インドネシアは2億6千万以上という、世界第4位の人口を擁する東南アジアの盟主です。首都ジャカルタの人口は約1千万人。周辺地域を含めた首都圏の人口は3千万人を超え、10年後には東京圏から首位の座を奪うと予想されています。
この世界でも指折りの大都市で活動する広告制作会社「\\’ Creative Agency」は、ブランディングを中心としたサービスをクライアントに提供しています。その特徴は、多民族国家ならではの多層的な文化を反映したデザインです。その作品からは、これまでにないものを生み出そうという熱量の高さを感じます。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, \\’ Creative Agency!)
自社のブランディングは、まさに「名は体を表す」の好例
さて、この記事をここまで読んで、ちょっと気になるところがあるのではないでしょうか。それはおそらく会社名の「\\’」だと思います。アルファベットのWに似ていますが、なんと読むのかわかりません。そもそもこれは文字なのでしょうか。もしロゴの画像をテキストの中に組み込んでいるのだとすれば、それは禁じ手だといわれるかもしれません。
実は、このシンボルはテキスト入力された記号でできているのです。プログラマーやコーダーにはおなじみの「バックスラッシュ」(reverse solidus)2個と「アポストロフィ」(apostrophe)1個が組み合わされています。まるで「W」をグラフィカルにデザインしたかのように見えます。文字で構成されているので、テキストとしてコピー&ペーストできるのが面白いところです。
「creative agency」というのは広告制作会社を意味する普通名詞なので、この「\\’」こそが会社の固有名詞です。なかなか大胆ですね。日本語で例えれば、「±#広告事務所」と印刷された名刺を見せられるようなものですから。自身を名前ではなくシンボルで表すアーティストもいますが、それに似た発想なのでしょうか。
「このロゴはどう読んでもよい」と同社のサイトに書かれています。ダブリュー(W)、われわれ(we)、道・やり方(way)など、好きに解釈してもらい、できるだけクリエイティブな発想で自由に読んで欲しいそうです。同社のドメインやSNSのアカウント名から「Work by W」と紹介しているメディアもあります。
ブランディングに関して特別な発想を持っている会社であることが、この独特のロゴによって強く印象づけられるというわけです。
さまざまな意味を内包するコーヒーショップのミニマルなロゴデザイン
インドネシアはコーヒー豆の大生産地です。インドネシア産のコーヒー豆のブランド名「マンデリン」「トラジャ」を聞いたことがあるのではないでしょうか。近年、インドネシアの都市部ではおしゃれなカフェが次々にオープンし、輸出だけでなく国内のコーヒー消費量も増加しているそうです。
コーヒーショップTujuhari Coffeeは、多目的スペースも備えていて、ミニシアター、コワーキングスペース、画廊、書店などとしても使えます。昨年ジャカルタに開業したTujuhariですが、準備段階では、きびしい競争の中で差別化を図るという難しい課題を抱えてました。
創業者4人が考え出したキーワードは、「モダン」「クリーン」「ミニマリスト」「ダイナミック」「生産性」 「教養」です。なかでも「生産性」(productivity)は、上昇志向の強いミレニアル世代をターゲットにしているTujuhariのコアコンセプトでした。
多目的空間という機能もそれを反映したものです。そこで、フレーム、キャンバス、テーブル、窓、壁などさまざまなものに見立てられる正方形を使うことが決められました。
インドネシア語をベースにしたコーヒーショップのロゴ
店名「Tujuhari」のもととなったインドネシア語「tujuh hari」は「7日間」という意味です。ブランディングを依頼された\\’ Creative Agency社は、正方形の中に「7」とhariの頭文字「H」を組みあわせたモノグラムでシンボルマークをつくりました。
また、ワードロゴは「J」と「7」を入れ替えて「TU7UHARI」としています。SNSで入力しやすいうえに、テキストだけでもブランド名が印象に残るという効果を期待しています。
ミニマルなロゴマークには、ほかの意味も込められています。正方形の左半分と右半分が異なっているのは、多目的スペースと飲食エリアとに別れている店舗のフロアレイアウトに呼応しています。
ドットはひとびとの待ち合わせ場所であることを象徴しています。さらに、このシンボルマークが7本の直線で構成されていることも付け加えておいた方がいいかもしれません。
もし、このシンボルマークを見て、「7H」がすぐにはわからない、フロアのレイアウトが思い浮かばない、という人がいても問題ありません。
重要なことは、このロゴがブランドのコンセプトと調和していて、ブランドのトーンを正しく反映しているということなのです。
上下逆さまでも見え方が同じワードロゴデザイン
哲学を意味する「Philosophia」を名前にしたファッションブランド。そのロゴは、シンボルマークを持たないワードロゴです。驚くことに上下逆さまにしてもまったく同じです。アルファベットのアレンジも巧みですが、このマジックのタネは数カ所に配置されたドットです。これが補助線ならぬ補助「点」となって、不思議なロゴを実現させました。
インドネシア華僑の若いオーナーは、インドネシアが母国でありながら、無意識のうちに「移民」としての緊張を強いられています。このことがPhilosophiaブランドを生む原動力となりました。中国とインドネシアの両方の文化をリスペクトしている誇り高いインドネシア人として、自らのアイデンティティと同様に、ふたつの伝統が融合したモダンなアイテムを提供しています。
アンビグラム調のロゴデザイン
\\’ Creative Agencyは、オーナーのアイデンティティを点と線で表現しました。ドットはインドネシアの遺産を表し、そのまわりで奇跡を描くラインは旅を表しています。そして、ワードロゴをさかさまにしても同じデザインにすることで、Philosophiaが、中国とインドネシアの文化が分かち難く結びついているブランドであることを象徴しているのです。
新ブランド立ち上げにあたり、\\’ Creative Agencyは、インドネシア伝統のろうけつ染めの生地に中国文化の象徴である龍と鳳凰をあしらった布のデザインも手がけました。
文字と図形の間をただよう複眼的視点
\\’ Creative Agency社のサイトには、複数のフォントで描写されるシンボルマークのGIFアニメが掲載されています。当初、クリエイティビティにおけるアグレッシブさから、同社は奇をてらうような志向を持っているのだろうかと思いました。
しかし、制作事例をいくつか見ていくうちに、一見奇抜なロゴの背後に、クライアント、そのサービス、製品への深い理解と洞察があることがわかってきました。また、考え抜かれたブランドコンセプトに基づいて生み出された同社のロゴには、独特の文字の扱い方が共通しているように思います。
文字にはふたつの面があります。テキストを構成する部品としての役割と、それ自体がグラフィカルな要素であるという点です。文字をモチーフにロゴをデザインするときにクリエイターは、意味と図形とのあいだを行ったり来たりして形にしていきます。そのプロセスにおいて、\\’ Creative Agency社は独特の感性を発揮しているようです。
\\’ Creative Agency社のデザインには、欧米のフォロワーでもなく、単なるエスニックでもない、ハイブリッドなテイストがあります。ミクスチャーではなく、醸成された地力のようなものを感じます。ステレオタイプなコンセプトをなぞらず、自分たちの感性に自信を持って創造する\\’ Creative Agency社の姿勢は、日本のクリエイターにも参考になるのではないでしょうか。
design : \\’ Creative Agency ( Indonesia )
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