みなさんは女性をターゲットとするデザインを制作する際、どのようなことを念頭にして作業しますか。 女性は男性に比べて、それぞれの価値観やこだわりを強く持ち、細かいところまで視線を向ける傾向があるそうです。女性対象のポスターやチラシなどの広告媒体を制作するときに重要なのは、心を掴むフックを多数用意しておくこと。好みやすいカラーリング、書体、レイアウトの仕方や雰囲気など、デザインの中に上手く取り入れ工夫して表現することで、ユーザーの心をくすぐり、結果的に印象に残りやすい効果のある広告に繋がります。
また、女性に支持されるデザインテイストは男性を対象としたものと大きく異なります。もちろん個人差はありますが、カジュアルで賑やかさや可愛らしさを全面に押し出す「キュート」 なテイスト、可憐で初々しい優しい雰囲気の「ロマンチック」なテイスト、繊細で優雅かつ上品な「エレガント」なテイスト、贅沢・煌びやかで装飾的な「ゴージャス」なテイストなどが女性に受け入れやすいデザインテイスト群と言えます。 今日は、楽しく鮮やかなカラーリングやコミック的な表現など、女性の好むポップなテイストを取り入れ、キュートなポスターやチラシを次々と制作している Karina Tan 氏のデザインをご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。（Thank you, Karina ! ）
Karina Tan氏はインドネシア、ジャカルタ出身のグラフィックデザイナーです。2012年にジャカルタの大学「UNIVERSITAS TARUMANAGARA」のビジュアルコミュニケーションデザイン科を卒業した後、おしゃれなイラストレーションを挿入した個性的なブランディングやパッケージのデザインを展開しており、多くの支持を集めています。
卒業制作のキュートなブックデザイン
彼女の代表的な作品『Beauty Hacks』を見てみましょう。 こちらのデザインは大学在籍中の最終プロジェクトとして作成されたもので、「Beauty Hacks 」と呼ばれるメイクの仕方やヒントがテーマのイラストブックです。 女性の大きな関心である美しくなるためのメイクアップのヒントや、美容に関する全ての問題点や疑問点への助言・回答などを内容としたビューティーガイドで、Tan氏はこのブックのエディトリアルデザインを試みました。
はじめに見て頂くのは、Beauty Hacksのインフォグラフィックスです。 インフォグラフィックスとは、イラストレーションや画像・図・グラフなどを使って、言葉では表現しづらい情報を一目でわかるようにしたものです。普段何気なく目にする地図や路線表などもインフォグラフィックスの一つで、私たちの生活の中で身近に見られる デザイン媒体のひとつです。インフォグラフィックスの利点は、言葉が通じない場合でも絵や写真でわかりやすく表現できるということ。外国人や子供、お年寄りに向けて、イメージを使ってメッセージを発信することが出来ることにあります。
Tan氏が創り上げたインフォグラフィックスは、 メイクアップガイドの主旨をカラフルなカラーリングと親しみやすいイラストレーションを用いて視覚的に伝えたもの。メイクアップの方法や情報を軸に、手描き感溢れるタイポグラフィー、柔らかいテイストのイラストレーション、濃淡様々なピンク色の使用、そしてそれぞれのピンク色にマッチする他の色とのコンビネーションを考慮しながら、若い女性に関心を持ってもらえるような「かわいい」を意識したデザインを展開しています。
女性を意識したデザインで重要なポイントのひとつとなるのはカラーリングです。女性をイメージして真っ先に思いつく色といえば、ピンクや赤色ではないでしょうか。生物学的な観点からみて、果実を採取したり、子供の顔色を把握したりしてきたため、赤やピンク系の色に敏感であるそうです。また植物の世界でも、花は赤やピンク、黄色など暖色系が多いように、異性に対するアピールや血色が良く見える色として赤系統の色はいつの時代にも好まれてきました。母性愛を連想させ、愛情とも密接な関わりのあるのがピンク色なのです。
彩度の高いピンク色は元気ではつらつとした強いイメージ、逆に彩度の低いものは、柔らかく優しいイメージを醸し出します。Tan氏はこのピンク色のトーンを上手く調整しながら他のカラーと組み合わせ、爽やかさや高級感をプラスした様相を創り上げています。
ポスターデザイン
フライヤーデザイン
名刺デザイン
しおりデザイン
ブックの各ページ構成や、ポスター・フライヤー、名刺、しおりなど、このイラストブック全てのデザイン媒体で、「手描き風タイポグラフィー」「ポップなイラストレーション」「フェミニンなカラーリング」をベースとした一貫したデザインが行われています。
可愛くて分かりやすい履歴書デザイン制作例
次の作品はKarina Tan氏の履歴書デザインです。 履歴書は自己を PRし、採用可否の判断を促す重要な書類ですが、履歴書と言えばモノクロームで厳かで規律的な書類をイメージする方が多いのではないでしょうか。
Tan氏のデザインした履歴書は、そんなイメージを覆し、若い女性グラフィックデザイナーであるTan氏を100パーセントアピールするテイストとなっています。
こちらの作品も一種のインフォグラフィックスで、一枚の中に、自己紹介や学歴・職歴、習得言語やコンピュータスキル、獲得した業績、趣味などの情報がわかりやすく配置されています。
カラーリングにはピンクとブルーをメインに採用。スキルレベルをピンクのハートで表したり、波線や水玉を背後に散らばらせたり、と女性らしさがプラスされたテイストですね。また、これだけの情報を内包しているにも関わらず、余白部分を多めに取った構成から、清潔感や純粋さというイメージも伝わってきます。 Tan氏の人柄やデザイナーとしての器量を彷彿できる、キュートな履歴書のデザインです。
柔らかい緑がアクセントの美容関連の広告デザイン
最後のは、『BEAUPHORIA』のソーシャルメディア・Webデザイン、各種フライヤーやクリスマスカードのデザインです。 BEAUPHORIAは、全ての女性をターゲットにした、高品質で使いやすく時間をかけずにメイクアップを楽しめる優れた美容製品を提供する会社で、2013年に設立されました。 社名BEAUPHORIAは、「Beauty（美）」と「Euphoria（幸福感）」の二つの言葉を掛け合わせて作られ、ユーザーに最新の美容技術を提供することで、美しくなって人生を楽しんで欲しい、という願いが込められています。
ソーシャルメディアのデザイン画面を見てみましょう。 女性を対象としたデザインということで、カラーリングにはグリーンをメインとしたパステルカラーを採用、サブカラーのピンクや黄色と上手く組み合わせ、柔らかな印象を与える配色を施しています。また、リボンやハート、額縁などをモチーフに使い、背景をベタ塗りにせず水玉模様を配置するなど、たくさんの女性に好まれやすい装飾要素を入れて構成されています。
女性向けのデザインで多く取り入られるものに「曲線の使用」があります。曲線をうまく取り入れることで縦や横の直線のラインを崩し、自由でソフトな雰囲気に仕上げることができるためです。テキストの部分にも、強弱の曲線を生かした筆記体や手描き風なフォントが好まれます。Tan氏のデザインには女性を意識したこれらのデザイン要素が全て含まれています。
商品の画像を取り込んだフライヤーやWebサイト、また赤と緑のクリスマスカラーを基調としたクリスマスカードも、女性の目を引きつけるデザイン展開となっています。
まとめ
女性をターゲットとしたデザインだからと言って、単純に「女性」という一つの枠で一括りすることはできません。デザイン媒体の内容や対象となる年齢層に受け入れられやすいモチーフ、配色、タイポグラフィーなどを考慮しながら、それぞれの価値観に見合った雰囲気のデザインを提案することが女性向けのデザインの鍵となります。
若い女性の心を掴む数々のフックを駆使し、女性らしさを全面に押し出し制作されたKarina Tan氏の作例は、女性向けのデザインの参考となるのではないでしょうか。
design : Karina Tan ( Indonesia )
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