」。その名を汲み、頭が馬になった3人の兄弟がポスター/チラシに描かれています。
ひび割れた背景や、ざらついた質感。ドットのトーンを敷いてから彩色するイラストなど、ディテールにこだわったグラフィックが、劇中の雰囲気をよくあらわしています。馬の死んだような目と、ところどころに見られるインクの飛沫が、荒んだ人間関係を表現しています。
まとめ
陰と陽を使い分け、その作品や催しに適したビジュアルを高いクオリティで提供するLuciano Cian 氏の仕事には、高いプロ意識を感じます。
来場しないとわからない、イベントや上演する舞台の雰囲気を捉え、それをビジュアルに落とすという作業は、大きな想像力と高い表現力をもってこそなせる業。言葉がなくても伝わるLuciano Cian 氏のポスターデザインは、トップレベルの仕事といえるでしょう。 形を持たない商品(イベント)をPRするポスターを制作する際には、是非とも参考にしたい作品例です。
design : Luciano Cian ( Brazil )
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